日衛誌 (Jpn. J. Hyg.),70,167–172(2015) © 日本衛生学会





熊本県の妊婦における歯科健診の実態 値賀さくら *1,大場  隆 *1,三好 潤也 *1,2,田上 大輔 *4, 川瀬 博美 *4,加藤 貴彦 *3,片渕 秀隆 *1 *1 熊本大学大学院生命科学研究部産科婦人科学 *2 熊本赤十字病院産婦人科 *3 熊本大学大学院生命科学研究部公衆衛生学 *4 熊本県歯科医師会

Oral Health Status of Pregnant Women in Kumamoto Prefecture —Kumamoto RAINBOW Project—

Sakura CHIGA*1, Takashi OHBA*1, Junya MIYOSHI*1,2, Daisuke TANOUE*4, Hiromi KAWASE*4, Takahiko KATOH*3 and Hidetaka KATABUCHI*1 *1Department of Obstetrics and Gynecology, Faculty of Life Sciences, Kumamoto University *2Department of Obstetrics and Gynecology, Japanese Red Cross Kumamoto Hospital *3Department of Public health, Faculty of Life Sciences, Kumamoto University *4Kumamoto Dental Association

Abstract Objectives: As part of Kumamoto RAINBOW Project, which is a multifaceted implementation for the prevention of premature labor, we investigated pregnant women’s oral health status and assessed the effects of dental care and oral hygiene instruction. Methods: We examined the oral health status of pregnant women both in the first and the second half of pregnancy in Kumamoto Prefecture from 2012 to 2014. The Community Periodontal Index (CPI) was used to assess the periodontal condition, and women having periodontal pockets with a depth ≥4 mm were defined as suffering from periodontitis. This project covered the cost of dental checkups. Results: Of the 20,702 pregnant women enrolled in this project, 9,527 (46.0%) received dental checkups during the first half of pregnancy. The response rate of dental examinations in Kumamoto City (63.3%), the capital city of Kumamoto Prefecture, was significantly higher than that of the other local areas (32.0%). In Kumamoto City, 4,890 women (83.4%) had dental examinations at the city office when they received a maternal handbook. Three thousand forty-five women (32.0%) had periodontitis. Among 1,605 women who received oral examinations twice at dental clinics, 698 received nonsurgical interventions. Dental interventions significantly decreased the prevalence of periodontitis in pregnant women (55.1% to 45.1%). Dental examinations without interventions also significantly decreased the prevalence of periodontitis (44.6% to 39.9%). Conclusions: Pregnant women living in Kumamoto City had higher rate of visits to dental clinics for checkups than those in other areas. Periodontitis was found in one-third of pregnant women. Not only dental interventions, but also dental examinations improve pregnant women’s oral health status. Key words: pregnant woman(妊婦),dental examination(歯科健診),periodontitis(歯周病), Community Periodontal Index(CPI)(地域歯周疾患指数(CPI))

緒 受付 2014 年 10 月 10 日,受理 2014 年 12 月 15 日 Reprint requests to: Sakura CHIGA Department of Obstetrics and Gynecology, Faculty of Life Sciences, Kumamoto University, 1-1-1 Honjou, Chuo-ku, Kumamoto 860-8556, Japan TEL: +81(96)373-5269, FAX: +81(96)363-5164 E-mail: [email protected]



熊本県では過去 20 年から今日まで,超・極低出生体 重児の出生率が全国平均に比して高い傾向が続いている (1)。県ではその状況を改善するために,平成 16 年度に 「ハイリスク新生児問題検討委員会」を設置して解析を 行った結果,超・極低出生体重児増加の主要な原因とし

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て早産が抽出された。そこで,熊本県では 2007 年から 熊本大学医学部附属病院,産科・歯科医療機関,行政が 連携しながら,早産のリスク因子である絨毛膜羊膜炎, 歯周病及び生活習慣への対策を多角的に実施する早産予 防対策事業として「RAINBOW Project」を進めてきた。 絨毛膜羊膜炎と歯周病は高サイトカイン血症を介して早 産を引き起こすリスク因子となる (2, 3)。先ず 2007 年 7 月から 2008 年 3 月に天草地区,続いて 2009 年 9 月から 2010 年 3 月に人吉・球磨地区においてモデル事業を行っ た結果,本事業に極低出生体重児の出生率を減少させる 効果があることが示された (4, 5)。 これらの結果をもとに,我々は熊本県の委託を受けて 2012 年度,2013 年度の 2 年間に県下の全妊婦を対象と し た 熊 本 型 早 産 予 防 対 策 事 業「Kumamoto RAINBOW Project」を行い,現在,分娩転帰の調査と解析をすすめ ている。今回,本事業の一環として,熊本県の妊婦にお ける歯周病罹患の実態について調査・解析を行ったので 報告する。





熊本型早産予防対策事業(図 1)の対象は,2012 年 8 月 から 2014 年 1 月までに熊本県において親子健康手帳を取 得し妊娠初期より周産期管理を受けた全妊婦で,対象者 が本事業の受診票を産科医療機関に提出することをもっ て事業参加の同意とした。熊本県内全ての産科医療機関 に対し,分娩歴と初回妊婦健康診査時の腟分泌物細菌検 査結果をもとに早産のリスクを有する妊婦の抽出を依頼 し,妊娠 14 週から 20 週の間に 1 週間の経口抗菌剤投与を 勧奨した。腟分泌物細菌検査の費用は本事業が負担した。

親子健康手帳発行窓口および産科医療機関では,妊婦 に対して妊娠の前半期ならびに後半期の 2 回の歯科健診 を勧奨した。 熊本県における妊婦歯科健診事業体制は,本事業を開 始するまで地域によって異なっていた。すなわち熊本市 以外の 44 市町村のうち 9 市町村では歯科医療機関にて 公費で妊婦歯科健診を受診し,残る 35 市町村では自己 負担の受診であった。熊本市における歯科健診は公費で 行われており,妊婦は歯科健診を親子健康手帳取得時に 区役所で受診するか,あるいは後日歯科医療機関で受診 するかを選択することができる。本調査報告では,親子 健康手帳に記載された自治体番号をもとに,熊本市以外 を 7 つの地域に分け,熊本市を加えた 8 地域として解析 を行った。今回の事業では県歯科医師会に所属する全て の歯科医療機関及び熊本市の 5 区役所の協力の下,歯科 健診が自己負担であった地域の妊娠前半期健診,及び県 下全域の妊娠後半期の妊婦歯科健診を本事業の負担で 行った。 歯周病変の程度は,本事業に協力した熊本県内の歯科 医療機関および区役所の歯科医師または歯科衛生士が WHO の地域歯周疾患指数(Community Periodontal Index: CPI)を用いて評価した。CPI は,口腔内を 6 ブロック に分割し,指定の対象歯を WHO periodontal probe を用 いて,歯肉出血,歯石,歯周ポケットの 3 指標を用いて 歯周組織の健康状態を評価する方法である(表 1)(6)。 今回の検討では,CPI の最大値が 3 または 4,すなわち 4 mm 以上の歯周ポケットを有する場合を歯周病と定義 した。歯周状態の評価後は生活指導ならびにブラッシン グの指導を行った。歯周病変に対して歯科治療を行うか 否かは各歯科医療機関の判断に一任した。歯科治療の定

図 1 熊本型早産予防モデル事業の概要。斜字体の検査にかかる費用は事業が負担した。抗菌剤の予防投与は,担当医が医学的な適 応があると判断した場合のみ行った。 表 1 地域歯周疾患指数(CPI: Community Periodontal Index)の分数(文献 (2) を改変) コード

所見

0 1 2 3 4

健全 出血あり 歯石あり 4–5 mm に達するポケット 6 mm を超えるポケット

判定基準 以下の所見がすべて認められない。 ブロービング後 10–30 秒以内に出血が認められる。 歯肉縁上または縁下に歯石を蝕知する プローブの黒い部分に歯肉炎が位置する。 プローブの黒い部分が見えなくなる。

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義は,歯石除去,ルートプレーニング,外科治療と定義 した。歯科健診を 2 回とも受診した妊婦では歯周状態の 変化について検討を行った。 本事業では,連結可能匿名化後に解析を行った。匿名 化における ID と妊婦の名前を連結する「対応表」は各 医療機関でのみ使用されるものとした。 統計解析は,IBM SPSS Statistics21 を用いて 5% の有 意水準(p)で Mann-Whitney U 検定,Kruskal Wallis 検定, Wilcoxon の符号付順位検定で行った。 本事業は熊本大学大学院生命科学研究部等疫学研究倫 理委員会(倫理 556 号,平成 24 年 7 月 30 日)の承認を 得て実施した。





本事業には,2012 年 8 月から 2014 年 1 月までの 18 か 月間に合計 20,702 名の妊婦がエントリーした。2012 年 における熊本県の年間出生数は 15,996 名 (1) で,本事業 のエントリー数は同期間の出生数の約 86% に相当した。 妊娠前半期(1 回目)の歯科健診受診者数は 9,527 名で, 受診率は 46.0% であった。妊娠前半期の歯科健診を受 診した妊婦のうち 2,542 名(12.3%)が妊娠後半期(2 回目)の歯科健診も受診した。妊娠後半期の歯科健診の み受診した妊婦は 603 名(2.9%)であった。 親子健康手帳に記載された自治体番号をもとに 8 つの 地域別の妊娠の前半期及び後半期の妊婦歯科健診受診率 を検討すると,熊本市における受診率は 63.3%,熊本市 以外の 7 地域における受診率は 32.0%(25.1%–35.7%)で, 熊本市が有意に高率であった(図 2,Mann-Whitney U 検定:p<0.01)。本事業にエントリーした妊婦における 妊娠後半期の歯科健診受診率は 15% 前後で,熊本市を

含め地域差はなかった。熊本市で歯科健診を受診した妊 婦 5,863 名のうち,4,890 名(83.4%)は各区役所で親子 健康手帳を取得した際に,残る 973 名(16.6%)は歯科 医療機関にて歯科健診を受診していた。区役所で歯科健 診を受診した群の受診時期は平均 9.3 週,熊本市の歯科 医療機関を受診した群は平均 17.2 週,熊本市以外の歯 科医療機関で受診した群は平均 17.3 週であり,区役所 での歯科健診受診は歯科医療機関を受診した場合に比べ て有意に早い妊娠週数で行われていた(Mann-Whitney U 検定:p<0.01)。 妊娠前半期の歯科健診を受診した妊婦のうち歯周病 を 有 す る 者 は 3,041 名(32.0%) で あ っ た。 熊 本 市 に おける歯周病を有する妊婦は 1,243 名(21.2%)であっ たのに対し,熊本市以外の地域では 1,798 名(50.0%: 40.8%–60.1%)で,熊本市の妊婦で有意に低率であった (図 3,Mann-Whitney U 検定:p<0.01)。この傾向は区 役所で歯科健診を受けた妊婦に顕著であり,歯科医療機 関を受診した妊婦に限れば熊本市以外の妊婦と有意差は なかった(図 4,Mann-Whitney U 検定 p=0.199)。 転帰票に年齢の記載がなかった 10 名と 45 歳以上の 3 名を除く 9,514 名について妊娠前半期の歯科健診の受 診率を妊婦の年齢層別に検討すると,15–19 歳で 133 名 (35.0%),20–24 歳で 969 名(36.0%),25–29 歳で 2,996 名 (44.6%) ,30–34 歳で 3,277 名(48.8%) ,35–39 歳で 1,800 名 (50.6%),40–44 歳で 339 名(54.1%)であり,妊婦の年 齢層が高くなるにつれて受診率が高くなる傾向にあっ た。しかし,年齢層別の CPI 最大値の分布には有意差 は認められなかった(Kruskal Wallis 検定:p=0.096)。 次に,歯科健診を 2 回とも受診した妊婦について歯周 状態の変化を検討した。該当する妊婦は 2,542 名であっ たが,1 回目の歯科健診を区役所で受診した 937 名につ

図 2 熊本県における地域別の妊婦歯科健診受診率。地域名の右側に本事業へのエントリー数を示した。□は妊娠前半期,■は妊娠 後半期の受診率を表し,棒グラフの右側の数字は受診率(%)である。

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図 3 妊娠前半期歯科健診における県全体及び地域別の妊婦の歯周病の頻度。地域別の歯周病の割合を % で示した。

図 4 妊娠前半期歯科健診における受診施設別の歯周状態。妊娠前半期に歯科健診を受診した妊婦の歯周状態を受診施設別に CPI の 最大値で示した。

いては,歯科医療機関での受診者と比べて平均受診週数 が大きく異なり,歯周病有病率にも違いが認められた。 このことから歯科健診を 2 回とも歯科医療機関で受診し た 1,605 名の妊婦のみを対象とし,受診前後の歯周状態 を比較した。このうち 689 名(43.0%)が 1 回目の健診時 に歯科治療を受けていた。歯科治療の内容は歯石除去で, 観血的な治療を受けた妊婦はいなかった。残る 916 名 (57.0%)は歯科治療を受けていなかった。歯科治療を受 けた群における歯周病の妊婦は 380 名(55.1%),受けて いない群では 409 名(44.6%)であり,治療を受けた群 で有意に歯周病の頻度が高かった(Mann-Whitney U 検 定:p<0.01)。2 回の歯科健診における歯周状態を比較 すると,1 回目の健診時に歯科治療を受けた群では歯周 病の妊婦が 380 名(55.1%)から 311 名(45.1%)へ有 意に減少していたが(図 5a,Wilcoxon の符号付順位検定: p<0.01),歯科治療を受けなかった群でも歯周病の妊婦 が 449 名(44.6%)から 365 名(39.9%)へ有意に減少 していた(図 5b,Wilcoxon の符号付順位検定:p<0.01)。





妊娠中は,歯肉溝滲出液中のエストロゲン及びプロゲ ステロンの増加に伴い,これを栄養源とする Prevotella intermedia などの歯周病原菌が増殖し (7),宿主免疫応 答の変化により歯肉の炎症反応が亢進すると考えられて いる (8)。また,悪阻や間食の増加による口腔衛生状態 の悪化も加わり,妊娠中は歯周病が増悪しやすい状態に ある。このような背景から,妊娠中に歯科健診を受ける 意義は大きいと考えられるが,妊娠中の歯科健診を公費 負担するか否かは各自治体の裁量に任されており受診の 実態や費用対効果は明らかではない。 本研究で対象とした妊婦の妊娠前半期の歯科健診受診 率は 46.0% で,過去に我々が行った 2 つのモデル事業に おける妊婦歯科健診受診率(2008 年天草地区:51.1%, 2011 年人吉・球磨地区:45.2%)(4, 5) と同程度であった。 本邦における過去の調査をみると,徳島県における 2005 年 9 月から 2006 年 3 月の妊婦歯科健診の推定受診

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図 5 歯科健診受診者における歯周状態の変化。妊娠前半期の歯科健診時に歯科治療を受けた妊婦(a) ,受けなかった妊婦(b)の 妊娠前半期および妊娠後半期の歯科健診受診時の CPI の最大値を示した。

率は約 20%(9),千葉県八千代市における 2007 年度の 妊婦歯科健診受診率は 22.0%(407/1,850)(10) と報告 されている。本事業における歯科健診受診率は,これら の国内における先行研究より高く,特に熊本市では 63.3% と熊本市以外の妊婦より高い受診率が示された。 妊婦は自身の体調の変化による身体的負担や家事など の社会的負担から歯科医療機関受診を後回しにしている 可能性がある。その中で,体調の悪い妊婦,乳幼児を養 育中の妊婦,かかりつけの歯科医療機関を持たない妊婦, そして就業中の妊婦は,親子健康手帳発行時の歯科健診 は受診しやすい機会であったと推定される。一方,既に かかりつけの歯科医療機関を持つ妊婦や歯科治療を考え ていた妊婦にとっては,公費負担される歯科健診は歯科 医療機関を受診するよい機会となる。熊本市においては, 親子健康手帳発行時に行政機関で行う歯科健診と歯科医 療機関での歯科健診をいずれも公費で選択できることが 受診率の高さに寄与していると推定された。 妊娠前半期に歯科健診を受診した妊婦の 32.0% に CPI 最大値が 3 以上の歯周病変が認められた。歯科医療機関 で健診を受けた妊婦に限ると受診者の 50.0% に歯周病

が認められており,過去の 2 つのモデル事業における歯 周病有病率(2008 年天草地区:47.8%,2011 年人吉・球 磨地区:59.7%)(4, 5) と同程度であった。 妊婦の歯周病有病率について,1987 年から 1988 年に 熊本市と北九州市の妊婦 2,424 名を対象とした検討では, 4 mm 以上の歯周ポケットを有する者の割合は 20% で あった (11)。また,2005 年 9 月から 2006 年 3 月に徳島 県 の 歯 科 医 院 に て 健 診 を 受 け た 妊 婦 739 名 の う ち, 4 mm 以上の歯周ポケットを有する者の割合は 40.7% で あった (9)。海外の報告では,米国ノースカロライナ州 における妊娠 26 週未満の妊婦の 72.1%(733/1,017)に, 4 mm 以上の歯周ポケットもしくは歯肉出血を伴う 3 mm 以上の歯周ポケットが認められている (12)。一方,豪 州パースにおける妊娠 12 週から妊娠 20 週の妊婦におい ては,智歯以外のすべての歯にプロービングを行い,12 か所以上の部位で 4 mm 以上の歯周ポケットが認められ た者は 29.1%(1,087/3,737)であった (13)。国内の報告 では,歯周状態の評価方法に違いがあるため単純な比較 はできないが,本研究における妊婦の歯周病の有病率は, 本邦におけるこれまでの報告と同程度であったといえ

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る。しかし,海外におけるこれまでの報告は,本研究と 歯周状態の評価方法が大きく異なるため比較できない。 熊本市の妊婦に歯周病が低頻度であった理由として, 所得格差の影響なども考えられる (14)。しかし,歯科 医療機関を受診した妊婦に限って検討すると熊本市と熊 本市以外の地域で歯周病の頻度に有意な差は認められな かったことから,区役所で歯科健診を受診した妊婦にお いて歯周病の有病率が低かったことが主要な原因と考え られた。各区役所と歯科医療機関における歯周状態の評 価に乖離が認められる理由については受診時期の差も含 め,今後考証する必要がある。 妊娠中の歯周病に対して歯石除去やルートプレーニン グなどの治療を行うことは歯周状態の改善に寄与すると の報告がある (15)。本事業においても,妊娠前半期の 歯科健診時に歯科治療を受けた妊婦では歯周状態の有意 な改善が認められている。興味深いことに,妊娠前半期 の歯科健診時に治療を受けなかった妊婦においても妊娠 後半期に歯周状態の有意な改善がみられている。歯科健 診が契機となって歯周病への関心が高まり,セルフケア によって歯周状態が改善したものと考えられる。本結果 は妊婦歯科健診の受診率を高めるだけでさらに多くの妊 婦の歯周状態の改善が望める可能性を示している。本研 究での歯科健診受診率は先行研究より高かったが,半数 に達しておらず,今後さらに受診率を向上させる方策を 検討する必要がある。 歯周病は高サイトカイン血症を介して早産,低出生体 重児出生 (3) や妊娠高血圧症候群のリスク因子となる (16)。早産の既往を有し中等度以上の歯周病変を伴う妊 婦に対する歯周病治療 (15) は早産予防に有効であるこ とが知られているが,これに対するスクリーニング的介 入には有意な効果が得られていない。今後,本事業では 妊婦の歯周病と妊娠・分娩転帰の関連についての検討を 予定している。



(3)

(4) (5)

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(7) (8)

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辞 (14)

今回の事業にご協力いただいた熊本県下の産婦人科医 療機関,歯科医療機関の皆様に深謝申し上げます。 (15)

利益相反なし





( 1 ) 母子衛生研究会(編集協力).母子保健の主なる統計. 東京:母子保健事業団,2012. ( 2 ) Goldenberg RL, Hauth JC, Andrews WW. Intrauterine

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[Oral health status of pregnant women in Kumamoto Prefecture].

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