日消誌

2015;112:1819―1829

アンケートを用いた寛解期潰瘍性大腸炎患者に対する 経口 5-ASA 製剤のアドヒアランス調査 加 藤 山 本

真 吾 龍 一

可 児 名 越

和 仁 澄 子

小 林 泰 輔 屋嘉比 康 治1)

要旨:寛解期潰瘍性大腸炎患者の 5-ASA 製剤服薬アドヒアランスのアンケート調査を行った.対象は 2012 年 10 月より 2014 年 9 月までの間,当院外来通院中の寛解期潰瘍性大腸炎患者 120 例(う ち 112 例が回答) .全患者のアドヒアランス率は 57% で,1 回投与群 95%,複数回投与群 50% であった(P=0.00044) .完全アドヒアランスに関する有意な因子は,多変量解析では 1 日の服用 回数のみであった.複数回投与歴のある 13 例の複数回投与時のアドヒアランス率は 23% で,1 日 1 回に変更後のアドヒアランス改善効果は 100% であった(P=0.000054). 索引用語:5-ASA,潰瘍性大腸炎,アドヒアランス,アンケート

はじめに

状態にあるとされる.特に高血圧などの自覚症状

炎症性腸疾患は再燃と寛解を繰り返す原因不明

の少ない疾患ではアドヒアランスは低いといわれ

の疾患であり,その根治的な治療法は確立されて

ている5)6).患者がノンアドヒアランスとなる予測

いない1)2).炎症性腸疾患の治療の目標は早期の寛

因子として,男性,独身者,若年者,終日就労者,

解導入と長期の寛解維持を行うことにより,患者

1 日 3 回投与,4 剤以上の処方,新患患者,短期

の生活の質(quality of life)の改善を図ることで

の罹病期間などが報告されており,また,ノンア

ある.そのためには長期にわたる治療が必要で,

ドヒアランスとなる患者自身の訴えとしては,飲

炎症性腸疾患患者の薬物療法においては高い安全

み忘れ,治療への拒絶,治療により得られる利益

性と高いアドヒアランスが求められる.

への理解の低さ,医師との交流の乏しさ,支援・

アドヒアランスとは,医者から指示された方法

情報提供の不十分さ,複雑な薬剤処方錠数・投与

で正しく確実に服用することを意味する従来から

回数,副作用への不安および治療にかかる費用な

3)

用いられてきたコンプライアンスの概念 と異な

どが報告されている7)8).つまりは,医師・患者間

り,患者自身がその治療方針の決定過程に参加し

の情報共有の低さが原因の 1 つとして考えられ,

た上で,その治療を自ら実行すること,つまり医

このことは渡辺もインターネットを用いた医師・

師と患者がともに協力して治療に専念することを

患者双方での意識調査において,医師・患者双方

意味する4).し か し,最 近 の WHO や NICE(英

での認識の相違がみられると報告している9).

国国立医療技術評価機構,National Institute for

炎 症 性 腸 疾 患 治 療 に お け る 5-aminosalicylic

Health and Clinical Excellence)の報告では,慢

acid(5-ASA)は,軽症から中等症の潰瘍性大腸

性疾患患者の 30∼50% がノンアドヒアランスの

炎治療に対する寛解導入および維持療法として第

1)埼玉医科大学総合医療センター消化器・肝臓内科 Corresponding author:加藤 真吾([email protected]) (51)

1820

日本消化器病学会雑誌

第112巻

第10号

一選択薬となる重要な内服薬である10)∼12).その薬

薬遵守状況,飲み忘れ理由) ,希望する 1 日の投

理作用としては炎症性サイトカインである IL-1,

与回数について,患者申告に基づき評価した.服

TNF-α の抑制,リポキシゲナーゼ系の抑制,フ

薬アドヒアランスの評価方法として,Q3 および

リーラジカルの消去および NF-κb の抑制効果な

Q6 の「医師から指示されたとおり,お薬を飲ん

どが報告されているが,その作用は腸管粘膜局所

でいます(した)か?」の質問に対し,「全てき

13) 14)

への直接作用である

.つまりは腸管内におけ

ちんと服用している(いた) 」を選択したものを

る定期的で十分な薬剤の到達が治療効果維持のた

完全アドヒアランス,「服用しないこともある

めに重要である.そこでいかにして規則正しく内

(あった) 」を選んだものを不完全アドヒアランス

服を行うかが再燃予防には重要である.このよう

とした.アンケートの項目の統計処理方法には

にアドヒアランスは患者の寛解導入・維持のため

chi-squared test,Fisher s exact test およびロジ

の重要な要因となるにもかかわらず,本邦におけ

スティック回帰分析を用いて評価を行った.

るアドヒアランス,特に炎症性腸疾患患者に対す

II





るアドヒアランスに関する検討は少ない15).ま

1.患者背景

た,最近の報告では,経口 5-ASA 製剤の寛解維

当院通院中の潰瘍性大腸炎は 284 人で,アン

持効果に与えるアドヒアランスの影響の調査研究

ケート調査を実施した 120 人中,回収可能であっ

において,高用量寛解維持群(4.4∼4.8g! day)と

た 112 例(93%)の内訳を背景要因と治療要因に

低用量寛解維持群(2.4∼2.8g! day)との比較で

分けて Table 1 に示した.男女比は 56 対 56 で,

は,アドヒアランスが高まれば投与量ごとの影響

年齢分布としては未成年の患者数は 1.8% と少な

は少ないが,アドヒアランスが低下するにつれて

く,20∼59 歳 が 73%,60 歳 以 上 が 25% で あ っ

投与量の影響が大きくなると報告されており,寛

た.背景因子について,患者の就労状況は終日の

解維持効果に投与量よりもアドヒアランスが重要

仕事の患者が多かった.食事の状況では 3 食必ず

16)

であると報告している .今回,われわれは当院

食べる患者が 83 例(74%)と多く,普段より食

における外来通院中の寛解期潰瘍性大腸炎患者の

事に気を付けている患者が多かった.しかし,食

経口 5-ASA 製剤のアドヒアランスの実態を調査

事を抜くことがある患者も 29 例(26%)存在し,

し,かつ,アドヒアランスに及ぼす要因を検討し

特に朝食を抜くことが多い傾向であった.罹病期

た.

間は 1 年未満の発症早期の患者は少なく,1 年以 I

対象・方法

上の患者が全体の 96% を占めた.寛解維持期間

対 象 は 2012 年 10 月 よ り 2014 年 9 月 ま で の

は 6 カ月未満が全体の 30% であった.つぎに治

間,当院外来通院中で経口 5-ASA 製剤の分割投

療要因として,服用薬剤数が経口 5-ASA 製剤単

与または 1 日 1 回投与を行っている clinical activ-

剤のみの患者は全体の 26% で,2 種類以上の薬

ity index(Lichtiger)4 点以下の寛解期の潰瘍性

剤を内服している患者が全体の 74% を占めてい

大腸炎患者 120 例に対し,Figure 1 に示すよう

た.内服している 5-ASA 製剤の内訳はペンタサⓇ

な無記名アンケートを用いて,経口 5-ASA 製剤

(500)錠 41%,ア サ コ ー ルⓇ(400)錠 54%,サ

の服薬アドヒアランス状況を調査した.本研究は

ラゾピリンⓇ(500)錠 5% であった.1 回の経口

埼玉医科大学総合医療センター倫理委員会の承認

5-ASA 製剤の最大服用錠数は 3 錠が 41 例と最も

を得て,外来にて口頭説明および文章での同意を

多かった.服用回数については 1 日 1 回が 20 例

得て行った.調査項目として患者背景(性別,年

と全体の 18% で,あとは 2 回以上が 92 例と全体

齢,就労状況,食事の状況,罹病期間,寛解維持

の 82% であった.

期間,処方薬剤の種類) ,分割投与時の状況(服

2.アドヒアランス率

用薬剤,服用時間, 服薬遵守状況, 飲み忘れ理由) ,

つぎに患者 112 例の 1 日の服用回数について検

1 日 1 回投与時の状況(服用薬剤,服用時間,服

討したところ,1 日 1 回投与 の み の 経 験 者 が 7 (52)

2015年10月

1821

Figure 1. 寛解期潰瘍性大腸炎患者に対するメサラジン製剤服用アンケート:当院外来通院中の寛解期潰瘍性大 腸炎患者 120 例に対して無記名アンケート形式で実施した.現在 1 日 1 回のメサラジン製剤の内服をしている患 者で過去に 1 日複数回投与の場合にはその時の状況も記載させた.

(53)

1822

日本消化器病学会雑誌

第10号

例,過去に複数回投与で現在 1 日 1 回投与患者が

Table 1. 患者背景 患者背景

第112巻

内訳

13 例で,複数回投与のみの患者が 92 例であっ

例数

た.そこで 1 日 1 回投与群 20 例と 1 日複数回投

性別

男性 女性

56 56 0 2 17 32 22 11 28 0

も含む)について比較検討した.Figure 2 に示

年齢(歳)

15 歳未満 15 ∼ 19 歳 20 ∼ 29 歳 30 ∼ 39 歳 40 ∼ 49 歳 50 ∼ 59 歳 60 歳以上 無記入 学生 終日の仕事 時間単位の仕事 その他(未就労を含む)

7 47 20 38

ものが 1 例で,その患者は初回より 1 日 1 回投与

食事の 状況

3 食必ず食べる 食事を抜くことがある(朝食) 食事を抜くことがある(昼食) 食事を抜くことがある(夕食)

83 26 3 0

罹病期間

1 年未満 1 年以上 5 年未満 5 年以上 10 年未満 10 年以上

5 31 32 44 9 25 17 30 31

況(3 食食べる vs 食事を抜くことがある) ,罹病

寛解維持 期間

1 カ月未満 1 カ月以上 6 カ月未満 6 カ月以上 1 年未満 1 年以上 3 年未満 3 年以上

29 27 20 6 29 1

薬剤の数,5-ASA 製剤の種類,1 回の服用錠数,

服用薬剤 の数

1 種類のみ 2 種類 3 種類 4 種類 5 種類以上 無記入

5-ASA 製 剤の種類

ペンタサⓇ錠 アサコールⓇ錠 サラゾピリンⓇ錠

46 60 6

ランス群と不完全アドヒアランス群との間に有意

最大服用 錠剤/回

1 2 3 4 5 6

1 18 41 36 15 1

1 2 3 4

20 44 47 1

就労状況

服用回数/ 日

与群 105 例(過去に複数回投与時の 13 例の成績 すように全体のアドヒアランス率は 57%(71! 125)であった.1 回投与群のアドヒアランス率 は 95%(19! 20)であるのに対し,複数回投与群 のアドヒアランス率は 50%(52! 105)であり, 有意に 1 回投与群の方がアドヒアランス率は高 かった.「1 日 1 回でも飲み忘れる」を選択した の患者であった. 3.アドヒアランス率に与える影響の検討 アドヒアランス率について,アンケートを行っ た 112 例の全患者を対象に,服薬順守に影響を与 えると考えられる要因を背景要因別(Table 2)と 治療要因別(Table 3)に検討した.まず背景要 因では,完全アドヒアランス群と不完全アドヒア ランス群に分けて比較すると,性別,年齢,就労 状況(終日の仕事 vs 時間単位の仕事),食事の状 期間(5 年未満 vs 5 年以上) ,寛解維持期 間(6 カ月未満 vs 6 カ月以上) ,すべての項目において 有意差は認められなかった.治療要因では,服用 1 日の服用回数,服用時間帯について検討した. 服用薬剤の数および服用時間帯については有意差 を認めなかったが,5-ASA 製剤の種類,1 回の服 用錠数,1 日の服用回数については完全アドヒア 差を認めた.そこで,有意差のついた 5-ASA 製 剤の種類,1 回の服用錠数,1 日の服用回数の項 目について多変量解析を施行したところ,オッズ 比 0.008(P=0.02)と有意差を持って,1 日の服 用回数のみが,回数が多くなるほどアドヒアラン スを低下させる要素であった(Table 4) . つぎに,不完全アドヒアランス群の服用しな かった理由として,82%(36! 44)の患者が服用 回数の多さを挙げている.飲み忘れ回数として は,75%(33! 44)の患者が週 1∼2 回飲み忘れる (54)

2015年10月

1823

Figure 2. 5-ASA 製剤服薬遵守率:アンケート調査の結果,アドヒアラ ンス率(完全アドヒアランスの患者の割合)は 1 日 1 回投与が 1 日複数 回投与に比べて有意に高かった(P=0.00044).

Table 2. 服薬遵守可否の比較(背景要因)





全てきちんと服用した (完全アドヒアランス群 n=68)

服用しないこともあった (不完全アドヒアランス群 n=44)

有意差

性別

男性 女性

33 35

23 21

P=0.698791

年齢(歳)

15 歳未満 15 ∼ 19 歳 20 ∼ 29 歳 30 ∼ 39 歳 40 ∼ 49 歳 50 ∼ 59 歳 60 歳以上

0 0 6 23 12 7 20

0 2 11 9 10 4 8

P=0.053984

就労状況

学生 終日の仕事 時間単位の仕事 その他(未就労者含む)

1 28 13 26

6 19 7 12

P=0.676658 (終日 vs 時間単位)

食事の状況

3 食必ず食べる 食事を抜くことがある

53 15

30 14

P=0.2495167

罹病期間

5 年未満 5 年以上

19 49

17 27

P=0.3096562

寛解維持期間

6 カ月未満 6 カ月以上

25 43

9 35

P=0.0667406

(55)

1824

日本消化器病学会雑誌

第112巻

第10号

Table 3. 服薬遵守可否の比較(治療要因)





全てきちんと服用した (完全アドヒアランス群 n=68)

服用しないこともあった (不完全アドヒアランス群 n=44)

有意差

服用薬剤の数

1 種類 多種類 無記入

14 53 1

15 29 0

P=0.1216476

5-ASA 製剤の 種類

ペンタサⓇ錠 アサコールⓇ錠 サラゾピリンⓇ錠

35 30 3

11 30 3

P=0.020921*

服用錠数/回

1 2 3 4 5∼6

1 11 17 30 9

0 7 24 6 7

P=0.007707*

服用回数/日

1 複数回

19 49

1 43

P=0.0013207*

服用時間帯

朝と夜 昼と夜 朝昼夜 朝昼夜と就寝前 朝のみ 昼のみ 夜のみ 無記入

25 0 23 1 14 0 4 1

18 1 24 0 0 1 0 0

ND

服用しなかった 理由

服用回数が多い 知られたくない 単に飲み忘れ その他

― ― ― ―

36 0 6 2

ND

飲み忘れ回数

1 ∼ 2 回/週 3 ∼ 4 回/週 無記入

― ― ―

33 6 5

ND

飲み忘れが多い 時間帯

朝 昼 夜(就寝前) 無記入

― ― ― ―

13 15 10 6

ND

ND:not determined.

Table 4. ロジスティック回帰分析によるアドヒアラン スに関連する因子の検討 項目

オッズ比

95% 信頼区間

P値

5-ASA 製剤の種類 1 回の服薬錠数 1 日の服薬回数

0.68 1.03 0.08

0.32 ∼ 1.43 0.68 ∼ 1.56 0.01 ∼ 0.69

0.31 0.87 0.02

と答えている.飲み忘れが多い時間帯としては 朝,昼が 64%(28! 44)で,夜(就寝前)が 23% (10! 44) と朝, 昼の時間帯に飲み忘れが多かった. 最後に Figure 3 に示すように,全患者 112 例 の現在の服薬回数と希望する服薬回数の調査の結 果,現在の服薬回数は 1 日 1 回が 18%,1 日 2 回 が 39% および 1 日 3 回が 42% であり,1 日 2 回 以上の服薬が 82% と多かったが,この患者の希 (56)

2015年10月

1825

Figure 3. 現在の 5-ASA 製剤服薬回数と希望する服薬回数:1 日 3 回内 服している患者が最も多く,ついで 1 日 2 回,1 日 1 回,1 日 4 回の順で あった.患者が希望する服薬回数は 1 日 1 回が最も多く,ついで 1 日 2 回, 1 日 3 回の順であった.

Figure 4. 1 日複数回から 1 日 1 回服用に変更した患者 13 例のアドヒア ランス改善率:アドヒアランス率は 1 回投与時が高かった(P=0.000054).

望する服用回数は 1 日 1 回が 71% と最も多く,

ついてのアドヒアランス率の変化を Figure 4 に

ついで 1 日 2 回 23%,3 回 6.3% の順であった.

示す.複数回投与時にはアドヒアランス率は 23%

4.服薬回数が服薬遵守に与える影響

(3! 13)であったが,1 日 1 回投与に変えたとこ

現在,1 日 1 回投与の患者 20 例のうち,過去

ろアドヒアランス率は 100%(13! 13)と有意に

に複数回投与にて内服を受けていた患者 13 例に

改善した.この 13 例のうち,自覚面においても (57)

1826

日本消化器病学会雑誌

第112巻

第10号

1 日 1 回 の 投 与 で「飲 み 忘 れ が 無 く な っ た! 無

試験(医師が単盲検)においてメサラジン 1 日 2

くなると思う」を選んだ患者は 9 例(69%)で

g を分 1,分 2 で内服継続している潰瘍性大腸炎

あった.

患者の寛解維持率は,1 日 1 回投与が 70.9% で, III





1 日 2 回投与が 58.9% で有意に 1 日 1 回投与の方

潰瘍性大腸炎患者におけるアドヒアランスの重

がアドヒアランス率は良く,患者の処方内服満足

要性は海外でも報告されている.6 カ月以上寛解

度も 1 日 1 回の方が有意に高かったと報告してい

維持を保っている潰瘍性大腸炎患者を対象とした

る20).また,本邦における国内治験においても経

海外の報告では,80% 以上指示された薬剤を内

口メサラジン寛解期維持量である 1 日 1.5∼2.25g

服しているアドヒアランス群の 1 年後の寛解維持

の 1 日 1 回投与群と 1 日 3 回投与群の多施設二重

率は 89% であり,ノンアドヒ ア ラ ン ス 群 で は

盲検試験の結果,52 週後の寛解維持効果は 1 日 1

39% と有意差を持ってアドヒアランス群の寛解

回投与群が 79.4%,1 日 3 回投与が 71.6% と非劣

17)

性試験で有意差を認めた21).

維持率が高いことが報告されている . 今回,当院で外来通院中の寛解期潰瘍性大腸炎

つぎにアドヒアランス率に与える影響の検討に

患者に対し,アンケートを用いて経口 5-ASA 製

ついて,患者全体の背景要因では有意差は認めら

剤ごとのアドヒアランス率の調査を行うととも

れなかったが,40 歳未満の年齢の若い患者のア

に,アドヒアランス率と患者背景についての調査

ドヒアランスが低い傾向にあった.若年者のアド

を行った.調査対象の男女比は 56 対 56 で,年齢

ヒアランスの悪さは 5-ASA 製剤以外の内服薬で

分布は 30∼39 歳が 29%(32! 112)と最も多く,

も報告されており8),また炎症性腸疾患患者を対

つ い で 40∼49 歳 20%(22! 112) ,20∼29 歳 15%

象とした報告でも若年者の内服アドヒアランスの

(17! 112) ,15∼19 歳 1.7%(2! 112)の順であり,

悪さは報告されている22).これに対し,寛解維持

年齢分布からみても,本研究の対象集団は本邦に

期間では 6 カ月以上の寛解維持期間を保っている

おける潰瘍性大腸炎患者の報告に類似した母集団

患者では,アドヒアランスが悪い傾向にあった.

18)

であることがわかる .患者の就労状況としては

このことは過去の前向き研究17)と全く異なる結果

終日勤務者,主婦が主体であり,学生が少ない傾

である.しかし,寛解維持を長期に保っている患

向であった.今回の全調査患者でのアドヒアラン

者のアドヒアランスが低い理由としては,今回の

ス率は 57% であった.これを既報と比較すると,

検討が後ろ向きのデータであることにより,不完

Kane らは 6 カ月以上 5-ASA 製剤で寛解維持を

全アドヒアランス群の中に症状が安定している集

している外来通院中の潰瘍性大腸炎患者に対する

団が多く含まれ,寛解を長期に継続することで服

調査を行ったところ,対象患者全体の薬剤消費率

薬意識が低下したことが原因と思われた.そのほ

は 71% で,処方された 80% 以上の薬剤を消費し

か,今回の検討では性別,就労状況,食事の状況

ている患者の割合をアドヒアランス率と定義した

には有意差は認められなかった.米国の報告で

場合に,患者全体のアドヒアランス率は 40% で

は,メサラジンのノンアドヒアランスに影響する

あり,今回の検討と同様に潰瘍性大腸炎患者にお

因子として男性,独身者19)が報告されているが,

ける経口 5-ASA 製剤のアドヒアランスが不良で

カナダの報告では逆に男性は高いアドヒアランス

あることがわかった19).これに対して経口 5-ASA

に影響する因子として報告されており,国ごとの

製剤 1 日 1 回投与患者のアドヒアランス率は今回

ライフスタイルの違いの影響も考えられた23).ま

の検討で 95%(19! 20)であり,1 日複数回投与

た,食事に関しては,朝食を抜くことがある患者

の患者と比較して有意にアドヒアランス率が高い

は完全アドヒアランス群が 19%,不完全アドヒ

結果が得られた.経口 5-ASA 製剤 1 日 1 回投与

アランス群が 30% と不完全アドヒアランス群で

患者のアドヒアランスについての報告は,海外で

高い傾向であったが有意差は認められなかった.

数報報告されている.Dignass らは多施設単盲検

潰瘍性大腸炎患者と食事を抜く習慣との関係の報 (58)

2015年10月

1827

告はなく,今後さらに登録症例数を増やして多施

23% から 100% へと有意な改善効果が得られて

設で検討する必要があると思われた.

おり,これは先に述べた希望する服薬回数に合致

つぎに治療要因の検討において,服用薬剤の数

するものであり,1 日 1 回の投与は高いアドヒア

では有意差が認められなかったが,海外の報告で

ランスを得るために最も良い投与方法であると思

は 1 日 4 種類以上の内服薬を服用している患者の

われた.またこれらの患者の 69% は自覚の面で

19)

アドヒアランスは有意に悪いとする報告 があ

も,1 日 1 回にした方が飲み忘れの少なくなるこ

る.そのほか,今回の検討では 5-ASA の種類で

とを実感しており,このことがアドヒアランスの

有意差があった.完全アドヒアランス群におい

改善に結びついたものと思われた.しかしなが





て,ペンタサ の使用がアサコール より多く,こ Ⓡ

ら,本研究の limitation として,今回の解析は大



れはアサコール に比べて,ペンタサ の投与回数

学病院における潰瘍性大腸炎患者に対するアン

が少ないことがアドヒアランスの向上に関与して

ケート調査に基づくものであり,一般病院やクリ

いるものと考えられた.つぎに 1 回の服用錠数が

ニックの症例とは患者背景などが異なる点,ま

少ないことおよび 1 日の服用回数が少ないことが

た,限られた症例数での検討であり,本邦の潰瘍

有意に完全アドヒアランスに関与する因子であっ

性大腸炎患者すべてにあてはまる結果ではないと

た.海外の報告でも服用錠数の多さと服薬回数の

いう点,最後に,複数回投与から 1 日 1 回投与に

多さはノンアドヒアランスの理由として指摘され

変更すると有意にアドヒアランス率が上がった

24) 25)

.このことは Table 3 に示すように,

が,服薬回数の変更時に患者へアドヒアランスの

患者に対する服用しなかった理由の調査で,不完

重要性に関する何らかの教育的情報(服薬指導な

全アドヒアランス群の 82%(36! 44)の患者が服

ど)が入っている可能性がある点が挙げられる.

ている

用回数の多さを飲み忘れの原因と指摘しているこ

おわりに

とは注視すべき点である.実際,海外の報告でも

今回の寛解期潰瘍性大腸炎患者に対するアン

投与回数が多いほど経口 5-ASA 製剤のアドヒア

ケート調査から,5-ASA 経口剤のアドヒアラン

24) 26)

.飲

スが悪いことが判明した.また,多変量解析の結

み忘れ回数としては,75%(33! 44)の患者が週

果より,不完全アドヒアランスに関与する有意な

1∼2 回飲み忘れると回答している.飲み忘れが

因子として,1 日服薬回数が複数回であることが

ランスは低下することが報告されている

多い時間帯としては朝 30%(13! 44) ,昼が 34%

挙げられた.これらはいずれも服薬に対する重要

(15! 44)で,夜(就寝前)が 23%(10! 44)と朝,

性の認識の欠如がその原因として考えられる.1

昼の時間帯に飲み忘れがやや多い傾向にあった.

日 1 回投与にてアドヒアランスが向上している点

また,食習慣との関係でも不完全アドヒアランス

からも,今後,服薬指導を含めた教育的効果がア

群で朝食を抜くことが多く,これが不完全アドヒ

ドヒアランスの向上に関与するかを前向きに検討

アランスに関与している可能性は否定できない.

する必要があると考えられた.

つぎにすべての患者に対する現在の服用回数と 希望する服用回数の調査(Figure 3)において,

本論文内容に関連する著者の利益相反

現状では 1 日 1 回投与の患者は 18% であり,2

:なし

回以上の複数回投与の患者が 82% を占めるが, 文

希望する投与回数では 1 日 1 回投与を希望する患 者は全体の 71% であり,この結果は



1)Ordás I, Eckmann L, Talamini M, et al : Ulcerative colitis. Lancet 380 ; 1606―1609 : 2012 2)Baumgart DC, Sandborn WJ : Crohn s disease. Lancet 380 ; 1590―1605 : 2012 3)Okuno J, Yanagi H, Tomura S, et al : Compliance and medication knowledge among elderly Japa-

川らの報

告とほぼ同様の結果であった27). 最後に投与回数変更によるアドヒアランス率の 改善効果であるが,13 例の患者では実際に 1 日 1 回投与にすることによりア ド ヒ ア ラ ン ス 率 が (59)

1828

日本消化器病学会雑誌

第112巻

第10号

among Japanese patients with ulcerative colitis in clinical remission : a prospective cohort study. J Gastroenterol 48 ; 1006―1015 : 2013 16)Khan N, Abbas AM, Koleva YN, et al : Long-term mesalamine maintenance in ulcerative colitis : which is more important? Adherence or daily dose. Inflamm Bowel Dis 19 ; 1123―1129 : 2013 17)Kane S, Huo D, Aikens J, et al : Medication nonadherence and the outcomes of patients with quiescent ulcerative colitis. Am J Med 114 ; 39―43 : 2003 18)厚生労働省大臣官房統計情報部人口動態・保健 統計課保健統計室.平成 21 年度衛生行政報告例 結 果 の 概 要 2010.http : !! www.mhlw.go.jp! toukei!saikin!hw!eisei! 09! index.html 19)Kane SV, Cohen RD, Aikens JE, et al : Prevalence of nonadherence with maintenance mesalamine in quiescent ulcerative colitis. Am J Gastroenterol 96 ; 2929―2933 : 2001 20)Dignass AU, Bokemeyer B, Adamek H, et al : Mesalamine once daily is more effective than twice daily in patients with quiescent ulcerative colitis. Clin Gastroenterol Hepatol 7 ; 762―769 : 2009 21)Watanabe M, Hanai H, Nishino H, et al : Comparison of QD and TID oral mesalazine for maintenance of remission in quiescent ulcerative colitis : a double-blind, double-dummy, randomized multicenter study. Inflamm Bowel Dis 19 ; 1681―1690 : 2013 22)Sewitch MJ, Abrahamowicz M, Barkun A, et al : Patient nonadherence to medication in inflammatory bowel disease. Am J Gastroenterol 98 ; 1535― 1544 : 2003 23)Lachaine J, Yen L, Beauchemin C, et al : Medication adherence and persistence in the treatment of Canadian ulcerative colitis patients : analyses with the RAMQ database. BMC Gastroenterol 13 ; 23 : 2013 24)Shale MJ, Reiley SA : Studies of compliance with delayed-release mesalazine therapy in patients with inflammatory bowel disease. Aliment Pharmacol Ther 18 ; 191―198 : 2003 25)Kane SV : Systematic review : adherence issues in the treatment of ulcerative colitis. Aliment Pharmacol Ther 23 ; 577―585 : 2006 26)Gillespie D, Hood K, Farewell D, et al : Electronic monitoring of medication adherence in a 1-year clinical study of 2 dosing regimens of mesalazine for adults in remission with ulcerative colitis. Inflamm Bowel Dis 20 ; 82―91 : 2014 27) 川知之,安藤 朗,馬場重樹,他:潰瘍 性 大 腸炎に対するメサラジン製剤の服薬回数に関す

nese home-care recipients. Eur J Clin Pharmacol 55 ; 145―149 : 1999 4)Kane SV, Robinson A : Review article : understanding adherence to medication in ulcerative colitis - innovative thinking and evolving concepts. Aliment Pharmacol Ther 32 ; 1051―1058 : 2012 5)World Health Organization : Section 1 setting the scene, chapter 2 the magnitude of the poor adherence. Adherence to long-term therapies : evidence for action, WHO Publishing, 7―8 : 2003 6)National Collaborating Centre for Primary Care (UK) : Medicines adherence : involving patients in decisions about prescribed medicines and supporting adherence (internet). National Institute for Health and Clinical Excellence : guidance, Royal College of General Practitioners, London, 2009 7)Kane SV, Brixner D, Rubin DT, et al : The challenge of compliance and persistence : focus on ulcerative colitis. J Manag Care Pharm 14 (suppl A) ; s2―s12 ; quiz s13―s15 : 2008 8)Hawthorne AB, Rubin G, Ghosh S : Review article : medication non-adherence in ulcerative colitis--strategies to improve adherence with mesalazine and other maintenance therapies. Aliment Pharmacol Ther 27 ; 1157―1166 : 2008 9)渡辺 守:潰瘍性大腸炎の治療における医師と 患者の意識比較.新薬と臨床 61 ; 151―168 : 2012 10)Ford AC, Achkar JP, Khan KJ, et al : Efficacy of 5-aminosalicylates in ulcerative colitis : systematic review and meta-analysis. Am J Gastroenterol 106 ; 601―616 : 2011 11)Sutherland L, MacDonald JK : Oral 5aminosalicylic acid for induction of remission in ulcerative colitis. Cochrane Database Syst Rev 3 ; CD000543 : 2003 12)Sutherland L, Roth D, Beck P, et al : Oral 5aminosalicylic acid for maintenance of remission in ulcerative colitis. Cochrane Database Syst Rev 4 ; CD000544 : 2002 13)Pithadia AB, Jain S : Treatment of inflammatory bowel disease (IBD). Pharmacol Rep 63 ; 629―642 : 2011 14)Sandborn WJ, Hanauer SB : Systematic review : the pharmacokinetic profiles of oral mesalazine formulations and mesalazine pro-drugs used in the management of ulcerative colitis. Aliment Pharmacol Ther 17 ; 29―42 : 2003 15)Kawakami A, Tanaka M, Nishigaki M, et al : Relationship between non-adherence to aminosalicylate medication and the risk of clinical relapse (60)

2015年10月

1829 !論文受領,2015 年 4 月 2 日" # # 受理,2015 年 8 月 10 日% $

る実態調査―寛解期 1 日 1 回投与の意義―.Progress in Medicine 33 ; 327―332 : 2013

Adherence to oral 5-aminosalicylic acid by patients with quiescent ulcerative colitis : a questionnaire survey Shingo KATO, Kazuhito KANI, Taisuke KOBAYASHI, Ryuichi YAMAMOTO, Sumiko NAGOSHI and Koji YAKABI1) 1)

Department of Gastroenterology and Hepatology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University

For patients with ulcerative colitis, adherence to 5-aminosalicylic acid (5-ASA) is generally expected to ensure better maintenance of remission. Over the past 2 years, we have conducted a questionnaire survey in our hospital of 120 outpatients with quiescent ulcerative colitis to assess their adherence to oral 5-ASA. Of them, 112 patients responded. The overall adherence rate was 57% ; however, the adherence rate for 5-ASA taken once a day was 95%, which was significantly higher than that for 5-ASA taken twice or three times a day (50% ; P=0.00044). Univariate analysis revealed that the factors associated with high adherence included the following : type of 5-ASA derivative, intake of fewer drugs being at a time, and once-daily intake of 5-ASA. However, once-daily intake of 5-ASA was the only factor found to have a statistically significant effect using multivariate analysis. The adherence rate improved from 23% to 100% when the prescription for 5-ASA was changed from two or three times daily to once daily (P=0.000054).

(61)

[Adherence to oral 5-aminosalicylic acid by patients with quiescent ulcerative colitis: a questionnaire survey].

For patients with ulcerative colitis, adherence to 5-aminosalicylic acid (5-ASA) is generally expected to ensure better maintenance of remission. Over...
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