日耳鼻
93-2047
中
山
本
悦
生,広
REPORT
ETSUO
OF A CASE
YAMAMOTO,
loss
Audiometry
revealed
frequencies.
The
ISONO,
in the
tympanic
A tumor
adenoma
症
例
ADENOMA
adenoma
HIRONO,
Kobe
inside
deafness
with X-ray
ear was
reported
EAR
OHMURA,
M.D.,
, Kobe
.
Her chief
auditory
hearing
CT revealed
千佳 司
M .D.
Hospital
external
average
上
MIDDLE
MASAKI
General
the right the
夫 ,水
MIZUKAMI,
City
of the middle
THE
M.D.,
and CHIKASHI
mass
by high resolution
OF
道
of 38.3
a density
area
complaint
canal
was
was observed
dB for
the
as like as a soft mass
by
mainly
in the
interposing
the
course with
of the
was
stains middle
1.は
good of HE,
hypotympanum malleus
head
and the average PAS,
was as
hearing
mucicarmin,
surgically an
improved
colloid
removed
autograft
iron,
as
slightly NSE
a
and modified columella
to 30 dB. and
S-100
was
type
Histopatholoprotein
showed
ear.
じ め
に
断は未確 立 な部 分 が あ り,難 しい.最 近,全 摘 出後, 鼓室 形成 術 を施 行 した 中耳腺 腫症 例 を経験 し,病 理組 織学 的検 討 を詳細 に行 った ので,報 告 す る. 2.症
患 者:44歳,女
例
性
難聴 :鉄 欠 乏 性 貧 血,胃
家 族 歴:特
潰瘍
記 すべ きこ とな し
現 病 歴:約10カ
月 前 に右 難 聴 に 気 付 き,徐 々 に 増 悪
し,右 の 耳 閉 感 お よ び 耳 鳴(ピ
ー,ピ
ー)を
に な り,某 医 で 外 耳 道 腫 瘍 を指 摘 さ れ,当
伴 う よう
科 を受 診 し
た. 初 診 時 所 見:右
鼓 膜 の 後 上 部 よ り外 耳 道 に 突 出 し,
図1外
耳 道 に 突 出 した 腫 瘍(矢
III
done .
中耳 原発 の腫 瘍 は非 常 に まれ で あ り,腺 腫 の病理 診
主 訴:右 .既往 歴
.
speech
cavity.
Postoperative study
M.D.
A white
a combined
existing
tympanoplasty
gical
with ear.
study
WITH
of Otolaryngology,
female
in the right
腫
M .D., YOSINOBU
Department
A 44-year-old
腺
神戸 市立 中央 市民病 院耳 鼻咽喉 科 喜 信,大 村 正 樹,磯 野
野
MICHIO
hearing
耳
印)
93-2048
山 本 ・他=中
図2術
耳 腺腫
1990
前 のオー ジオ グラム
図5下
図6術
鼓室 に存在 した腫瘍 状塊
後7カ
月 の オ ー ジ オ グ ラム
に 充 満 す る軟 部 組 織 陰 影 が 認 め られ た(図3,b).以 上 よ り,中 耳 の 先 天 性 真 珠 腫 あ る い は 腫 瘍 性 病 変 を疑 っ て,手 術 し た. 手 術 お よび 経 過:局 鼓 室,乳
所 麻 酔 で,耳 後 部 切 開 を 行 い,
突腔 を 開 放 した(図4).非
出血性 の腫瘍 状塊
が 鼓 室 内 に 充 満 し,外 耳 道 に 突 出 す る 型 で存 在 した が , 鼓 膜 穿 孔 は な か っ た(a).耳 図3耳X線
所 見(a:単
純 耳X線
頭 骨 高 分 解 能CT,矢 を 示 す).
シ ュ ラ ー 法,b:側
印 は鼓 室 内軟部 組 織陰 影
形 で存 在 した が(b),3つ
小 骨 は この 中 に埋 没 す る の 耳 小 骨 や 顔 面 神 経 管 に骨
欠 損 は な か っ た.外 耳 道 後 壁 は 削 除 し,キ 出 し,ツ チ骨 頭 を 切 除 し て,中,下
ヌ タ骨 を摘
鼓 室 を中心 に存在
外 耳 道 内 を ほ ぼ 閉 塞 す る 白 色 の 腫 瘤 を認 め(図1),右
し た腫 瘍 状 塊(c)は
耳 は 混 合 性 難 聴 が あ り(図2),テ
家 ツ チ骨 頭 を コ ル メ ラ と してIII型変 法 と し,鼓 膜 前 部
型 で あ っ た.耳X線
ィ ンパ ノ グ ラ ム はAs
検 査 で は,単 純X線
の 発 育 抑 制 が あ り(図3,a),高
で右 乳 突 蜂 巣
分 解 能CTで
鼓室内
完 全 摘 出 した .先
は 残 せ た の で,側 頭 筋 膜 をunderlayし
に 切 除 した 自
た(d)
.図5
に 摘 出標 本 の 一 部 を示 す .術 後 経 過 は 良 好 で,7カ
月
日耳鼻
山本 ・他=中
図4手
耳 内 は 乾 燥 し て お り,会 話 音 域 の 平 均 聴
力 は30dBで
あ り(図6),再
病 理 検 査 所 見:HE染
93-2049
術 所 見(矢 印 は,a:外 耳 道 に 突 出 し た腫 瘍, b:耳 小 骨 周 囲 の 肉 芽,c:下 鼓 室 の 腫 瘍,d:コ ル メ ラ を示 す).
後 の 現 在,中
性 の腺 腫 と診 断 され た.
発 の 徴 候 は な い.
色 で は,円
状 の腫 瘍 細 胞 が,trabecularま
耳腺腫
柱 状 あ る いは立 方
た はsheet状
あ る いは
3.考
按
腺 腔 を 形 成 す る よ う に 配 列 して 増 殖 して い た.さ ら に,
中 耳 腺 腫 は,性 差 は な く,特 に 好 発 年 齢 も な い .特 異 な症 状 は な く,無 症 状 の こ と も あ るが1)∼3) ,徐 々 に進
細 胞 の 異 型 性 は 少 な く,mitosisも
行 す る 難 聴,耳
な か っ た(図7,a).腺 ミン,コ
腔 内 部 に は,PAS,ム
チカル
ロ イ ド鉄 染 色 で 陽 性 に染 ま る 粘 液 性 の 分 泌 物
が 認 め ら れ た(図7,b,c,d).ま specificenolase)染 あ っ た.以
ほ と ん ど 認 め られ
色,S-100蛋
たNSE(neuron 白 染 色 と も に陰 性 で
上 よ り,本 腫 瘍 は 中耳 粘 膜 に 発 生 した 原 発
に,中
鳴,耳
閉 感 を 訴 え る こ とが 多 い14).時
耳 炎 を併 発 し て 耳 漏 を き た す こ とが あ る5).ま
た,顔 面 神 経 麻 痺 を伴 っ た症 例 も報 告 され て い る1)2. 中 耳 原 発 の 腫 瘍 と して は,腺 腫 以 外 に傍 神 経 節 腫 , 耳 垢 腺 種,カ
ル チ ノ イ ド腫 瘍,神 経 鞘 腫,腺 癌 ,扁 平 上 皮 癌 な どが あ り,臨 床 的 に は 腺 腫 と これ らの 腫 瘍 と
93-2050 山
本・ 他=中
図7病
色標 本
で 形 態 学 的 に き わ め て 類似 して い る カ ル チ ノ イ ド腫 瘍 れ らの腫 瘍 で は,
免 疫 組 織 学 的 染 色 で あ るNSE,S-100蛋 陽 性 と な り,電 子顕 微 鏡 的 にmembrane
白各 染色 が bound
gran-
uleが 証 明 され る と い わ れ て い る4) 7).本 報 告 例 で は, HE染
色 で カ ル チ ノ イ ド腫 瘍 に類 似 し た 形 態 を示 し た
が,細
胞 の 異 型 性 が 少 な く悪 性 腫 瘍 は否 定 さ れ た.電
子 顕 微 鏡 に よ る観 察 は 行 わ な か っ た が,NSE染 色,S -100蛋 白染 色 と も に陰 性 で あ り,傍 神 経 節 腫,カ ル チ ノ イ ド腫 瘍 は 否 定 され た.さ ら に,腺 腔 様 構 造 を 有 し, そ の 内 部 の 粘 液 性 分 泌 物 が,PAS,ム
1990
理 所 見(a:HE染 色,b:PAS染 色,c:ム カ ル ミ ン 染 色,d:コnイ ド鉄 染 色)
の 鑑 別 が 必 要 とな る.病 理 組 織 学 的 に は,HE染
や 傍 神 経 節 腫 との 鑑 別 が 難 しい.こ
耳 腺腫
チ ヵ ル ミン,コ
チ
ロイ ド鉄 染 色 と も に 陽 性 で あ り,腺 腫 と診 断 され た. 中 耳 腺 腫 の 発 生 起 源 は,耳 とす る報 告 もあ るが,最
垢 腺3)や 異 所 性 唾 液 腺9)
近,電
子 顕 微 鏡 的 に腫 瘍細 胞
と中 耳 粘 膜 上 皮 との 間 に 共 通 点 が あ る こ と が 分 か り, 中 耳 粘 膜 起 源 の 腫 瘍 と考 え る の が 妥 当 と思 わ れ . 従 来,中
る4)6)10) 耳 原 発 の 腺 腫 様 腫 瘍 はceruminal
adenoma,salivary cinoma,adenoid
gland CyStic
adenoma,adenocar-
carcinomaな
い た が,HyamsとMichaels(1976)6)が20例 発 の 腺 腫 様 腫 瘍 の 病 理,臨
ど と診 断 され て の 中耳 原
床 像,治
耳 腺 腫 の 存 在 を 指 摘 し て,そ
gland
療 成 績 を 検 討 し て,
の ほ と ん ど は 本 腫 瘍中で
日耳 鼻 山
本・ 他=中耳腺
あ る と した.そ の 診 断 基 準 と して,骨 破 壊 が な い こ と, 腫 瘍 が 中 耳 内 に 限 局 して い る こ と,隣 接 組 織 へ の 浸 潤 や転 移 が な い こ と を あ げ た.本
1975. 6) Hyams VJ, Michaels L: Benign adenomatous plasm (Adenoma) of the Otolaryngol 1 : 17-26, 1976.
細 な 病 理 検 査 を 行 っ て お れ ば,中 耳
腺 腫 例 と診 断 さ れ る症 例 は も っ と多 くあ っ た と考 え ら
7) Gillanders
れ る. 治 療 法 と して,本
もの で,限 局 性 で 転 移 は な い の で,局
所 の 全 摘 出 で再
的 に耳 小 骨 形 成 を行 うべ き だ と考 え る.
4.ま
と
め
病 理 組 織 学 的 検 索 を詳 細 に 行 い,中
参 考 文 献
1) Jahrsdoerfer RA, Fechner RE, Moon CN Jr et al : Adenoma of the middle ear. Laryngoscope 93: 1041-1044, 1983. 2) Hagen WE, Leonard GL, Ichinose H et al : Primary monomorphic adenoma of the middle ear. Laryngoscope 90 : 1962-1972, 1980. 3) Pallanch JF, Weiland LH, Mc Donald TJ et al: Adenocarcinoma and adenoma of the middle ear. Laryngoscope 92 : 47-54, 1982. 4) Riches WG, Johnston WH : Primary adenomatous neoplasms of the middle ear. Light and electron microscopic features of a group distinct from the Am J Clin Path 77 : 153-161, 1982.
middle
A, Honore
ear.
neo Clin
L: Ceruminous
Can J Otolaryngol 3 :
8) Harrison K, Cronin J, Greenwood N : Ceruminous adenocarcinoma in the middle ear. J Laryngol Otol 88: 363-368, 1974. 9) Caplinger CB, Hora JF : Middle ear choristoma with absent oval window. Arch Otolaryngol 85:
耳 腺 腫 と診 断 さ
れた44歳 女 性 例 を報 告 した.
D, Worth
adenoma of the middle ear. 194-201, 1974.
腫 瘍 は良 性 あ るいは悪性 度 の低 い
発 は まず な い6).従 っ て,摘 出後 は,本 例 の よ う に 積 極
ceruminomas.
93-2051
5) Stone H, Lipa M, Bell R : Primary adenocarcinoma of the middle ear. Arch Otolaryngol 101 : 702-705
邦 での 中耳腺 腫 の報告
例 は,学 会 報 告 例 の2例11)12)の み で あ る が,上 記 の 診 断 基 準 に 従 い,詳
腫
365-366, 1967. 10) Kawabata I, Paparella MM : Ultrastructure of normal human middle ear mucosa. Ann Otol Rhinol Laryngol 78: 125-137, 1969. 11)池
田 昌 毅,調
重 昭,曽
わ れ た 中 耳 腺 腫 症 例.臨 12)渡
辺 悟 郎,黒田
一,福
中 耳 腺 腫 の1例.臨
床 耳 科14:293,1987, 永
昇,岡
本 途 也,小
林 一 女:
日耳 鼻兵 庫 県地 方 部 会(平 成 元
戸 〉お よび,第91回日 本耳 鼻咽 喉 科 学会 総 会
(平成7年5月17,東
(1990年7月27日 別刷 請 求 先
ル チ ノ イ ド腫 瘍 が 疑
床 耳 科16:126,1989.
本 論文 の 要 旨は,第104回 年12月3日,神
田 豊 二:カ
京)で 発表 した.
受稿
1990年10月18日 受 理
急載)
〒650神 戸市 中 央 区港 島 中町4-6 立 中 央市民 病 院耳 鼻咽 神戸市 喉科
山本 悦生
93-2047
中
山
本
悦
生,広
REPORT
ETSUO
OF A CASE
YAMAMOTO,
loss
Audiometry
revealed
frequencies.
The
ISONO,
in the
tympanic
A tumor
adenoma
症
例
ADENOMA
adenoma
HIRONO,
Kobe
inside
deafness
with X-ray
ear was
reported
EAR
OHMURA,
M.D.,
, Kobe
.
Her chief
auditory
hearing
CT revealed
千佳 司
M .D.
Hospital
external
average
上
MIDDLE
MASAKI
General
the right the
夫 ,水
MIZUKAMI,
City
of the middle
THE
M.D.,
and CHIKASHI
mass
by high resolution
OF
道
of 38.3
a density
area
complaint
canal
was
was observed
dB for
the
as like as a soft mass
by
mainly
in the
interposing
the
course with
of the
was
stains middle
1.は
good of HE,
hypotympanum malleus
head
and the average PAS,
was as
hearing
mucicarmin,
surgically an
improved
colloid
removed
autograft
iron,
as
slightly NSE
a
and modified columella
to 30 dB. and
S-100
was
type
Histopatholoprotein
showed
ear.
じ め
に
断は未確 立 な部 分 が あ り,難 しい.最 近,全 摘 出後, 鼓室 形成 術 を施 行 した 中耳腺 腫症 例 を経験 し,病 理組 織学 的検 討 を詳細 に行 った ので,報 告 す る. 2.症
患 者:44歳,女
例
性
難聴 :鉄 欠 乏 性 貧 血,胃
家 族 歴:特
潰瘍
記 すべ きこ とな し
現 病 歴:約10カ
月 前 に右 難 聴 に 気 付 き,徐 々 に 増 悪
し,右 の 耳 閉 感 お よ び 耳 鳴(ピ
ー,ピ
ー)を
に な り,某 医 で 外 耳 道 腫 瘍 を指 摘 さ れ,当
伴 う よう
科 を受 診 し
た. 初 診 時 所 見:右
鼓 膜 の 後 上 部 よ り外 耳 道 に 突 出 し,
図1外
耳 道 に 突 出 した 腫 瘍(矢
III
done .
中耳 原発 の腫 瘍 は非 常 に まれ で あ り,腺 腫 の病理 診
主 訴:右 .既往 歴
.
speech
cavity.
Postoperative study
M.D.
A white
a combined
existing
tympanoplasty
gical
with ear.
study
WITH
of Otolaryngology,
female
in the right
腫
M .D., YOSINOBU
Department
A 44-year-old
腺
神戸 市立 中央 市民病 院耳 鼻咽喉 科 喜 信,大 村 正 樹,磯 野
野
MICHIO
hearing
耳
印)
93-2048
山 本 ・他=中
図2術
耳 腺腫
1990
前 のオー ジオ グラム
図5下
図6術
鼓室 に存在 した腫瘍 状塊
後7カ
月 の オ ー ジ オ グ ラム
に 充 満 す る軟 部 組 織 陰 影 が 認 め られ た(図3,b).以 上 よ り,中 耳 の 先 天 性 真 珠 腫 あ る い は 腫 瘍 性 病 変 を疑 っ て,手 術 し た. 手 術 お よび 経 過:局 鼓 室,乳
所 麻 酔 で,耳 後 部 切 開 を 行 い,
突腔 を 開 放 した(図4).非
出血性 の腫瘍 状塊
が 鼓 室 内 に 充 満 し,外 耳 道 に 突 出 す る 型 で存 在 した が , 鼓 膜 穿 孔 は な か っ た(a).耳 図3耳X線
所 見(a:単
純 耳X線
頭 骨 高 分 解 能CT,矢 を 示 す).
シ ュ ラ ー 法,b:側
印 は鼓 室 内軟部 組 織陰 影
形 で存 在 した が(b),3つ
小 骨 は この 中 に埋 没 す る の 耳 小 骨 や 顔 面 神 経 管 に骨
欠 損 は な か っ た.外 耳 道 後 壁 は 削 除 し,キ 出 し,ツ チ骨 頭 を 切 除 し て,中,下
ヌ タ骨 を摘
鼓 室 を中心 に存在
外 耳 道 内 を ほ ぼ 閉 塞 す る 白 色 の 腫 瘤 を認 め(図1),右
し た腫 瘍 状 塊(c)は
耳 は 混 合 性 難 聴 が あ り(図2),テ
家 ツ チ骨 頭 を コ ル メ ラ と してIII型変 法 と し,鼓 膜 前 部
型 で あ っ た.耳X線
ィ ンパ ノ グ ラ ム はAs
検 査 で は,単 純X線
の 発 育 抑 制 が あ り(図3,a),高
で右 乳 突 蜂 巣
分 解 能CTで
鼓室内
完 全 摘 出 した .先
は 残 せ た の で,側 頭 筋 膜 をunderlayし
に 切 除 した 自
た(d)
.図5
に 摘 出標 本 の 一 部 を示 す .術 後 経 過 は 良 好 で,7カ
月
日耳鼻
山本 ・他=中
図4手
耳 内 は 乾 燥 し て お り,会 話 音 域 の 平 均 聴
力 は30dBで
あ り(図6),再
病 理 検 査 所 見:HE染
93-2049
術 所 見(矢 印 は,a:外 耳 道 に 突 出 し た腫 瘍, b:耳 小 骨 周 囲 の 肉 芽,c:下 鼓 室 の 腫 瘍,d:コ ル メ ラ を示 す).
後 の 現 在,中
性 の腺 腫 と診 断 され た.
発 の 徴 候 は な い.
色 で は,円
状 の腫 瘍 細 胞 が,trabecularま
耳腺腫
柱 状 あ る いは立 方
た はsheet状
あ る いは
3.考
按
腺 腔 を 形 成 す る よ う に 配 列 して 増 殖 して い た.さ ら に,
中 耳 腺 腫 は,性 差 は な く,特 に 好 発 年 齢 も な い .特 異 な症 状 は な く,無 症 状 の こ と も あ るが1)∼3) ,徐 々 に進
細 胞 の 異 型 性 は 少 な く,mitosisも
行 す る 難 聴,耳
な か っ た(図7,a).腺 ミン,コ
腔 内 部 に は,PAS,ム
チカル
ロ イ ド鉄 染 色 で 陽 性 に染 ま る 粘 液 性 の 分 泌 物
が 認 め ら れ た(図7,b,c,d).ま specificenolase)染 あ っ た.以
ほ と ん ど 認 め られ
色,S-100蛋
たNSE(neuron 白 染 色 と も に陰 性 で
上 よ り,本 腫 瘍 は 中耳 粘 膜 に 発 生 した 原 発
に,中
鳴,耳
閉 感 を 訴 え る こ とが 多 い14).時
耳 炎 を併 発 し て 耳 漏 を き た す こ とが あ る5).ま
た,顔 面 神 経 麻 痺 を伴 っ た症 例 も報 告 され て い る1)2. 中 耳 原 発 の 腫 瘍 と して は,腺 腫 以 外 に傍 神 経 節 腫 , 耳 垢 腺 種,カ
ル チ ノ イ ド腫 瘍,神 経 鞘 腫,腺 癌 ,扁 平 上 皮 癌 な どが あ り,臨 床 的 に は 腺 腫 と これ らの 腫 瘍 と
93-2050 山
本・ 他=中
図7病
色標 本
で 形 態 学 的 に き わ め て 類似 して い る カ ル チ ノ イ ド腫 瘍 れ らの腫 瘍 で は,
免 疫 組 織 学 的 染 色 で あ るNSE,S-100蛋 陽 性 と な り,電 子顕 微 鏡 的 にmembrane
白各 染色 が bound
gran-
uleが 証 明 され る と い わ れ て い る4) 7).本 報 告 例 で は, HE染
色 で カ ル チ ノ イ ド腫 瘍 に類 似 し た 形 態 を示 し た
が,細
胞 の 異 型 性 が 少 な く悪 性 腫 瘍 は否 定 さ れ た.電
子 顕 微 鏡 に よ る観 察 は 行 わ な か っ た が,NSE染 色,S -100蛋 白染 色 と も に陰 性 で あ り,傍 神 経 節 腫,カ ル チ ノ イ ド腫 瘍 は 否 定 され た.さ ら に,腺 腔 様 構 造 を 有 し, そ の 内 部 の 粘 液 性 分 泌 物 が,PAS,ム
1990
理 所 見(a:HE染 色,b:PAS染 色,c:ム カ ル ミ ン 染 色,d:コnイ ド鉄 染 色)
の 鑑 別 が 必 要 とな る.病 理 組 織 学 的 に は,HE染
や 傍 神 経 節 腫 との 鑑 別 が 難 しい.こ
耳 腺腫
チ ヵ ル ミン,コ
チ
ロイ ド鉄 染 色 と も に 陽 性 で あ り,腺 腫 と診 断 され た. 中 耳 腺 腫 の 発 生 起 源 は,耳 とす る報 告 もあ るが,最
垢 腺3)や 異 所 性 唾 液 腺9)
近,電
子 顕 微 鏡 的 に腫 瘍細 胞
と中 耳 粘 膜 上 皮 との 間 に 共 通 点 が あ る こ と が 分 か り, 中 耳 粘 膜 起 源 の 腫 瘍 と考 え る の が 妥 当 と思 わ れ . 従 来,中
る4)6)10) 耳 原 発 の 腺 腫 様 腫 瘍 はceruminal
adenoma,salivary cinoma,adenoid
gland CyStic
adenoma,adenocar-
carcinomaな
い た が,HyamsとMichaels(1976)6)が20例 発 の 腺 腫 様 腫 瘍 の 病 理,臨
ど と診 断 され て の 中耳 原
床 像,治
耳 腺 腫 の 存 在 を 指 摘 し て,そ
gland
療 成 績 を 検 討 し て,
の ほ と ん ど は 本 腫 瘍中で
日耳 鼻 山
本・ 他=中耳腺
あ る と した.そ の 診 断 基 準 と して,骨 破 壊 が な い こ と, 腫 瘍 が 中 耳 内 に 限 局 して い る こ と,隣 接 組 織 へ の 浸 潤 や転 移 が な い こ と を あ げ た.本
1975. 6) Hyams VJ, Michaels L: Benign adenomatous plasm (Adenoma) of the Otolaryngol 1 : 17-26, 1976.
細 な 病 理 検 査 を 行 っ て お れ ば,中 耳
腺 腫 例 と診 断 さ れ る症 例 は も っ と多 くあ っ た と考 え ら
7) Gillanders
れ る. 治 療 法 と して,本
もの で,限 局 性 で 転 移 は な い の で,局
所 の 全 摘 出 で再
的 に耳 小 骨 形 成 を行 うべ き だ と考 え る.
4.ま
と
め
病 理 組 織 学 的 検 索 を詳 細 に 行 い,中
参 考 文 献
1) Jahrsdoerfer RA, Fechner RE, Moon CN Jr et al : Adenoma of the middle ear. Laryngoscope 93: 1041-1044, 1983. 2) Hagen WE, Leonard GL, Ichinose H et al : Primary monomorphic adenoma of the middle ear. Laryngoscope 90 : 1962-1972, 1980. 3) Pallanch JF, Weiland LH, Mc Donald TJ et al: Adenocarcinoma and adenoma of the middle ear. Laryngoscope 92 : 47-54, 1982. 4) Riches WG, Johnston WH : Primary adenomatous neoplasms of the middle ear. Light and electron microscopic features of a group distinct from the Am J Clin Path 77 : 153-161, 1982.
middle
A, Honore
ear.
neo Clin
L: Ceruminous
Can J Otolaryngol 3 :
8) Harrison K, Cronin J, Greenwood N : Ceruminous adenocarcinoma in the middle ear. J Laryngol Otol 88: 363-368, 1974. 9) Caplinger CB, Hora JF : Middle ear choristoma with absent oval window. Arch Otolaryngol 85:
耳 腺 腫 と診 断 さ
れた44歳 女 性 例 を報 告 した.
D, Worth
adenoma of the middle ear. 194-201, 1974.
腫 瘍 は良 性 あ るいは悪性 度 の低 い
発 は まず な い6).従 っ て,摘 出後 は,本 例 の よ う に 積 極
ceruminomas.
93-2051
5) Stone H, Lipa M, Bell R : Primary adenocarcinoma of the middle ear. Arch Otolaryngol 101 : 702-705
邦 での 中耳腺 腫 の報告
例 は,学 会 報 告 例 の2例11)12)の み で あ る が,上 記 の 診 断 基 準 に 従 い,詳
腫
365-366, 1967. 10) Kawabata I, Paparella MM : Ultrastructure of normal human middle ear mucosa. Ann Otol Rhinol Laryngol 78: 125-137, 1969. 11)池
田 昌 毅,調
重 昭,曽
わ れ た 中 耳 腺 腫 症 例.臨 12)渡
辺 悟 郎,黒田
一,福
中 耳 腺 腫 の1例.臨
床 耳 科14:293,1987, 永
昇,岡
本 途 也,小
林 一 女:
日耳 鼻兵 庫 県地 方 部 会(平 成 元
戸 〉お よび,第91回日 本耳 鼻咽 喉 科 学会 総 会
(平成7年5月17,東
(1990年7月27日 別刷 請 求 先
ル チ ノ イ ド腫 瘍 が 疑
床 耳 科16:126,1989.
本 論文 の 要 旨は,第104回 年12月3日,神
田 豊 二:カ
京)で 発表 した.
受稿
1990年10月18日 受 理
急載)
〒650神 戸市 中 央 区港 島 中町4-6 立 中 央市民 病 院耳 鼻咽 神戸市 喉科
山本 悦生
