1488

Ganciclovirと

高 力 価 グ ロ ブ リ ン に よ り治 癒 し た

サ イ ト メ ガ ロ ウ イ ル ス 肺 炎 の1例 大分医科大学第2内科 北川

和生

田代

隆良

重野

秀明

中山

俊之

菊池

博

那須

勝

Key

words:

(平成4年3月12日

受 付)

(平成4年7月6日

受理)

cytomegalovirus adult

序 悪 性 腫 瘍 の増 加,臓

T-cell

文 器 移 植 の 普及,強

力 な抗 癌

pneumonia

,

Ganciclovir,

leukemia

腹 部 膨 満 感 が 出 現 し近 医 入 院.血

液 検 査 に て 白血

球 増 加 と異 常 細 胞 が 認 め ら れ,腹

部CTに

剤 や 免 疫 抑 制 剤 の 開 発 な ど に伴 い,感 染 防 御 能 の

腫 と傍 大 動 脈 リ ン パ 節 腫 大 を 指 摘 さ れ,精

低 下 した 易 感 染 宿 主(coopromised

療 の た め 同 年12月22日

し て い る.ま た,1981年

host)が 増 加

に始 め て 報 告 され た 後 天

性 免 疫 不 全 症 候 群(AIDS)は,そ に 爆 発 的 に 増 加 し,こ

の 後,全

世界的

の よ う なcompromised

hostに 発 症 す る 日和 見 感 染(opportunistic

infec-

サ イ トメ ガ ロ ウ イ ル ス(CMV)感 免 疫 能 の 低 下 したcompromised

染 症 は細 胞 性 hostに 発 症 す る

用 を 有 す る 抗 ウ イ ル ス 剤ganciclovir

に 拡 張 期 ラ ン ブ ル が 聴 取 さ れ た .腹

4横 指 触 知 し た.表 1個,両

る 異 常 細 胞 が11%認

CMV肺

炎 を 経 験 した の で 若 干 の 文 献 的 考 察 を加

え て報 告 す る.

症 例:60歳,男 主 訴:全

例

記 事 項 な し.

に て 治 療 中. 現 病 歴:平

白 血 病(ATL)と

ATL細

既 往 歴:昭 和63年 よ り僧 帽 弁 狭 窄 兼 閉 鎖 不 全 症

別刷 請 求 先:(〒879-55)大

身倦 怠 感,食 欲 不 振,

分 県 大 分郡 医大 ケ丘1-1

大 分 医 科 大学 第2内 科

梢 血 白血 球 数 は

め ら れ,HTLV-1抗

北川

和生

体4 ,096

性 よ り成 人T細

胞

診 断 し た. 直 ち にadriamycin

,

,methylpred-

よ る 抗 癌 化 学 療 法 を 開 始 し ,末

胞 は 減 少 し た が,骨

梢血 の

髄抑制 のた め末梢 血

白 血 球 数 も著 明 に 減 少 し た た め,顆

粒球 コロニー

刺 激 因 子(G-CSF)を

れ に よ り好 中

球 は 増 加 し た が,リ

成 元 年8月,全

臓

ビ ラ状 の 分 葉 核 を有 す

倍,HTLV-IproviralDNA陽

nisoloneに

身倦 怠 感

家 族 歴:特

著 増 し,花

cyclophosphamide,vindesine

性.

部 で は,肝

在 リンパ 節 は 左 頸 部 に粟 粒 大

入 院 後 経 過(Fig.1)二

症

.貧 血 ・

音 は心尖部

臓 を 左 鎖 骨 中線 上 で

入 院 時 検 査 成 績(Table1):末

れ て い る.私 た ち もganciclovirと

高 力 価 免 疫 グ ロ ブ リン の 併 用 に よ り治 癒 せ しめ た

温

数 個 触 知 し た.神 経 学 的 異 常 所 見 は 認 め な か っ た .

36,310/mm3と

体

指,脾

,体

側 鼠 径 部 に 小 豆 ∼ 小 指 頭 大 の リン パ節 を

が 臨 床 応 用 され る よ うに な り,そ の 効 果 が期 待 さ 抗CMV抗

重42kg 拍88/分.整

吸 音 は 清 で ラ音 な く,心

を 右 鎖 骨 中 線 上 で1横

典 型 的 日和 見 感 染 で あ り,致 命 率 も高 い が,最 近, 抗CMV作

長165cm,体

圧114/66mmHg,脈

黄 疸 な し.呼

tion)が 重 大 な問 題 と な っ て い る.

当科 に 転 入 院 した .

入 院 時 現 症:身 36.9℃,血

て肝 脾 査 ・加

琶 軟,呼

熱 ,咳

吸 困 難 が 出 現 し た .PaO241.3mmHg,

PaCO225.3moHgと れ,胸

投 与 し た.こ

ン パ 球 は 回 復 せ ず,発

部x線

著 明 な低 酸 素 血 症 が 認 め ら 写 真(Fig.2)で

は,右

感 染 症学 雑誌

全 肺 野 と左

第66巻

第10号

Ganciclovirで

Table

Fig. 1

1

The

治 癒 し たCMV肺

Laboratory

clinical

data

course

炎 の1例

1489

on admission

of the patient

下 肺 野 に ス リガ ラ ス状 の間 質 性 陰 影 が 認 め られ た

行 った.こ れ に よ り臨 床 症 状 と検 査 成 績 は 改 善 し,

た め,直 ち に 気 管 支 肺 胞 洗 浄(BAL)を

胸 部X線

施 行 .BAL

液 と洗 浄 後 の 喀 痰 中 に 多 数 の封 入 体 保 有 巨細 胞 が 認 め られ,抗CMVモ ciences社)を

が 検 出 され た(Fi&3) 以 上 よ り,CMV肺 抗CMV抗

ノ ク ロー ナ ル 抗 体(Polys-

用 い た 免 疫 染 色 に よ りCMV抗

原

. 炎 と診 断 し,ganciclovirと

体 高 力 価 免 疫 グ ロ ブ リンの 併 用 療 法 を

行 った.ま たARDSに 平 成4年10月20日

対 して ス テ ロイ ドの 投 与 も

ATLが

写 真 の 間 質 性 陰 影 も消 失 した が,そ の後 増 悪 し,5月3日

永 眠 され た .

死 後 病 理 解 剖 が行 わ れ,肺

に は 軽 度 の肺 胞 壁 肥

厚 が 見 られ た が,封 入 体 保 有 巨 細 胞 は認 め られ ず, CMV抗

原 も陰 性 だ った.両 側 副 腎 に は 封 入 体 保

有 巨細 胞 が認 め られ,骨 臓 に はATL細 時,CMV肺

髄,リ

ンパ 節,肝

胞 浸 潤 が 認 め られ た.な

臓,脾

お,入 院

炎 急 性 期 お よ び 回 復 期 の 血 清CMV

北川

1490

Fig. 2

和生 他 る こ とか ら,再

Chest X-ray film shows a diffuse interstitial

shadow

活 性 化 に よ る 回 帰 感 染 と思 お れ る

が,本 例 の 基 礎 疾 患 はATLで

あ り,原 疾 患 に よ る

免 疫 能低 下 に 抗癌 剤 投 与 に よ る医 原 的 要 因 が加 わ り回 帰 発 症 し た も の と 推 測 さ れ る.こ CMV再

活 性 化 の 要 因 と し て,細

の よ うに

胞 性免疫 能低 下

が 重 要 で あ り,当

科 に お け る 剖 検 例 の 検 討 で も造

血 器 悪 性 腫 瘍,と

く にATLに

高率 に発症 してい

る3)4). CMV感

染 症 の 確 定 診 断 は,(1)細

胞 培養 法 に よ

るCMVの

分 離(2)CMV抗

原 あ る い はDNAの

検 出,(3)封

入 体 保 有 巨 細 胞 の 検 出,(4)血

の 測 定 に よ り 行 わ れ る.し hostで

清抗体価

か し,compromised

は(4)の 診 断 的 価 値 は な く,最 近 で は よ り感

度 の 高 い 迅 速 診 断 法 と し て,polymerase reaction(PCR)法

に よ り ウ イ ル スDNAを

る 方 法 が 開 発 さ れ て い る5)∼7) ,ま 診 断 す る た め に はBAL液 Fig.

3 cells

Cytomegalovirus obtained

munoperoxidase

antigen by

bronchoalveolar

is

detected

in

lavage

chain 増幅す

たCMV肺

炎 と

や 肺 生 検 組 織 な ど肺 局

所 よ り得 ら れ た 検 体 か ら(1)∼(3)を 証 明 し な け れ ば

the (im-

な ら な い8).本

stain, •~1,000)

例 で は,BAL液

お よび 喀 痰 中 に 多

数 の 封 入 体 保 有 巨 細 胞 とCMV抗

原 を 検 出 し,早

期 に 本 症 と診 断 す る こ と が で き た, 抗CMV剤

で あ るganciclovirは,感

細 胞DNAの

染 初期 に

合 成 に 関 与 す る 酵 素 活 性 が 高 ま り,

感 染 細 胞 由来 の チ ミジ ン キ ナ ーゼ に よ って リン酸 化 さ れ,さ DNAポ

ら に3リ

ン 酸 と な って ウ イ ル ス の

リ メ ラ ー ゼ の 作 用 を 阻 害 す る の で,チ

ジ ン キ ナ ー ゼ 非 産 生 ウ ィ ル ス で あ るCMVに

ミ も有

効 で あ る9)∼12). Grundyら13)は,骨

髄 移 植 患 者 のCMV肺

発 症 に は 肺 に お け るCMVの 的 プ ロ セ ス,す

増 殖 と と も に免 疫 学

な わ ちCMV感

出 現 す る 前 初 期 抗 原(IEA),初

抗 体 を 補 体 結 合 反 応 で 測 定 した が,3回

と も32倍

で あ り,有 意 の 変 動 は 認 め られ なか った . 考

察

れ る 抗CMV抗

体 保 有 率 は 約95%1)2)と い わ れ て い る

が,初 感 染 の 大 部 分 は 不 顕 性 感 染 で あ り,臨 床 的 に 問 題 とな る こ とは 殆 どな い.し か し,CMVは

染 肺 細 胞 の表 面 に 期 抗 原(EA)に

対

胞 の 反 応 が 関 与 す る と い う仮 説 を 提 唱

し て い る.抗CMV高

本 邦 に お け る妊 婦 の サ イ トメ ガ ロ ウイ ル ス (CMV)抗

す るT細

炎 の

力 価 免 疫 グ ロ ブ リン に含 ま

体 が,感

し て 細 胞 傷 害 性T細

染 細 胞 表 面 の抗 原 に結 合

胞 の誘導 お よびそ れ に よる

攻 撃 を 抑 制 す る と 推 測 さ れ て お り,臨 ganciclovirと

抗CMV抗

床的 に も

体 高 力価 免 疫 グ ロ ブ リ

初

ン の 併 用 療 法 の 有 用 性 が 確 認 さ れ て い る'4>.ま た,

感 染 後 潜 伏 感 染 し,一 生 宿 主 と共 存 す る とい う特

過 剰 の 免 疫 反 応 を 抑 制 す る た め ス テ ロ イ ドの 大 量

徴 を 有 して い る.本 例 も入 院 時 か ら抗 体 陽 性 で あ

療 法 も 推 奨 さ れ て い る. 感 染 症学 雑 誌

第66巻

第10号

Ganciclovirで

臓 器 移 植 に伴 うCMV感

治 癒 し たCMV肺 8)

染 症 とATLやAIDS

に伴 う回 帰 感 染 で は,そ の 発 症 機 序 が こ とな る と も考 え られ るが,そ

の 治 療 にganciclovirと

高力

価 免 疫 グ ロ ブ リン の 併 用 療 法 は有 用 と思 わ れ た. 文 1)

沼 崎 義 夫:

献

サ イ トメ ガ ロ ウ イ ル ス の 伝 播 と生 存.

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田 代 隆 良, 須

4)

勝:

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重 野 秀 明,

後藤

純,

那

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Cytomegalovirus

Kazuo

1491

炎 の1例

KITAGAWA,

Pneumonia Treated with Ganciclovir and Intravenous CMV-Hyperimmune Globulin: Case Report Takayoshi TASHIRO, Hideaki SHIGENO, Hiroshi KIKUCHI & Masaru NASU

Second Department

Toshiyuki

NAKAYAMA,

of Internal Medicine, Oita Medical University, Oita, Japan

A 60-year-old male with adult T-cell leukemia (ATL) complained of fever, cough and dyspnea, after anti-leukemic chemotherapy. Chest X-ray film showed a diffuse interstitial shadow, and cytomegalic inclusions and cytomegalovirus (CMV) antigen were detected in the bronchoalveolar lavage specimen and sputum. The diagnosis of CMV pneumonia was made, then ganciclovir and intravenous CMVhyperimmune globlin was administered. Although CMV pneumonia was improved with the treatment, the patient died of ATL. There was no cytomegalic inclusions in the lung but in the adrenal at autopsy. The combination therapy of ganciclovir and intravenous CMV-hyperimmune globulin is considered to be effective ective for CMV pneumonia.

平成4年10月20日