YAKUGAKU ZASSHI 135(2) 249―254 (2015)  2015 The Pharmaceutical Society of Japan

249

―Symposium Review―

高齢者のための内服ゼリー製剤の開発 原田

,a,† 安岡光一, b 櫻井真帆, b 村瀬 努,

b 大脇孝行c 司,

Development of a Novel Oral Jelly Formulation for Elderly Patients ,a,† Koichi Yasuoka,b Maho Sakurai,b Tsukasa Murase,b and Takayuki Owakic Tsutomu Harada, aPlanning

& Operation Section, Customer Joy Department, Eisai Japan, Eisai Co., Ltd.; Koishikawa 555, Bunkyo-ku, Tokyo 1128088, Japan: bGlobal Formulation Research, Pharmaceutical Science and Technology CFU, Eisai Co., Ltd.; Takehaya-machi 1, Kakamigahara, Gifu 5016195, Japan: and cTechnology Center, Customer Joy Department, Eisai Japan, Eisai Co., Ltd.; Takehaya-machi 1, Kakamigahara, Gifu 5016195, Japan. (Received September 11, 2014)

Deterioration of the swallowing function in elderly persons and drug refusal among the behavioral abnormalities in Alzheimer's disease (AD) are commonly reported. Therefore, we developed an easy-to-swallow jelly formulation of Donepezil HCl which AD patients can take as a dessert. The development process, however, was full of trade-oŠ problems. (1) Need for evaluating the taste of a drug product vs. Safety of human sensory evaluation of the taste. The trade-oŠ was resolved by using a taste sensor. (2) Speed of development vs. Safety of the manufacturing process. We put priority on the safety rather than speed, and a safer antioxidant agent was found. (3) Usability of the container for AD patients with dysphagia vs. Size of the container. We put priority on its being user-friendly rather than on the size and chose a stable wide-mouth cup. (4) Suitable texture of jelly for swallowing the drug product vs. Residual volume of jelly in the cup. We designed the texture so that the residual volume of jelly in the cup was reduced. (5) Easy peeling properties of aluminum seal vs. High sealing strength for sterilization. The sealing strength was adjusted so that it was adequate to sterilize the drug product. (6) One cup in a heat-sealed aluminum pillow package to prevent overdose vs. Seven cups in a pillow package. A single-dose package was relatively expensive, but it was chosen to assure safety. We faced many di‹cult trade-oŠ problems in the development of process. However, they were resolved using technical innovations and a people-friendly policy. Finally, we were able to launch a novel oral jelly formulation for elderly patients. Key words―trade-oŠ; oral jelly formulation; taste sensor; donepezil hydrochloride; Aricept

1.

はじめに

世界においては約 3560 万人と推計されている.認

厚生労働省の認知症対策総合研究事業の報告1)に

知症の予防,治療及びケアは世界的な喫緊の課題と

よると,日本の認知症有病率は 65 歳以上の高齢者

株 はアルツハイマー型認知症治療 言える.エーザイ

の 15%と推定され,推定有病者数は 2012 年時点で

剤であるドネペジル塩酸塩錠(アリセプト )を

462 万人と算出された.同様に World Health Or-

1997 年に米国で, 1999 年に国内で上市した.一

ganization ( WHO )の Fact sheet No. 362 によると

方,認知症患者においては,加齢2) や周辺症状3) に より,拒薬や嚥下困難などによる服薬困難例が増加

aエーザイ株式会社エーザイ・ジャパン

CJ 部企画推進 室(〒1128088 東京都文京区小石川 555),bエーザ イ株式会社 PST 製剤研究部(〒 501 6195 岐阜県各務 原市川島竹早町 1),cエーザイ株式会社エーザイ・ジャ パン CJ 部技術センター(〒5016195 岐阜県各務原市 川島竹早町 1) 現所属:†バイオジェン・アイデック・ジャパン株式会 社メディカル本部(〒1056226 東京都港区愛宕二丁目 5 番 1 号 愛宕グリーンヒルズ MORI タワー 26F) e-mail: tsutomu.harada@biogenidec.com 本総説は,日本薬学会第 134 年会シンポジウム S01 で 発表した内容を中心に記述したものである.

することが指摘されており,4,5) フィルムコート錠で は,服薬アドヒアランスの低下を招く治療上の課題 となる場合があった.言うまでもないが,薬は服用 されないとその効果を発揮することができない.そ こで筆者らは,薬をデザート感覚で食べられること をコンセプトとして内服ゼリー剤を開発し, 2009 年に上市した.服用し易さを追求した製剤設計は, 技術的課題とトレードオフの連続であったが,可能 な限り拒薬や嚥下困難を伴う認知症患者の視点にこ

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だわり,従来の剤形では服薬できなかった患者に, 治療薬を届けることができた.本稿では開発過程で 直面したトレードオフに対し,技術的な解決法及び 患者視点から優先したポイントを紹介する. 2.

製剤の味の評価/官能試験の安全性・倫理

性・客観性 フィルムコート錠と異なり,内服ゼリー剤は口腔 内において主薬の味を呈し易い.味が不快であれ ば,嚥下に適したゲルの物性であったとしても拒薬 につながり,本来の目的を達することができない. 服用し易い味の製剤を設計するためには,当然味の 評価が必要となるが,官能試験ではパネラーの安全 性に課題があった.また,ドネペジル塩酸塩の水溶 液には強い苦みと収斂性があったため,官能試験後 も苦みと痺れ感が持続し,連続的に複数のサンプル

Fig. 1. Sourness and Bitterness Sensor Outputs of Stability Sample for 36 Months of AriceptOral Jelly Formulation and Donepezil Solution 3 mg/5° C (〇), 3 mg/25° C (●), 5 mg/5° C (△), 5 mg/25° C (▲), 10 C (□), 10 mg/25° C (■). mg/5°

を評価することは不可能であった.加えて,味を客 観的・定量的に表現し,記録することは難しいとい う問題もあった.

近年はたとえ既に上市された化合物であったとし ても,官能試験は倫理委員会等の審査を経る必要が

そこで筆者らは, 1997 年当時,ビールやお茶な

あるため,製剤研究のスピードと倫理的公正さはま

ど食 品 の味 評価 に 使わ れ始 め てい た味 認 識装 置

さにトレードオフの関係にあると言える.味評価に

SA402(インテリジェントセンサーテクノロジー)

おける官能試験の課題に対し,味センサという技術

を,業界で初めて医薬品の味評価に実用化した.詳

革新が 1 つの解決法となり得ることは,センサの性

細については既に報告69) してきたので割愛し,味

能以上に倫理的側面から重要性を増していると考え

認識装置を用いて内服ゼリーの味の安定性を評価し

られる.

た結果を Fig. 1 に示す.アリセプト内服ゼリー 3

3.

mg, 5 mg, 10 mg の 経年 保 存 品と , 対 照 品と し て

内服ゼリー剤の製造は,ゲルの基剤であるペクチ

5° C 保存品を測定した.また,原薬に由来する苦

ン及びカラギーナンを溶解させるため長時間にわた

味・酸味の強さの指標として,0.01 mM, 0.1 mM 及

り高温で加熱し,ろ過し,カップに充填後に冷却す

び 1 mM のドネペジル塩酸塩水溶液を調製して測定

る.さらに殺菌工程でも再度加熱する.製品の貯法

し,検量線を図中に示した.室温 36 ヵ月保存品と

は室温保存で,3 年間の安定性を確保することを目

5° C 保存品を比較した結果,酸味及び苦味雑味に

指した.一般に化学反応は,固相より液相の方がは

変化がないことが明らかとなった.さらに,ドネペ

るかに進行し易いが,半固形のゼリー剤の純度試験

ジル塩酸塩水溶液検量線と内服ゼリー 3 mg, 5 mg,

規格は標準製剤であるフィルムコート錠と同じであ

10 mg 各製剤を比較すると,ゼリー剤のドネペジル

る.主薬の安定性に関するこの厳しい条件をクリア

塩酸塩モル濃度はそれぞれ約 0.7 mM, 1.2 mM, 2.4

するために,生成する不純物を特定し,酸化体を始

製剤の安定性/製造プロセスの安全性

mM であるが,最も濃度が高い 10 mg 製剤でも 0.1 mM ドネペジル塩酸塩水溶液より酸味及び苦味雑味

が小さいことが分かる.アリセプト内服ゼリーは苦 みマスキング作用を持つカラギーナンの配合により ドネペジル塩酸塩の不快な味を濃度のスケールで見 た場合 1/24 以下に効果的にマスキングしており, その効果が経時的に減弱することなく 3 年間維持さ れていることが確認できた.

原田



1992 年 大 阪 府 立 大 学 化 学 工 学 科 を 修 株 に入社し,製剤研 了.同年エーザイ 究に従事.味センサーや口腔内崩壊錠 試験器など薬の服用性評価法を開発し, 2010 年薬学博士取得.2014 年にバイオ ジェン・アイデック・ジャパンに移籍 し,患者様のアンメットニーズに応え るソリューション開発に多角的に取り 組んでいる.

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Table 1. Amounts of Related Substance and Antioxidant C, 75%RH, 1 Agent in Accelerated Stability Study (40° month) Ingredient

Fig. 2. Relationship between Amount of Related Substance and Sodium Sulˆte Concentration in Accelerated Stability C, 75%RH, 6 months) Study (40°

めとする主薬の類縁物質を抑制する抗酸化剤の検討 を行った.

Related substances (%)

Control Propyl gallate L-ascorbyl stearate Sodium ascorbate Ascorbic acid Cysteine hydrochloride Sodium sulˆte Sodium pyrosulˆte Edetate sodium Edetate calcium disodium

0.3 0.69 0.41 0.36 0.26 0.22 0.09 0.03 ― ―

Table 2. Component and Function of Aricept Oral Jelly Formulation Component

亜硫酸ナトリウムを 00.2%の範囲で添加し,ラ

Function

Donepezil Hydrochloride

Active

Pectine Carrageenan

Gelation agent

Calcium Lactate, Hydrate Citric Acid, Hydrate Sodium Citrate, Hydrate

Adjust pH

Powdered Reducing Maltose Syrup Acesulfame Potassium

Sweetener

Sodium Benzoate Ethyl p-Hydroxybenzoate

Anti-microbial agent

試みたが,タンク内のガス濃度は約 60 ppm で,こ

Propylene Glycol

Solubilizing agent

れは人体への影響の目安として「短時間( 30 分1

Honey Flavour

Flavoring agent

時間)耐え得る限度」に相当した.仮に亜硫酸ナト

Edetate Calcium Disodium, Hydrate

Stabilizing agent

リウムを使わない処方を一から組み直すとなると,

Puriˆed Water

Solvent

ボスケールで製造したサンプルの加速試験( 40 ° C, 75 % RH, 6 ヵ月間)の結果を Fig. 2 に示す.亜硫

酸ナトリウムを配合していなかったサンプルは総類 縁物質量が 4%を超えたが,0.02%を配合したサン プルでは個々の類縁物質の規格を満足した.しか し,生産スケールで製造した際に,加熱により二酸 化硫黄(SO2)ガスが発生し,ラボスケールでは気 付かなったステンレスタンクの腐食が観察された. 新たにガストラップを取り付け SO2 ガスの除去を

既にフルスケールの実験の段階に達していたので, 開発は 1 年以上遅れることになる.一方,作業環境

2 つのエデト酸塩に高い安定化効果が認められた

濃度は 1 ppm 以下であったので,米国国立労働安

が,経口剤としての配合制限を考慮し,エデト酸カ

全衛生研究所の作業環境基準 2 ppm を下回ってい

ルシウム二ナトリウムを選択した結果,Table 2 に

た.これが 2 つめのトレードオフであった.

示した処方で純度試験規格をクリアできた.

開発スピードを優先し,作業環境の安全性を軽視

4.

服用し易い容器形状/製剤の容積

する選択はできないと判断し,亜硫酸ナトリウム添

認知症治療・ケアの現場で求められている剤形に

加以外の方法で安定性を向上させる検討を行うこと

関し,アリセプト錠を処方している医師 16 名,施

とした.主薬の分解の原因の 1 つに微量金属が関与

設の嘱託医師及び配置医師 4 名,摂食嚥下リハビリ

していることが判明したが,金属はゲル強度にも影

テーションの歯科医 1 名及び医師・看護師 14 名,

響を及ぼすため,非常に多くの処方検討を要した.

介護士 5 名に対してインタビュー調査を行った.

抗酸化剤のスクリーニングを行った加速試験

フィルム錠,細粒及び液剤(ボトル)に加えて,包

(40° の結果を Table 1 に示す. C, 75%RH, 1 ヵ月間)

装形態が異なる市販のカップ型ゼリー,スティック

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は,幸いにも市場からの苦情でカップの大きさに関 するものはほとんどなく,顧客にもカップ型ゼリー の意義を理解頂けたと考えている. 5.

嚥下し易いテクスチャー/ゼリーの容器付着

ゼリーの硬さは,平成 21 年 2 月 12 日食安発第 0212001 号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知

「特別用途食品の表示許可について」の第 6 で示さ れている 「えん下困難者用食品たる表示の許可基準」 の許可基準 I (硬度: 2500 10000 N / m2 ,付着性: 400 J / m3 以下,凝集性: 0.2 0.6 )の適合を目指し

た.しかし,介護老人保健施設,グループホーム及 Fig. 3. Number of People Who Chose Suitable Dosage Form for Patient with Dysphagia

びケアハウスの高齢者,介護者,医療者 50 人を対 象に,カップからゼリーをスプーンで取り出す実験 をしたところ,許可基準 I のゼリーでは柔らかすぎ

ゼリー,エアープッシュ方式スティックゼリーの 6

て,カップからうまく取り出せない高齢のパネラー

剤形から,嚥下困難のある認知症患者に最も適した

が多数いた.手の不自由なパネラーにとって取り出

剤形について尋ねた.結果を Fig. 3 に示す.処方

しが困難であることは予想がついていたが,実際は

医並びに嘱託医の評価は,カップ型ゼリーとエアー

視力の衰えによるカップへのゼリーの付着・残留が

プッシュ方式ゼリーはほぼ同等であった.錠剤,細

視認できないことが大きな原因であった.嚥下困難

粒剤並びに液剤を選んだ医師はいなかった.一方,

の患者用のゼリー剤としてテクスチャーを柔らかく

摂食嚥下リハビリテーション関連の医師,歯科医,

することと,カップからの取り出しをよくすること

看護師は全員がカップ型ゼリーを選んだ.これは,

はトレードオフの関係にあった.

個々の患者の嚥下能力,容体に合わせて,1 口の量

カップから取り出したゼリーの量は,すなわち用

をスプーンでスライスして調整できるゼリー剤が適

量と直結する.医薬品としてこれは妥協できない部

切であるという理由からであった.これに対し,介

分である.そこで,残念ながら許可基準 III(硬度:

護士は全員がエアープッシュ方式ゼリーを適してい

30020000 N/m2,付着性:1500 J/m3 以下,例えば

る剤形として評価した.ケアの現場では投薬された

まとまりのよいおかゆ)のテクスチャーにゼリーの

薬剤が,患者に服用されたことを確認する必要があ

設計目標を変更した.あわせて Fig. 4 に示すよう

り,スプーンで複数回に分けて服薬させなければな

な大きさ,高さ及び形状の異なるカップを試作し,

らないカップ型ゼリーは,業務上の大きな負担にな

これらにゼリーを充填後,先に述べた施設で使用性

ることが理由として挙げられていた.嚥下能力に合

を評価した.患者及び服薬介助者にとって開封し易

わせて量を調整できるカップ型ゼリーと,スプーン

く,扱い易く,取り出し易いカップのデザインを検

なしで手軽に投薬できるエアープッシュ方式ゼリー

討した結果,Fig. 5 に示すように手のひらに収まる

の間でトレードオフが生じた結果となった.また,

サイズで,スプーンが容易に入り,安定感のある広

ここでは紹介していないが薬剤師に対する調査では,

口薄型となった.また,ゼリーをスプーンですくい

カップ型はエアープッシュ方式と比較して非常に嵩

出し易いようにカップの底の角部に丸みをもたせ,

張り,倉庫スペースに負荷をかけるとの指摘も受け

さらに片手でカップを持ち易くするためカップの片

ていた.

側につばを付けたデザインとした.これらの工夫の

介護士の負担を軽減できること及び在庫スペース

結果,ゼリーの残留率は 3%以下にすることができ

が小さいことは非常に重要であるが,本剤は嚥下困

た.

難の課題を解決することが開発目的であることか

6.

ら,リハビリテーション医師の意見を重視し,カッ

の殺菌

プ型ゼリー剤を開発することに決定した.発売後

蓋のイージーピール/微生物品質保証のため

高齢者にも蓋が開け易いカップにすることは重要

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とはあり得るが,(3)の防腐剤により微生物汚染は 防止される設計である.しかし,ゼリーの充填後に カップ内で発生する水蒸気には防腐剤が含まれてい ないため,蓋材とカップの隙間に水滴が残留し,そ こに原料や工程から混入した微生物が存在した場 合,腐敗や黴の生成リスクを完全にゼロにはできな いと考えた.このため,殺菌工程は必須であると判 断した. Fig. 4.

Cups Made as Samples for Usability Evaluation

そこで,殺菌工程で剥がれない強さでアルミシー ルを接着する代わりに,カップの重心を低くして開

である.蓋のアルミシールをカップに強く接着しな

封操作時に倒れないようにし,前章で述べたように

いようにコントロールすることは容易であった.し

片手でも持ち易いデザインにして,蓋を開ける動作

かし,ここでトレードオフとなったのは,微生物品

をサポートするように対応した.

質保証のための殺菌工程であった.カップにゼリー

7.

を充填後,蓋のアルミをカップにシールした後に,

容量

過服用防止・チャイルドレジスタンス/包装

殺菌工程では所定の温度と時間で加熱する.この熱

先に述べたように,本製剤は酸化による分解が起

によりカップ内に封入された空気が膨張するため,

き易いため,抗酸化剤に加え,脱酸素剤を封入した

弱いシールだと蓋がはがれてしまい,密封が失わる

アルミピロー包装が必要であった.一方,本製剤は

ことになるのである.これを防止するためには,

拒薬を緩和するため,デザートのような外観と味の

カップ内の空気の膨張に耐え得るようシールしなけ

ゼリーを目指して設計したため,まさに食品のよう

ればならないが,蓋の開け易さが損なわれる.

に甘くおいしい蜂蜜レモン風味となっている.認知

ゼリー剤は極めて腐敗し易い剤形である(水分活

症の治療・ケアの場は主に在宅である.デザートの

性 0.99 以上).微生物を製品に混入させないために

ように美味しい製剤であれば,認知症患者自身によ

は,次の 3 点が重要である.

る過服用,あるいは幼児が同居していた場合の誤服

(1)

製造環境,製造用水及び製造工程の微生物

管理.

用のリスクが問題となった. Figure 6 にアルミピロー包装のイメージを示す.

(2)

原料,カップ及びシール材の微生物管理.

1 カップずつアルミピローで包装した場合,手の不

(3)

保存効力設計(安息香酸ナトリウム及びエ

自由な患者にとって毎回ピローを開ける負担が大き

チルパラベンの濃度). (1)と(2)を厳重に行っても,微生物が混入するこ

Fig. 5.

くなることに加え, 14 カップをまとめた箱が嵩高 となってしまう.これに対し,12 週間分をまとめ

(A) Appearance of AriceptOral Jelly Formulation and (B) Cup Shape and Size

(B) Unit: mm.

254

YAKUGAKU ZASSHI

Fig. 6.

(A) Single Dose Packaged in Aluminum Pillow and (B) Weekly Dose Packaged in Aluminum Pillow

てピローで包装すれば,ピローの開封は毎日行わな くとも,介護士などが訪問した際に開封しておくこ

村瀬

REFERENCES

このトレードオフへの対処は,利便性よりやはり 過服用の防止を重視し,アルミピローによる個包装

1)

とした.市販後,1 カップ包装に対する市場の反応 は,あまり問題となっていない.実際のゼリー剤の 服用は,介護士や家族がアルミピローを破った後に 患者にカップだけを手渡しているケースが多いと考 えられる.

2)

おわりに

内服ゼリー剤の製剤開発におけるトレードオフと いう切り口から,課題と対処法の一部を紹介した.

3)

このほかにも,製剤的工夫を加えるほど原価が上が り,利益,価格競争力を失うことや,他の剤形と異 なり一包化が困難であることなど多くの矛盾を抱え ている.これらのトレードオフは技術革新だけでは 克服することはできない.本稿において,対処でき

4) 5) 6)

なかった課題についても紹介したが,患者の課題を 真に理解するように努め,顧客視点で考え抜いて判 断していけば,結果的に顧客から許容され,評価さ

7)

れていくものと感じている.本稿が患者指向の次世 代型製剤を生む一助となれば幸いである. 利益相反

原田

8)

努(発表時:エーザイ株式会

社の社員.現在:バイオジェン・アイデック・ジャ パン株式会社の社員).安岡光一(エーザイ株式会 社の社員) .櫻井真帆(エーザイ株式会社の社員) .

司(エーザイ株式会社の社員).大脇孝行

(エーザイ株式会社の社員) .

とができる上に,箱の嵩は小さくなると考えられた.

8.

Vol. 135 No. 2 (2015)

9)

Asada T., The prevalence of Dementia in urban areas and response to disordered life function, Health and Labour Sciences Research Grant, Research Project to Deal with Dementia, March 2013. Yoshikawa M., Yoshida M., Nagasaki T., Tanimoto K., Tsuga K., Akagawa Y., Komatsu T., J. Gerontol. A Biol. Sci. Med. Sci., 60(4), 506 509 (2005). Du W., DiLuca C., Growdon J. H., J. Geriatr. Psychiatry Neurol., 6, 34 38 (1993). Feinberg M. J., Ekberg O., Segall L., Tully J., Radiology, 183, 811 814 (1992). Okada K., Kitakanto Med. J., 59, 9 14 (2009). Harada T., Kato T., Iwamoto K., Technical Report of IEICE. OME, 100(252), 125 130 (2000). Harada T., Kato T., Owaki T., Iwamoto K., PHARM TECH JAPAN, 17, 1367 1373 (2001). Harada T., Yasuoka K., Sakurai M., Murase 2205 T., PHARM TECH JAPAN, 27, 2199 (2011). Harada T., Sakurai M., Yasuoka K., Kato T., J. Japan Society of Pharmaceutical Machinery and Engineering, 21, 557 563 (2012).

[Development of a novel oral jelly formulation for elderly patients].

Deterioration of the swallowing function in elderly persons and drug refusal among the behavioral abnormalities in Alzheimer's disease (AD) are common...
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