日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)144,160∼166(2014)

特集

低分子免疫抑制薬としての JAK 阻害薬の創成 JAK - STAT シグナル制御とモニタリング

免疫疾患治療薬の研究・開発戦略 2

東  康之

要約:自己免疫疾患の治療や臓器移植における拒絶反

常な異物排除機構が必要以上に過剰反応するようなア

応の抑制のためには,免疫抑制薬が治療に用いられる.

レルギー性疾患である喘息やアトピー性皮膚炎なども

免疫抑制薬には古くから多様な作用メカニズムの薬剤

免疫機能の異常に基づく疾患であると考えらえている.

が存在し臨床応用されているが,近年,特定の分子を

このような自己免疫疾患,拒絶反応,アレルギー疾

標的とした分子標的薬が多く開発されている.中でも

患の治療には過剰にあるいは不適切に反応している免

免疫反応に関与する重要な分子群の一種であるサイト

疫応答を制御することが有効であると考えられる.免

カインの抑制は特に関節リウマチにおいて有効な治療

疫抑制薬とは生体の免疫機能を制御・抑制することに

戦略として定着しており,TNF -αや IL - 6 受容体に対 するモノクローナル抗体が臨床において広く用いられ ている.近年,サイトカイン刺激による細胞内シグナ ルを特異的に抑制する低分子キナーゼ阻害薬であるト

より,生体を過剰な免疫反応による攻撃から防御する ために用いられてきた.

2. 古典的免疫抑制薬

ファシチニブが承認され,抗体とは異なる経口投与可

いわば古典的な免疫抑制薬としては,糖質コルチコ

能な低分子の分子標的薬の可能性が注目されている.

イド,いわゆるステロイド製剤や代謝拮抗薬が知られ

トファシチニブはサイトカイン刺激の直下にあるヤヌ

ている(表 1).ステロイドは細胞の核内に存在するレ

スキナーゼ(JAK)を阻害することにより,転写因子

セプターに結合し,広範な遺伝子発現を抑制し,種々

のリン酸化が抑制され,関連する遺伝子の発現を制御

のサイトカイン産生を抑制することが知られている

するが,細胞内リン酸化タンパク質の検出技術の進歩

(1)が,その反面,特に全身投与においては様々な副

により,この細胞内のリン酸化抑制の過程をモニター

作用(感染症や血糖,骨への影響など)があり,その

することが可能となった.このことにより JAK 阻害

使用を最小化することが医療現場では求められている.

薬の作用をより詳細に解析することができるようにな

また,代謝拮抗薬としては核酸代謝を抑制するミコ

っただけでなく,薬物を投与された生体における JAK

フェノール酸の製剤が臓器移植や SLE の治療に用い

阻害反応をいわゆる pharmacodynamics(PD)として

られている.また,メトトレキセートは葉酸代謝に作

追跡することが可能となった.本総説において,免疫

用し,最終的に核酸合成を阻害する.当初は抗がん薬

抑制薬の現状を振り返りつつ,分子標的薬としての

として使用されていたが,現在では関節リウマチの第

JAK 阻害薬の可能性について概説したい.

一選択薬としての地位を確立している.また,アルキ

1. 免疫疾患と免疫抑制薬

ル化薬であるシクロフォスファミドも抗がん薬として の適応のほかに難治性のリウマチ疾患である SLE や

関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)な

血管炎などで使用されている.これらの代謝拮抗薬は

どの自己免疫疾患,あるいは臓器移植における拒絶反

増殖が盛んながん細胞やリンパ球の分裂を阻害するた

応など,本来生体を保護するはずの免疫システムが逆

め,生体内で比較的増殖が盛んな造血組織や腸管上皮

に生体や移植臓器を傷害する場合がある.あるいは正

細胞にも作用し,副作用として骨髄抑制や消化管障害

キーワード:JAK,STAT,免疫抑制薬,リン酸化タンパク質,PD マーカー アステラス製薬株式会社 研究本部 免疫研究ユニット(〒305 - 8585 茨城県つくば市御幸が丘 21 御幸が丘研究センター) E - mail: [email protected] 原稿受領日:2014 年 7 月 22 日,依頼原稿 Title: JAK inhibitors as a new generation of small - molecule immunosuppressants Author: Yasuyuki Higashi

JAK - STAT シグナル制御とモニタリング

161

表 1 古典的免疫抑制薬の特徴 種類

メカニズム

薬効の標的となる細胞

副作用

ステロイド

ステロイドレセプターに結合 し,炎症関連を含む種々の遺 多岐にわたる 伝子発現を制御

多岐にわたる

代謝拮抗薬

核酸合成の阻害

造血障害 消化管傷害,他

カルシニューリン阻害薬

カルシニューリン阻害による 活性化 T 細胞 NF - AT 阻害

活性化リンパ球

腎毒性 耐糖能異常,他

表 2 免疫疾患における分子標的抗体・生物製剤 標的分子

TNF -α

主な適応症

RA,CD,AS,PS など (製品によって異なる)

名称

特徴

infliximab

キメラ抗体

etanercept

TNF 受容体 - Fc 融合タンパク質

adalimumab

ヒト抗体

golimumab

ヒト抗体

certolizumab pegol PEG 化ヒト化抗体 Fab IL - 6 CD80/CD86

RA

tocilizumab

ヒト化抗体

RA

abatacept

CTLA4 - Ig

Tx

belatacept

高親和性 CTLA4 - Ig

IL - 1

RA

anakinra

IL - 1 受容体拮抗タンパク質

IL - 12/23p40

PS

ustekinumab

ヒト抗体

BAFF

SLE

belimumab

ヒト抗体

vedolizumab

ヒト化抗体

integrin α4β7 CD,UC

RA:関節リウマチ,CD:クローン病,AS:強直性脊椎炎,PS:尋常性乾癬,Tx:臓器移植,SLE: 全身性エリテマトーデス,UC:潰瘍性大腸炎.

などが認められている. 臓器移植の拒絶反応抑制においてはカルシニューリ

3. 分子標的薬の出現

ン阻害薬(CNI)であるシクロスポリンやタクロリム

このような古典的免疫抑制薬の特性を改良すべく,

スが用いられている.これらは T 細胞の活性化に特異

特定の分子に狙いを定め,求める免疫抑制作用をでき

的に関与するカルシニューリンを阻害することで T 細

るだけ限定的に発揮させる分子標的薬が創出されてき

胞特異的に活性化を抑制する.CNI も臓器移植だけで

た.自己免疫疾患の世界では多くのモノクローナル抗

なく関節リウマチや乾癬で使用されているが,腎毒性

体が開発され,関節リウマチの世界では抗 TNF -α抗

など固有の毒性を有することが知られており,移植患

体や抗 IL - 6 抗体,副刺激阻害分子である CTLA4 - Ig が

者においては治療薬物モニタリング(TDM)を行いな

メトトレキセートとともに治療の中心的役割を担って

がら投与量を調整するようになっている.

いる.表 2 に主な分子標的抗体や生物製剤をまとめた.

これら従来から使用されている免疫抑制薬は多彩な

抗体や生物製剤はその製造には低分子医薬品とは異な

作用を示すことが知られている一方で,標的となる細

る技術やコスト的課題が存在するが,標的分子への特

胞が広範である点が特徴である.ステロイドは種々の

異性が極めて高いことから,一般的にはオフターゲッ

免疫細胞に作用するとともに,免疫細胞以外にも血管

トの毒性は生じにくいと考えられている.初期にはモ

や骨を含む多くの組織に作用する.代謝拮抗薬はその

ノクローナル抗体を取得したマウスのアミノ酸配列が

作用メカニズムから増殖が盛んな細胞であれば広範に

残っていたため,抗原性に課題があったが,現在では

作用する.CNI は T 細胞の活性化に特異的に作用する

完全ヒト型抗体を作成する技術が確立しており,従来

が,カルシニューリン自体やイムノフィリンの存在は

からは大きく改善されている.しかし,抗薬物抗体

免疫系細胞に限定されるものではないため,副作用も

(Anti - Drug Antibody)の出現により効果が失われる現

含めて考えれば広い範囲に作用を及ぼしている.

象を完全に排除できているわけではない.また,生物 製剤の性質上,静脈注射や皮下注射などの注射剤とし

162

東  康之

て使用されるため,通院や点滴静注などの医療行為が

によって JAK 自体のリン酸化とともに対応する STAT

必要であったり,自己注製剤にするために液剤での安

(signal transducers and activator of transcription)がリ

定性を確保してプレフィルドシリンジ製剤化するなど

ン酸化される(表 3).リン酸化された STAT 分子は二

の工夫が必要であったりする.

量体を形成して核内に移行し,サイトカインに反応す る遺伝子群の転写を亢進する(図 1).

4. 分子標的低分子薬

それぞれの JAK ファミリーキナーゼとその機能に

20 世紀の末から低分子の医薬品においても分子標

ついては詳しく調べられている.JAK1 は比較的広範

的薬と呼ばれるものが出現してきた.代表的なものは

囲の組織に発現しており,多くのサイトカインレセプ

イマチニブやゲフィチニブなどのチロシンキナーゼ阻

ターと相互作用してそのシグナル伝達に関与している.

害薬であり,白血病やがんの治療に使用されている.

JAK1 欠損マウスは出生するものの新生児の段階で死

免疫疾患においても免疫系におけるシグナル伝達の

亡するが,これは哺乳に障害があるためとされている.

分子生物学の進歩に伴い,多くの薬物の標的となりう

JAK2 も多くのサイトカインレセプターと相互作用し

るキナーゼ等が見出されてきた.MAPK 経路をはじ

ているが,その中には造血因子も含まれており,エリ

めとして多くの標的を狙った低分子標的薬の創出が試

スロポイエチンのレセプターに相互作用する JAK フ

みられてきたが,その中でサイトカインシグナルを伝

ァミリーキナーゼは JAK2 のみである.そのため,

達するヤヌスキナーゼ(JAK)を標的としたトファシ

JAK2 欠損マウスは造血障害による胎生致死となる.

チニブは関節リウマチにおける有効性が認められ米国

JAK3 は commonγ鎖と呼ばれる膜タンパク質と相互

や本邦においても承認されており,免疫抑制の領域で

作用するため,commonγ鎖を用いるサイトカインの

は最初の分子標的低分子医薬品といえよう.

シグナル伝達に関与する.これらはリンパ球に関する サイトカインに限定されており,JAK3 の発現もリン

5. JAK/STAT シグナル経路

パ球に特異的とされる.JAK3 や commonγ鎖の欠損

JAK/STAT シグナル経路は多くのサイトカインやホ

は マ ウ ス や 人 に お け る 重 度 の 免 疫 不 全(severe

ルモンの細胞内シグナル伝達を担っている(2).Janus

combined immune deficiency:SCID)の原因であるこ

とはローマ神話に登場する 2 つの顔を持つ神の名前で

とが知られている.Tyk2 も多くのサイトカインレセ

ある.JAK ファミリーチロシンキナーゼの特徴として

プ タ ー と 相 互 作 用 す る が,特 徴 と し て は IL - 12 や

二つのキナーゼドメインを持つことから,二つの顔を

IL - 23 といった Th1 や Th17 分化にかかわるサイトカ

持つ神にちなんで Janus Kinase と名づけられているが,

インシグナルに関与している.マウスでは Tyk2 欠損

そ の フ ァ ミ リ ー に は 4 種 類(JAK1,JAK2,JAK3,

によって明確なサイトカインシグナルの消失とならな

Tyk2(チロシンキナーゼ 2))が含まれる.

いが,ヒトではシグナルの欠損,病原体への感受性の

サイトカインのレセプターには特有の JAK が結合 しており,レセプターにサイトカインが結合すること

亢進,さらに高 IgE 血症となるなど,その機能には種 差が認められている.

表 3 サイトカイン・JAK・STAT サイトカイン

JAK ファミリー

STAT

IL - 2

JAK1,JAK3

STAT5

IL - 4

JAK1,JAK3

STAT6

IL - 7

JAK1,JAK3

STAT5

IL - 9

JAK1,JAK3

STAT5

IL - 15

JAK1,JAK3

STAT5

IL - 6

JAK1,JAK2,Tyk2 STAT3

IL - 10

JAK1,Tyk2

STAT3

IL - 12

JAK2,Tyk2

STAT3,STAT4

IFNα

JAK1,Tyk2

STAT1,STAT2

IFNγ

JAK1,JAK2

STAT1

G - SCF

JAK1,JAK2

STAT3

エリスロポイエチン JAK2

STAT5

成長ホルモン

STAT5

JAK2

䡷䡮䢀䡲䡮䢙

JAK

P

JAK

STAT

P

P P P

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JAK-STATࢩࢢࢼࣝ 図 1 JAK - STAT シグナル

JAK - STAT シグナル制御とモニタリング

6. 最初のリウマチ適応 JAK 阻害薬:トファシ チニブ

163

れるためであると理解されている. その他安全性に関する所見としては,LDL/HDL の 上昇や肝臓のパラメーターである ALT/AST やトータ

トファシチニブは Pfizer で創成された JAK 阻害薬で

ルビリルビンの上昇,血清クレアチニンの上昇が記さ

ある.2003 年の Science 誌に掲載されたサル腎移植に

れている(7).これらの臨床検査値異常については

おける拒絶反応抑制効果の報告(3)においては,リン

JAK 阻害との関係は明らかではないが,他の JAK 阻害

パ球に特異的に発現する JAK3 を選択的に抑制するこ

薬においても LDL/HDL の上昇や血清クレアチニンに

とにより,その他の副作用を回避しつつ免疫抑制効果

ついては注視されている.

を得ようとするコンセプトであった.その後,その JAK ファミリー内の選択性については認識が改められ

7. その他,自己免疫疾患で開発中の JAK 阻害薬

て,2011 の論文(4)において,トファシチニブは pan -

トファシチニブ以降,多くの JAK 阻害薬創出が研究

JAK inhibitor と呼ばれるようになっている.現在では

され,表 4 に挙げるような化合物が自己免疫疾患を適

関節リウマチで承認を取得しており,乾癬や潰瘍性大

応症として臨床開発されている.

腸炎などで開発が進められている.その作用メカニズ

Baricitinib(LY3009104/INCB028050)は Incyte 社で

ムは言うまでもなく JAK 阻害によるサイトカインシ

創出された JAK1/2 に選択的とされる化合物で,Eli

グナル遮断ということになるが,当初の JAK3 選択的

Lilly 社にライセンスアウトされ関節リウマチや乾癬,

阻害薬というコンセプトと現在の pan - JAK 阻害薬の

糖尿病性腎症で開発されている.関節リウマチでは現

位置づけでは抑制するサイトカインのスペクトルが異

在第Ⅲ相試験が進行中であるが,第Ⅱ相試験において

なることになる.すなわち,JAK3 阻害による IL - 2 な

は良好な有効性のサインが得られている.2012 年の

ど T 細胞の増殖・生存にかかわるサイトカインだけで

欧州リウマチ学会(EULAR)で報告された MTX 不応

なく,IL - 6 や IFN のシグナルも自己免疫疾患や移植に

答の中等度から重症の関節リウマチ患者における第Ⅱ

おける拒絶反応においては重要であることが知られて

相用量探索試験結果において(8),有効性に関しては

いるので,pan - JAK 阻害薬であるトファシチニブの有

米国リウマチ学会の定める関節リウマチの評価基準で

効性に最も強く関与しているサイトカインシグナル遮

ある ACR core set の 20%改善率(いわゆる ACR20)

断がどれであるかを判断することは容易ではない.

が 4 mg 群で 75%,8 mg 群で 78%改善と,プラセボ群

トファシチニブを分子標的薬と位置付けたとき,

の 41%に対して優位な改善が認められた(表 5) .一方,

JAK3 阻害によるリンパ球の抑制効果に基づく免疫抑

副作用に関してはヘモグロビンの減少,血清クレアチ

制効果は関節リウマチや移植における拒絶反応抑制効

ニンのわずかな上昇,LDL/HDL の増加が見られた

果から明らかである.反面,この作用はリンパ球,特

(表 5).本化合物は JAK1 と JAK2 に選択的とされ,リ

に NK 細胞の減少といった形でもあらわれており(5),

ンパ球の増殖や生存に重要とされる JAK3 に対する作

感染症のリスクとのバランスが臨床での使用において

用が低いとされる.そのため,トファシチニブで認め

重要な注意点となる.また,その他の JAK ファミリー

られたリンパ球や NK 細胞の減少といった作用がどの

キナーゼを阻害することは,IL - 6 のような関節リウマ

ように変わるのか注目されるが,P2 のレベルでは明

チにおける炎症反応にかかわるサイトカインのシグナ

確に示されてはおらず,今後の大規模試験の結果が注

ルを抑制して有効性につながっている部分もある一方,

目される.

G - CSF やエリスロポイエチンシグナルの抑制による

GLPG0634 は Galapagos 社が創出した JAK1 選択的

好中球減少や貧血のリスクが想定される.初期の移植

阻害薬である.現在,関節リウマチを適応として第Ⅱ

患者における臨床試験では,高用量において好中球減

相用量反応性試験(DARWIN1/2)およびクローン病

少や貧血が認められ,標準治療群よりも高頻度にウイ

で臨床試験が進められている.2013 年の米国リウマ

ルス感染が認められた(6).その後,移植についての

チ学会での報告(9)によると,MTX 不応答で生物製剤

開発は進んでいないが,承認に至った関節リウマチに

による治療経験のない関節リウマチ患者で実施された

おけるトファシチニブの使用においては,好中球減少

二重盲検試験において,4 週間投与後に 75 mg,150 mg,

は認められるものの,貧血についてはあまり問題視さ

300 mg では CRP の有意な減少,300 mg 群では DAS28

れていない.これは,関節リウマチで使用される投与

の 有 意 な 減 少 も 認 め ら れ た.投 与 期 間 が 短 い た め

量が低いことに加え,もともとリウマチ患者が貧血傾

ACR20 では有意差は認められなかったが,有効性につ

向にあるため関節炎症状の改善に伴って貧血も改善さ

いては一定のサインが認められた.また,安全性に関

164

東  康之 表 4 現在自己免疫疾患を適応症として開発中の JAK 阻害薬 JAK 阻害薬

選択性

第Ⅰ相

第Ⅱ相

第Ⅲ相

上市

tofacitinib

pan - JAK

AS,CD,DE,JRA

Ps,PsA,UC RA

baricitinib

JAK1/2

DN,Ps

RA

ABT 494

JAK1

RA

ASP 015K

pan - JAK

RA RA

GLPG 0634

JAK1

GSK 2586184

JAK1

Ps,SLE

INCB 39110

JAK1

Ps,RA

R 348

JAK3/Syk

KCS

VX 509

JAK3

RA

CT 1578

Flt3/JAK2

RA

JTE 052

pan - JAK

AID

PF 6263276(topical) pan - JAK

Ps

R 548

JAK3

Tx

PF 4965842

JAK1

Lupus

RA:rheumatoid arthritis,Ps:psoriasis vulgaris,UC:ulcerative colitis,PsA:psoriatic arthritis, AS:ankylosing spondylitis,DE:dry eye,JRA:juvenile RA,DN:diabetic nephritis,SLE: systemic lupus erythematosis,KCS:keratoconjunctivitis sicca,AID:autoimmune disease,Tx: transplantation.

表 5 Baricitinib の第Ⅱ相用量探索試験結果(文献 8 より引用) 有効性 群

プラセボ

1 mg 群

2 mg 群

4 mg 群

8 mg 群

4+8 mg 群

例数

N=98

N=49

N=52

N=52

N=50

N=102

% ACR20

41

57



**

54

**

75

78

76**

副作用(Mean(S.D.)change from baseline;12 Weeks) 群

プラセボ

4 mg 群

8 mg 群

例数

N=98

N=52

N=50

ヘモグロビン(g/dL)

−0.14(0.62)

−0.15(0.80)

−0.57(0.92)

好中球(103/mm3)

−0.03(1.52)

−0.30(1.79)

−0.68(2.06)

クレアチニン(mg/dL)

0.01(0.08)

0.11(0.36)

0.09(0.27)

HDL コレステロール(mg/dL)

0.92(11.57)

7.55(13.40)

7.25(13.92)

LDL コレステロール(mg/dL) −4.4(25.06)

9.5(30.29)

12.0(23.36)

※ MTX 不応答の中等度から重症の関節リウマチ患者.

しては貧血や好中球減少症は認められず,脂質の上昇

低い免疫抑制薬を開発することであったと考えられる.

も見られないとされた.現在進行中の DARWIN 試験

トファシチニブの臨床経験を踏まえて,JAK2 に対す

における 12 週投与の結果が注目される.

る 選 択 性 の 必 要 性,IL - 6 シ グ ナ ル 阻 害 の 観 点 か ら

その他,自己免疫疾患で開発中の JAK 阻害薬はアス

JAK1 阻害の重要性が見直され,トファシチニブ自体

テラス製薬の ASP015K,JAK3 選択的とされる Vertex

は pan - JAK 阻害薬と位置付けられており,近年ではむ

社 の VX - 509,JAK1 選 択 的 と さ れ る Abbott 社 の

しろ JAK3 阻害活性を除いて,JAK1/2 あるいは JAK1

ABT494 や Incyte 社の INCB 39110 などが現在第Ⅱ相

の阻害にフォーカスを置いた baricitinib や GLPG0634

以降の臨床試験で開発されている.

が開発されているのは非常に興味深い.この新しいコ

このように多くの JAK 阻害薬が開発されているが,

ンセプトの臨床的証明にはこれら新薬の第Ⅲ相試験の

その開発コンセプトは少しずつ変化している.当初の

結果を待つ必要があるが,JAK3 が関与するサイトカ

コンセプトは,KO マウスの表現型などを踏まえ,

インシグナルには JAK1 も関与しているため,JAK3 阻

JAK3 選択的にすることでリンパ球特異的で副作用が

害を回避することで何処まで IL - 2 など commonγ鎖

JAK - STAT シグナル制御とモニタリング

を用いるサイトカインシグナルへの影響を減らせるか,

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減らすことによる有効性への影響はないのか等,今後 の検証が待たれる.

8. 分子標的薬と pharmacodynamics marker

165

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特定の分子を標的とする薬物の場合,標的が明らか であるがゆえに生体内においても薬物と標的の相互作 用を検出することが可能である.抗体や生物製剤では 対応する抗原やリガンドなどがどれだけ薬物と結合し て い る か,

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図 2 細胞内リン酸化 STAT5 の測定原理

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⣽⬊ෆࣜࣥ㓟໬67$7㸳ࡢ ᐃཎ⌮

い わ ゆ る 受 容 体 占 有 率(receptor

JAK 阻害薬をヒトに投与したのちに STAT5 のリン

occupancy:RO)を測定することが可能である場合が

酸化を検討した最初の報告はトファシチニブの安定期

ある.特にリンパ球の表面抗原を狙ったブロッキング

腎移植患者での第Ⅰ相試験においてであった (13).凍

抗体の場合は,受容体を占有することがその薬理作用

結保存してあった被験者の末梢血単核球と血清を

そのものと理解されるうえ,末梢血のリンパ球は臨床

IL - 2 と共培養して STAT5 のリン酸化を検出したのが

検査の材料としてはアクセスが容易であるため,前臨

最初であり,薬物投与後のサンプルでは STAT5 リン

床 あ る い は 臨 床 試 験 の 段 階 で RO を

酸化が抑制されトファシチニブの薬理作用を検出する

pharmacodynamics(PD)マーカーとして測定して,

ことができた.第Ⅰ相試験を実施していた時期はまだ

PK/PD シミュレーションにより臨床投与量を推定す

リン酸化 STAT5 検出の技術が普及していなかった頃

ることができる.特に CD28 スーパーアゴニスト抗

でもあり,試験終了後に凍結サンプルを用いて検討し

体:TG1412 の第Ⅰ相臨床試験で激しいサイトカイン

たものと思われる.その後の移植の第Ⅱ相試験におい

ストームが認められて以降,ヒトへの初回投与量の設

ては全血を直接 IL - 2 で刺激する方法を採用している

定は慎重に行われており,その際にも RO は重要な情 報となる (10).

(14). 他社も同様の試みを行っており,Zhu らは ASP015K

JAK 阻害薬も標的細胞はリンパ球であり,標的分子

の第Ⅰ相単回投与試験において全血を IL - 2 で直接刺

はキナーゼである.したがってリンパ球の細胞内タン

激する方法を用い,血中濃度と PD,すなわち STAT5

パク質のリン酸化状態を検出することで PD マーカー

リン酸化抑制の程度について検討を加えた.STAT5

とすることが有効であると考えられる.この場合,細

リン酸化抑制率は血中濃度とよく相関し,Emax モデル

胞内の特定のタンパク質の特定のアミノ酸残基のリン

で算出された EC50 は 48 ng/mL であった(15).また,

酸化状態を測定することが必要となる.

van t Klooster らは GLPG0634 の第Ⅰ相試験において,

9. STAT リン酸化検出技術の進歩

全血を IL - 6 刺激した後の STAT1 リン酸化を検討して おり,同じく血中濃度と STAT1 リン酸化について論

2005 年頃から細胞内の特定のリン酸化タンパク質

じている(16).通常,第Ⅰ相試験では薬理作用を検出

を認識する抗体と,それに適応した細胞固定や膜透過

できない場合が多々あるが,このように分子標的薬の

処理の試薬が市販されるようになってきた.これによ

場合,標的とするシグナル伝達系,この場合は標的で

りフローサイトメトリーを用いて,細胞の表面抗原と

ある JAK の基質である STAT のリン酸化状態を検出す

同時に細胞内の STAT のリン酸化を検出することが容

ることで,健常人であっても薬物の作用を検出するこ

易に可能になった(図 2).

とが可能になり,第Ⅱ相試験の用量設定に役立つ情報

Lesinski らは 2004 年の論文で,健常人とメラノーマ

の患者の末梢血から分離した単核球を IFNα と共に

培養した時の細胞内 STAT1 のリン酸化状態を抗リン 酸化 STAT1 抗体を用いて検出し,IFNα 療法に対す

る健常人と患者の反応の違いについて考察している (11).また,Krutzik らは 2005 年の報告(12)で,マウ スを用いて種々のサイトカイン刺激や LPS 刺激による JAK/STAT 系や MAPK 系のリン酸化状態を検討して いる.

を得ることができる.高質な PK/PD 情報が入手でき れば,より正確な投与量予測が可能になり,臨床試験 の効率化につながると考えられる.分子標的薬の特徴 を生かして,そのような適切な PD マーカーを初期臨 床から検討することの意義は高いといえよう.

10. 最後に 以上,古典的免疫抑制薬の話から最新の分子標的薬 の動向について概観した.免疫抑制薬はその根本的な

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東  康之

薬理作用により感染防御能への影響を避けて通ること ができない.ステロイドから代謝拮抗薬,CNI,そし て分子標的薬とその対象とする免疫作用・免疫細胞の スペクトルを狭めながら発展してきたのが免疫抑制薬 である.分子標的薬となって,その作用の対象をある 特定のサイトカインやそのシグナル伝達に制限するこ とが可能となってきた.現在の技術をもってすれば分 子標的薬の作用標的の状態をモニターすることも可能 となっており,薬の作用メカニズムをよく理解して, その影響範囲を認識することにより,より安全で高い 効果が得られる薬剤の創出が可能になってきていると いえよう.今後のこれら免疫抑制における分子標的薬 の発展が期待される. 著者の利益相反:東 康之(アステラス製薬株式会社) .





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JAK inhibitors as a new generation of small-molecule immunosuppressants.

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