産 業 医学

Jpn

J Ind

Health

原 著

1990;

32:

448-453

Bis (chloromethyl)

etherに

よ る職 業 性

肺 癌 の疫 学 的 検 討 西村

弘*,宮



和 久*,吉



義 昭*,黒

松本

政 信*,松



健 治*,武

田 真 太 郎*,原



基 嗣* 一 郎**

AN EPIDEMIOLOGICAL STUDY OF LUNG CANCER AMONG WORKERS EXPOSED TO BIS (CHLOROMETHYL) ETHER Ko NISHIMURA,*Kazuhisa MIYASHITA,*Yoshiaki YOSHIDA,* Mototsugu KURODA,*Masanobu MATSUMOTO,*Kenji MATSUMOTO,* Shintaro TAKEDA*and Ichiro HARA** An and of

epidemiological

U),

where

dyestuff K,

by

in

and each

Sakabe 1)

•} SD)

and

2)

The

carcinoma

in

3)

40

4) workers

symptoms cancer.

cases,

to

had

cancer

of

lung

dyestuff

to age

and was

were

35

were

found

obtained cases

cancer

due

identified

were

in

used

men

as

factories

used

(Factory

the

from

who

initial 1955

had

5

K

process to

been

(including

1970

in

exposed

cases

to

reported

follows;

BCME

was

86.9•}34.9

death

was

46.1•}9.5yr

at

ratio

cancer

period

exposed

to

of

large

was

23.5

at

the for

exposed

13

lung

under

were

types

and

workers

BCME

BCME

3 cases

(SMR)

among

to

histological

in

exposure been

cases

The

two

BCME

Subjects

results

in

months and

(mean 7 cases

died

49.

The

lung

lung

cancer

adenocarcinoma

shortest

who

13

lung

out manufactured

Japan. U.

13.5•}6.6yr.

mortality

due

The

and

carried was

Factory

main

13

was

lung

Standardized death

The of

period

in

study

1973)).

initial

5

this

was

BCME, Prefecture,

1968

period

of

cancer

ether,

to

In

Health

age

occupational

excess

factory.

latent

the

lung

Wakayama

1960

exposure

the

between

in

from

(Ind The

of

(chloromethyl)

production

Factory BCME

study

bis

K

cases must

was was

be

those

cases in

and

BCME

from

cancer

carcinoma

Factory to

different

eight

cell

cancer 3yr

not

of

were

the

17.9

of

remaining

at

non

small

Factory

cell case.

U.

An

observed. only

23

examined

months for

and

lung

cancer

therefore perio

dically. Key

words:

occupational

lung

cancer;

bis

(chloromethyl)

ether;

carcinogen

生 ず る ア ルキ ル化 剤 であ る. BCMEは,以 I.は







職業 性 肺癌 の発癌 物 質 の一 つ と考 え られ て い る ビ ス (ク ロ ロ)メ

チ ル エ ー テ ル(以

下BCMEと

略 す)は,

酸 性 媒 体 中 で ホ ル ム ア ル デ ヒ ドと塩 素 イ オ ン が 反 応 し て

等 に 使用 され て いた が,そ の発 癌性 に よ り,わ が国では 1975年1月

か ら労働 安 全衛 生 法 に よ りそ の製造,使用等

が 禁止 された 物 質 であ る. わ が国 に おい て これ ま で, BCMEに

* 和 歌 山県 立 医科 大 学衛 生 学 教室 ** 関 西 医科 大 学公 衆 衛生 学 教 室 平 成 元年8月18日 受付 * Department of Hygiene University ** Department College Received

of for

Public

publication,

前は主として

化 学工 場 な どに おい て染 料 お よび 陰イ オ ン交換樹脂製造

よる職業性肺癌と

認 定 され た症 例 は14例 で あ る,こ の うち合計10例 が文 献 に 報告 され て い る が1∼4),そのいず れ もが和歌山県下

,

Wakayama

Health

Medical

の2工 場 か らの発 生 であ る. 今 回,こ れ ら和歌 山県下 の2工 場か らの未報告の3例

,

August

Kansai

Medical

18, 1989

も併せ た 合計13例 の肺 癌(ICDコ 学 的 検討 を行 った の で報 告す る.

ー ド162)に ついて疫

西 村 ほ か:

Bis (chloromethyl)

II.対 1,調

etherに

よる職 業 性 肺癌 の疫 学 的 検討

449

象 お よび 方 法

査対象 工場 の概 要

調 査 工 場 は,和 規 模 企 業 のK工

歌 山県下 の 主 と して染 料 を製 造す る小

場(K1お

K工 場 で は,硫

よ びK2)とU工

化 染 料,直

び中 間 物,樹 脂 を 製 造 して い た. は,オ

場 で あ る.

接 染 料 な ど 数 種 の染 料 お よ BCME曝

露 を 生 じた の

ニ ウ ム染 料 の 製 造 工 程 で あ り,そ の 期 間 は1955∼

1970年

の16年

間 で あ った.た

工 場 に お い て,

Fig. 1の

いた. 1962年 K2工

にK1工

だ し前 半 の8年

ご と く,

BCMEが

場 が 閉 鎖 さ れ て,

合 成 され て 1963年

場 の 新 し い 生 産 装 置 を用 い, BCMEは

よ うに な った. kg,硫

K1工

場 で は,パ

酸200kg,

間 はK1

か らは

購 入 され る

ラ ホ ル ム ア ル デ ヒ ド6O

ク ロ ロ ス ル ホ ン 酸250kgを1回

仕 込 量 と し て 使 用 し,次



式 の 化 学 反 応 に よ っ てBCME

が合 成 さ れ て い た. 2HCHO+2H++2Cl-→ClCH2-O-CH2Cl+H2O こ の工 程 で,原

料 を反 応釜 の蓋 を 少 し開 い て小 さい水

杓 で小 量 ず つ 投 入 す る 際,ま 終 わ って,さ

え て排 出槽 に 送 る 時,な す る際 等 にBCMEは の工 程,フ

た,す

ら に 攪 拌 す る 時,排

ベ ての 原材 料 を加 え 気 口 を 閉 じ空 気 圧 を 加

らびに排 出 槽 の下 層廃 液 を排 出 気 中 に 飛 散 し た と考 え ら れ る.次

タ ロシア ニン ブル ーの ク ロロ メチ ル化 に よ り

秤 量 時 にBCMEが

気 中 に 拡 散 し,ま

た 反応 釜 か らの排

出時 に は過 剰 に 加 え て未 反 応 で 残 存 し たBCMEが に拡 散 した もの と考 え られ る. 1963年 BCMEを

用 い て い た の で,前

気中

以 降 は,購 入 し た

半 期 よ りはBCME曝

露は

少 な か った と推 測 さ れ る. U工 場 で は, 1960年

の最 初 の 工 程 で は,ク

酸(66゚ボ

ー メ)300kgを

ま で の9年

らに 食 塩10kgを

約30分

約120分

ロ ロ メチ ル 化 が 完 了 す る .こ

かけて 投 入

か け て 投 入 す る と,ク

成 したBCMEが

洗)に

に 同様 の操

の 作 業 に お い て,マ

が 吸 入す る機 会 が あ った .ま 出 し,濾 過,水

た,反

漏 出 し て,作

ンホ ー 業者

応 終 了 後 の 工 程(釜

お い て も未 反 応 のBCMEに

曝露 の可 能 性 が 考 え られ る.工 は備 え られ て い た が,ほ

1.

Flowsheet

Drying and Blending and Water-washing

of dyestuff

production.

倒 れ た者 もあ った との ことであ る. U工 場 で は, 1960年 の約1年 間 は試 験生 産 の段 階 であ った が, 1961年 ころ に

場 に は,簡

よる

とん ど使 用 さ れ て お らず ,呼

.器 に強 い刺 激 を 受 け る こ と も あ り,現

2.調

査 対象 者お よ び検 討資 料



場 で ガ スを 吸 って

取 り扱わ れ て

いた 期 間に 勤務 してい た者 は, K工 場81名,

U工 場50

名 であ る.調 査 対 象者 は,工 場 側 で作成 された 全従 業 員 の業 務分 類 別名 簿 で,作 業 内容 にか かわ らず 同工 場 内 で 勤 務 し, BCMEに 工 場35名,

曝露 され た こ とが記載 され てい る者K

U工 場35名

であ る.

1989年 現在,以 上 の70名 亡13例,肺

の者17名,健

中, BCMEに

癌 以外 に よる死亡6例(K工

肝 硬 変1例,肺

結核1例,事

場:不 詳1例),生

易 防毒 マ ス ク

まで増 産 が続

い ていた.

K工 場 お よびU工 場 にお いて, BCMEが

いで パ ラ

か か っ て 投 入 す る.こ

生 成 し て い る.次

フ タ ロ シ ア ニ ン15kgを

ル を 開 くた び に ,生

製 造 して い

ンホ ール の蓋 を少 し開 い

て小 さい 水 杓 で 小 量 ず つ 約90分

し,さ

Fig. 1

ロ ロス ル ホ ン酸100kg,硫

ホ ル ム ア ル デ ヒ ド28kgを,マ

作 で,銅

間,

ポ ン プ で 仕 込 む.次

の反 応 に よ っ てBCMEが

Fig.

Filtration, Filtration

小規 模生 産 を開 始 し, 1965年 か ら1968年

か ら1968年

の ご と くに キ ュ プ ロ フ ァ ー ス トブ ル ーRを た.そ

- Factory K Factory U * Discharge, ** Discharge,

----

ク ロ ロ メ チ ル フ タ ロ シ ア ニ ドを 作 る 工 程 で も, BCMEの

故 死1例,不

よる肺 癌 死 場:肝 癌1名, 詳1例,

存 が確 認 され てい る者23名(在

康 管理 手 帳保持 者6名),残

U工 職中

りの28名 は,

追跡 で きて い ない. 前 記名 簿 か ら,性,生

年 月 日,曝 露 開始 年齢,曝 露 期

間 等 の情 報 を得 た. BCMEの

作 業環 境 気中濃 度 に 関 し

450

産業 医学

32巻,

Jpn

J Ind

Health,

Vol. 32 , 1990

Table 1. BCME exposure date, latent period, time between onset of cancer and death, smoking index (Brinkman) and histological type in 13 cases of lung cancer.

Case Large:

1•`8:

Factory

large

K,

cell

Case

9•`13:

Factory

U,

Adeno:

て は,測 定 は行 われ て いな い. BCME取

扱 い作 業 では,

作 業 分担 の入 れ替 えが あ った こと,臨 時 にBCME関



の作業 に 従事 す る こ とが あ った こ と,他 種染 料 の濾 過 や 洗 浄 の工 程 もBCMEと

同 一釜 を使 用 して いた ことな ど

か ら,個 々 の対 象者 の曝 露量 の相対 的 多 寡 を推 定す る こ と もで きなか った. 肺 癌 発症13例

adenocarcinoma,

Small:

small

cell

carcinoma,

carcinoma.

間 は, 4.4∼26.9年(10年 15∼19年2例, っ た.

に至 る検査 内 容,肺 癌 組 織型)は,閲

覧 可能 で あ った 診

と最 も 多 く, 30歳

症 状(不 明 の1例

熱,体

面 浮 腫 が 各1例

の も の3例(case

料に よ った.

れ た.

的検 討 を行 った. III.結



に示 した とお りであ る.曝 露 期 間 は平 均86.9か

1

月(23

4, 7,

9,

2,

4, 7,

10,

4,

9,

12)に

細 胞 癌5例,腺

た,曝

11,

12)が

12,

13)で

期 健 康 診 断 で 発見 さ

あ り,う

肺 門 型 で あ っ た.ま

つ い て は,初

1, 2,

ち5例(case た,

3例(case

発 症 状 が 発 現 す る3∼8か

組 織 型 が わ か っ た8例(case

伏期 間)は3.4∼23.0年,平

20.2か 月で あ った.ま

11)は,定



た.

12,

均13.5年

10,

痛,倦 怠

た,「 自覚 症 状 な し」

発 癌 部 位 が 記 載 さ れ て い た も の は10例(case 3,

∼149か 月) ,曝 露 開 始か ら初 発症 状 発現 まで の期 間(潜 であ った.初 発

症状 発 現 か ら死 亡 まで の期 間 は, 2.0∼46.5か 月,平

吸 困難,胸

前 の 胸 部 レ ン ト ゲ ン 検 査 で は 異 常 を 指 摘 され て い なか っ

発見 された 肺癌 症 例 はK工 場8例 とU工 場5例 で,こ れ ら13例 の曝 露期 間,経 過 等 につ い て の情 報 はTable

い で 痰 が4例(33.3

見 られ た.ま

3, 6,

であ

で あ り,

般 の 肺 癌 の 場 合 と差 はな

占 め,次

重 減 少 が 各2例,呼

療録,既 に 報 告 された 資 料,お よび労働 基準 監 督署 の資 以 上 の資 料 を も とに肺 癌症 例 につ い て肺 癌 死亡 の疫学

10∼14年3例, 均15.1±6.8年

代 も3例 見 られ た.初 発

を 除 く)は,一

が6例(50.0%)を

%),発 感,顔

未 満4例, 以 上4例),平

の 死 亡 年 齢 の 平 均 は, 46.1±9.5歳

40歳 代 が7例

く,咳

に つ いて の情 報(初 発 症状,確 定 診 断

13例

20年



露 開 始か ら死亡 まで の期

ち1例

13)を

は,

1,

3, 6, 7, 10, 11,

日本 肺 癌 学 会 分 類 に 基 づ い て 分 類 す ると,小 癌3例,大

細 胞 癌1例

で あ った.こ の う

7か 月 を 隔 て た 小 細 胞 癌 と 腺 癌 との異 時性重

複 癌 で あ った.

西 村 ほ か:

Bis (chloromethyl)

etherに

BCME曝

露 者 の 過 剰 死 亡 に つ い て,工

よ る標 準 化 死 亡 比 で 検 討 し た.な

よる職 業 性 肺癌 の疫 学 的 検討

場 別 に人 年 法 に

お,人

の 曝露 開 始 年 か ら死 亡 ま た は1989年

年 計 画 は,各

451

Table

2.

SMR

of

lung

cancer

cases.



ま で の年数 和 とし

た. Table

2は,

K,

U両 工 場 のBCME曝

露 者 中 の肺癌

死 亡 と,同 時 期 の わ が 国 男 子 の そ れ と を,年 て比 較 した も の で あ る.観 工 場 でBCMEに

曝 露 さ れ 始 め た 年(K工

月1日,

1960年1月1日)か

U工 場:

31日 まで と した.期

齢 を補 正 し

察 期 間 は 対 象 者 がKま 場:

た はU

1955年1

ら, 1989年12月

待 死 亡 数 は,こ

の観察 期 間 の各年 次

SMR:

standardized

mortality

ratio.

に おけ る年 齢 階 級 別 観 察 人 年 に 同 年 次 の 全 国 男 子 の 年 齢 階級 別 肺 癌 死 亡 率 を 乗 じて 得 ら れ た.な

お,退

職 者 で追

跡不 能 で あ っ た28名

は,生

計算 した.そ

K工 場 に お け る期 待 値 は, 0.34,

の 結 果,

存 し て い る も の と見 な し て

標 準 化 死 亡 比(SMR)は23.5で で のそ れ ら は, 0.28お

あ っ た.一

よ び17.9で

方,

U工



造 お よび取 扱い 過程 に おけ るBCME曝

濃 度曝 露に よる肺

癌 発症 であ る ことの差 で あ る と考 え られ る. 一 方,本 報告 症例 で は,曝 露 開始 か ら死亡 に至 る期 間 が20年

あ った.

露 に よる肺癌 発

症 に対 し,本 報 告症例 は, BCME高

以上 の もの も4例 存 在す る こと,ま た, BCME

の製 造.使 用 等 が 中止 され てか ら10年 IV.考 1.肺

癌 発 症13例

BCME曝



の 曝 露 期 間,発

症 年 齢,潜

伏 期間

露 量 と肺 癌 の 発 生 率 に 関 し て は,従 来 の 報 告

で は正 の相 関 を 示 す と さ れ て い る5).今

回 の 検 討 で は,

曝露 量 の算 定 が で きず 明 確 に し 得 な い.仮

に 曝露 期 間 を

曝 露量 の 指 標 と見 な し て 検 討 す る と,明 えな いが, BCME取

U工 場 に お い て は,肺

らか な こ と は 言

癌 症 例5例

のす べ てが

扱 い 期 間 の 全 期 に わ た る 曝 露 を 受 け て い た.

また, K工 場 で もBCMEを

直接 合成 して いた前 半期 に

曝 露歴 を有 す る も の に 肺 癌 発 生 が 多 く,肺 5例 を 占 め た.初

期 の 開 発 実 験,中

癌 症 例8例



間 実験 段 階 で の開放

的な容器等を用 いた 作業環 境下 で の高 濃度 曝 露 が推 測 さ れ る.

性 が あ る もの と考 え られ る. 2.BCMEに

よ る肺 癌の 過 剰死亡

肺癌 死 亡 に関す るSMRの

算 出 にあた っては,対 象 者

70名 の うち追 跡 で きなか った28名

若 く,多

よ る肺 癌 の 発 症 年 齢 は 一 般 の 肺 癌 に 比 し て くが55歳

以 下 で30歳

代 の 発 生 も多 い と す る 報

は観 察期 間中 は生 存

してい る と仮定 して計算 した.す なわ ち, BCMEに



る肺癌 死 亡 を最 も小 さ く見積 って計 算 した こ とに な る. 今 回の 検討 で は, SMRは2工 高 く, BCME曝

場 と も20前

後 と非常 に

露者 の肺 癌 に よる過 剰死 亡 を支持 す る結

果 であ った. 3.BCMEに BCMEに

よ る肺癌 の組 織型 よる癌 はほ ぼ呼 吸器 系 に限 られ,大 部 分 は肺

癌 であ る.組 織 型 は ラ ッ トのBCME吸

BCMEに

余 りに過 ぎない

ことを考 え合わせ る と,今 後な お 同様 の肺癌 発生 の可能

上 皮癌 を生 じた が9),ヒ

入実 験 では扁 平

トで の報告 は小 細胞 癌が 大 多数

を 占め てい る. Weissら10)は,曝

露 量 を算 出 し,中 等 度

告 が多 い が5∼7),今 回 の 検 討 で も 同 様 の 結 果 で あ り,

11

以上 のBCME曝

例 が50歳

13

を生 じた が,軽 度曝 露者 で は腺 癌 が 日立 ち,軽 度 曝露 者

亡 年 齢 の平均 も

の小 細胞 癌 発生 率 は対 照群 と同 じであ った と報告 してい

以 下 の 発 症 で,う

例 の平 均 発 症 年 齢 は44.2歳 46.1歳

ち30歳

代 が3例

で あ り,死

あ っ た.

と若 年 者 の 死 亡 が 目立 っ た(Table

1).

職業 癌 の 特 徴 の 一 つ に そ の 潜 伏 期 間 が 非 常 に 長 い こ と が あ げ られ, BCMEの

場 合 も 潜 伏 期 間 は8年

と報告 さ れ て い る6).本 13.5±6.6年

報 告 症 例 で も,平

か ら26年

均 潜伏 期 間 が

と比 較 的 長 か った .

また, Weiss8)は, 間 は,全 例 が10年 と して い る が,本

BCME曝

に ピ ー ク を もつ

報 告 症 例 で は 明 らか な ピ ー ク は 見 ら れ

ず, 10年 未 満 の 死 亡 が4例

見 ら れ た .こ

の うち,組 織 型 が明 らか な8例 に は,

喀痰 細胞 診,外 科 的手 術等 組織 の採 取法 の違 いは あ るも の の,扁 平 上皮 癌 が1例 もな く, 5例 が小細 胞癌 で あ っ た.そ の うち1例(case

10)は,肺

門部 に近 い左右 の一

次気 管 支 に見 られ た同 時性 の多 発性 小細 胞癌 であ り,病

露 開 始 か ら死 亡 ま で の 期

以 上 で あ り15∼19年

る.今 回 の13例

露 を 受け た もの はほ ぼ全例 が小 細胞 癌

れ は, Weissら

の調査 対 象 が ク ロ ロ メ チ ル メ チ ル エ ー テ ル(CMME)製

理所 見 で も気道 の 粘膜 上皮 に広 汎 かつ 高度 の扁 平上 皮 化 生, basal cell hyperplasia,お よびatypical cellhyper plasiaが 認 め られ, 示 唆 され る.

BCMEの

発 癌性,異 型 性 の強 さが

452

4.

産 業 医学

BCME曝

BCMEに

露 者 の健 康管 理

い て 検 討 し,以

係 わ る健 康 診 断 と し て 特定 化学 物 質等 障 害

1)肺

32巻,

あ り,平

部 レン トゲン検査 が 義 務 づ け られ てい るが,今 回 の13

の 平 均 は46.1±9.5歳

中5例 が 肺 門型 で

2)初

3∼8か

こ の うち5例

なわ ち, BCMEに

よる肺癌 の発

3)肺

月で 亡 年齢

般 の 肺 癌 の 場 合 と差 は認

が 小 細 胞 癌 で あ り,

で あ った.

3例 が 腺 癌(う

ち1例

1例 が 大 細 胞 癌 で あ っ た.

癌 死 亡 に 関 す る 標 準 化 死 亡 比(SMR)はK工

23.5,

の み で は,早 期 発見 されに くい可 能性 も充分 に 考 え られ

過 剰 死 亡 が 認 め ら れ た.

U工

4)

で あ った.死

織 型 の 明 ら か な 者 は8例

こ とを考 えれ ば,現 在 行わ れ て い る胸 部 レ ン トゲ ン検 査

る.し た が って,早 期発 見,早 期 治療 のた めに は特 化 則

86.9±34.9か

で あ った.

は 小 細 胞 癌 と の 重 複 癌),

生 部位 は比 較 的 太 い気 管支,い わ ゆ る肺 門部 肺 癌 が多 い

, Vol. 32, 1990

の 曝 露 期 間 は,

発 症 状 に つ い て は,一

め られ な か っ た.組

指摘 され てい な い.す

Health

均 潜 伏 期 間 は13.5±6.6年

あ り,そ の うち肺 門型2例 を含 む3例 に つ いて は,発 症 月前 の胸 部 レ ン トゲ ン検 査 で は明 らか な異 常 を

J Ind

下 の 結 果 を 得 た.

癌 発 症13例

予 防規 則(特 化 則)で は,定 期 健 康 診断 項 目と して,胸

例 で発 癌部 位 が記 載 され て いた10例

Jpn

場17,9

BCMEの

,であ り, BCME曝



露 者 の 肺 癌 に よる

曝 露 期 間 が1年11か

月 の 短 期 曝 露で肺

で 医師 が必 要 と認 め た場 合 に実 施す る喀痰 細 胞 診や,気

癌 発 症 を み た 者 が1例

管支 鏡 検査 を 現在 の定期 健 康診 断 に積 極 的 に導 入す る必

健 康 管 理 制 度 を さ ら に 充 実 強 化 す る 必 要 が あ る と思 われ

要 が あ る と思 わ れ る.

る.

BCME曝

あ り,現 在 の 健 康 管 理 手 帳 に よる

露 者 の健 康 管理 の実 態 を見 る と, 1989年 現

在,両 工場 に お け るBCME健 労働 者 数 が17名

康 診 断実 施状 況 は,対 象

稿 を 終 え るに あた り,本 研 究に つ いて 多 くのご助言 をいただ いた.産 業 医学 振 興 財 団産 業 医学 情 報室長 坂 部弘之先生に厚 く

で あ り,ま た,健 康 管 理手 帳(BCME

お よび その塩 を 製造 し,ま た は取 り扱 う業務 に3年 以 上

御 礼 申 し上 げ ます.

従 事 した 経 験 を有す る者 に対 し離 職 の 際等 に交 付す る も の)保持 者 は6名 のみ で あ る.し か し,今回 の肺 癌 発症 例 の最 小曝 露期 間 が1年11か 曝 露期 間 が1年11か

月 で あ った こ とを考 え れば,

月以 上 の, high risk groupに

本 論文 の要 旨 は,昭 和63年4月





す る と考 え られ る労 働 者 は11名 存 在す る.し た が って, 健 康管 理手 帳 の交 付 条件 で あ るBCME業

務 従 事年 数3

1)

よる職 業性 肺癌 の 発 生 は,今 回報 告 した 和

歌 山 県 の2工 場 に おけ る13例 年1例(1985年)の

のほ か に,大 阪府 下 で近

発生 が 知 られ て い る11).先 に述 ベ た 余 りに過



造 また は取 り扱 った こ との あ る工場 お よびBCME曝



歴 のあ る労働 者 を的 確 に把握 し,肺 癌 健 診 を基 本 と した upが 必 要 で あ る と思 わ れ る. 語

これ まで に和 歌 山 県下 に お い て, BCMEに 肺癌 と認定 された 症例 は,合 計13例

よる職業 性

であ り,そ の うち

8例 がK工 場, 5例 がU工 場 か らの発 生 で あ った. Kお よびU工 場 で のBCME取 ∼1970年 の16年

Cell

Cancerの

献 中 陸 朗,ほ 一 例.肺

か.気

管 成 形 術 を行

癌1970;

10:

181-

Sakabe H. Lung cancer due to exposure to bis (chloromethyl) ether. Ind Health 1973; 11: 145 -148.

3)



一 郎.化

学 物 質 と が ん.日

災 害 医 誌1977;

25:

644-650.

憂慮 され る状 況 にあ る.し た が って過 去 にBCMEを

V.結

原 義 人,畠

2)

4)

扱 い期 間は,そ れ ぞ れ1955∼

間 お よび1960∼1968年

の9年 間 であ

り,こ れ らの期 間 に勤 務 してい たBCME曝

露 経験 者 は

35名 ず つ合 計70名 であ った.今 回,肺 癌 発 症13例 につ

藤 尾

彰,北

methyl)

ぎない ことを考 え る と,今 後 も新 た な患 者 の発 生 が なお

厳 重 なfollow

目本産業衛生学会

185.

よ うに,一 般 に職 業 性肺 癌 は潜 伏期 が長 く,か つBCME の製 造 お よ び使用 が 禁止 され てか らまだ10年

伊 藤 元 彦,松 っ たOat

年 以上 の現行 制 度 を再 検討 す る必 要 が あ る と思 わ れ る. BCMEに

の第61回

総 会(金 沢)に お い て発 表 した.

疾 会 誌1986;

5)

野 司 久,松

ether被 24:

井 輝 夫,ほ

か.

Bis

暴 露 者 に 発 生 し た 肺 癌 の2症

(chloro 例.日



79-82.

Weiss W, IBoucot KR. The respiratory effects of chloromethyl methyl ether. JAMA 1975; 234: 1139-1142. 6) Lemen RA, Johnson WM, Wagoner JK, et al. Cytologic observations and cancer incidence fol lowing exposure to BCME. Ann NY Acad Sci 1976; 271: 71-80. 7) Weiss W. The cigarette factor in lung cancer due to chloromethyl ethers. J Occup Med 1980; 22: 527-529. 8) Weiss W. Epidemic curve of respiratory cancer due to chloromethyl ethers. JNCI 1982; 69: 1265 -1270. 9) Laskin S, Kuschner M, Drew RT, et al. Tumors of the respiratory tract induced by inhalation of his (chloromethyl) ether. Arch Environ Health 1971; 23: 135-136. 10) Weiss W, Moser RL. Auerbach O. Lung can-

西 村 ほ か:

Bis (chloromethyl)

etherに

cer in chloromethyl ether Dis 1979; 120: 1031-1037.

著 者 へ の 連 絡 先:西 requests

to

よる職 業 性 肺癌 の疫 学 的 検 討

workers.



Department

弘,

Am

〒640  of

Rev Resp

和 歌 山 市 九 番 丁27 

Hygiene, yama,

11)

Wakayama 640

Japan

453

厚 生統 計 協会 編 国民 衛生 の動 向 ・厚 生 の指 標(臨 時 増 刊). 1989; 36: 370.

和 歌 山 県 立 医 科 大 学 衛 生 学 教 室Reprint Medical

(K.

Nishimura)

College,

27-Kyubancho,

Waka

[An epidemiological study of lung cancer among workers exposed to bis(chloromethyl)ether].

An epidemiological study of lung cancer was carried out in two dyestuff factories (Factory K and U), where bis (chloromethyl) ether, BCME, was manufac...
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