YAKUGAKU ZASSHI 135(7) 841―842 (2015)  2015 The Pharmaceutical Society of Japan

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―Foreword―

次世代バイオ医薬開発に向けた創薬イノベーション 角 田 慎 一, ,a,b 石 井 明 子c

Innovative Approaches for Next-generation Biodrugs Development ,a,b and Akiko Ishii-Watabec Shin-ichi Tsunoda  aLaboratory

of Biopharmaceutical Research, National Institute of Biomedical Innovation; 768 Saito-Asagi, Ibaraki, Osaka 5670085, Japan: bLaboratory of Biomedical Innovation, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Osaka University; 16 Yamadaoka, Suita, Osaka 5650871, Japan: and cDivision of Biological Chemistry and Biologicals, National Institute of Health Sciences; 1181 Kamiyoga, Setagaya-ku, Tokyo 1588501, Japan.

昨今のゲノム創薬研究やプロテオーム創薬研究の

イオ医薬の開発が益々進展することに疑う余地はな

進展により,様々な疾患に関連する生体分子が同定

く,今後は,有効性,安全性に一層優れた「次世代

され,それらの創薬標的としての可能性の検討が進

型抗体医薬」,あるいは「ポスト抗体医薬」の開発

められている.そして,有望な標的分子に対して,

が大きく期待される.

低分子医薬品はもちろんのこと,近年では,モノク

上記動向をふまえ,日本薬学会第 134 年会におい

ローナル抗体製剤を始めとする生物製剤・バイオ医

ては, 「次世代バイオ医薬開発に向けた創薬イノベー

薬品の開発が加速している.特に自己免疫疾患など

ション」と題したシンポジウムを企画し,高機能化

の領域では,抗 TNF-a 抗体や抗 IL-6 受容体抗体な

抗体や人工タンパク質,あるいはペプチド性の医薬

ど,切れ味鋭い効果を発揮する抗体医薬品が実用化

といった新しいフォーマットのバイオ医薬開発,ま

されてきた.これらの医薬品を例として,バイオ医

た,新たな抗体医薬品の開発・レギュレーションに

薬品は,従来の低分子薬では達成できなかった治療

資する手法の開発に取り組んでおられる研究者か

効果を発揮し得ることから,アンメットニーズを満

ら,最新の研究開発の動向やご自身の研究成果を発

たす新規バイオ医薬品の開発への期待は大きい.

表して頂いた.ご講演の内容をより詳しく紹介して

抗体医薬等のバイオ医薬開発の領域においては, 新規な標的分子に対する治療薬の開発が試みられる

頂くために,本誌上シンポジウムの執筆をお願いし た次第である.

一方で,先行薬と同じ標的分子に対しても,付加価

鎌田春彦先生からは,「機能性サイトカイン変異

値を加え高機能化した新薬,あるいは,改良型医薬

体の創製による次世代バイオ医薬品の開発」につい

である「バイオベター」の開発も積極的に進められ

てご紹介頂いた.モノクローナル抗体のほかにも,

ている. TNF-a を中和する抗体あるいは抗体誘導

種々の生理活性タンパク質やペプチドもバイオ医薬

体による医薬品は既に 4 種類が承認されている.ま

のシーズとして有望視されている.鎌田先生らのグ

た最近では,がん治療薬の領域で抗体医薬に抗がん

ループでは,内在タンパク質の機能を人為的に改変

剤を付加した antibody-drug conjugate(ADC)や,

させた人工タンパク質の創製技術を確立され,これ

二重特異性抗体といった全くの人工的なフォーマッ

により,サイトカインのシグナルを制御し得る新た

トの抗体医薬も既に実用化されるに至っている.バ

なカテゴリーのバイオ医薬としての応用を試みられ ている.このような人工タンパク質・ペプチドは,

a国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所バイオ

創薬プロジェクト(〒5670085 大阪府茨木市彩都あさ ぎ 7 6 8 ),b 大阪大学大学院薬学研究科バイオ創薬学 分野(〒 5650871 大阪府吹田市山田丘 16),c国立医 薬品食品衛生研究所生物薬品部(〒1588501 東京都世 田谷区上用賀 1181) e-mail: tsunoda@nibiohn.go.jp 日本薬学会第 134 年会シンポジウム S47 序文

次世代のバイオ医薬品として応用が期待される. 浅野竜太郎先生からは,「二重特異性抗体のタン パク質工学を駆使した高機能化」についてご紹介頂 いた.基礎研究で見い出される様々な創薬ターゲッ ト候補分子について,従来型のモノクローナル抗体 では十分な治療効果を発揮できない場合も多いこと

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Vol. 135 No. 7 (2015)

から,高機能・高性能な抗体誘導体の開発が期待さ

ニスト抗体の臨床試験で,予期していなかった重大

れている.二重特異性抗体は,二種類の抗原を標的

な有害反応が発症したことは記憶に新しい.抗体や

化する抗体誘導体(人工抗体)であり,例えば,宿

抗体誘導体が誘導する生体応答では,抗原との結合

主免疫系の活性化能などを抗体に付与することがで

に伴う反応に加えて,抗体の fragment crystalliza-

きる.最近,白血病関連抗原である CD19 と T 細

ble(Fc)ドメインと Fc 受容体との反応が重要であ

胞 抗 原 で あ る CD3 に 対 す る 二 重 特 異 性 抗 体

り, Fc ドメイン/ Fc 受容体を介した反応のヒトへ

blinatumomab が U.S. Food and Drug Administra-

の外挿性を含めた的確な非臨床評価法が確立できれ

tion(FDA)で承認され,今後,二重特異性抗体の

ば,次世代型抗体医薬品の開発に資するものと期待

開発が加速すると考えられる.

される.

石井からは,「次世代抗体医薬品の非臨床評価」

以上,本誌上シンポジウムの概要を紹介させて頂

について紹介した.抗体医薬品を始めとするバイオ

いた.各稿で紹介されている次世代バイオ創薬のコ

医薬の開発においては,有効性はもちろんのこと,

ンセプト・技術が,わが国発の革新的バイオ医薬品

安全性を担保することが重要である.抗 CD28 アゴ

の開発に貢献することを願っている.

[Innovative Approaches for Next-generation Biodrugs Development].

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