日 泌 尿 会 誌,

83巻,

12号,

1992年:

2015∼2021

2015

一側水腎の対側腎発育にお よぼす影響 東北大学泌尿器科(主任: 折笠精一教授)

EFFECT

久慈

了

太田

章三

OF UNILATERAL

近 田龍 一 郎

折笠

精一

坂井

金田

隆志

HYDRONEPHROSIS

清英 UPON

CONTRALATERAL

RENAL

GROWTH

Satoru Kuji, Ryuichiro Konda, Seiichi Orikasa, Shozo Ota, Kiyohide Sakai and Takashi Kaneda Department of Urology, Tohoku University School of Medicine (Director: Prof. S. Orikasa)

To evaluate the effect of hydoronephrosis on the growth of contralateral normal kidney, following experiment was designed and performed. Experiment: Three to four weeks old S-D rats weighing 8090 g were used. The kidney development of these rats is considered to be roughly equivalent to that of a one year old child. Those rats were deviled into three groups: (1) left nephrectomy (group N), (2) left ureteral ligation (group H), and (3) sham operation (group S). Bromodeoxy uridine (BrdU) was administered intraperitoneally on the 1st, 3rd, 5th, 7th and 14th days after operations. One hour after injection of BrdU, right kidneys were removed and wet weight and labelling index (LI) of BrdU were calculated. Compensatory renal growth of right kidneys was observed in both group H and group N on and after 1st or 3rd day. In group N, the growth was accompanied by cellular proliferation, while in group H, hypertrophy was the major finding for up to 5th day. From 7th day on, when significant disorders became hystologically evident in the left hydronephrotic kidneys, cell proliferation was also observed in the group H. The above results indicate that compensatory renal growth occurred in the contralateral normal kidney after unilateral ureteral ligation. Although proliferation of right renal tubular cells were recognized when significant tubular and interstitial damage of the left hydronephrotic kidneys were observed, hypertrophy was a major finding in an early stage. We suggest that these results were attributed to (1) reduction of nephron triggered to proliferate tubular cells and (2) the existence of hydronephrotic kidney inhibited tubular cell proliferation. Key words: unilateral hydronephrosis, compensatory renal growth, tubular cell proliferation 要 旨: 一 側 水 腎 の 存 在 が 対 側 腎 発 育 に どの よ うな影 響 を あ た え る か に つ い て, 実 験 的 検 討 を 行 っ た. 実 験 は, 腎 の 発 育 が1歳 前 後 の 幼 小 児 と 同 等 と考 え ら れ る生 後3∼4週 g)を

用 い て, 1)左

け, 各 操 作 後1,

腎 摘 出 群(N群), 3,

5,

7,

摘 出, 腎 湿 重 量 とBrdUのlabelling この 結 果, N群

2)左

尿 管 結 紮 群(H群),

14日 目 にbromodeoxy

右 腎 に は1∼3日

対 し, H群 右 腎 で は 代 償 性 発 育 はN群

index(LI)を

3)sham

uridine(BrdU)を

の 雄S-Dラ

ッ ト(体 重80∼90

ope群(S群)の3群 腹 腔 内 投 与.

にわ

1時 間 後 に 腎 を

求 め た.

目 か ら尿 細 管 の 細 胞 増 殖 を 伴 う代 償 性 腎 発 育 が 認 め ら れ た.

これ に

とほ ぼ 同 時 期 か ら認 め られ た が, 5日 目 ま で はhypertrophyを

体 と し, 組 織 学 的 に 水 腎 側 の 高 度 障 害 を 認 め る7日

主

目以 降 に な る と, 細 胞 の 増 殖 が 加 わ って く る こ と が

判 明 し た. 以 上 の 結 果, 一 側 水 腎 作 製 後 対 側 腎 に代 償 性 腎 発 育 が 認 め られ る が, 初 期 に はhypertrophyを した も の で, 水 腎 側 尿 細 管,

主体 と

間 質 の 障 害 が 高 度 に な る と細 胞 の 増 殖 を 伴 うよ うに な る こ とが 判 明 し た.

こ の 原 因 と し て は, ネ フ ロ ン の 減 少 が 細 胞 増 殖 の 引 金 に な る, 水 腎 の 存 在 が 細 胞 増 殖 を 抑 制 す る要 因 と な る, の2つ

が 考 え られ た.

2016

キ ー ワー ド: 一 側 水 腎, 代 償 性 腎 発 育, 細 胞 増 殖

緒

図1

言

小 児 の一 側 先 天 性 水 腎 症 例 を 対 象 に 術 前 後 の 腎 機 能 の 推 移 をdimercaptosuccinic

acid(DMSA)腎

実験 方 法

腎 摘 出群(N群)25匹

左 腎 摘 後1,

摂 取率

で 観 察 し た と こ ろ, 術 後 患 側 の み で な く 対 側 腎 の DMSA腎

1)片

2)-側

3,

5,

7,

14日 目

右 腎: N-R

5,

7,

左 腎: H-L

水 腎 群(H群)25匹

左 尿 管 結 紮 後1,

3,

14日 目

摂 取 率 が 著 明 に 上 昇 す る 例 が 認 め られ

た1). こ う し た 症 例 は, い ず れ も 腎 が発 育 段 階 に あ る2

右 腎: H-R 3)Sham

ope群(S群)25匹

Sham

歳 ま で の もの で あ った. 健 側 腎 に は特 に 腎 機 能 障 害 を

ope後1,

3,

5,

7,

14日 目

左 腎: S-L 右 腎: S-R

もた らす 合 併 尿 路 疾 患 もな く, 対 側 水 腎 の 存 在 が 健 側 腎 発 育 を 抑 制 し, 閉 塞 解 除 に よ り発 育 が 促 進 され た た め, DMSA腎

摂 取 率 が 増 加 した もの と考 え られ た. こ

図2

BrdUの

tex,

の 興 味 あ る 現 象 は, 臨 床 的 に 極 め て 重 要 で あ る.

染 色 像(腎

摘 群 対 側 右 腎5日

目Cor-

x 100)

そ こで, 片 側 水 腎 が 対 側 腎 に お よぼ す 影 響 に つ い て, 特 に腎 発 育(肥

大, 増 生)に

着 目 し実 験 的 検 討 を 行 っ

た. 実-験方 法 腎 発 育 の 状 態 が1歳 る2)3∼4週

齢(体

ラ ッ トに エ-テ kgを

前 後 の 幼 小 児 と 同 等 と考 え られ

重80∼90g)の

雄Sprague

Dawley

ル お よ び ペ ン トバ ル ビ タ ー ル50mg/

腹 腔 内 注 射 し て 麻 酔 を 行 い, 以 下 の3群

に分 けて

実 験 し た(図1)1)片

腎 摘 出 群(N群)25匹:

左傍 腹直 筋切 開 にて 開

腹 し, 左 腎 を 摘 出 した. 2)水

腎 作 製 群(H群)25匹:

同 様 に 開 腹 し, 左 尿 管 フ ィ ン後2NのHC1で30分

上 部 を 絹 糸 に て 完 全 結 紮 し た. 3)sham

operation群(S群)25匹:

同 様 に 開 腹 し,

上 記 の 操 作 後 各 群5匹

ず つ,

1,

3,

5,

7,

14日

BrdU(bromodeoxy-uridine)を50mg/mlと うに生 理 食 塩 水 に 溶 解 し, 50mg/kgのBrdUを

は 右 腎 摘, H群

時 間)反

腹腔 内

ス抗 体(Bectostain社

とS群

は 両 側 腎 摘 を 行 った. 摘 出 腎 は 直 ち に 二 分 割 し, 腎 周 囲 脂 肪 組 織 と尿 管,

腎 外 腎 孟 を 切 除 した.

さ らに 割 面

応 さ せ た.

製)と1時

ABC液(Bectostain社

製)と1時

冷 エ タ ノ-ル

に入 れ て 固 定 し 冷 蔵 庫 に保 存 した.

らの 操 作 は午 後3時

か ら5時

これ

の 間 に 行 った.

シ リ ンに3分

間 浸 して 発 色 させ た 後,

間 浸 し て核 染 を 行 い封 入 した.

そ れ ぞ れ 染 色 さ れ た 標 本(図2)をcortex(C),

と し, 一 部 はHE染 てBrdUの

色, 一 部 は 以 下 の よ うにABC法

に

組 織 染 色3)∼7)を行 っ た. す な わ ち, 脱 パ ラ

inner medulla(IM)の3つ

さ

ヘ マ トキ

outer に分 け,

所 を200倍 の 顕 微 鏡 で 観

察 し, 視 野 内 の 尿 細 管 細 胞 の核 を 数 え, これ に 対 す る BrdUが

取 り込 ま れ て い る染 色 細 胞 核 の 比 率(label-

1ing index,

エ タ ノ ー ル 固 定 標 本 は, パ ラ フ ィン 包 埋 後3μ の 切 片

間 半 反 応 させ た.

に5分

お の お の の 部 位 で 任 意 に5ヵ

また, 単 位 体 重 あ た

間 反 応 させ, つ い で

ら にDAB液

す み や か に 腎 湿 重 量 を 測 定 し た.

求 め た. 摘 出 腎 は70%

ノ

製)を 一 晩(約15

2次 抗 体 と して ビオ チ ン化 抗 マ ウ

medulla(OM),

BW)も

buffer saline)

Dickson社

に 濾 紙 を あ て て血 液 や 尿 を で き る だ け 吸 収 させ た 後,

りの 腎 湿 重 量(mg/100g

メ タ ノ ー ル で5分,

で30分 処 理 し た. この 後, 100倍 希 釈 した 抗BrdUモ

な るよ

間 後 に 前 記 と 同様 に 麻 酔 を 行 い,

ま ず 体 重 を 測 定 した. 次 にN群

3%H202加

キ ム ミル ク 加PBS(phosphate

ク ロ ー ナ ル 抗 体(Becton

目 に そ れ ぞ れ 次 の 操 作 を 行 った.

に 注 射 し た. 注 射1時

(ボ ラ ック ス)で 中 和, 1%ス

左 腎 周 囲 の 剥 離 の み を 行 っ た.

処 理 し, 0. 1MのNa2B407

以 下LI)を

求 め た. こ の 際, 間 質 細 胞 や

糸球 体 細 胞 は カ ウ ン トせ ず,

また染 色 されて い るか ど

うか ま ぎ らわ し い 細 胞 核 は カ ウ ン トか ら 除 外 した以 上 の 実 験 で, そ れ ぞ れ5匹

の 平 均 と標 準 偏 差

2017

(mean±SD)を

求 め, t検 定 に て 比 較 検 討 を 行 っ た. 結

1)体

果

向(p