1556

Eikenella

corrodensと

α-Streptococcusを

起 炎 菌 と した

急性 化膿 性 甲状腺 炎 の女 児例 1)鹿児 島 大学 小 児 科 2)今給 黎 病 院 小児 科 川 下

智 子1)

増 田

隆 二1)

川 野

好 文2)

宮 田 晃 一 郎1)

清

(平成2年5月7日

受 付)

(平成2年6月1日

受 理)

保 博1)

Key words : E. corrodens, suppurative thyroiditis, mixed infection で 可 動 性 乏 し く,圧 痛 著 明 な腫 瘤 を 認 め た.全 身

は じめ に 急 性 化 膿 性 甲 状 腺 炎 は,小 患 で あ り,梨

児 で は比 較 的 稀 な疾

状 窩 瘻 孔 な ど解 剖 学 的 異 常 を 認 め る

こ と が 多 い と さ れ て い る1).今 回,再

発 を 繰 り返 す

状 態 に は,問 題 認 め な か った. 入 院 時 検 査 所 見: 初 回 と同 様,白 血 球 の増 加, 血 沈 の 充 進,CRP強

陽 性 を 認 め た が,他 の血 液 検

急 性 化 膿 性 甲 状 腺 炎 の 女 児 例 を 経 験 した の で報 告

査,尿 検 査 等 で 異 常 所 見 は 認 め な か った(Table

す る.ま

1).免 疫 系 及 び 甲 状 腺 機 能 に も異 常 所 見 は 認 め な

た,本

corrodensと

症 例 で は 起 炎 菌 と し てEikenella

α-streptococcusを 症

か った(Table

検 出 し た.

2, 3).

入 院 後 経 過(Fig.1):入

例

院 後 は,抗 生 剤CMD

患 児:

6歳 女 児.

の 点滴 投 与 を 開 始 した が,臨 床 症 状 は 軽 快 せ ず 切

主 訴:

発 熱 ・左 頚 部 の 腫 脹.

開 排 膿 と抗 生 剤 をCAZに

家 族 歴: 既 往 歴:

特 記 す べ き こ と な し.

膿 汁 培 養 で は,前

特 記 す べ き こ と な し.

kenella corrodensの2種

現 病 歴 ・経 過:

1987年7月

よ り発 熱 を 認 め,近

変 更 し軽 快 治 癒 した.

回 同 様 α-streptococcusとE盛 類 の菌 が 同定 され た.後

者 に つ い て は,(1)血 液 寒 天 培 地 や チ ョコ レ ー ト寒

医 に て 扁 桃 炎 の 診 断 の も と 抗 生 剤Cefaclor (CCL)服

用 す る も 解 熱 傾 向 な く,8月

に 圧 痛 を 伴 う腫 瘤 の 出 現 を み た.当 抗 生 剤Cefamandole も 軽 快 せ ず,切

(CMD)点

Table

1

Laboratory

findings

on admission

滴 投 与 を開 始 す る

開 排 膿 を 施 行 し 軽 快 治 癒 し た.膿

汁 培 養 に てEikenella を 検 出 し た.そ 翌 年7月

中旬前頚部 科 に 入 院 後,

corrodensと

の 後,特

α-streptococcus

に 異 常 を 認 め な か っ た が,

発 熱 と とも に 前 年 と同位 部 の 頚 部 膿 瘍 の

再 発 を 認 め,抗

生 剤CMD,

Ceftazidime

投 与 と切 開 排 膿 に て 軽 快 治 癒 し た.起 や は り前 年 同 様2種 (1988.7.11):前 別 刷 請 求先:

(CAZ) 炎 菌 と して

の 菌 を 同 定 し た.入

院時現症

頚 部 に 約6.5×5.0cm,弾 (〒890) 鹿 児 島市 宇 宿 町1208-1 鹿 児 島 大学 医 学 部 小 児科 川下

性硬

智子 感 染 症 学雑 誌

第64巻

第12号

Ecorndensに

Table

2

Immunological

findings

(Jul.

よる化 膿 性 甲状 腺 炎

1988)

Table

4

antibiotics

Table

3

Thyroid

function

1557

Sensitivity

(disk

method)

for Eikenella

(Jul. 1988)

上 極 の 圧 排 を 認 め た(Fig.3) (Normal

タ ラ ー ゼ(-),リ

ニ チ ン ― デ イ カ ル ボ キ シ ラ ー ゼ(+) 性(+),X因

形 成,(2)オ

子 要 求 性(+)な

2回

酸塩還 元

急 性 化 膿 性 甲状 腺 炎 は 細 菌 感 染 に よ る急 性 炎 症 で あ り,小 児 で は比 較 的 稀 な疾 患 で あ る.こ れ は

,硝

種 のMIC

甲状 腺 組 織 内 の ヨー ド含 有 量 が 高 い た め細 菌 が 増 殖 し難 く,ま た 甲 状腺 が 丈 夫 な被 膜 で お お わ れ 周

は,左

静 脈 の 内 側 に 膿 瘍 を 認 め た(Fig.2).切 よ る 甲 状 腺 シ ン チ で は,左

下顎角 部の高

囲 臓 器 との直 接 の交 通 が な く病 原 菌 が 甲状 腺 に 到 達 し難 い た め と さ れ て い る1).

開排膿前

本 症 の 臨 床 症 状 と して は 甲状 腺 部 位 の発 赤,腫

葉の変形 と

Fig. 1

平 成2年12月20日

案

どの生 化 学 的 性 状

さ か ら 甲 状 腺 下 極 の 高 さ に わ た っ て 総 頚 動 脈 と頚

の99mTcに

Digi-

用 いた 食 道咽 頭 造影 を施 行 し

考

4の 通 りで あ っ た. 目入 院 時 の 頚 部CTで

MRI,

た が,瘻 孔 等 の器 質 的 異 常 は 認 め られ な か った .

キ

ジ ン ・オ ル

を 有 し た こ と よ り本 菌 と 同 定 し た.2菌 はTable

.梨 状 窩 瘻 孔 な ど解

剖 学 的 異 常 を検 索 す るた め頚 部CT,

range)

tal subtructionを 天 培 地 に て 淡 明 で 微 小 なcolonyを シ ダ ー ゼ(+),カ

and MIC of

corrodens

脹,疼

Clinical

coruse

痛 が み られ,嚥 下 困 難 を 伴 うこ と も あ る.

川下 智子 他

!558

Fig. 2 area

Computed at level

tomography

of thyroid

gland.

through

cervical

(1988. 7. 13)

保 つ と さ れ て い る1).甲

状腺 シ ンチグ ラムでは ア

イ ソ ト ー プ の 取 り込 み の 減 弱 な い し陰 影 の 欠 損 が 認 め ら れ 本 症 の 重 要 な 診 断 根 拠 と さ れ る1). 甲 状 腺 に炎 症 が あ った か否 か は 病 理 組 織 像 が 最 終 的 な 決 め 手 と な る が,本

症例で は臨床的 に甲状

腺 部 位 に 一 致 し た 発 赤 ・腫 脹,甲

状 腺 シンチグ ラ

ム で 炎 症 が 甲 状 腺 に 及 ん で い る こ と,甲

状腺機 能

が 保 た れ て い る こ と な ど よ り急 性 化 膿 性 甲 状 腺 炎 と 診 断 し た. 感 染 経 路 と し て は,(1)血

行 性,(2)リ

(3)甲 状 腺 へ の 直 接 外 傷,(4)周 直 接 波 及,(5)甲

ン パ 行 性,

囲 組 織 か らの 炎 症 の

状 舌 管 の 遺 残 な どが 挙 げ られ て い

る2).本 症 例 の よ う に 再 発 性 甲 状 腺 炎 を き た し,膿 汁 培 養 で 口 腔 内 常 在 菌 が 検 出 さ れ る 場 合,口

腔咽

頭 と甲 状 腺 を連 絡 す る異 常構 造 の存 在 が 考 え られ る.Hazardはthyroglossal 中 頚 嚢 胞)を

duct(甲

状 舌 管 ・正

急性 甲状腺 炎 の 原因 として あげ た

が2),実 際 の 報 告 例 は 少 な い よ うで あ る.こ

れに対

し咽 頭 梨 状 窩瘻 の存 在 が 確 認 さ れ た報 告 は 多 数 み ら れ て お り1)3)4),急 性 甲 状 腺 炎 の 主 な 解 剖 学 的 異 常 と して は 咽 頭 梨 状 窩瘻 の方 が大 き な役 割 を 担 っ て い る と 思 わ れ る.本 Fig. 3 99mTc

thyroid

scintigraphy

症 例 で は,こ

の様 な 構 造 異

(1988. 7. 13: 常 を 見 い だ し 得 な か っ た が,急

性期 の甲状腺亜全

摘 や ドレナ ー ジ 等 の 手 術 の際 や 炎 症 が 治 ま っ て か らの食 道 咽 頭 造 影 な ど に よ って 見 い だ され る場 合 が 多 い と さ れ,こ

の 様 に 再 発 を 繰 り返 す 場 合,構

造 異 常 を 疑 っ て 十 分 な 検 査 を 行 うべ ぎ だ と考 え ら れ た. ま た,本

症 の 起 炎 菌 と し て は 口腔 咽 頭 に 存 在 す

る 嫌 気 性 菌 が 高 頻 度 に 検 出 さ れ る3).本 strepのcoccusとEikenella

例 で は α-

corrodensの2種

類 の

菌 が 同 定 さ れ た. Eikenella

corrodensは,

よ りBactenides

1972年

corrodensの

にJacksonら

一 部 の菌種 に命 名

検 査 成 績 で は 白血 球 増 加,核 の 左 方 移 動,赤 沈 充

さ れ た 通 性 嫌 気 性 グ ラ ム 陰 性 桿 菌 で あ る.そ

進,CRP陽

化 学 的 性 状 で は,カ

性 が み られ 急 性 炎 症 所 見 を 示 す1).甲状

に

の生

ン ピ ロバ ク タ ー との 類 似 性 も

腺 機 能 検 査 で は稀 に ヨ ー ド摂 取 率 の 低 下 を示 す こ

指 摘 さ れ て い る が,培

とも あ るが,ほ

性 カ タ ラ ー ゼ 試 験 な ど に よ り特 徴 づ け ら れ て い

とん ど の症 例 で 血 中 トリ ヨー ドサ

養 条 件,グ

corzodensの

ラ ム染 色,運

動

イ ロ ニ ン,サ イ ロキ シ ン な どの 甲状 腺 ホ ル モ ン濃

る5)6).Eikenella

分 離 に は 材 料 を血 液

度 は 正 常 範 囲 内 に あ り,炎 症 に よ り甲状 腺 の 一 部

寒 天 培 地 に 塗 抹 し,5∼10%のCO2を

が破 壊 され る に もか か わ らず 甲 状 腺 機 能 は 正 常 に

ジャーの 中 で 培 養 す る こ とが す す め られ て い 感 染症 学 雑 誌

加 えた 密 閉

第64巻

第12号

E. corrodens

に よ る化膿 性 甲状腺 炎

る7).本 菌 の 分 離 に 関 し て 嫌 気 培 養 は 必 ず し も 必 要 で な く,む

5)

る7).ま た,本

裂 患 者,3.薬

患 者,2.口

6)

深 部 膿 瘍 を 形 成 す る 事 が 多 い が8)∼10),本 症 例 の よ うな 健 常 小 児 で も 起 炎 菌 と な る 症 例 が 報 告 さ れ て い る11)∼15).本菌 は,単

独 よ り も 他 の 菌 と混 在 し て

分 離 さ れ る こ と が 多 く 特 にStreptococcus

は混 合

感 染 に よ り病 原 性 を 増 大 さ せ る こ とが 多 い16). 治 療 は 抗 生 剤 の 投 与 に よ る が,膿 れ ば 切 開 排 膿 が 必 要 と な る.ま

瘍 が 形 成 され

た,本

症 では炎症

corrodens

は 従 来

よ

Ampicillin

(ABPC),

Chloram-

amphenicol

Gentamicin

(GM)に

感 受 性 が高

(CP),

い と さ れ て い る が,最

近 で は 本 症 例 と 同 様GM

耐 性 菌 も 報 告 さ れ て お り18),治 療 に 際 し て は 薬 剤 感 受 性 を み な が ら充 分 量 の抗 生 剤 投 与 が 必 要 で あ る. 本 論文 の要 旨は第20回 日本小 児 感染 症 学 会(1988年,福 岡)に て報 告 した. 文 献 1) 阿部 和 男, 藤 田仁子, 松 浦 信夫, 南

秀 樹, 伊丹

儀 友, 佐 藤 琢 司, 遠 藤 満 智 子, 福 島 直樹, 野原 八 千 代: 急 性 化 膿 性 甲状 腺 炎 の感 染 経 路 として の第 4鯉 嚢 性 咽 頭 梨 状窩 痩 に つ いて. 日児誌, 85: 44 -47 , 1981. 2) Hazard, J.B. : Thyroiditis—A review. Am. J. Clin. Pathol.,

25 : 289, 1955.

3) Abe, K., Taguchi, Takebayashi, acute

K.

T., Okuno, &

suppurative

Sasaki, thyroiditis.

A., Matsura, H.: Am.

N.,

Recurrent J.

Dis.

Child., 132 : 990, 1978. 4)

薗 部 友 良,

野 沢 博 正,

隆:

反 復 性 化膿 性 甲

状 腺 炎 を 引 き起 こ し た 先 天 性 側 頸 痩 の1例.小 科 臨 床,

34:

平 成 2年12月20日

761-765,

1981.

児

121-134,

松 原 藤 継:

最 近 分 離 した

に関 す る臨床 細 菌 学 的検 討 .

5: 511-516,

10) Tveteras, O.:

1981.

K., Kristensen,

Eikenlla

ogen in head Otol.,

and neck

101 : 592-594,

11) Raffensperger, infections -646

S., Bach, V. & Ravlo,

corrodens,

an

emerging

infections.

path-

J. Larngol.

1987.

J.G. :

in children.

Eikenella

J. Pediatr.

corrodens Surg.,

21 : 644

, 1986.

12) Appelbaum, P.C. & Cohen, I.T. : Thyroid abscess associated with eikenella corodens in a 7-year-old child. Clinical Pediatr., 21 : 241-242, 1981. 13) Vichyanond, P., Campbell, P.H. & Lloyd, C.O. : Eikenlla corrodens as a tyroid abscess. Am. J. Dis. Child., 137 : 971-973, 1983. 14) Cheng, A.F., Mann, D.W.K. & French, G.L. : Tyroid abscess caused by eikenella corrodens. J. Infect., 16 : 181-185, 1988. 15) Amelia, F.D., Gregory, T.W. & Janet, J.F. : Eikenlla corrodens as a cause of recurrent and persistent infections of the head and neck. Am. J. Otolarngol., 4 : 426-430, 1986. 16) Brooks, G.F., O'Donoghue, J.M., Rissing, J.P., et al. : Eikenlla Corrodens, a recently recognized pathogen. Medicine, 53 : 325-342, 1974. 17) Abe, K., Taguchi, T., Okuno, A., Matsura, N. & Sasaki, H.: Acute suppurative thyroiditis in children. J. Pediatr., 94 : 912, 1979. 18)

猿 渡 勝 彦,

他:

原 発性 肺 癌 の続 発 性 肺 化膿 症 か ら

分 離 し たEikenella 堀

85:

ge Univversity Press, England, 1982. 8) Tami, T.A. & Parker, G.S. : Eikenella con rodens. Arch. Otolaryngol., 10 : 752-754, 1984. 9) Blake, G.H. C.P.T., Habrchak, D.R. L.T.D. : Cervicofacial actinomycosis associated with eikenlla corrodens : Case report. Military Med., 147 : 414-415, 1982.

りBenzil-

penicillin (PCG),

の 生 物 学 的 ・遺 伝

歯 科 学 報,

藤 田 信 一, corrodens

臨 床 病 理,

炎 症 に よ る 甲 状 腺 の 破 壊 を よ り少 な くす る た め に

る.Eikenella

corrodens

7) Cowan, S.T. : Manual for the Identification of Medical Bacteria 2nd ed., p. 105-108, Cambrid-

の 進 行 が は や く膿 瘍 を 形 成 し や す い17)こ と か ら,

は 早 期 に適 切 な抗 生 剤 を 投 与 す る こ とが 大 切 で あ

山 下 政 宣, Eikenella

腔 内 外 傷 ・臓 器 破

剤 乱 用 者 な ど に 日和 早 感 染 に よ り

Eikenella

1985.

菌 は上 気 道 や 消 化 管 の常 在 菌 とみ な

さ れ て お り,1.癌

塩 津 二 郎:

学 的 ・免 疫 学 的 性 状.

し ろ 本 菌 の 肉 眼 的 発 育 に は2∼3日

の 培 養 期 間 を 要 す る こ とが 重 要 と言 わ れ て い

1559

検 討.

臨 床 病 理,

corrodens 25: 597-602,

に関 す る細 菌 学 的 1977.

川下

1560

A Case with Acute Suppurative

Thyroiditis

智子 他

due to Eikenella corrodens and a-Streptococcus

Tomoko KAWASHITA 1),Ryuji MASUDA 1),Yasuhiro KIYOSHI 1),Yoshihumi KAWANO 2) & Koichiro MIYATA 1) 1)Department

of Pediatrics,

Faculty of Medicine, 2)Imakyure Hospital

Kagoshima

University

A 6-year-old girl with acute suppurative thyroiditis is reported. She suffered from suppurative thyroiditis twice, and E. corrodens and a-streptococcus were grown from the abscess each time. They were sensitive to antibiotics used, but surgical drainage was necessary to cease to inflammation each time. E. corrodens seemed to be a causative organism with or without another organism in compromised patients and/or patients with anatomical abnormalities. The presented patient some anatomical abnormality such as an internal fisutula from the piriform perithyroidal

space, however,

no abnormalities

were detected

during

was supposed to have sinus connecting the

these episodes.

感 染 症学 雑 誌

第64巻

第12号