1992

95 ― 1398

動揺病の発症因子 に関す る臨床的研究 ―

各種臨床検査による発症因子の検討 ―

奈良 県立 医科 大学 耳鼻 咽喉 科学 教室(主 任:松 永 藤

CLINICAL

STUDY

- CLINICAL

ON THE

田

BASED

This report clinical

deals with factors

examinations

susceptibility

to motion

The following

sickness

Nara

which trigger

applied to motion were obtaind

1. CV R-R(coefficient

of variation

the occasional

between

motion

the frequent

laterality

cases.

sickness

fluctuation

of R-R intervals

motion

sickness

5. Among clinical R, the caloric results

test,the

for clinical

clinical

on EGG)in the frequent group.

data and

group.

motion

This result

group.

On the other hand,

suggests a

motion

the frequent

sickness

and the occasional

and group

group. group showed

higher values

On the other hand, there was a significant

group

sickness

group showed lower values of duration

motion

sickness

difference

group in terms

of

values. to optokinetic

of CV R-R values after optokinetic

group showed deppression designed

suppression

stimuli, load.

the frequent

susceptibility

test and OKP testing

motion

On the other hand, the

of CV R-R values after

to diagnose

the same load.

to motion

can produce

習 者 と 非 常 習 者,CVR-R,

sickness,

sufficiently

A95

words: 温 度 刺 激 検 査,Visual

CV Raccurate

え ば車 酔 い,空

― 1398

― 25581

supPression test

い ら れ て い る.こ

は じ め に い わ ゆ る乗 物 酔 い,例

has focused on the

between

investigation.

動 揺 病,常

Key

sickness

of CV R-R in response

examinations visual

Nara

The author

motion sickness

test, the frequent

sickness

group showed elavation

occasional

Kashihara,

Relationships

in eye speed than the occasional

motion sickness

of visual suppression

4. In testing

College,

:

motion

of laterality

3. With the visual suppression than the occasional

M.D.

Medical

2. In caloric testing with ENG, the motion sickness

higher values

SICKNESS FACTORS-

motion sickness.

sickness

group showed higher values than in the occasional hyperfunction of the vagus nerve.

showed

MOTION

TRIGGER

were investigated.

results

eye speed than

OF ON

FUJITA,

of Otorhinolaryngology,

喬)

哉

MECHANISM

EXAMINATION

NOBUYA

Department

信

酔 い,船

酔い

な どの 一 連 の 乗 物 酔 い は,動 揺 病 と い う用 語 が 広 く用

の 動 揺 病 は 乗 物 な どの 動 揺 に さ ら さ

れ た 場 合 に 発 症 し,悪

心,顔

の 症 状 を呈 す る.筆 者 は,先

面 蒼 白,冷

汗,嘔

吐など

に 動 揺 病 の 発 症 因 子(背

日耳鼻

藤 田=動 揺 病 の臨床 的研 究

景 因 子,直

接 因 子)に

95

―1399

つ き ア ン ケ ー ト調 査 を用 い て 検

討 を加 え,以 下 の 結 論 を 得 だ)24). 1.

年 齢 群 別 に み る と,小

者 群(以

前 乗 物 に酔 っ た こ とが あ り,現 在 も乗 物 酔 い

が 起 こ る 群)は あ るが,現 群(今

・中 ・高 校 生 群 で は 常 習

非 常 習 者 群(以

前 乗 物 に 酔 っ た こ とが

在 は 乗 物 酔 い が 起 こ ら な い 群)や

非既 往 者

ま で に全 く乗 物 酔 い の 経 験 の な い 群)と

背 景 因 子 や 直 接 因 子 が 有 意 に 影 響 した.し 群 で は,常

習 者 群 と他 の2群

比べて

か し大 学 生

との 間 に は 背 景 因 子,直

接 因 子 と もに 有 意 差 は 認 め な か っ た. 2.

常 習 者 群 の 中 で は,背

景 因 子 で 小 ・中 ・高 校 生

群 は大 学 生 群 と比 べ て 高 い 頻 度 を 示 した が,直

接 因子

で は大 学 生 群 に高 い頻 度 を示 す 項 目 が あ った. 注)背 景 因 子:個

人 の 素 因 な ど を 含 め た 因 子 の こ とで,

家 庭 環 境,生 活 環 境,生 直 接 因 子:発 で,加

速 度 的,化

心 理 的,の

活 習 慣,体

質 的,の 各 因 子 .

症 時 直接 個人 に影 響 す る因 子 の こと 学 的,物

理 的,身

体 的,視

覚 的,

図1

動 揺 病 の 発 症 因 子(多

元 入 力 説:仮

称)

各 因 子.

この よ う に上 記 の ア ン ケ ー ト調 査 か ら動 揺 病 の 発 症 因子 が あ る程 度 解 明 さ れ た. 動 揺 病 の発 症 は,上

述 し た 自律 神 経 症 状 が 主 な も の

で あ り こ れ は 前 庭 ― 自律 神 経 反 射 に よ る もの と考 え ら れ て い る.つ

ま り乗 物 の 動 揺 が 内 耳 の 前 庭 迷 路 を刺 激

し,自 律 神 経 の 働 き に 異 常 を き た し た 結 果,動 発 症 す る と考 え られ て き た(前 しか し,能 動 的 な 乗 馬,他

揺病 が

庭 迷 路 過 剰 刺 激 説).

動 的 な振子 様 回転 刺激 の

場合 動揺 が い くら強 くな っ て も酔 い は起 こ りに くい が,例 え ばCoriolis加

速 度 の よ うな複合 した加速 度刺

激 の場 舎 はそ れ ぞれ が 非 常 に小 さな加 速 度 で あ っ て

い ず れ の 説 に せ よ どの よ う な もの が 発 症 因 子 に な る か,ま

た 発 症 因 子 の 種 類 と酔 い との 関 係 に つ い て検 討

す る こ と は 大 切 で そ の よ う な報 告 は ほ と ん ど な い. 今 回 筆 者 は,上

記 ア ン ケ ー ト調 査 か ら得 られ た 動 揺

病 の 発 症 因 子 に 関 与 す る諸 因 子 と酔 い と の 関 係 を各 種 の 臨 床 検 査 の 面 よ り究 明 し,発 症 因 子 よ り動 揺 病 の 易 罹 患 性 を 検 討 し得 られ た 知 見 を報 告 す る。

も,易 刺 激 性 は 高 く,動 揺 病 症 状 が 容 易 に 惹 起 さ れ る. そ こ で 一 般 的 に は,前

庭 入 力 以 外 に視 覚 入 力 お よ び 自

己 受 容 器 か らの 体 性 感 覚 入 力 が,脳

幹 ・小 脳 ・大 脳 な

対 象 と方 法 発 症 因 子 の う ち,体 質 的 因 子 と して 安 静 臥 位,急

どで 統 合 の 加 重 また は 不 調 和 が 起 こ り,さ ら に情 緒 的,

立 位,立 位10分 時,Aschner負

荷 時 のCVR-R(心

心理 的,身

R-R間

拍,自

体 的 諸 因 子 な どが 発 症 に 加 わ る,い

多元 入 力 説(仮 また,飛

称)で

行 機,自

わゆる

隔 変 動 係 数),血

と し て の 呼 吸,GSR(皮

説 明 され て い る(図1).

動車 の シ ミーレー ター酔 い や シネ

圧,脈

電図

律神 経機 能検 査

膚 電 気 抵 抗),ECG,脈

波,前

庭 迷 路 機 能 反 応 と して の 温 度 刺 激 検 査,Visualsup-

ラ マ 酔 い の 現 象 を も説 明 し う る 感 覚 混 乱 説(sensory

pression

conflict theory)が

の 変 動 を 以 下 の 対 象 と方 法 で 行 い,ア

最 近 注 目 を浴 び て い る2).こ れ は,

速

test3),視 覚 的 因 子 と して 視 刺 激 時 のCVR-R ン ケ ー トに よ り

我 々 は 日 常 生 活 か ら得 られ る感 覚 情 報 パ タ ー ン を 中 枢

そ れ ぞ れ の 項 目 の 対 象 群 を 常 習 者 群 と非 常 習 者 群 に 分

神経 内 に 蓄 え て お り環 境 と適 合 し て い る.し

け,臨 床 検 査 よ り動 揺 病 の 易 罹 患 性 を 検 討 し た.有

意

物 に 乗 る な ど し て新 しい 運 動 環 境 に お か れ た 場 合,中

差 検 定 は,各

常

枢 神 経 内 で 混 乱 が 起 き る と い う説 で あ る.

習 者 群 間 でWilcoxonの

こ の よ うに,動

か し,乗

揺病 の発 症 機序 には前庭 迷 路過 剰刺

激 説,多 元 入 力 説,感 覚 混 乱 説 と変 遷 し て き て い る が,

1.

臨 床 検 査 結 果 に つ い て,常 習 者 群,非 符 号 順 位 和 検 定 を 用 い た.

常 習 者 群 と非 常 習 群 のCVR-R,血

び 自 律 神 経 機 能 検 査 と酔 い の 関 係

圧,脈 拍 お よ

対 象:商

1992

藤 田=動 揺 病 の臨床 的 研究

95 ― 1400

船 大 学 生24名 と一 般 高 校 生30名 計54名(常

者 群37名,非

習

常 習 者 群17名)

方 法:安

静 臥 位,急 速 立 位,立 位10分 後 の状 態 で,CV

R-R,血

圧,脈

拍 を 測 定 し た.CVR-Rは

録 し,そ の 信 号 をMEC社

製R-100に

隔 か ら そ の 平 均 値(m),標

準 偏 差(δ)及

CVR-R(CVR-R=δ/m×100%)を

び変動 係数

求 め た.ま

れ ぞ れ の 項 屋 に つ い てAschner ぞ れ の 項 目 も測 定 した.さ て 呼 吸,GSR,ECG,脈

心 電 図 を記

導 入 してR-R間

たそ

test負 荷 前 後 の そ れ

らに 自律 神 経 機 能 検 査 と し

波 の 立 位 負 荷 時 の 変 動 も調 べ

た. 2.

常 習 者 群 と非 常 習 者 群 の 温 度 刺 激 検 査 と酔 い の

関係 対 象:商

船 大 学 生38名(常

習 者 群18名,非

常 習 者 群20

習 老 群11名,非

常 習 者 群12

図2

OKP検

査 を用 い た視 刺激 方法

名) 動 揺 病 患 老23名(常 名) 方 法:50ml,15秒

置 下ENG記

で 検 討 し た.視 刺 激 負 荷 前,負 荷 中 と負 荷 後 のCVR-

間 注 水 法 を 用 い,20℃,30℃,44℃

で 温 度 刺 激 検 査 を行 っ た.眼 振 観 察 は,Frenzel眼 録 で 行 っ た.30℃,44℃

鏡装

R値

の 変 動 を測 定 した.

にお ける眼振 持続

結

時 間 と各 温 度 の 最 大 緩 徐 相 の 眼 球 速 度 を測 定 し た.さ ら に,眼

振 持 続 時 間 と隈 球 速 度 の 平 均 値 と左 右 差 を求

め た. 3.

安 静 臥 位,急

荷 時 のCVR-R,血 常 習 者 群 と非 常 習 者 群 のVisual

suppression

testに お け る固 視 抑 舗 率 と酔 い の 関 係 対 象:商

船 大 学 生30名(常

習 老 群8名,非

常 習 者 群22

習 者 群11名,非

常 習 者 群12

名) 方 法:竹

森 の 方 法 に 準 じて 行 っ た3).20℃ の 水20mlを

20秒 間 で 注 入 し眼 振 を解 発 す る.こ れ を3-5分 隔 を お き 左 右 の 耳 に 対 して 施 行 した.Visual siontestの

の間 suppres-

固 視 抑 制 率 の 平 均 値 と左 右 差 を求 め た.

位10分 負 荷 後 に お い て,常 習 者 群 は 変

て は,非

常 習 者 群 は 負 荷 前 よ り低 値 を

意 差 は な か っ た(表1).最

高血 圧 につい

常 習 者 群 が 常 習 者 群 よ り高 値 を示 し た が 仰 臥

位 を 除 い て 有 意 差 は な か っ た.最

低 血 圧 に つ い て は一

定 の 傾 向 は 認 め な か っ た(表2).脈

拍 に つ い て は,常

習 者 群 が 急 速 立 位 や 立 位10分 の 負 荷 に よ りや や 頻 拍 に な る傾 向 を 認 め た(表3).呼 は,そ

吸,GSR,ECG,脈

波で

れ ぞ れ 立 位 負 荷 時 に 記 録 曲 線 の 変 動 の 少 な い順

に0,0.5,1.0の

常 習 者 群 と非 常 習 者 群 の 視 刺 激 時 のCVR-R値

位10分 時,Aschner負

圧,脈 拍 と立 位 負荷 時 の 自律 神 経 機

化 を認 め な か っ た が,非 示 し た が,有

動 揺 病 患 者23名(常

果

速 立 位,立

能 検 査(表1,表2,表3,図3,表4) CVR-Rは,立

名)

4.

1.

ス コ ア をつ け て 常 習 者 群 と非 常 習 者 群

の 変 動 と酔 い の 関 係

を 比 較 し た(図3).常

対 象:動

荷 に お ける変動 が大 きか ったが 両者 に有意 差 はな かっ

揺 病 常 習 者 患 者13例

た(表4).

動 揺 病 非 常 習 者 患 者8例

2.

対 照 群 と し て健 康 成 人6例 方 法:OKP

testに 用 い られ る視 刺 激 を 等 加 速 減 速 法

で 被 検 者 に 負 荷 し た(図2),ド

習 者 群 は 非 常 習 者 群 よ り立 位 負

ラム を1°/sec2の

定角

温 度 刺 激 検 査(表5,表6,表7,表8,表9)

ENGに

よ る 眼 振 持 続 時 間 で は ,商

(R,L),44℃(R,L)と

船 大 群 は,30℃

も に 常 習 者 群 の 方 が 非 常 習 者群

加 速 度 で 回 転 さ せ,50秒 後 に50°/secの 定 角 速 度 で3分

よ り低 値 を 示 した が 有 意 差 は な か っ た .左 右 差 で は一

問 視 刺 激 負 荷 を 加 え,そ

定 の 傾 向 は 認 め な か っ た(表5).動

の 後-1°/sec2の

で漸 減 す る 方 法 を用 い た.そ

定 角加速 度

の 際 の 視 覚 情 報 と前 庭 情

報 の 混 乱 に 惹 起 され る 自 律 神 経 機 能 の 異 常 をCVR-R

揺 病 患 者 群 も同様

の 傾 向 で あ っ た. 眼 球 速 度 で 比 較 す る と,商 船 大 群 は,20℃(R,L),

日耳鼻

藤 田=動 揺 病 の臨床 的研 究

表1

ASCHNER,急

速 立 位,立

表2

ASCHNER,急

速 立 位,立

表3

ASCHNER,急

速 立 位,立

図3

位10分 負 荷 後 のCVR-Rの

95 ― 1401

変 動(mean±SD:%)

位10分 負 荷 後 の 血 圧 の 変 動(mean±SD:mmHG)

位10分 負 荷 後 の 脈 拍 の 変 動(mean±SD:/min)

呼 吸,GSR,ECG,脈 荷 に よる変動

波 の立位 負

1992

藤田=動 揺 病 の臨 床的 研究

95 ― 1402

30℃(R,L),44QC(R,L)す

べ て常 習者 群 は非常 習者群

商 船 大 群 は,Visual

よ り低 値 を 示 した が 有 意 差 は 認 め な か っ た(表6).左

の 平 均 で,常

右 差 で は,20℃,30℃

た が,両

ともに常習 者群 は非 常習 者群 よ

suppressioR

群 に 明 らか な 差 は 認 め な か っ た.同

り高 値 を 示 した が 有 意 差 は 認 め な か っ た.し か し,44℃

抑 制 率 の 左 右 差 で は,常

で は 常 習 者 群 の 方 が 非 常 習 者 群 よ り有 意 に 高 値 を示 し

意 に 高 値 を示 し た(P