日 内 分 泌 会 誌,(Folia
endocrinol.)68.1∼10.1992
1
依頼総説 視 床 下 部 神 経 活 動 の モ ニ ター法 ―GnRH分 泌 に伴 う神 経 活 動 の変 化 ― 東 京大学 農学 部獣 医 生理学 教 室1),同 獣 医動 物行 動学 教室2) 横 浜市 立大 学 医学部 第二 生理 学教 室3) 西
原
真
杉1),比 留 間
Electrophysiological
弘
美3),森
裕
studies on the hypothalamic GnRH pulse generator
Masugi NISHIHARA 1), HiromiHIRUMA Department
of Veterinary
Physiology 1
The University
of Tokyo,
Yokohama
Gonadal gland
techniques, the
GnRH
pulse
characteristics initiation
increases
of pulsatile
hypothalamus
of the monkey,
the increased
electrical
and experimental of the GnRH central
LH
component
of the
of Veterinary
of Medicine 2
is governed
been
unitary under
neuroendocrine
control
system
in the
which
is associated basal
between
of physiological
the electrical
provide
of the
recording
medial
relationship
a variety
that the MUA volleys represent MUA recordings
activation (MUA)
each of which recorded
An unambiguous
and the LH pulse
Hypothalamic
from the pituitary
unit activity
activity,
have
secreted
by the periodic
of multiple
secretion,
Ethology 3,
of Physiology,
on gonadotropins
in the neuronal
(volley)
indicates
pulsegenerator.
School
By means
rat andgoat.
activity
conditions
depends
This pulsatility generator.
2)and Yuji MORI 3)
and Department and Department
City University
in mammals
in a pulsatilemanner.
hypothalamic
with
function
司2)
direct governs
activity
access to the reproductive
function.
Key words :Hypothalamus,
Pulsatile
LHsecretion,
GnRH pulse generator,
Multiple unit activity
は
じ
め
に
視床 下部 は 生体 の 自律 機 能制御 系 の高 次中枢 と して,内 分 泌機 能 や 自律 神経 活動,さ らに摂食行 動 や性 行動 な ど本能 行動 の調 節 に与 って い る。 そ のた め に,視 床 下部 は脳 の他 の領域 か ら神経 性 の 入 力 を受 け る とと もに,液 性 情報 を直接 受容 で き るニ ュー ロンを包含 し,生 体 の 内部環境 を総合 的 にモ ニ タ リン グ して い る。 さらにそ こか らの 出力 も,脳 幹 を下 降 して脊髄 の 自律神経 や運 動 神経 の 興 奮性 を調 節 す る神 経性 の 出力 のみ な らず,視 床下 部 ホル モ ンと呼 ばれ る一群 の ホル モ ンを産 生 し 末梢 血 管 に分泌 す るなど,液 性 の情報 も出力 して い る。 この よ うに,視 床 下部 に は液 性情 報感 受性 第68巻
第1号
パ ル ス状LH分
2
泌 と視 床 下 部 神経 活 動(西 原,他2名)
ニ ュ ー ロ ンや ホ ル モ ン産 生 ニ ュ ー ロ ンな ど特 殊 に分 化 した ニ ュー ロ ン群 が 存 在 し,組 織 化 学 的 手 法, あ るい は 電 気 生 理 学 的 手 法 を用 い て,こ れ て き た 。 そ して,現 い は 浸 透 圧,温
れ ら特 定 の 機 能 を も つ ニ ュ ー ロ ン群 を 同 定 す る試 み が な さ
在 で は ブ ド ウ糖 な ど の 栄 養 関 連 物 質 や エ ス トロ ジ ェ ンな ど の ホ ル モ ン,あ
度 な ど に反 応 す る ニ ュ ー ロ ン,さ
る
ら に オ キ シ トシ ンや バ ゾ プ レ ッ シ ンな ど 下 垂 体 後
葉 ホ ル モ ン を分 泌 す る大 細 胞 性 神 経 分 泌 ニ ュ ー ロ ン な ど の電 気 活 動 が 記 録 で き る よ う に な っ て い る 。 こ の よ うな 特 定 の 機 能 を持 つ こ と が 同 定 さ れ た ニ ュ ー ロ ン の電 気 活 動 は,自 部 に よ る統 合,支
の 制 御 機 構 の 研 究 が 盛 ん に 行 な わ れ て い る 。 しか しな が ら,こ 下,あ
るい は拘 束 条 件 下 で 急 性 的 に 行 な わ れ,必
ま た,下
律機 能 や行動 の視 床下
配 機 序 の 解 析 に 非 常 に 有 力 な パ ラ メ ー タ ー と な り,こ れ らの ニ ュ ー ロ ンの 興 奮 性 の よ うな 電 気 活 動 の記 録 は 通 常 麻 酔
ず し も生 理 的 状 態 を反 映 して い な い 可 能 性 が あ る 。
垂 体 前 葉 ホ ル モ ン の 分 泌 を 調 節 して い る小 細 胞 性 神 経 分 泌 ニ ュ ー ロ ンの 電 気 生 理 学 的 同定
に つ い て は,現 Knobilら
在 に 至 る ま で は ほ と ん ど な さ れ て い な い 。 こ の よ う な 状 況 の 中 で,我
の グル ー プ1)によ っ て ア カ ゲ ザ ル を 用 い て 開 発 され た 手 法 を も と に,自
々 は最 近
由行 動 下 の ラ ッ ト
お よ び シ バ ヤ ギ の 視 床 下 部 か ら性 腺 刺 激 ホ ル モ ン の 分 泌 を特 異 的 に支 配 す る ニ ュ ー ロ ン群 の 電 気 活 動 を慢 性 的 に 記 録 す る こ と に成 功 した 。 こ こ で は こ の よ うな 視 床 下 部 電 気 活 動 の 記 録 法,そ ま た,こ
の 特 徴,
の 電 気 活 動 を パ ラ メー ター と した 我 々 の 最 近 の 実 験 に つ い て 述 べ て み た い 。 パ ル ス 状LH分
泌 同期 性 神 経 活 動 の 記 録
下 垂 体 か らの 性 腺 刺 激 ホ ル モ ン の 分 泌 は,持
続 的 に で は な く間 歇 的 に,す
な わ ち パ ル ス状 に行 な
わ れ て い る2)。こ れ は 視 床 下 部 よ り下 垂 体 門 脈 血 中 に 性 腺 刺 激 ホ ル モ ン放 出 ホ ル モ ン(GnRH)が
パ
ル ス 状 に 放 出 され る こ と に よ る3)。性 腺 機 能 は こ の 性 腺 刺 激 ホ ル モ ンの パ ル ス パ タ ー ン に 依 存 して お り,パ ル ス 頻 度 の 生 理 的 頻 度 か らの 逸 脱 は,卵 の 退 行 を 招 く4)5)。 す な わ ち,生 制 御 の み な らず,パ そ して,光
胞 発 育,精
子 形 成,あ
殖 系 の 機 能 制 御 に お い て は,ホ
る い は ス テ ロ イ ド合 成 な ど
ル モ ン の 血 中 濃 度 に よ る ア ナ ロ グ的
ル ス頻 度 に よ る デ ジ タ ル 的 制 御 と い っ た側 面 も重 要 な 生 理 的 意 義 を持 って い る。
周 期,ス
ト レス,栄
養 状 態,フ
ェ ロ モ ン,吸 乳 刺 激 な ど の 外 部 環 境 因 子 は,ま
部 に存 在 す るGnRHを
パ ル ス 状 に放 出 す るた め の 神 経 機 構,す
に働 き か け,GnRHの
パ ル ス パ タ ー ン を 変 化 さ せ る こ と に よ り性 腺 機 能 に 影 響 を 与 え て い る と い
え る6)。従 って,GnRHパ
な わ ちGnRHパ
ず視床 下
ル ス ジ ェネ レー タ ー
ル ス ジ ェ ネ レ ー タ ー の 電 気 活 動 を直 接 記 録 す る こ と が で き れ ば,性
腺機
能 の 中枢 性 調 節 機 序 解 明 の た め の 極 め て 有 力 な パ ラ メー ター と な り得 る 。 こ の よ うな 想 定 の も と に,パ
ル ス 状 の 黄 体 形 成 ホ ル モ ン(LH)分
を 記 録 し よ う と い う試 み が,Knobilら7)に す る た め に 必 要 なGnRHを
下 垂 体 門 脈 に放 出 す る た め に は,多
発 火 して い る こ と が 考 え られ,こ
泌 と同 期 す る視 床 下 部 神 経 活 動
よ りア カ ゲ ザ ル を用 い て 始 め られ た 。LHパ くのGnRHニ
の 実 験 に お い て は,麻
ュー ロ ンが同期 して
の 神 経 活 動 を 記 録 す る 確 率 の 向 上 を 図 る た め,多
の 活 動 電 位 を 同 時 に 記 録 して 解 析 す る 多 ニ ュ ー ロ ン発 射 活 動(MUA)記
ル ス を誘起
数 の ニ ュー ロ ン
録法 が用 い られ た。初 期
酔 下 で 脳 定 位 固 定 装 置 に 固 定 され た ア カ ゲ ザ ル の 視 床 下 部 内 側 底 部 よ り,単
一 電 極 に よ り記 録 す る 方 法 が 試 み られ
,LHパ
ル ス と 同 期 して 顕 著 に 上 昇 す るMUAが
こ と が 初 め て証 明 さ れ た 。 同 様 の 手 法 に よ り,Kawakamiら8)に 泌 と 同 期 す る視 床 下 部MUAが
記録できる
よ り ラ ッ トか ら も パ ル ス 状LH分
記 録 さ れ て い る。 こ れ ら は い ず れ も麻 酔 下 で の 急 性 的 実 験 で あ り,
生 理 学 的 実 験 へ の 応 用 は 限 られ て い た が,Knobilら 無 麻 酔 の 動 物 よ り慢 性 的 に視 床 下 部MUAを
の グル ー プ1)は さ ら に植 え込 み 型 電 極 を用 い て
記 録 す る方 法 を 開 発 した 。 図1は 卵 巣 摘 除 ア カ ゲ ザ ル 第68巻
第1号
日 か ら記 録 され た 視 床 下 部MUAの volley)が
本
内
例 で,パ
分
泌
学
ル ス 状LH分
会
雑
誌
2
泌 と 同期 す る特 異 的MUAの
観 察 され る。
Fig. 1
Correlation between LH pulses and MUA volleys in an awake ovariectomized rhesus monkey. (From Williams et al. 13))
Fig.
Schematic
2
illustration
of the MUA recording
第68巻
第1号
system
for the rat.
上 昇(MUA
パ ル ス状LH分
4
こ の よ うな 手 法 を も と に,我 りLHパ
泌 と視床 下 部 神経 活 動(西 原,他2名)
々 は 最 近,自
ル ス と 同 期 す るMUAを
由行 動 下 の ラ ッ ト9)10),および シ バ ヤ ギ11)の視 床 下 部 よ
記 録 す る シ ス テ ム を 開 発 し た 。 図2に は そ の シ ス テ ム の 概 要 を 示
した 。 動 物 に は 多 数 の プ ラ チ ナ ・イ リ ジ ウ ム 線 よ りな る記 録 電 極 を 視 床 下 部 内 側 底 部 に植 え込 み, 歯 科 用 セ メ ン トで 固 定 す る。 そ して,電
気 活 動 の 記 録 に 際 して はICを
用 いて ボルテ ー ジ フォ ロ ワ
回 路 を 組 み 込 ん だ バ ッフ ァ ー ア ン プ を 直 接 記 録 電 極 に 接 続 す る こ と に よ り,高 イ ン ピー ダ ン ス の 記 録 電 極 か ら得 られ る入 力 信 号 を 低 イ ン ピ ー ダ ン ス の 出 力 信 号 に 変 換 し,リ ー ド線 の 動 き に よ る ア ー チ フ ァ ク トを 低 減 して い る。 さ ら に,2本
の電極 間 の差 動記 録 を行 ない同 相信 号 を除 去す るこ とに
よ り,咀 嚼 時 な ど に 発 生 す る 筋 電 図 な ど に 由来 す る ア ー チ フ ァ ク トに つ い て も低 減 を 図 って い る 。 得 ら れ た 信 号 は そ の 振 幅 に よ っ て 弁 別 を 行 な い,一 りの 数 を,ペ
定 以 上 の振 幅 を 持 っ た 活 動 電 位 の 単 位 時 間 当 た
ン レ コー ダー あ るい は パ ー ソ ナ ル コ ン ピ ュ ー タ ー に 記 録 す る。 こ の よ うな 方 法 に よ り,
自 由行 動 下 の 卵 巣 摘 除 ラ ッ ト,お よ び シ バ ヤ ギ よ り記 録 され たLHパ
ル ス と 同 期 す るMUA
を そ れ ぞ れ 図3お よ び4に 示 した 。
Fig. 3
Fig. 4
Correlation between LH pulses and MUA volleys in a freely moving ovariectomizedrat. (From Kimura etal. 9))
Correlation between LH pulses and MUA ovariectomized goat. (From Mori etal. 11)) 第68巻
第1号
volleys
in
an
awake
volley
日
本
内
分
パ ル ス 状LH分 パ ル ス状LH分
泌 と 同 期 す るMUAを
泌
学
会
雑
誌
5
泌 同期 性 神 経 活 動 の 特 徴
記 録 す る ことに よ り
,無 麻 酔 の 動 物 よ り,長 期 間 に わ た っ
て リア ル タ イ ム でGnRH分
泌 を 支 配 す る視 床 下 部 神 経 活 動 を モ ニ タ ー で き る よ う に な っ た 。 卵 巣
を 摘 除 した ア カ ゲ ザ ル,ラ
ッ ト,シ バ ヤ ギ の 視 床 下 部 か ら記 録 さ れ たMUA
種 に 特 有 な パ タ ー ン を 示 した(図1,3,お シ バ ヤ ギ,ラ
よ び4)。 す な わ ち,MUA
ッ トの 順 に 約60分,40分,20分,持 間 隔 お よ び 持 続 時 間 に つ い て は,例
ン13)などLH分
泌 を 抑 制 す る こ と が知 ら れ て い る 物 質 は,用
は,用 GnRHパ
間 隔 は,ア
続 時 間 は 同 じ く約15分,4分,2分
MUAvolleyの
縮 す る こ と が 示 さ れ て い る。 ま た 逆 に,LH分
volleyの
volleyは,そ
れぞれ カ ゲ ザ ル,
であ った。 この
え ば コル チ コ トロ ピ ン放 出 ホ ル モ ン12)やモ ル フ ィ 量 依 存 性 に 間 隔 を 延 長 し持 続 時 間 を 短
泌 を 促 進 す る オ ピ オ イ ド受 容 体 阻 害 剤 の ナ ロキ ソ ン
量 依 存 性 に 間 隔 を 短 縮 し持 続 時 間 を 延 長 す る9)。 す な わ ち,こ
れ ら の パ ラ メ ー タ ー は,
ル ス ジ ェ ネ レー ター の 興 奮 性 に 影 響 を 与 え る 因 子 の 効 果 に つ い て,高
精 度 の解 析 を可 能
と して い る。
Fig. 5
Correlation between LH pulses and MUA volleys in a freely moving intact rhesus monkey during the follicular phase of the menstrualcycle.
興 味 深 い こ と に,卵
(From O' Byrne etal.14))
巣 を 摘 除 して い な い 正 常 の ア カ ゲ ザ ル の 卵 胞 期 で は,MUAvolleyの
間 は 約3分 間 で あ る こ と が 最 近 示 され て い る14)(図5)。 卵 巣 摘 除 動 物 のMUAvolleyの ス トロ ジ ェ ンの 投 与 に よ り短 縮 す る こ と15)から,卵 性 ス テ ロ イ ドに よ る抑 制 の 解 除 に よ りGnRHパ
巣 摘 除 後 のMUAvolleyの
の 調 節 機 序 に つ い て は ま だ 不 明 の 点 が 多 い 。 た だ,GnRHや
MUAvolleyの
volleyに
開 始 や 終 了 に,LHあ
持 続 時 間 の 延 長 は,
ル ス ジ ェ ネ レー タ ー を 構 成 す る ニ ュ ー ロ ン の 興 奮
性 が増 大 して い る こ と を反 映 して い る も の と考 え られ る 。 しか し,MUAvolleyの
室 内 に投 与 して も,MUA
持続 時 持 続時 間 が エ
間隔 や持 続時 間
そ の ア ン タ ゴ ニ ス トを 末 梢 血 中 や 脳
対 して 影 響 が な い こ と が ア カ ゲ ザ ル に お い て 示 さ れ て お り, る い はGnRHに
よ る シ ョー トル ー プ あ る い は ウ ル トラ シ ョー
トル ー プ ・フ ィー ドバ ッ ク機 構 は 関 与 して い な い こ と が 示 唆 さ れ て い る。 第68巻
第1号
パル ス状LH分
6
こ の よ う なMUA
volleyを
泌 と視 床 下部 神 経 活 動(西 原,他2名)
パ ラ メ ー タ ー と す る こ と に よ り,同 一 の 個 体 よ り慢 性 的 にLHの
分
泌 動 態 を 知 る こ と が で き る よ う に な り,こ の こ とは 特 に ラ ッ トの よ うに 長 時 間 に わ た る連 続 採 血 の で き な い 小 動 物 に お い て は 大 き な利 点 と な って い る。 ま た,薬 垂 体 作 用 を 合 わ せ 持 つ も の が あ り,血 中LHレ
物 や ホ ル モ ンの 中 に は 中 枢 作 用 と下
ベ ル の 変 化 を パ ラ メ ー ター と し た の で は 両 者 に対 す
る 複 合 的 作 用 の 結 果 を見 て い る こ と に な るが,MUA
volleyを
れ ら の 中 枢 作 用 の み を直 接 検 討 で き る。 ま た,実 験 の 結 果 が,採
パ ラ メー ター と す る こ と に よ り,そ 血 頻 度 や ホ ル モ ンア ッセ イ の精 度,
あ る い は パ ル ス を決 定 す る た め の 方 法 な ど に影 響 さ れ な い な ど の 特 長 も持 って い る。 現 在 の と こ ろ,GnRHパ volleyが GnRHニ ず,MUA
ル ス ジ ェ ネ レ ー タ ー を 構 成 す る ニ ュ ー ロ ン の 実 体,あ
る い はMUA
具 体 的 に ど の ニ ュ ー ロ ン か ら記 録 され て い る か と い う点 に つ い て は 不 明 で あ る。 し か し, ュ ー ロ ン の 細 胞 体 の 分 布 は ア カ ゲ ザ ル,シ volleyは
バ ヤ ギ,ラ
ッ トに お い て 異 な る に も か か わ ら
volleyはGnRHニ
ど の 動 物 種 に お い て も視 床 下 部 内 側 底 部 か ら 記 録 され る こ と か ら,こ ュ ー ロ ン の 軸 索,あ
が 高 い と考 え られ る。 しか し,GnRHニ
る い は そ の 神 経 終 末 の 集 合 部 位 か ら記 録 さ れ て い る可 能 性 ュ ー ロ ン そ の も の か ら で は な く,そ れ を 駆 動 す る 別 の オ
シ レー タ ー が 存 在 し,そ の 神 経 活 動 を 記 録 して い る 可 能 性 も否 定 で き な い 。
Fig. 6
のMUA
Effects of a single injection of phenoxybenzamine (PHE, 5mg/kg i.v., upper panel) and propranolol (PRO, 5mg/kgi.v., lower panel) on LH pulses and MUA volleys in freely moving ovariectomizedrats. (From Nishihara et al. 10)) 第68巻
第1号
日
Fig. 7
本
内
分
泌
学
雑
誌
ル ス ジ ェネ レー ター の興 奮 性 調 節
性 腺 刺 激 ホ ル モ ン分 泌 の 中 枢 性 調 節 に 関 して は,多
くの 神 経 伝 達 物 質 が 関 与 して い る こ とが 示 唆
こで は ノル エ ピ ネ フ リン と オ ピ オ イ ドペ プ チ ドの 作 用 に つ い て,MUAを
タ ー と して 検 討 を 行 な っ た 実 験10)につ い て 簡 単 に 紹 介 し た い 。 ま ず,ノ プ タ ー 阻 害 剤 で あ る フ ェ ノ キ シ ベ ンザ ミ ン,あ ル のMUA と も にMUA
volleyの
volleyの
と,フ
る い は β-レ セ プ タ ー 阻 害 剤 で あ る プ ロ プ ラ ノ ロー
出 現 頻 度 を 低 下 さ せ る こ と が 判 明 し,ノ
示 した よ うに,両
者は
ル エ ピネ フ リンは αお よび βの両
ル ス ジ ェ ネ レー ター の 興 奮 性 を 維 持 して い る こ と が 示 唆 され た 。 一
ピオ イ ドレセ プ ター 阻 害 剤 の ナ ロキ ソ ン の 投 与 に よ りMUA
オ ピ オ イ ドペ プ チ ドは 持 続 的 にGnRHパ れ た 。 さ ら に,ナ
パ ラ メー
ル エ ピ ネ フ リン の α-レ セ
出 現 パ タ ー ン に 対 す る効 果 を 調 べ た 。 そ の結 果,図6に
レ セ プ ター を 介 してGnRHパ 方,オ
7
Effects of a single injection of naloxone (NAL, 2mg/kg i.v.) on LH pulses and MUA volleys in freely moving ovariectomizedrats. (From Nishihara etal. 10))
神 経 伝 達 物 質 に よ るGnRHパ
され て い る が,こ
会
volleyの
出現 が 促 進 され(図7),
ル ス ジ ェ ネ レー タ ー の 興 奮 性 を 抑 制 して い る こ と が 示 さ
ロ キ ソ ン を フ ェ ノ キ シ ベ ン ザ ミ ン,ま た は プ ロ プ ラ ノ ロー ル 投 与 直 後 に 投 与 す る
ェ ノ キ シ ベ ン ザ ミ ン の 存 在 下 で は ナ ロ キ ソ ン のMUA
な くな る こ と が 判 明 した(図8)。
これ らの 結 果 よ り,オ
ネ フ リ ン の α-作 用 が 必 要 な こ と,換
言 す れ ば,オ
対 す る促 進 的 作 用 が 発 現 し
ピオ イ ドペ プ チ ドは ノ ル エ ピ ネ フ リン の α-レ
セ プ ター へ の 神 経 伝 達 を抑 制 す る こ と に よ り,GnRHパ い る こ と が 考 え られ た(図9)。 第68巻
volleyに
ピ オ イ ドペ プ チ ドの 作 用 発 現 に は ノ ル エ ピ
第1号
ル ス ジ ェ ネ レ ー タ ー の 興 奮 性 を抑 制 して
パル ス状LH分
8
Fig. 8
Fig. 9
泌 と視 床 下部 神 経 活 動(西 原,他2名)
Effects of naloxone(NAL, 2mg/kg i.v.) injected 10min after the injection of phenoxybenzamine (PHE, 5mg/kg i.v., upper panel) or propranolol(PRO, 5mg/kg i.v., lower panel) on LH pulses and MUA volleys in freely moving ovariectomizedrats. (From Nishihara etal. 10)
Schematic and opioid
diagram
summarizing
peptidergic
systems
the interactions in controlling
activity. 第68巻
第1号
between the noradrenergic the LHRH pulse
generator
日
本
内
分
泌
学
会
雑
誌
9
オ ピ オ イ ドペ プ チ ドは ス トレ ス16)や性 ス テ ロ イ ド17)18)の 性 腺 刺 激 ホ ル モ ン 分 泌 に対 す る抑 制 作 用 を 中 継 して い る こ とが 示 唆 さ れ て お り,抑 制 系 の 最 終 共 通 経 路 と してGnRHパ
ル ス ジ ェ ネ レー ター
に 対 す る抑 制 的 トー ン を形 成 し,ノ ル エ ピ ネ フ リ ン の 促 進 的 トー ンを 減 弱 す る と い う形 で パ ル ス 頻 度 の 決 定 に 関 与 して い る可 能 性 が 考 え られ る 。 お
わ
り
に
動 物 の 自律 機 能 や 行 動 な ど特 定 の 機 能 を 支 配 す る ニ ュ ー ロ ンの 電 気 活 動 は,本
来 生 理 的 な状 態 で,
す な わ ち 自 由行 動 下 で 記 録 さ れ る べ き も の で あ る が,技 術 的 な 困 難 か ら ほ と ん ど行 な わ れ て い な い 。 こ こで は,MUA記
録 法 を 用 い る こ と に よ り,自 由 行 動 下 の 動 物 よ り パ ル ス 状LH分
泌 と同期 す る
視 床 下 部 神 経 活 動 を慢 性 的 に モ ニ タ ー す る こ と が で き る こ と を 示 し た。 こ の よ う な神 経 活 動 は,特 定 の 生 理 機 能 を制 御 す る 中 枢 機 序 解 明 の た め の パ ラ メー ター と な るば か りで は な く,そ の 生 理 機 能 発 現 に対 す る 環 境 因 子 や 生 理 活 性 物 質 の 効 果 を評 価 す る バ イ オ ア ッ セ イ 系 の優 れ た パ ラ メ ー タ ー に も な り得 る 。 この 手 法 は,他
に も様 々 な情 動 反 応,運
動,知
覚,反
射 な ど に 関 与 して い る ニ ュー ロ
ンの 電 気 活 動 を 生 理 的 状 態 で 連 続 的 に モ ニ タ ー す る こ と に も利 用 で き,さ
ら に テ レ メ ト リー シ ス テ
ム な ど を 組 み 合 わ せ る こ と に よ り,広 範 な 分 野 の 研 究 に応 用 可 能 で あ る と 考 え られ る。 文
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第1号
of
Naloxone increases the
of the electrical activity of luteinizinghormone-releasing
generator inlong-term
correlates
hormone
pulse
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10
パ ル ス状LH分
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releasing hormone pulse generator
Differential effects ofmorphine. 14) O'Byrne,K.T.,Thalabard,
Neuroendocrinology,52:225-228,1990. J.-C.,
Grosser,P.M.,Wilson,R.C.,Williams,C.L.,
Chen,M.-D.,Ladendorf,D.,Hotchkiss,J. monitoring
of hypothalamic
in the rhesusmonkey:
and Knobil,E.:
Radiotelemetric
gonadotropin - releasing hormone pulse generator
throughout the menstrual cycle of the rhesus monkey. Endocrinology,
activity
129:1207-1214,
1991. 15) Kesner,J.S.,Wilson, Pard,R.R.
R .C.,Kaufman,J.-M.,Hotchkiss,J.,Chen,Y.,Yamamoto,H.,
and Knobil, E.: Unexpected responses of the hypothalamic
releasing hormone"pulse
gonadotropin-
generator" to physiological estradiol inputs in the absence of the
ovary.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84:8745-8749,1987. 16) Petraglia, F., Vale, W. and Rivier, C.: Opioids act centrally to modulate stress-induced decrease in luteinizing hormone in the rat. Endocrinology,119:2445-2450,1986. 17) Ferin, M., Van Vugt, D. and Wardlaw, S.: The hypothalamic control of the menstrual cycle and the role of endogenous 441-485,1984. 18) Williams, C.L., Knobil,E.:
opioid peptides.
Nishihara, M., Thalabard,
The hypothalamic
J.-C.,
Rec. Prog. Grosser, P.M.,
GnRH pulse generator
Horm.
Res.,40:
Hotchkiss, J. and
of the rhesus
monkey:
The
duration of phasic electrical activity and its control. Abstracts of 18th Annual Meeting of Society for Neuroscience, Toronto, p.1068,1988.
第68巻
第1号
endocrinol.)68.1∼10.1992
1
依頼総説 視 床 下 部 神 経 活 動 の モ ニ ター法 ―GnRH分 泌 に伴 う神 経 活 動 の変 化 ― 東 京大学 農学 部獣 医 生理学 教 室1),同 獣 医動 物行 動学 教室2) 横 浜市 立大 学 医学部 第二 生理 学教 室3) 西
原
真
杉1),比 留 間
Electrophysiological
弘
美3),森
裕
studies on the hypothalamic GnRH pulse generator
Masugi NISHIHARA 1), HiromiHIRUMA Department
of Veterinary
Physiology 1
The University
of Tokyo,
Yokohama
Gonadal gland
techniques, the
GnRH
pulse
characteristics initiation
increases
of pulsatile
hypothalamus
of the monkey,
the increased
electrical
and experimental of the GnRH central
LH
component
of the
of Veterinary
of Medicine 2
is governed
been
unitary under
neuroendocrine
control
system
in the
which
is associated basal
between
of physiological
the electrical
provide
of the
recording
medial
relationship
a variety
that the MUA volleys represent MUA recordings
activation (MUA)
each of which recorded
An unambiguous
and the LH pulse
Hypothalamic
from the pituitary
unit activity
activity,
have
secreted
by the periodic
of multiple
secretion,
Ethology 3,
of Physiology,
on gonadotropins
in the neuronal
(volley)
indicates
pulsegenerator.
School
By means
rat andgoat.
activity
conditions
depends
This pulsatility generator.
2)and Yuji MORI 3)
and Department and Department
City University
in mammals
in a pulsatilemanner.
hypothalamic
with
function
司2)
direct governs
activity
access to the reproductive
function.
Key words :Hypothalamus,
Pulsatile
LHsecretion,
GnRH pulse generator,
Multiple unit activity
は
じ
め
に
視床 下部 は 生体 の 自律 機 能制御 系 の高 次中枢 と して,内 分 泌機 能 や 自律 神経 活動,さ らに摂食行 動 や性 行動 な ど本能 行動 の調 節 に与 って い る。 そ のた め に,視 床 下部 は脳 の他 の領域 か ら神経 性 の 入 力 を受 け る とと もに,液 性 情報 を直接 受容 で き るニ ュー ロンを包含 し,生 体 の 内部環境 を総合 的 にモ ニ タ リン グ して い る。 さらにそ こか らの 出力 も,脳 幹 を下 降 して脊髄 の 自律神経 や運 動 神経 の 興 奮性 を調 節 す る神 経性 の 出力 のみ な らず,視 床下 部 ホル モ ンと呼 ばれ る一群 の ホル モ ンを産 生 し 末梢 血 管 に分泌 す るなど,液 性 の情報 も出力 して い る。 この よ うに,視 床 下部 に は液 性情 報感 受性 第68巻
第1号
パ ル ス状LH分
2
泌 と視 床 下 部 神経 活 動(西 原,他2名)
ニ ュ ー ロ ンや ホ ル モ ン産 生 ニ ュ ー ロ ンな ど特 殊 に分 化 した ニ ュー ロ ン群 が 存 在 し,組 織 化 学 的 手 法, あ るい は 電 気 生 理 学 的 手 法 を用 い て,こ れ て き た 。 そ して,現 い は 浸 透 圧,温
れ ら特 定 の 機 能 を も つ ニ ュ ー ロ ン群 を 同 定 す る試 み が な さ
在 で は ブ ド ウ糖 な ど の 栄 養 関 連 物 質 や エ ス トロ ジ ェ ンな ど の ホ ル モ ン,あ
度 な ど に反 応 す る ニ ュ ー ロ ン,さ
る
ら に オ キ シ トシ ンや バ ゾ プ レ ッ シ ンな ど 下 垂 体 後
葉 ホ ル モ ン を分 泌 す る大 細 胞 性 神 経 分 泌 ニ ュ ー ロ ン な ど の電 気 活 動 が 記 録 で き る よ う に な っ て い る 。 こ の よ うな 特 定 の 機 能 を持 つ こ と が 同 定 さ れ た ニ ュ ー ロ ン の電 気 活 動 は,自 部 に よ る統 合,支
の 制 御 機 構 の 研 究 が 盛 ん に 行 な わ れ て い る 。 しか しな が ら,こ 下,あ
るい は拘 束 条 件 下 で 急 性 的 に 行 な わ れ,必
ま た,下
律機 能 や行動 の視 床下
配 機 序 の 解 析 に 非 常 に 有 力 な パ ラ メ ー タ ー と な り,こ れ らの ニ ュ ー ロ ンの 興 奮 性 の よ うな 電 気 活 動 の記 録 は 通 常 麻 酔
ず し も生 理 的 状 態 を反 映 して い な い 可 能 性 が あ る 。
垂 体 前 葉 ホ ル モ ン の 分 泌 を 調 節 して い る小 細 胞 性 神 経 分 泌 ニ ュ ー ロ ンの 電 気 生 理 学 的 同定
に つ い て は,現 Knobilら
在 に 至 る ま で は ほ と ん ど な さ れ て い な い 。 こ の よ う な 状 況 の 中 で,我
の グル ー プ1)によ っ て ア カ ゲ ザ ル を 用 い て 開 発 され た 手 法 を も と に,自
々 は最 近
由行 動 下 の ラ ッ ト
お よ び シ バ ヤ ギ の 視 床 下 部 か ら性 腺 刺 激 ホ ル モ ン の 分 泌 を特 異 的 に支 配 す る ニ ュ ー ロ ン群 の 電 気 活 動 を慢 性 的 に 記 録 す る こ と に成 功 した 。 こ こ で は こ の よ うな 視 床 下 部 電 気 活 動 の 記 録 法,そ ま た,こ
の 特 徴,
の 電 気 活 動 を パ ラ メー ター と した 我 々 の 最 近 の 実 験 に つ い て 述 べ て み た い 。 パ ル ス 状LH分
泌 同期 性 神 経 活 動 の 記 録
下 垂 体 か らの 性 腺 刺 激 ホ ル モ ン の 分 泌 は,持
続 的 に で は な く間 歇 的 に,す
な わ ち パ ル ス状 に行 な
わ れ て い る2)。こ れ は 視 床 下 部 よ り下 垂 体 門 脈 血 中 に 性 腺 刺 激 ホ ル モ ン放 出 ホ ル モ ン(GnRH)が
パ
ル ス 状 に 放 出 され る こ と に よ る3)。性 腺 機 能 は こ の 性 腺 刺 激 ホ ル モ ンの パ ル ス パ タ ー ン に 依 存 して お り,パ ル ス 頻 度 の 生 理 的 頻 度 か らの 逸 脱 は,卵 の 退 行 を 招 く4)5)。 す な わ ち,生 制 御 の み な らず,パ そ して,光
胞 発 育,精
子 形 成,あ
殖 系 の 機 能 制 御 に お い て は,ホ
る い は ス テ ロ イ ド合 成 な ど
ル モ ン の 血 中 濃 度 に よ る ア ナ ロ グ的
ル ス頻 度 に よ る デ ジ タ ル 的 制 御 と い っ た側 面 も重 要 な 生 理 的 意 義 を持 って い る。
周 期,ス
ト レス,栄
養 状 態,フ
ェ ロ モ ン,吸 乳 刺 激 な ど の 外 部 環 境 因 子 は,ま
部 に存 在 す るGnRHを
パ ル ス 状 に放 出 す るた め の 神 経 機 構,す
に働 き か け,GnRHの
パ ル ス パ タ ー ン を 変 化 さ せ る こ と に よ り性 腺 機 能 に 影 響 を 与 え て い る と い
え る6)。従 って,GnRHパ
な わ ちGnRHパ
ず視床 下
ル ス ジ ェネ レー タ ー
ル ス ジ ェ ネ レ ー タ ー の 電 気 活 動 を直 接 記 録 す る こ と が で き れ ば,性
腺機
能 の 中枢 性 調 節 機 序 解 明 の た め の 極 め て 有 力 な パ ラ メー ター と な り得 る 。 こ の よ うな 想 定 の も と に,パ
ル ス 状 の 黄 体 形 成 ホ ル モ ン(LH)分
を 記 録 し よ う と い う試 み が,Knobilら7)に す る た め に 必 要 なGnRHを
下 垂 体 門 脈 に放 出 す る た め に は,多
発 火 して い る こ と が 考 え られ,こ
泌 と同 期 す る視 床 下 部 神 経 活 動
よ りア カ ゲ ザ ル を用 い て 始 め られ た 。LHパ くのGnRHニ
の 実 験 に お い て は,麻
ュー ロ ンが同期 して
の 神 経 活 動 を 記 録 す る 確 率 の 向 上 を 図 る た め,多
の 活 動 電 位 を 同 時 に 記 録 して 解 析 す る 多 ニ ュ ー ロ ン発 射 活 動(MUA)記
ル ス を誘起
数 の ニ ュー ロ ン
録法 が用 い られ た。初 期
酔 下 で 脳 定 位 固 定 装 置 に 固 定 され た ア カ ゲ ザ ル の 視 床 下 部 内 側 底 部 よ り,単
一 電 極 に よ り記 録 す る 方 法 が 試 み られ
,LHパ
ル ス と 同 期 して 顕 著 に 上 昇 す るMUAが
こ と が 初 め て証 明 さ れ た 。 同 様 の 手 法 に よ り,Kawakamiら8)に 泌 と 同 期 す る視 床 下 部MUAが
記録できる
よ り ラ ッ トか ら も パ ル ス 状LH分
記 録 さ れ て い る。 こ れ ら は い ず れ も麻 酔 下 で の 急 性 的 実 験 で あ り,
生 理 学 的 実 験 へ の 応 用 は 限 られ て い た が,Knobilら 無 麻 酔 の 動 物 よ り慢 性 的 に視 床 下 部MUAを
の グル ー プ1)は さ ら に植 え込 み 型 電 極 を用 い て
記 録 す る方 法 を 開 発 した 。 図1は 卵 巣 摘 除 ア カ ゲ ザ ル 第68巻
第1号
日 か ら記 録 され た 視 床 下 部MUAの volley)が
本
内
例 で,パ
分
泌
学
ル ス 状LH分
会
雑
誌
2
泌 と 同期 す る特 異 的MUAの
観 察 され る。
Fig. 1
Correlation between LH pulses and MUA volleys in an awake ovariectomized rhesus monkey. (From Williams et al. 13))
Fig.
Schematic
2
illustration
of the MUA recording
第68巻
第1号
system
for the rat.
上 昇(MUA
パ ル ス状LH分
4
こ の よ うな 手 法 を も と に,我 りLHパ
泌 と視床 下 部 神経 活 動(西 原,他2名)
々 は 最 近,自
ル ス と 同 期 す るMUAを
由行 動 下 の ラ ッ ト9)10),および シ バ ヤ ギ11)の視 床 下 部 よ
記 録 す る シ ス テ ム を 開 発 し た 。 図2に は そ の シ ス テ ム の 概 要 を 示
した 。 動 物 に は 多 数 の プ ラ チ ナ ・イ リ ジ ウ ム 線 よ りな る記 録 電 極 を 視 床 下 部 内 側 底 部 に植 え込 み, 歯 科 用 セ メ ン トで 固 定 す る。 そ して,電
気 活 動 の 記 録 に 際 して はICを
用 いて ボルテ ー ジ フォ ロ ワ
回 路 を 組 み 込 ん だ バ ッフ ァ ー ア ン プ を 直 接 記 録 電 極 に 接 続 す る こ と に よ り,高 イ ン ピー ダ ン ス の 記 録 電 極 か ら得 られ る入 力 信 号 を 低 イ ン ピ ー ダ ン ス の 出 力 信 号 に 変 換 し,リ ー ド線 の 動 き に よ る ア ー チ フ ァ ク トを 低 減 して い る。 さ ら に,2本
の電極 間 の差 動記 録 を行 ない同 相信 号 を除 去す るこ とに
よ り,咀 嚼 時 な ど に 発 生 す る 筋 電 図 な ど に 由来 す る ア ー チ フ ァ ク トに つ い て も低 減 を 図 って い る 。 得 ら れ た 信 号 は そ の 振 幅 に よ っ て 弁 別 を 行 な い,一 りの 数 を,ペ
定 以 上 の振 幅 を 持 っ た 活 動 電 位 の 単 位 時 間 当 た
ン レ コー ダー あ るい は パ ー ソ ナ ル コ ン ピ ュ ー タ ー に 記 録 す る。 こ の よ うな 方 法 に よ り,
自 由行 動 下 の 卵 巣 摘 除 ラ ッ ト,お よ び シ バ ヤ ギ よ り記 録 され たLHパ
ル ス と 同 期 す るMUA
を そ れ ぞ れ 図3お よ び4に 示 した 。
Fig. 3
Fig. 4
Correlation between LH pulses and MUA volleys in a freely moving ovariectomizedrat. (From Kimura etal. 9))
Correlation between LH pulses and MUA ovariectomized goat. (From Mori etal. 11)) 第68巻
第1号
volleys
in
an
awake
volley
日
本
内
分
パ ル ス 状LH分 パ ル ス状LH分
泌 と 同 期 す るMUAを
泌
学
会
雑
誌
5
泌 同期 性 神 経 活 動 の 特 徴
記 録 す る ことに よ り
,無 麻 酔 の 動 物 よ り,長 期 間 に わ た っ
て リア ル タ イ ム でGnRH分
泌 を 支 配 す る視 床 下 部 神 経 活 動 を モ ニ タ ー で き る よ う に な っ た 。 卵 巣
を 摘 除 した ア カ ゲ ザ ル,ラ
ッ ト,シ バ ヤ ギ の 視 床 下 部 か ら記 録 さ れ たMUA
種 に 特 有 な パ タ ー ン を 示 した(図1,3,お シ バ ヤ ギ,ラ
よ び4)。 す な わ ち,MUA
ッ トの 順 に 約60分,40分,20分,持 間 隔 お よ び 持 続 時 間 に つ い て は,例
ン13)などLH分
泌 を 抑 制 す る こ と が知 ら れ て い る 物 質 は,用
は,用 GnRHパ
間 隔 は,ア
続 時 間 は 同 じ く約15分,4分,2分
MUAvolleyの
縮 す る こ と が 示 さ れ て い る。 ま た 逆 に,LH分
volleyの
volleyは,そ
れぞれ カ ゲ ザ ル,
であ った。 この
え ば コル チ コ トロ ピ ン放 出 ホ ル モ ン12)やモ ル フ ィ 量 依 存 性 に 間 隔 を 延 長 し持 続 時 間 を 短
泌 を 促 進 す る オ ピ オ イ ド受 容 体 阻 害 剤 の ナ ロキ ソ ン
量 依 存 性 に 間 隔 を 短 縮 し持 続 時 間 を 延 長 す る9)。 す な わ ち,こ
れ ら の パ ラ メ ー タ ー は,
ル ス ジ ェ ネ レー ター の 興 奮 性 に 影 響 を 与 え る 因 子 の 効 果 に つ い て,高
精 度 の解 析 を可 能
と して い る。
Fig. 5
Correlation between LH pulses and MUA volleys in a freely moving intact rhesus monkey during the follicular phase of the menstrualcycle.
興 味 深 い こ と に,卵
(From O' Byrne etal.14))
巣 を 摘 除 して い な い 正 常 の ア カ ゲ ザ ル の 卵 胞 期 で は,MUAvolleyの
間 は 約3分 間 で あ る こ と が 最 近 示 され て い る14)(図5)。 卵 巣 摘 除 動 物 のMUAvolleyの ス トロ ジ ェ ンの 投 与 に よ り短 縮 す る こ と15)から,卵 性 ス テ ロ イ ドに よ る抑 制 の 解 除 に よ りGnRHパ
巣 摘 除 後 のMUAvolleyの
の 調 節 機 序 に つ い て は ま だ 不 明 の 点 が 多 い 。 た だ,GnRHや
MUAvolleyの
volleyに
開 始 や 終 了 に,LHあ
持 続 時 間 の 延 長 は,
ル ス ジ ェ ネ レー タ ー を 構 成 す る ニ ュ ー ロ ン の 興 奮
性 が増 大 して い る こ と を反 映 して い る も の と考 え られ る 。 しか し,MUAvolleyの
室 内 に投 与 して も,MUA
持続 時 持 続時 間 が エ
間隔 や持 続時 間
そ の ア ン タ ゴ ニ ス トを 末 梢 血 中 や 脳
対 して 影 響 が な い こ と が ア カ ゲ ザ ル に お い て 示 さ れ て お り, る い はGnRHに
よ る シ ョー トル ー プ あ る い は ウ ル トラ シ ョー
トル ー プ ・フ ィー ドバ ッ ク機 構 は 関 与 して い な い こ と が 示 唆 さ れ て い る。 第68巻
第1号
パル ス状LH分
6
こ の よ う なMUA
volleyを
泌 と視 床 下部 神 経 活 動(西 原,他2名)
パ ラ メ ー タ ー と す る こ と に よ り,同 一 の 個 体 よ り慢 性 的 にLHの
分
泌 動 態 を 知 る こ と が で き る よ う に な り,こ の こ とは 特 に ラ ッ トの よ うに 長 時 間 に わ た る連 続 採 血 の で き な い 小 動 物 に お い て は 大 き な利 点 と な って い る。 ま た,薬 垂 体 作 用 を 合 わ せ 持 つ も の が あ り,血 中LHレ
物 や ホ ル モ ンの 中 に は 中 枢 作 用 と下
ベ ル の 変 化 を パ ラ メ ー ター と し た の で は 両 者 に対 す
る 複 合 的 作 用 の 結 果 を見 て い る こ と に な るが,MUA
volleyを
れ ら の 中 枢 作 用 の み を直 接 検 討 で き る。 ま た,実 験 の 結 果 が,採
パ ラ メー ター と す る こ と に よ り,そ 血 頻 度 や ホ ル モ ンア ッセ イ の精 度,
あ る い は パ ル ス を決 定 す る た め の 方 法 な ど に影 響 さ れ な い な ど の 特 長 も持 って い る。 現 在 の と こ ろ,GnRHパ volleyが GnRHニ ず,MUA
ル ス ジ ェ ネ レ ー タ ー を 構 成 す る ニ ュ ー ロ ン の 実 体,あ
る い はMUA
具 体 的 に ど の ニ ュ ー ロ ン か ら記 録 され て い る か と い う点 に つ い て は 不 明 で あ る。 し か し, ュ ー ロ ン の 細 胞 体 の 分 布 は ア カ ゲ ザ ル,シ volleyは
バ ヤ ギ,ラ
ッ トに お い て 異 な る に も か か わ ら
volleyはGnRHニ
ど の 動 物 種 に お い て も視 床 下 部 内 側 底 部 か ら 記 録 され る こ と か ら,こ ュ ー ロ ン の 軸 索,あ
が 高 い と考 え られ る。 しか し,GnRHニ
る い は そ の 神 経 終 末 の 集 合 部 位 か ら記 録 さ れ て い る可 能 性 ュ ー ロ ン そ の も の か ら で は な く,そ れ を 駆 動 す る 別 の オ
シ レー タ ー が 存 在 し,そ の 神 経 活 動 を 記 録 して い る 可 能 性 も否 定 で き な い 。
Fig. 6
のMUA
Effects of a single injection of phenoxybenzamine (PHE, 5mg/kg i.v., upper panel) and propranolol (PRO, 5mg/kgi.v., lower panel) on LH pulses and MUA volleys in freely moving ovariectomizedrats. (From Nishihara et al. 10)) 第68巻
第1号
日
Fig. 7
本
内
分
泌
学
雑
誌
ル ス ジ ェネ レー ター の興 奮 性 調 節
性 腺 刺 激 ホ ル モ ン分 泌 の 中 枢 性 調 節 に 関 して は,多
くの 神 経 伝 達 物 質 が 関 与 して い る こ とが 示 唆
こで は ノル エ ピ ネ フ リン と オ ピ オ イ ドペ プ チ ドの 作 用 に つ い て,MUAを
タ ー と して 検 討 を 行 な っ た 実 験10)につ い て 簡 単 に 紹 介 し た い 。 ま ず,ノ プ タ ー 阻 害 剤 で あ る フ ェ ノ キ シ ベ ンザ ミ ン,あ ル のMUA と も にMUA
volleyの
volleyの
と,フ
る い は β-レ セ プ タ ー 阻 害 剤 で あ る プ ロ プ ラ ノ ロー
出 現 頻 度 を 低 下 さ せ る こ と が 判 明 し,ノ
示 した よ うに,両
者は
ル エ ピネ フ リンは αお よび βの両
ル ス ジ ェ ネ レー ター の 興 奮 性 を 維 持 して い る こ と が 示 唆 され た 。 一
ピオ イ ドレセ プ ター 阻 害 剤 の ナ ロキ ソ ン の 投 与 に よ りMUA
オ ピ オ イ ドペ プ チ ドは 持 続 的 にGnRHパ れ た 。 さ ら に,ナ
パ ラ メー
ル エ ピ ネ フ リン の α-レ セ
出 現 パ タ ー ン に 対 す る効 果 を 調 べ た 。 そ の結 果,図6に
レ セ プ ター を 介 してGnRHパ 方,オ
7
Effects of a single injection of naloxone (NAL, 2mg/kg i.v.) on LH pulses and MUA volleys in freely moving ovariectomizedrats. (From Nishihara etal. 10))
神 経 伝 達 物 質 に よ るGnRHパ
され て い る が,こ
会
volleyの
出現 が 促 進 され(図7),
ル ス ジ ェ ネ レー タ ー の 興 奮 性 を 抑 制 して い る こ と が 示 さ
ロ キ ソ ン を フ ェ ノ キ シ ベ ン ザ ミ ン,ま た は プ ロ プ ラ ノ ロー ル 投 与 直 後 に 投 与 す る
ェ ノ キ シ ベ ン ザ ミ ン の 存 在 下 で は ナ ロ キ ソ ン のMUA
な くな る こ と が 判 明 した(図8)。
これ らの 結 果 よ り,オ
ネ フ リ ン の α-作 用 が 必 要 な こ と,換
言 す れ ば,オ
対 す る促 進 的 作 用 が 発 現 し
ピオ イ ドペ プ チ ドは ノ ル エ ピ ネ フ リン の α-レ
セ プ ター へ の 神 経 伝 達 を抑 制 す る こ と に よ り,GnRHパ い る こ と が 考 え られ た(図9)。 第68巻
volleyに
ピ オ イ ドペ プ チ ドの 作 用 発 現 に は ノ ル エ ピ
第1号
ル ス ジ ェ ネ レ ー タ ー の 興 奮 性 を抑 制 して
パル ス状LH分
8
Fig. 8
Fig. 9
泌 と視 床 下部 神 経 活 動(西 原,他2名)
Effects of naloxone(NAL, 2mg/kg i.v.) injected 10min after the injection of phenoxybenzamine (PHE, 5mg/kg i.v., upper panel) or propranolol(PRO, 5mg/kg i.v., lower panel) on LH pulses and MUA volleys in freely moving ovariectomizedrats. (From Nishihara etal. 10)
Schematic and opioid
diagram
summarizing
peptidergic
systems
the interactions in controlling
activity. 第68巻
第1号
between the noradrenergic the LHRH pulse
generator
日
本
内
分
泌
学
会
雑
誌
9
オ ピ オ イ ドペ プ チ ドは ス トレ ス16)や性 ス テ ロ イ ド17)18)の 性 腺 刺 激 ホ ル モ ン 分 泌 に対 す る抑 制 作 用 を 中 継 して い る こ とが 示 唆 さ れ て お り,抑 制 系 の 最 終 共 通 経 路 と してGnRHパ
ル ス ジ ェ ネ レー ター
に 対 す る抑 制 的 トー ン を形 成 し,ノ ル エ ピ ネ フ リ ン の 促 進 的 トー ンを 減 弱 す る と い う形 で パ ル ス 頻 度 の 決 定 に 関 与 して い る可 能 性 が 考 え られ る 。 お
わ
り
に
動 物 の 自律 機 能 や 行 動 な ど特 定 の 機 能 を 支 配 す る ニ ュ ー ロ ンの 電 気 活 動 は,本
来 生 理 的 な状 態 で,
す な わ ち 自 由行 動 下 で 記 録 さ れ る べ き も の で あ る が,技 術 的 な 困 難 か ら ほ と ん ど行 な わ れ て い な い 。 こ こで は,MUA記
録 法 を 用 い る こ と に よ り,自 由 行 動 下 の 動 物 よ り パ ル ス 状LH分
泌 と同期 す る
視 床 下 部 神 経 活 動 を慢 性 的 に モ ニ タ ー す る こ と が で き る こ と を 示 し た。 こ の よ う な神 経 活 動 は,特 定 の 生 理 機 能 を制 御 す る 中 枢 機 序 解 明 の た め の パ ラ メー ター と な るば か りで は な く,そ の 生 理 機 能 発 現 に対 す る 環 境 因 子 や 生 理 活 性 物 質 の 効 果 を評 価 す る バ イ オ ア ッ セ イ 系 の優 れ た パ ラ メ ー タ ー に も な り得 る 。 この 手 法 は,他
に も様 々 な情 動 反 応,運
動,知
覚,反
射 な ど に 関 与 して い る ニ ュー ロ
ンの 電 気 活 動 を 生 理 的 状 態 で 連 続 的 に モ ニ タ ー す る こ と に も利 用 で き,さ
ら に テ レ メ ト リー シ ス テ
ム な ど を 組 み 合 わ せ る こ と に よ り,広 範 な 分 野 の 研 究 に応 用 可 能 で あ る と 考 え られ る。 文
1) Wilson, R.C.,
Kesner, J.S.,
献
Kaufman, J.-M.,
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Uemura,T.,
Akema, T. and Knobil,
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the rhesus monkey. Neuroendocrinology, 2) Knobil, E.: The neuroendocrine
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Rec. Prog. Horm.
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Nature's
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