日衛誌 (Jpn. J. Hyg.),72,95–100(2017) © 日本衛生学会

ミニ特集





開発途上国における感染症研究支援

開発途上国ラオス首都ビエンチャン・タートルアン湿原における サルモネラの検出:サルモネラの MY 現象を用いた培養技術 翠

川   裕

鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科

Detection of Salmonella in That Luang Marsh, Vientiane, Lao PDR: Improvement of the Accuracy of Salmonella Detection Using Visualization of Hydrogen Sulfate Production by Salmonella Yutaka MIDORIKAWA Suzuka University of Medical Science, School of Health Science

Abstract In this study, Salmonella is used as the standard bacterium for evaluation of pollution of water environments. The author continued to improve Salmonella detection by visualization of hydrogen sulfide production, which is characteristic of Salmonella. At the same time, the positivity rate of Salmonella in rural Lao was investigated. According to the survey conducted so far, it has been found that the Salmonella positivity rate in residents of Laos is markedly higher than that in Japan. It is conceivable that the level by contamination of Salmonella in sewage drained from each house in Laos will be higher than that in Japan. There is no sewage treatment facility in Laos even in the capital Vientiane. In the city, a vast wetland named That Luang Marsh functions as sewage reception. In the case of contamination that exceeds the purification capacity of the wetland, detection of Salmonella in the water of the Mekong River will indicate the deterioration of water quality. Key words: Lao PDR(ラオス),Vientiane(ビエンチャン),That Luang Marsh(タートルアン湿原), Salmonella(サルモネラ),MY Phenomenon(MY 現象)

1.は じ め に ①サルモネラ MY 現象 本研究の柱となっているサルモネラの検査方法は,サ ルモネラ属菌標準試験法 NIHSJ-01-ST4(090218)に記 されている (1)。本サルモネラ試験法は,“食品からの 微生物標準試験法検討委員会”が作成したサルモネラ属 菌標準試験法を基に作成された。この委員会では,国内 受付 2016 年 12 月 22 日,受理 2017 年 2 月 25 日 Reprint requests to: Yutaka MIDORIKAWA Suzuka University Medical Science, School of Health Science, 10011 Kishioka-Cho, Suzuka city, Mie 514-0293, Japan TEL: +81(59)383-8991 (2215), FAX: +81(59)383-9666 E-mail: [email protected]

の食品からの微生物に関する標準試験法に関する議論を 行い,今後統一した方向性で,食品における微生物試験 法を整理することを目的に試験法の検討を進めてきた。 その方向性とは,国際的な標準法である ISO 法との互 換性を重視し,科学的根拠に基づいた試験法の妥当性確 認を行いながら標準となる試験法を策定していることで ある。世界的には開発途上国では,最新の PCR 等を用 いた検出は,多額のコストが必要となるために本法では 実際に菌を培養する方法が用いられている。筆者はサル モネラを検出するために,同菌の硫化水素産生に伴う現 象(MY 現象)を新たに見出し,検査法の改良を試みて きた。MY 現象には柑橘成分等が硫化水素の産生を増加 させる MY 現象 1(2),抗菌物質の存在で硫化水素産生 を阻害させる MY 現象 2(3)さらに,培地表面を嫌気

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状態にして,硫化水素が形成した硫化鉄を再び酸化させ ない MY 現象 3(4)がある(後述)。 ②ラオスにおけるサルモネラ感染症のリスク ラオスの経済が発展する中,感染症の対策も進み,感 染症のリスクが減少してきている。例えばコレラの大流 行がなくなり (5),細菌性チフスの患者は減少し続けて きており (6),マラリアも散発的な流行を認める程度に なっている (7)。しかしながら,チフス菌と同属の食中 毒の原因菌であるサルモネラは,調査研究の対象からは ずされていてほとんど菌検出・患者発生の情報がない状 態である。しかしながら,ラオス人の便検体由来のサル モネラ保菌率は,10% から 30% であることが,1994 年 から今日に至る筆者の調査結果で明らかとなっている (8)。ちなみに日本のサルモネラ保菌率は,0.1% 以下で あるとされている (9)。このような現実があるにもかか わらず,ラオスではサルモネラの感染に関する関心がほ とんどないのが現状である。 ③ラオスの発展と自然環境の変貌 インドシナ半島における戦乱終了後のラオスの経済発 展は急速で,毎年着実に GDP の伸びが継続している。 ラオス経済は近年,ほかの ASEAN 諸国と比較しても高 い経済成長を遂げている。並行して医療・公衆衛生も改 善され,1993 年に 56 歳であった平均寿命は,2013 年に は 68 歳にまで延長している。高度経済成長をけん引し ているのは,水力発電や鉱山開発プロジェクトへの海外 からの活発な投資である。ラオスは山間地であることか ら豊富な水資源に恵まれているほか,銅・金の産地でも ある。これに目をつけたタイ,ベトナム,中国から多く の直接投資が流入し,資源開発が進められている 2013 年のラオスの GDP 成長率は前年比 8.2% 増となってい る (10)。 このようなラオスにおける経済発展に伴う様々な開発 は,当然のことながら自然環境の破壊と同時に住民の健 康にも影響を及ぼしている。とりわけ,首都ビエンチャ ンでは空気・水の汚染汚濁が進み健康への被害が想定さ れる。 筆者は,この中でも,ビエンチャン西側に位置してい るタートルアン湿原の開発の現状に注目した。タートル アン湿原は,全体で 2000 ヘクタールの広大な湿地帯で, ビエンチャン市民の使用した汚水を含む水が流れ込んで いる。 同湿原に流入した各家庭の生活排水は,湿原にて富栄

養化しているが,図 1 に示した食物連鎖を経て自然に浄 化され住民の環境衛生に貢献している。 湿原における様々な生物の食物連鎖などの生態系で生 活排水・汚水が浄化される過程で育った野草や魚介類を 人間が食用として利用するというリサイクルシステムが 形成され,温室効果ガスの減少にも貢献している (11)。 著者は,先行研究として調査場所はラオスを中心とし, メコン川流域の衛生環境の研究を継続してきた。また, 文科省環境プログラム人・自然・地球共生プロジェクト (12)(RR2002:2003–2006)「アジア・モンスーン地域 における水資源の安全性に関わるリスクマネージメント システムの構築」でメコン流域の環境水(河川水,上下 水,井戸水等)の病原微生物による汚染と水系感染症の 発生を調査した。この結果 20 世紀までは河川の大腸菌 群汚染を認めなかったが,21 世紀に入り同菌群による 汚染を確認した。同時に人間文化研究機構 総合地球環 境研究所の「アジア・熱帯モンスーン地域における地域 生態史の総合的研究」プロジェクト(2003–2007)にて, メコン地域の自然環境の変化を調査してきた (13)。そ して首都ビエンチャンを流れる間に河川の水質が悪化し ていないことで「ビエンチャン住民の水環境はタートル アン湿原の存在で守られている。」という事実を見出し た。同湿原はメコン川と都市の間でビエンチャンの天然 の排水施設としても機能している。雨季は氾濫原として ビエンチャン東部居住区の洪水を防いできた。このよう に,下水処理場を設置せずに汚水処理し,さらには,湿 原の水中植物プランクトンなどは大気の温室効果ガスの 増加を抑制する役割を果たしている。そしてその水は住 民の生活水として衣類の洗濯,水浴等に利用されている。 しかし,近年都市化が急速に進み,同湿原では商業・娯 楽施設や宅地造成などの開発が盛んに行われている (14)。これは中国による新市街埋め立て開発であり,総 面積は 365 ha で観光自然文化都市を建設する計画であ る (15)。この開発により湿原面積が減少していくため, 湿原が果たしている自然の水質および大気の浄化機能が 減少していく可能性が示唆される (16)。 以上の経緯で,執筆者は同湿原保全のための研究が早 急に必要であると考え,湿原の減少がメコン川などの水 質・住民の大気環境に及ぼす影響を評価する研究を行っ てきている。 特に本研究では湿原から検出されるサルモネラに焦点 を当てている (17)。湿原は下水の自然浄化を役割とし ているので,サルモネラの検出は環境衛生の重要な指標 となる (18)。

図 1 ビエンチャンタートルアン湿原における汚水浄化の過程

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以上のことから,本稿ではサルモネラの硫化水素産生 の可視化を用いた検査法を利用し,タートルアン湿原か ら検出されるサルモネラとその背景となるラオスのサル モネラ検出を考察する。

2.研究の方法 ①サルモネラの分離技術 サルモネラの検査方法は,サルモネラ属菌標準試験法 NIHSJ-01-ST4(090218)に記されている方法に準じて 行ったが,確認培養をサルモネラ硫化水素の可視化(MY 現象)を利用する執筆者が開発した変法を用いた。以下 に詳細を述べる。 MY 現象 1:サルモネラを分離するための培地として, DHL 培地を用いた。本培地の特徴は,培地に硫黄源と 鉄源を含んでおり,サルモネラが産生する硫化水素を硫 化鉄に変換して黒色を呈することである。サルモネラを 同培地に全面塗抹し,培地表面中央に輪切りレモンを置 き,24 時間,37°C で培養した。さらに,様々な有機酸 をはじめとするデバイスを用いて同様のサルモネラの培 養を実施した。 MY 現象 2:培地として,確認培地 TSI 寒天培地を用 いた。本培地には硫化水素産生を鑑別するための硫黄源 と鉄源が含まれているが,市販のものは,塩化ナトリウ ムが溶液濃度 0.5% となるように加えられている。本研 究では,市販の濃度よりも段階的に 0.5% ずつ増加させ たものを用いてサルモネラを所定の方法で接種し,24 時間培養した。 MY 現象 3:サルモネラを培地に全面塗抹して,5× 5 cm 正方形に切り取った OHP プラスチックをかぶせ, 37°C で 24 時間培養した。 ②ラオス住民サルモネラの保菌率 本研究の検査対象は,以下ラオスの 3 か村の住民が提 供した便検体である。キャリブレア輸送培地で保存した 便検体を日本に持ち帰り,独自の方法でサルモネラの保 菌を調べた。 パイロム村:首都から 27 km 離れた郊外の村。2005 年から住民のサルモネラの保菌率を調べ続けている。 2014 年に水道が設置された。平地ラオ族の村である。 コクサアート村:首都から 20 km の近郊の村。2016 年 に水道が設置された。高濃度の塩分を含んだ地下水から 食塩を製塩する工場を有する村である。中国から無償援 助された 2009 年東南アジアスポーツ大会の会場のための 競技場が建設された隣村である。平地ラオ族の村である。 プーサイ村:南ラオスアタプーに位置する村。2002 年山岳地帯で焼き畑農法を生業としてきた少数民族のア ラク族やターリエン族が,平地に移住してできた村であ る。移住と同時に熱帯熱マラリアが流行し,多数の死者 を出したことで有名である (7)。2008 年に初めて電気が 普及した。

③タートルアン湿原からサルモネラの分離 前述の通り,ビエンチャン市民の生活排水が流れ込ん でいる。生活排水とは,し尿を含む汚水である。湿原は 全体で 1,000 ヘクタールの広大な面積を占めているが, 市民の漁労の場となっている地点を調査した。サルモネ ラ等食中毒菌の検出用検体として湿原の水 1 ml をキャ リブレア保存培地に吸収させ,湿原由来の魚の表面を綿 棒でぬぐい同培地にて輸送した。

3.研究の成果及び今後の課題 ①サルモネラの硫化水素産生の可視化(MY)現象の知見 サルモネラの硫化水素産生は,DHL 培地のような鉄 源と硫黄源を含む培地では,図 2 のように単独のコロ ニーは黒色を呈する。図 3 のように密に増殖した場合に は,可視化は起こらないが,輪切りレモンを菌接種と同 時に上に置くと,培養後には MY 現象 1 が起こり,ミ ドリング出現による硫化水素産生の可視化を認める。 MY 現象の正体はレモン含有のアスコルビン酸,クエン 酸等有機酸であることが判明した。図 4 ではアスコルビ ン酸を含んだろ紙を培地中央に配置した場合のである が,ろ紙周辺には菌の増殖を認めない阻止円が形成され た外側にミドリングの出現を認める。ミドリングの形成 は,その後の研究でレモンの成分によって菌の増殖が促 進され,硫化水素の産生が活性化することを意味するこ とが判明した。 TSI 寒天培地は同様に鉄源と硫黄源を含みサルモネラ の硫化水素産生の可視化を証明するが,斜面が赤色とな

図 2 単独コロニーではサルモネラの硫化水素産生は,可視化 される

図 3 MY 現象 1。サルモネラは菌が密集していると通常硫化 水素産生は可視化されないが,輪切りレモン存在下で培養する とレモンの外側にミドリング形成による可視化が認められる。

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図 4 アスコルビン酸等有機酸含有ろ紙の周囲には,阻止円が 形成され,その外側にミドリングが出現する 図 6 塩化ナトリウム濃度増加で減少するサルモネラの硫化水 素産生

図 5 MY 現象 2。左が市販の TSI 培地(0.5% 食塩含有)にサ ルモネラを培養した場合。右は食塩濃度を 3% にした場合。

図 7 MY 現象 3。全面接種したサルモネラの硫化水素産生が, OHP 紙による嫌気状態で可視化。

ることで,後期条件では糖分解を認めず赤色を呈し,黄 色を呈したならば糖分解を証明する。高層部では嫌気性 条件下赤色で糖分解を認めず,黄色で糖分解を認めない ことの指標となる。従来の方法では高層部がサルモネラ の場合では,黒色化してしまい,赤色であるのか黄色で あるのか鑑別が不能であった。そこで,培地の塩化ナト リウム濃度を増加させることで硫化水素産生を抑制して 高層部の黒色をなくし色が赤であるか黄色であるかを判 別可能とした。硫化水素産生が,塩分濃度増加など,菌 の増殖抑制によって減少することを MY 現象 2 とする。 図 5 および図 6 に TSI 培地の塩分濃度を増加させると高 層部から黒色が消滅していき,色が黄色であることが鮮 明となっていくさまが示されている。 以上の知見をもとに,新たな塩分濃度を上昇させた TSI 培地を開発し,サルモネラの鑑別の改良を行った。 サルモネラ 0.5% 食塩含有の左では,硫化鉄の形成によ る黒色過多のため,高層部の酸の産生(糖分解)を目視 できないが,右の 3% 食塩含有では黄色を呈し,酸の産生 (糖分解)を認める。したがって,サルモネラの硫化水 素産生が,食塩などの抗菌性を有する物質の存在で,抑 制されるマイナスの影響が及ぼされることが判明した。

図 7 では空気(酸素)を遮断することで,サルモネラ 硫化水素産生の可視化が認められるが,この現象は,産 生された硫化水素が培地の鉄源と反応して硫化鉄が形成 されても,好気性の状態では再び酸化されて黒色が消滅 するが,OHP によって空気が遮断された嫌気条件下で は硫化鉄が再び酸化されないために硫化水素産生の可視 化が保存されることによる。これを MY 現象 3 と定義 する。 サルモネラを全面接種してその上にアルミニウム素材 の 1 円硬貨と銅素材の 10 円硬貨を載せて,24 時間培養 すると,1 円硬貨直下では黒色の硫化水素産生を認める が,抗菌性のある 10 円硬貨直下には硫化水素産生を認 めない。これが,MY 現象 3 によるサルモネラへの抗菌 性を証明する一例である(図 8)。 以上,筆者は 2004 年から MY 現象を用いた硫化水素 の可視化によってサルモネラの検出精度を著しく向上さ せてきた。 ②ラオス農村住民のサルモネラ罹患率の推移 筆者がラオスにおける住民のサルモネラ罹患率の高さ に注目したのは,1994 年に首都ビエンチャンにおけるメ

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図 8 左:培養前 1 円硬貨及び 10 円硬貨。右:培養後 1 円直 下では黒色を認め,10 円では認めない

図 9 ラオス農村住民のサルモネラ穂菌率の推移(2005–2013)

コン中洲の島ドンチャンアイランドの住民を調査した時 である (18)。このときの陽性率は 27% であった。その 後首都ビエンチャンの近郊の 2 か村と南ラオス アタプ農 村で経年的に調査を概ね 10 年間継続したところ,図 9 のような陽性率の推移を確認した。2005 年以降 3 年間 の 3 割の保菌率が,近年では,約 1 割に低下しているこ とが認められる。この調査の間,執筆者のサルモネラの 検出精度は,NIHSJ-01-ST4 法の導入及び MY 現象の研 究の進展とともに高まっていることが考えられるので, 調査を開始した 2005 年度よりも 2013 年度では保菌率の 低下は間違いないところである。いずれにせよ,日本国 内の保菌は 1,000 人に一人もないといえるので,ラオス でのリスクははるかに高いことには変わりない。 ③タートルアン湿原におけるサルモネラの検出 ラオスにおけるサルモネラのリスクの高さは,それだ け生活排水に同菌が含まれ,環境汚染の一つの指標にな ると考えられる。図 10 上の写真は,タートルアン湿原 で様々な植生によって水が自然に浄化されることを示 す。同下では食物連鎖の過程で,魚が育ち市場に出回る。 湿原由来の魚は,生活排水がリサイクルされたことを意 味する。首都ビエンチャン市民が排出する生活用水が流

図 10 上:タートルアン湿原で野菜を採取している舟。下: 同湿原で育まれ,捕獲された魚

れ込んでいる湿原の自然浄化作用は,サルモネラを排除 することが期待されるが,タートルアン湿原のビエン チャン市民が漁労を行っている地点の湿原水と魚の双方 からサルモネラを検出した。同湿原は広大であるために, 1 か所からのサルモネラの検出では湿原全体でサルモネ ラが常在しているとの結論を出すことは,早計である。 しかしながら,ビエンチャンには存在しない下水処理施 設の代替の役割をこの湿原のみが果たしているわけであ るから,開発が進み,面積が減少し,湿原の浄化能力を 超える状態となった場合,メコン川を汚染する恐れが出 てくる。筆者は同時にメコン川の調査を継続しているが, 現地点では河川水からサルモネラは検出されていない。 湿原の下水処理能力が低下してメコン川からサルモネラ が検出される事態となれば,高額の予算を必要とする下 水処理施設設置などの対策が必要となってくる。開発が 進み,湿原の面積が減少することで,メコン川の水質が 悪化したならば,下流にあるカンボジア・ベトナムとの 国際問題となる可能性は排除できない。湿原の自然浄化 機能が開発による影響を受けるかどうかは今後の研究課 題であり。筆者はこれから以後 5 年間「タートルアン湿 原の自然浄化作用がラオス首都圏の環境衛生に果たす役 割」というタイトルで研究を継続する予定である。

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おわりに 下水処理施設が未だに設置されていないラオスの首都 ビエンチャンでは,タートルアン湿原での自然浄化シス テムがその役割を担っており,メコン川の水質を保全し ている。しかしながら,中国資本による同湿原の埋め立 てによるチャイナタウン建設は,湿原の機能に影響を及 ぼし,さらにメコン川の水質を悪化させることが懸念さ れる。感染型食中毒のサルモネラは,日本においては人 の保菌率は低いが,ラオスでは,その数百倍のリスクが あることが判明している。湿原およびメコン川でのサル モネラの検出は水質の指標として今後の調査対象となる ことが考えられる。そのためにサルモネラの検出効率を 上げる必要があり,MY 現象を用いた検査法の改良に努 めていくことが今後の研究課題となる。

謝   辞 本研究は,以下の助成を受けて行われている。 文部科学省科学研究費 課題番号 18650222,22500783, 15K00894,16H05634 東北大学金属材料研究所共同利用共同研究 課題番号 14K0005 15K0018 平成 27–28 年度日本銅学会 研究助成金 本論文に関連し,開示すべき COI 関係にある企業等 はありません。

文  献 ( 1 ) サ ル モ ネ ラ 属 菌 標 準 試 験 法 2009;NIHSJ-01-ST4 (090218). ( 2 ) Midorikawa Y, Newton PN, Nakamura S, Phetsouvanh R, Midorikawa K. A phenomenon for detect Salmonella using device from citrus extracts. Trop Med Health 2009;37:115– 120. ( 3 ) Midorikawa Y, Nakamura S, Phetsouvanh R, Midorikawa K. Detection of non-typhoidal Salmonella using a mechanism for controlling Hydrogen Sulfide production. Open J Med. Micro 2014;4:90–95. ( 4 ) Midorikawa Y, Nakai M, Midorikawa K, Niinomi M. A novel method of antibacterial evaluation based on the inhibition of hydrogen sulfide producing activities of Salmonella—using copper as a model antibacterial agent —. Material Transaction 2016;57:995–1000. ( 5 ) Nakamura S, Midorikawa Y, Nakatsu M, Watanabe T, Phethsouvanh R, Vongphrachanh P, Akkhavong K, Brey P.

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