日 泌 尿 会 誌,

81巻,

10号,

1990年:1555∼1562

1555

回 腸 導 管185例

の経験

一 とくに合併症 についての検討一 1) 福岡大学医学部泌尿器科学教室, 2) 三信会原病院泌尿器科 3) 白十字会 白十字病院泌尿器科, 4) 麻生セメン ト飯塚病院泌尿器科 有吉

朝 美1)

鷺山

和 幸2)

蓮尾

研 二3)

大 島

た 寛1)

平塚

義 治1)

山口

秋 人2)

藤沢

保 仁4)

吉 田

隆2)



祐 治1)

小松

潔2)

中村

英 樹1)

坂本

公 孝1)

A 17-YEAR EXPERIENCE WITH ILEAL CONDUIT -Early and Late Complications-

URINARY

DIVERSION

Asami Ariyoshi1),Kazuyuki Sagiyama2),Kenji Hasuo3),Kazuhiro Oshima1), Yoshiharu Hiratsuka1), Akito Yamaguchi2),Yasuhito Fujisawa4), Takashi Yoshida2), Yuji Tsuji1), Kiyoshi Komatsu2) and Kimitaka

Sakamoto1)

1) Department of Uroloyy,School of Medicine, Fukuoka University 2) Department

of Urology, Sanshinkai Hara Hospital

3) Department of Urology, Hakujuji Hospital 4) Department of Urology, Aso Iizuka Hospital

A series of 185patients, 133 males and 52 females, were treated by ileal conduit urinary diversion in the past 17 years. The patients ranged in age from 7 months to 81 years with an average of 59 years. Diversions were performed for malignant diseases in 174 patients, 85% of whom underwent a simultaneous radical surgery. The follow-up covered the postoperative period from 4 months to 16 years 8 months with an average of 4 years 8 months. Six patients (3%)died within 1 month of operation, and 43 of a total of 58 mortal cases died of cancer thereafter. The survival rates of 143patients with bladder cancer were 84%for 1 year, 72%for 3 years, 67%for 5 years, 62%for 10 years and 54%for 15 years. Early comlications were noticed in 38% of the patients. Delayed wound healing due to local infection (20%)and intestinal obstruction (10%)were the two major complications in this period. Late complications were encountered in 51%of the patients. Mild peristomal dermatitis (22%)and gradually developing renal complications (22%)are two major problems in the standard ileal conduit urinary diversion. The latter was significantly more frequent in patients who underwent the operation between 1973 and 1981 than in those who had the surgery between 1982 and 1989. Postoperative hydronephrosis was observed in 15 (13%)of 117 patients who showed normal urograms preoperatively. Ileoureteral ref lux was observed in 50% of the cases with nonobstructing conduits, while it increased up to 70% along with obstruction of the conduit. Stricture at the ureteroileal anastomosis and ileoureteral reflux were among the causes of the late hydronephrosis. Although various techniques of urinary tract surgery using small and large intestine have been developing recently, ileal conduit urinary diversion still remains to be the most fundamental method of urinary diversion. The importance of postoperative care for possible complications and tumor recurrence can hardly be overestimated after this operation. Key words: ileal conduit urinary diversion, early and late complications, ileoureteral reflux

1556

要 旨: 17年 間 に行 った185例 の回 腸導管 につ いて成績 を検 討 した.悪 性腫 瘍患 者 が174例 を 占め, その85% には根 治手 術 が同時 に施 行 され た. 性 別 では 男133例, 女52例 で, 年 齢 は7ヵ 月 か ら81歳 に分布 し, 平 均 59歳 で あ った. 観察期 間 は4ヵ 月か ら16年8ヵ 月 で, 平 均4年8ヵ 手術 死亡 率 は3%で, 存 率 は, 1年84%,

今 日まで に合 計58例(31%)が

3年72%,

5年67%,

10年62%,

月 であ った.

死 亡 し, 43例 は癌 死 で あ った. 膀胱 癌143例 の生 15年54%で あ った.

早 期合 併症 は38%に 認 め られ, 局 所 感染 に よ る創 治癒遷 延(20%)と

腸 管通 過障 害(10%)と

が多 か っ

た. 遅発 性合 併症 は51%に 見 られ, ス トーマ周 囲皮 膚炎 と腎合 併症 とが それ ぞれ22%と 多 か った. 腎合 併症, 特 に腎孟 の拡張 は, 前期 手術 群(1977∼1981)の

方が, 後期 手術群(1982∼1989)よ

りも有意 に

多 く, 経 年的 な増 加 が認 め られた. 回 腸尿管 逆 流 の頻 度 は導管 の閉塞 が な い状態 で約50%で あ るが, 閉 塞 に伴 な って70%に 増 加す る. 通過 障 害 のな い回腸 導管 の作成 と維 持が 大切 で あ る. 一 部 の合併 症 は手 術手 技 の改 良に よ って著 し く減 少 させ えた が, 皮膚 炎 と腎障害 とは回腸導 管 に伴 う本質 的 な問題 点 とい えよ う. しか し回腸導 管 は適応 が広 く信 頼 性 も高 い ことか ら, 依 然 として尿 路変 向の基 本 とな る術 式 で あ る. 手 術合 併症 と癌 の再 発 の監視 の ため, 術後 ケアの重 要性 が強調 され る. キ ー ワー ド: 回腸 導管, 合 併症, 回腸尿 管逆 流 緒



近 年, 膀 胱 癌 治 療 の 進 歩 と 泌 尿 器 科 医 の 充 実 と に よって 尿 路変 向手 術 に 腸管 が利 用 され る こ とが 多 く な っ た. 回 腸 導 管 は1950年Brickerの

発 表 以 来, 広 く

Fig. IA Ordinary type of ileal conduit urinary diversion combined with end stoma. 1B High ilealconduit("high Bricker")associated with Turnbull'sloop stoma. A

B

世 界 に 普 及 し, 欧 米 で は 多 数 例 の 長 期 成 績 の 報 告1)∼4) が あ い 次 ぎ, 本 邦 で も 優 れた報告5)∼7)が見ら れ る よ う に な った. 最 近 で は quality of life の 向 上 を 目的 と し た 複 雑 な低 圧 蓄 尿 術 式 が 関 心 を 集 め て い る が, 回 腸 導 管 は 依 然 と し て 尿 路 変 向 の 中 心 と な る 術 式 で あ る. 我 々 も過 去17年 間 に 回 腸 導 管 を185例 経 験 し た が, 他 の 尿 路 変 向術 を 含 め た 適 応 の 問 題,

お よび術後 の合 併症

を 中 心 に 臨 床 成 績 を 報 告 す る. 研 究対 象 お よび手術 術 式

管 を 確 か め て25∼30cmの

回 腸 を 空 置 し, そ の 前 方 で

永 久 的 尿 路 変 向 と し て, 1973年 よ り1989年 ま で の17

腸 々 吻 合 を 行 っ て 消 化 管 を 再 建 す る. 34例 で は, 尿 管

年 間 に 行 っ た185例 の 回 腸 導 管 症 例 を 対 象 と した. 観 察

が 短 か か った り, 過 去 に 照 射 療 法 を 受 け て い た り, 術

期 間 は 最 短4ヵ

後 に 照 射 が 予 定 さ れ て い る, な どの 理 由 で, 導 管 を 高

月, 最 長16年8ヵ

月, 平 均4年8ヵ



で あ る.

位 に 置 くhigh

術 前 準 備:腸

管 準 備 と し て, 下 剤 ・洗 腸 の ほ か, 初

期 に は カ ナ マ イ シ ン1日2gを

術 前2日

間 内 服 させ た.

1980年 以 後 は 緑 膿 菌 ・嫌 気 性 菌 対 策 の 強 化 の た め, リ ミキ シ ンB1日400万

単 位 を 術 前2日



間, エ リス ロ

Bricker手

術 と した(Fig.

1).

回 腸 節 の 近 位 端 は 吸 収 性 糸 で 縫 合 閉 鎖 し, 内 腔 を 薄 い カ ナ マ イ シ ン液 で 洗 浄 す る. 尿 管 回 腸 吻 合 は, 逆 流 防 止 の た め のLeDuc-Camey法9)の4例 てNesbit法

以 外 は, す べ

に よ る 端 側 吻 合 を 行 っ た. す な わ ち 左 尿

マ イ シ ン2gの 前 日内 服 に 変 更 した8). 1983年 以 後 は 後

管 をS状

者 に 代 わ っ て ミ ノサ イ ク リ ン1日200mgの2日

割 を 入 れ た 尿 管 端 を 回 腸 側 壁 に 一 層 吻 合 す る(#4-0吸

間内

腸 の 後 か ら右 側 腹 腔 内 に誘 導 し, 5∼7mmの

服 を 行 って い る. ス トー マ の 位 置 は, 患 者 を 座 位 お よ

収 性 糸,

び 臥 位 に し て, 腹 直 筋 内 に 適 切 な位 置 を 決 定 し, 小 さ

部 は後 腹 膜 化 す る.

く入 れ 墨 を して お く. 手 術 術 式: 膀 胱 癌 の 場 合,

8針).

右 尿 管 は2∼3cm離

ス トー マ は, 直 径 約25mm程 ま ず 膀 胱 の 全 摘 を 行 う.

して 吻 合 し, 吻 合

度 の 皮 膚 と皮 下 脂 肪 と

を 丸 く く り抜 い た あ と, 腹 直 筋 膜 前 鞘 を 同 様 に 切 除 す

つ い で 左 右 の 尿 管 を 剥 離 し, ス プ リ ン トカ テ ー テ ル(多

る. 腹 直 筋 は 横 に2cmほ

くはFr.

切 除 す る. 回 腸 の 末 端 を ス トー マ とす るend

6). 入 れ て 尿 を 体 外 へ 導 い て お く. 腸 間 膜 血

ど切 断 し, 後 鞘 と腹 膜 も丸 く stomaの

1557

場 合 に は, 断 端 を2cm反

転 し て 乳 頭 を 形 成 す る. ま た,

ル ー プ ス トニ マ(Turnbull法10))で

では, 原発 腫瘍 の 根治 手術 と尿 路変 向手 術 とを 同時 に

は, 余 分 な 回 腸 を

行 ったが, 子宮 癌 で は末期進 行癌 や放 射 線療 法後 の症

折 り畳 ん で 曲 り角 を 腹 壁 か ら引 き出 し, 頂 部 を切 開 し

例 が多 か った ことか ら, 1例 を除 く16例に対 して回腸

て 乳 頭 を形 成 す る. いず れ の 方 法 で も回 腸 の 漿 膜 筋 層

導 管 のみ を行 った. 良 性疾患 に対す る回腸 導 管 は11例

を 腹 直 筋 前 鞘 と後 鞘 と に 一 層 縫 合(#2-0非 8針)で

吸 収 性 糸,

固 定 す る. ル ー プ ス トー マ で 盲 管 と な った 回

腸 は, prolapse

の 予 防 の た め 内 腹 壁 に絹 糸 で1∼2針

(6%)と

少 な いが, 骨盤 外傷 で 尿道 や膀胱 の 再建 が不

可 能 な場 合 や, 先天 性 あ るいは外 傷 性の下 部 尿路機 能 障 害例 に, 腎機 能救 済 の 目的 で 回腸導 管 を行 った.

固 定 す る. 腹 腔 内 で 回 腸 節 と腹 壁 との 間 隙 は, 内 ヘ ル

性別 で は, 男性133例, 女性52例 と圧 倒的 に 男性 が多

ニ ア 防 止 の た め, 絹 糸 で 疎 に縫 合 閉 鎖 す る. 尿 管 ス プ

い. 年齢 別 で は7ヵ 月 か ら81歳 まで分 布 し, 悪 性腫瘍

リン トは ス トー マ に 近 い 皮 膚 に 絹 糸 で 固 定 し, 短 く

患者 の平 均 は60.7歳, 良性疾 患 では平 均33. 6歳 で, 全

切 っ て 直 ち に 貼 布 した 採 尿 袋 に 収 め る. 腔,

6,

目以 降 に 抜 去 す る.

12ヵ 月 後 に腹 部 単 純 撮 影(KUB),

造 影(IVP), 以 後,

ス テ ン トは7日

1,

排 泄性 尿路

血 清 ク レ ア チ ニ ソ ・電 解 質 の 検 査 を 行 う.

異 常 が な い 場 合 は1年1回

尿 に つ い て は1本

の 定 期 検 査 を 行 う.

の カ テ ー テ ル に よ る導 尿11)で細 菌 学

回 腸 導 管 の 蠕 動 運 動 や, 回 腸 尿 管 逆 流 を 観 察 す る た め, 37例 に 逆 行 性 導 管 造 影 を 試 み た.

まずFr.

12バ ル

ン カ テ ー テ ル を 導 管 の 最 深 部 ま で 挿 入 し, バ ル ソ を膨 ら ま せ な い ま ま造 影 剤 を 注 入 し(50cm水 X線TVで

含 む6例(3.2%)で

あ るが, 輸血 に基 づ く肝臓 死 を含

め る と, 手術 関連 死亡 は8例(4.3%)と 3ヵ 月以 内の早 期 死亡 は6例,

な った. 術後

そ の後 の死亡 は46例 で,

合計58例(全 症例 の31.4%)が 死亡 した. 死因 として は癌 死が43例(74.1%)と 最 多で, 年 月の経 過 とと も に増加 して い る. 膀 胱 癌患 者 にお け る回腸導 管 の実測

的 検 査 を 行 って い る.

min),

症例 の平 均 は59.1歳 で あ る. 術 後1ヵ 月以 内の手 術 死 は, 術 中心 筋梗 塞 の2例 を

ま た は 膀 胱 摘 除 後 の ス ペ ー ス に 入 れ て お く.

術 後 管 理: 3,

ドレ ー ンを 腹

柱,

10m1/

観 察 す る. つ ぎ に バ ル ンを 膨 ら ま せ

生存 率 は, 1年84.4%,

3年72.3%,

年61.9%,

あ った(Fig.2).

15年53.6%で

5年66.8%,

10

早 期 合 併 症 は, 術 中 死 亡 を 除 い た183例 中69例 (37.7%)に 認 め られた(Table

2). 最多 は創 感染 を主

とす る術創 治癒 遷 延 の36例 で, 全症 例 の約20%に み ら

て 導 管 を 閉 塞 し 同様 の観 察 を 行 う. 一 部 の 症 例 で は,

れた. 第2位 は術後 イ レウス の18例(約10%)で

別 の カ テ ー テ ル よ り導 管 内 圧 の 測 定 も 試 み た.

15例 は保存 的 に治癒 してお り, 手術 を要 した ものは3

術 後 合 併 症: 術 後3ヵ

月 以 内 に み られ た も の を 早 期

あ る.

例 だ けで あ った. 腸 々吻合 不全 は3例 を経験 した が,

合 併 症 と し, そ の後 発 生 し た も の を 遅 発 性 合 併 症 と し

2例 は以 前 に60Gy以 上 の照 射療 法 を 受 け て お り, い

た. 多 くの 症 例 は, 膀 胱 全 摘 な どの 根 治 手 術 を 同 時 に

ず れ も腹膜 炎, 栄養 障害 を続 発 して死 亡 した. 他 の1

受 け て い るた め, 合 併 症 の す べ て が 回 腸 導 管 だ け に 帰

例 は再 手術 に よ って幸 い に治癒 させ るこ とが で きた.

せ られ る も の で は な い.

尿管 回 腸吻 合不 全 は1例 を経 験 した だけ で, 他 に同吻





対 象 と した185症 例 の基 礎 疾 患 は, 骨 盤 内 悪 性 腫 瘍 が 174例 で94%を

占 め, 中 で も膀 胱 癌 が143例(77.

で 最 も多 い(Table

3%)

1). 悪 性 腫 瘍 の うち148例(85%)

Table l Indicationsfor ilealconduit urinary diversion

Fig. 2 Actuarial survivalrate of 143 patientswith ilealconduit urinary diversion for bladder carcinoma.

1558

Table 2 Early complicationsin 183 patients

Table 4

Postoperativechange of pyelogram in 144

patientswithout influenceof tumor recurrence to the ureter.

* 15patientsconsisting of l bilateral and 14 unilateral dilatation;right:left=5:11(n.s.)

例 と後期(1982∼89)手 術 例 とに分け てみ る と, 前 期 では75例 中49例(65%)に 合併 症 を認め た のに対 し, Table 3 Late complicationsobserved in 170 patients according to the year of surgery

後期 で は95例 中38例(40%)が

合併症 経験 者 であ る.

前 期手術 例 に多 いの は, 手 技 の未熟 に よ る場合 もあ る が, 年 月の経 過 とと もに出現す る合併 症 もあ る こ とを 意 味 してい る. 最 も多 い合 併症 は ス トーマ周 囲の皮 膚炎 お よび腎 に 関す る合併 症 で あ る. 皮 膚 炎は38例(22%)に

認め ら

れた. 尿漏 れ や装 具の不 適合 な どで起 こ りやす く, 軽 症 なが ら再 発 しや す い. 患者 に とって 日常 生活 に も っ とも影 響 を受 け る合 併症 で あ る. しか し, 皮 膚 の増殖 性変化 や ス トー マの変形 を伴 うよ うな難 治性 の もの は 稀 で あ った. 腎合併 症 は38例(22%)に

認 め られ た. 内訳 は, 腎

孟 拡張 の 出現 あ るいは悪 化が23例, 急性 腎孟 腎炎 が17 例, 血清 ク レアチ ニ ン上 昇9例,

腎結石8例,

一過 性

高 ク ロール血 症7例, お よ び慢 性腎 不全2例 であ る. これ らを前 ・後期 で比 較す る と, 何 らか の腎合 併症 を 持 つ患者 の頻 度, お よび 腎孟拡張 で は前期 の方 が後 期 よ りも有 意 に多 か った. 腎孟腎炎, 血 清 ク レアチ ニ ン *p

[A 17-year experience with ileal conduit urinary diversion--early and late complications].

A series of 185 patients, 133 males and 52 females, were treated by ileal conduit urinary diversion in the past 17 years. The patients ranged in age f...
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