Exp.Anim.41(2),111-121,1992
―総 説―
マ ウ ス 乳 癌 ウ イ ル ス(MTV)の
体 内 伝 達 と腫 瘍 発 生
―マ ウス乳癌 モデ ル の ヒ ト乳 癌 へ の外 挿― 螺 良 愛 郎 ・森 井 外 吉 関 西 医 科 大 学 第二 病理 学 教 室 (受付1991.11.19/受
理1991.12.6) 目
I.は
次
じめ にII
b.前
癌 病 変 の 組 織 細 胞 化学 的特 徴
.乳 因 子 の 生 活 環
c.乳
癌 の 組 織 細 胞 化 学 的特 徴
a.乳
汁 中 へ のMTVの
b.腸
管 に お け るMTVの
c.リ
ンパ 球 に よ るMTVの
III .内 在 性MTVの IV .MTVの V.マ
発現
d.乳
運命
VI.ヒ
伝達
a.MTV関
乳 腺 に お け る発 現
そ の他 の感 染 経 路
ウス正 常 乳 腺 な らび に乳 腺 腫 瘍 の 形 態 学 的 特 徴
a.免
癌 転 移 形 質 の 同定 ト乳 癌 へ の外 挿 連 蛋 白 の乳 癌 患 者 に お け る証 明
b.細
胞 形 質 よ りみ た 乳腺 腫瘍 の 比較
c.乳
癌 発 生 に 及 ぼ す ホル モ ン作 用 の比 較
d.ヒ
疫 染 色 に よる乳 腺 上 皮,細 胞 間 基 質 の 同定
トの レ トロ ウイ ル ス感 染 機 構 との 比 較
VII .お わ りに
れ 以 後 に見 つ か った 発 癌 性 レ トロ ウイ ル ス と比 較 して, I.は
じめ に
MTV研
究 は 立 ち 遅 れ て い る。現 在,多 数 の近 交 系 マ ウ
スが 乳 癌 研 究 に 利 用 され てい るが,MTVは マ ウス乳 癌 研 究は ,今 世 紀 初 頭 のApolantやHaaland
C3H系
,Bittnerが マ ウ スで 見 い 出 して乳 因子 と名 付 け た よ うに 乳
に よる腫 瘍 の 組 織 形 態像 の観 察 に始 ま り,Lathrop[46]
汁 を 介 して 乳仔 に 伝 わ る もの(外 因 性MTV,Somatic
らに よ る近 交 系 マ ウス の樹 立 と と もに,遺 伝 因 子 の 解 析
provirus)と,胚
や ホル モ ン との相 互 作 用 の 研 究 が 飛 躍 的 に 促 進 され,
て(内 在 性MTV,Germinal
1936年 のBittnerに
染 す る もの に区 別 され る。 内在 性MTVに
よる乳 因 子 の発 見 へ と続 く[6]。 し
細 胞 に プ ロ ウイ ル ス と して組み 込 まれ provirus)子
孫に垂直感 は,生 涯 不 活
か し,乳 因子 が ウイ ル ス(マ ウ ス乳 癌 ウ イル ス:MTV)
性 な もの も存 在 す るが,な か にはGR-MTVの
で あ る と電 顕 的 に 同定 され る に は さ らに20年 近 くを 要
極 的 に乳 癌 を誘 発 す る もの も知 られ てい る。Bentvelzen
し,1950年 代 に な っ てか ら初 め てMTVの
[2]は,MTVの
存在 が承 認
よ うに 積
造 腫 瘍 能,宿 主域 や 伝 達 形 式 とMTV
され た[36,77]。MTVは,Retrovirus科Oncorna
誘 発 腫 瘍 の組 織 像 に よ り,MTVの
virusB属
ウ ス由 来 の 乳 因 子 は標 準 型 と してMTV-S(standard)
に属 し,哺 乳 類 で 初 め て報 告 され,し か も上
皮 細 胞 を 癌 化 させ る唯 一 の腫 瘍 ウイ ル ス で あ る。 そ れ に
と呼 ぼ れ,別 名Bittner
もか か わ らず,標 的 で あ る乳 腺 は複 雑 な ホ ル モ ン支 配 下
内 在 性MTVが
分 類 を試み た。C3Hマ
virusと もい う。C3Hに
は また
存 在 し,そ の発 癌 性 が 弱 いためMTV-L
に あ り,ま た,培 養 細 胞 の トラ ンス フ ォー メ ー シ ョンに
(low oncogenic)と
よ る この ウイ ル ス の定 量 法 が 確 立 され て いな いた め ,そ
を つ く る こ と に よ りNIV(Nodule
呼ばれ,過 形 成 性腺 胞 結節(HAN) inducing
virus)
Review : Transmission of Mouse Mammary Tumor Virus (MTV) and its Tumorigenesis-Comparison between Mouse Mammary Tumor System and Human Breast Cancer-Afro TSUBURA and Sotokichi MORII, Department of Pathology, Kansai Medical University, 1 Fumizono , Moriguchi-shi, Osaka 570, J apan
112
螺良愛郎 ・森井外吉
と もい う。GRマ
ウス の 内在 性MTVは
盤 状 乳 腺 腫 瘍(plaque)を (plaqueinducing)と
妊娠依存性の円
し,側 方 や 基 底 の 細 胞 膜 に は 陽 性所 見 を み い だ して い な
誘 発 す る こ とか らMTV-P
呼 ば れ,Miihlbockvirusと
出芽 像 の な い腺 腔 側 細 胞 膜 に も陽 性 像 を 呈 す る。 しか
もい
う。現 在 この領 域 で奨 用 され て い る近 交 系 マ ウ スは 必 ず
い[64]。
ま た,gp52は,細
胞 内 で は核 膜,小
胞体 膜,
ゴル ジ膜 に も陽 性 で,生 体 膜 と結 合 した リボ ゾ ー ムで の
内 在 性 ウイ ル ス を もつ こ とが知 られ て い るが,BALB/c
合成 が 示唆 され る。 抗A抗 体 はA粒 子 と と もにB粒 子 の
で は そ のMTV造
核 様 体 と も反 応 す る の で,A粒
腫 瘍 性 を強 く抑 え る機 構 が あ って生 涯
不 活 性 に と ど ま るの で,こ looked)と MTVに
れ をMTV-O(virusover・
名 付 け て い る。BALB/cは
高 感 受 性 な の で,C3Hに
BA:LB/cfC3HはMTV-Sの た,GRは
貰 い乳 させ て作 製 した 造腫瘍能を発 現 す る。 ま
内在 性MTVと
来 性MTVを
種 々の外 来 性
と もに 乳汁 に よ って伝 わ る 外
もつ が,GRをBALB/cに
作 製 したGRfBALB/cに
はGR同
貰 い乳 させ て 様 に 高造 腫 瘍 能 を み
る。 本 総 説 で,BALB/cfC3Hを
用 い た乳 因子 体 内 伝 達
経 路 の解 析 を詳 細 に述 べ,さ なMTV-S,MTV-Pに
らにMTVの
なかで 代 表 的
よ り誘 発 され た乳 腺 腫 瘍 の 生 物
子 がB粒 子 の 前駆 体 で あ
る と され る。MTVの
成熟過程は宿主腺上皮の分泌極性
と密 接 に 関 連 し,A粒
子 は必 ず 腺 腔 側 のgp52陽
細 胞 膜 を か ぶ って 出芽 す る 。 以 上 のMTVの び に 抗 原 性 は,現 在 の と こ ろMTV亜 られ な い。 な お,BA:LB/cで
性宿主 形態 な ら
型 間 に差異 は み
はMTVの
粒子 や抗原 発
現 は 形 態 学 的 に は 生 涯 認 め られ な い。 b.腸
管 にお け るMTVの
乳 因子 す なわ ちMTV-B粒
運命 子 が,そ れ を 含 む 乳 汁 を
哺 乳 した乳 仔 の乳 腺 上 皮 に いた る体 内 生 活 環,す な わ ち そ の 侵 入 門戸,吸 収 機 構,そ
して 乳 腺 へ の 伝 達経 路 な ど
学 的 な らび に組 織 細 胞 学 的特 徴 を 解 説 す る。 また,こ れ
は現 在 の と ころ殆 ん ど不 明 で あ る。 乳 癌 好 発 系 マ ウ スで
らマ ウ ス乳癌 モ デ ル で得 られ た情 報 の ヒ ト乳 癌 へ の 外 挿
は 胃底 部 よ り発す るshort
を試みた。
還 流 す るの に 対 し,乳 癌 嫌 発 系 で は これ が 脾 静 脈 と連 結
gastric veinの 脾 実 質 内 に
して 門 脈 を経 て肝 に 還 流す る 。 こ の よ うに 乳 癌 好 発 系 で 静 脈 血 が 脾 の 微 小循 環 に 直 接 還 流 され る こ とが 重 要
II.乳 因 子 の生 活 環
で,要 す るに 胃底 部 をMTVの a.乳
汁 中へ のMTVの
る[40]。
発現
乳 腺 上 皮 は マ ウ スが 妊 娠 す る と盛 ん に分 裂 ・増 殖 し, 分 娩 後 直 ち に乳 汁 の分 泌 を 開 始 す る。MTV-S陽
性マ ウ
スで は,乳 腺 腺 腔 側 胞 体 縁 か ら,脂 肪 や カゼ イ ンの 分 泌 とともに,MTVも
出芽 して乳 汁 中 に放 出 され る。MTV
侵 入 門戸 とす る考 えが あ
しか し,乳 因 子哺 乳 前 に 乳癌 好 発 系 マ ウ ス の
short gastric veinを 閉 塞 して も,乳 癌 発生 頻 度 を低 下 させ る が乳 癌 を 完 全 には 抑 制 で きな い 。 この ル ー トよ り のMTV侵
入 も完 全 に は 否 定 で き な い が,他
の主要 ル
ー トの 存在 が現 在 考 え られ て い る 。 電 顕 的 に,B粒
子
は 電顕 的 にA粒 子 とB粒 子 とに区 別 され る[4]。 乳 汁 中
は,胃 内 容 で は カ ゼ イ ン小 滴 と癒 合 ・凝 集 し,腸 管 管 腔
の 成 熟MTV-B粒
内 で は 時 に 微絨 毛 に接 して存 在 す る が,腸 管 上 皮 内に は
子 は,表 面 に ス パ イ ク を も つ 楕 円 形
粒 子(長 径120nm)で,偏
在 性 の核 様 体 を もつ。 そ の前
駆 体 と して 乳腺 上皮 胞体 内 に径70nmの
円形 ドー ナ ツ 様
粒 子 と して は み い だ せ な い[50]。 免 疫 組 織 学 的 に 消 化 管 を み る と,MTV抗
原 性 は,腸 管 管 腔 内 に は大 腸 に 至 る
の2重 膜 よ りな るA粒 子 の 集 合 を み る。 この電 顕 的 観 察
まで ひ ろ く検 出 され るが,特 に上 部 消化 管 の腸 管 吸 収 上
の他,MTVの
皮 の核 上 部 に 明 瞭 に 証 明 され,こ
証 明 に は 免 疫 染 色 が 有 用 で あ る。 そ の 抗
体 作 製 に利 用 され た 抗 原 に は,B粒
子 の 主要 膜 抗 原 で分
子 量52,000ダ ル トソ の糖 蛋 白(gp52)や
主 要 コア抗原
で27,000ダ ル トンの ポ リペ プ チ ド(p27),さ
らにA粒
子 そ の もの な ど が あ る。BALB/cfC3Hか 系 で あ るMuMT-73よ C3H自
り作 製 した 抗gp52家
然 発生 乳癌 よ り作 製 した抗p27家
にDBA/2乳 い て,A,B粒
らの乳 癌 培 養 兎 抗 体,
兎抗体 な らび
癌 よ り作 製 した抗A粒 子 家 兎 抗 体 な どを 用 子 の 光 顕 レベ ル の 動態 を み る と,MTV陽
こ がMTVの
入 門 戸 で あ ろ うと考 え させ る[14,67,71]。
主要 侵
な お,吸 収 上
皮 細 胞 膜 に接 す る基 底 膜 近 辺 に 抗 原 性 を 認 め え な い。 ま た,食 道 扁 平 上 皮 や 胃腺 上 皮 内,腸 管 に お い て も杯細 胞 やバ イ エ ル板 上 に 存 在 す るM細 胞 に はMTV抗
原性を検
出 しえ な い 。免 疫 電 顕 的 に も,小 腸 吸 収 上 皮 微絨 毛 基 部 の 形 質 膜嵌 入 内,そ れ に 続 く核 上 部 の 空 胞 内 にMTV 抗 原 陽 性像 を み るが(Fig.1),こ
の部 位 に 明瞭 な ウ イ
ル ス粒 子 は 観 察 され な い。 稀 に腸 管 吸 収 上 皮 内 にB粒 子
性 マ ウ スの 授 乳 期 乳腺 腺 腔 側胞 体 縁 に は線 状 のgp52陽
を 認 め た とす る報 告 もあ るが[5]こ
性 所 見 を み るが,癌 組織 とは異 な り,A粒
で,通 常 で はB粒 子 は 吸 収 と と も に 粒 子 形 態 を 失 う。
子 の細 胞 内凝
集 を 稀 に しか み な い 。 免 疫 電 顕 的 に も,gp52は,出 芽 ∼成 熟B粒 子 の スパ イ クを 標 識 す る と と もに,ウ イ ル ス
MTV抗
れは例 外的 な現 象
原 性 は,吸 収 上皮 の空 胞 内 に 認 め られ るが,腸
管 吸 収 上 皮 細 胞 間 隙,基 底 膜 下 結 合 織 や そ こに 存在 す る
MTVの
伝達 と腫瘍発生
113
血 清 に よ り中和 され ず,ウ イ ル ス情 報 を含 む と考 え られ る血 球 か ら の無 細 胞 性 抽 出 液 に よ る伝 達 も不可能 であ る。 一方 ,成 熟 マ ウ ス乳腺 にB粒 子 と して 出現 して い る もの は,そ の 活 性 は 放 射 線 抵 抗 性 を 示 し,抗MTV血
清で中
和 され,無 細 胞 性 伝 達 も可 能 な も の で あ る 。 この よ う に異 な る性 状 を 示 す こ と よ り,Nandiら[36]は,乳
腺
に粒 子 形 態 と して存 在 す る ものをM-MTV(mammary derived),血 bome)と
球 中 に 存 在 す る も の をB-MTV(blood
区 別 した 。 最 近,LieglerとBlair[24]は,
乳 汁 由来 の 活 性MTVに
特 徴 的 な4。2kbのDNA制
限
酵 素 断 片 が 乳腺 よ りも早 い 時期 に リンパ組 織 に組 み 込 ま れ て い る こ とを 見 い 出 した 。 我 々 は 乳 因 子 を もつ マ ウ スの リンパ 球 をT細 胞,B細 T,B両
胞 に分 け,同
じ手 法 に よ り
細 胞 い ず れ に も乳 因子 に特 異 的 なDNA制
素 断 片 を 検 出 しえ た。 つ い で,T,B細 腺 へ のMTV伝
胞 につ い て,乳
達 能 の有 無 を ヌー ドマ ウ ス を用 い たin
vivoの 実 験系 で 検討 した[53]。 もつnu遺
限酵
伝 子 はMTVの
なお,ヌ
ー ドマ ウ ス が
乳 腺 に おけ る発 現 に 直 接 影 響
を 及 ぼ さな い こ と も確 認 した[62]。
乳 腺 で のMTV感
染発 現 の確 認 に は,生 物 学 的 手 法,電 顕 観 察 及 び 免 疫 学 的手 法 が応 用 で き る。 生 物 学 的 手 法 とは検 体 をMTV感 受 性 マ ウス に接 種 して腫 瘍 発 生 にて 確 認 す る方 法 で,電 顕 観 察 とはMTV粒 Fig
1.
Intestine
positive gen
of
10-day-old
milk. is
seeen
supranuclear
mice
Positivity in
the
suckling
for
MTV-
MTV-gp
microcysts
52 and
vacuoles. •~30,
in
antithe
子 の乳 腺 に おけ る局 在 でみ る方 法 で
あ る。 免 疫 学 的 手 法 には,免 疫 拡 散 法,ラ ッセ イ法[17]の
ジ オイ ム ノ ア
他,組 織 切 片上 で のMTV抗
を認 識 で き る酵 素 抗 体 法(IPA)[59]が
原性局在
あ る。IPA法
000
は,簡 便 で鋭 敏 な手 法 で あ り,特 に 広 い海 の よ うな 脂 肪 組 織 内 に疎 に島 状 に あ る静 止 期 乳 腺 で,そ 間質 細 胞 内 には 認 め られ ない 。 c.リ
ンパ球 に よ るMTVの
伝達
MTV-gp52に
腸 管 か ら乳 腺 に至 る乳 因 子 の 体 内 伝 達 機構 は 謎 で あ っ た。Wolley[75]は,既
に1941年
に 乳 癌好 発 系 マ ウ ス
対 す る抗 体 を 用 いたIPAに
発 現 を検 討 した 。BALB/cfC3Hの
よ り発 現 を認 め る[69]。T細
て お り,血 液 にMTV活
fC3H,BALB/c-nu/nufC3H+新
性の存在 す るこ とを認 め てい
た。1960年 代 に 入 り,乳 腺 組 織 でMTV活 れ る よ りは るか に 早 い 時 期 に,血
性 が証 明 さ
液 中 にMTV活
存 在 す る こ とが 判 明 し,血 液 成 分 がMTVの
性が 腸管 よ り
乳 腺 に至 る体 内 生 活 環 に 重要 な 役割 を担 っ て い る可 能 性 が 示 唆 され,広 範 な 実験 が展 開 され た[36]。
そ の結 果,
性 は 血 球 成 分 に 存在 して 血漿 成 分 に は欠 くこ と
てMTV抗
原
正 常 乳腺 で 出生 直 後
よ り抗 原 発 現 を み る と,正 常 静 止 期 乳腺 で は生 後60日 頃
の末 梢 血 を 嫌 発 系 に 注 射 す る こ とに よ り乳癌 の発 生 をみ
MTV活
の 上不 均 一
な抗 原 発 現 をみ せ る乳 腺 にお いて は 極 め て 有 用 で あ る。
ス で もgp52の
胞 を もつBALB/c-nu/+ 生仔期胸腺 移 植 マ ウ
発 現 は60日 齢 頃 よ りみ い だ す が,T細
欠 損BALB/c-nu/nufCaHで
胞
は そ の発 現 が120日 齢 に ま
で 遅 延 した 。 これ ら ヌ ー ドマ ウ スは 少 数 のThy1.2陽
性
細 胞 を もつ こ とが 知 られ て い るが,年 齢 と と もに増 加 す る機 能 性T細 胞 が 存 在 し,ConA反
応 性 を指 標 と して 機
能 性T細 胞 の 出 現 を み る と,乳 腺 で のgp52活
性 の発 現
が 明 らか に され た 。 血 球成 分 の うち,赤 血 球,有 核 白血
と よ く正 に 相 関 す る こ とが 判 明 した。 以上 よ り,乳 腺 へ
球 あ るい は リンパ 球 と種 々の 血 球 がMTVの
のMTVの
担 体 の候
伝 達 に はT細 胞 の 関与 が 強 く示 唆 され る。 次
補 に あげ られ た が,確 か な証 明 は され なか っ た。MTV
に 各 種 のMTV活
性陽 性 血 球 のMTV陰
性 雌 マ ウスへ の
活 性 を 示 す 血 球細 胞 に は電 顕 的 にB粒 子 は み られ ず,放
接 種 実 験を 試 みた。BALB/c-nu/+C3H,-nu/nufC3H
射 線 照 射 に よ り容 易 に そ の活 性 が失 活 され るが 抗MTV
の 末 梢 血,脾 細 胞 と もにBALB/cへ
の接 種 群 に い ず れ
114
螺良愛郎 ・森井外吉 Table
1. Immunoperoxidase assay for MTV-gp52 antigen mammary glands of BALB/c nu/nu mice inoculated ly with either viable or fixed speen cells
1 :106 spleen
cells without
2.5% paraformaldehyde mice / mice examined
fixation
solution
2 : 106 spleen
for 30 min 3
in the lactating intraperitoneal-
cells were incubated
: Numbers
indicate
in
positive
に も感 染 を み た が,血 漿 に は そ の 感 染 効 果 は み ら れ な
Grumbach教
い。 宿 主 のT細 胞 の 影 響 を 考 慮 して,MTV陽
来 す る。GR-MTVは,germinalprovirusと
性 血 球を
BALB/c-nu/+fC3H,とBALB/c-nu/nufC3Hそ
れ
授 が 「Grunder」
雄 の 性細 胞 に組 み 込 まれ,1個
と称 して い た こ とに 由 して 雌
の 優 性遺 伝 子 と して メ ン
ぞれ か ら得 て,BA:LB/c-nu/+やBALB/c-nu/nuに
デ ル の法 則 に従 っ て子 孫 に発 現 す る もの で,い わ ば 垂 直
接 種 を試 み たが,そ
感 染 し た と も い え る もの で,乳
の結 果,T細
せ の場 合 のみ にMTVの
胞 の 欠 損 して い る組 合
乳 腺 へ の 感 染 は 成 立 しな か っ
た。 さ らに,MTV活
性 陽 性 血 球 をT細 胞,B細
ク ロ フア ー ジ,NK細
胞 に分 け,BALB/c-nu/nuに
種 す る と,T細
胞,マ 接
胞 接 種 マ ウス にの み 感 染 の 成 立 を み た 。
生存 状 態 で のMTV活
性 陽 性 血 球 を 接 種 す ると乳 腺 へ の
汁 を 介 す るsomatic
provirusと は区 別 され る。GRのMTV遺 伝 子 は,Mtu -2と 命 名 され ,18番 染 色 体 に 同 定 され て い る[72]。 他 に 10数 種 の 内在 性MTVが 性MTVが
同定 され て い るが[20],内
在
活 性化 され て高 い造 腫 瘍 能 を 示 す の は,現
在 の と ころGR由
来 の も の だ け で あ る。Shannonら
感染 は成 立 す るが,固 定 液 に よ り生 存 状 態 で な くした も
[45]は
の に は この効 果 は な い(Table1)。
電 顕 的 に観 察 して い るが,我 々 も,同 週 齢 の ものにMTV
なお,MTV情
報伝
生後2週 齢 の雌GR乳
腺 で既 にB粒 子 の 出 芽 を
達 に つ い て腸 管 か ら乳 腺 へ の全 経 路 でT細 胞 の み が 関 与
抗 原 を 光 顕 レベ ル で 認 め始 め て お り,30日 齢 以 降 では ほ
して い るのか,B細
ぼ す べ て の 乳腺 組 織 に そ の抗 原 発 現 を認 め て い る。 授 乳
胞 か らT細 胞 へ のMTV情
報 の 受渡
しが途 中 に あ っ て最 終 的 にT細 胞 が 乳 腺 へ 情 報 を 伝 え る
期 乳 腺 で の 乳 因子 のIPAに
の か と,2つ
あ って 不 均 一 な の に 対 し,GRの
の 可能 性 は考 え られ るが,と
の 研 究 結 果 か ら,T,Bリ
にか く,我 々
ンパ 球 と もMTVの
担体で
報 伝 達 に はT細
胞 が必須
あ り,乳 腺 上皮 へ のMTV情
現 は 極 め て 均 一 で あ る。GRマ
もGR同
状 態 に あ る こ とが 必要 で あ る。 腸 管 上 皮 細 胞 間 や 腸 粘 膜
BALB/cfGRで
固 有 層 に は リンパ 球 が 存在 し,概
様 に 早 期 にMTV抗 はGRに
し てTリ
ソパ球 が多
す る。 以 上 か ら,GR乳
ンパ 球 も認 め られ る[12]。
腸 管 吸収 上
GRの
皮 よ り放 出 され た ウイ ル ス情報 は これ らの リンパ球 に受 け 継 が れ る もの と思 わ れ,B-MTVと
ちMtv-1,Mtv-4で
れ ら と比 較 して もGRの
わ ちentero-mammarycirculationの
現 を 免 疫 染 色 で み る こ と が で き るが,こ
存 在 も報 告 さ N.MTVの
MTVの
乳 腺 に お け る 発現
MTVのchromosomaltransmission,い 認 識 はMuhlbockに
発 に 始 ま る[31]。
ち な み に,GRと
わ ゆ る 内 よ るGRマ
ウ スの 開
は チ ュー リ ッ ヒの
そ の 他 の 感 染経 路
乳 腺 上 皮 へ の発 現 に は,乳 汁 を 介 す る経 路 と
染 色 体(遺 伝 子)に
在 性MTVの
もの の 抗 原 発 現 開 始 は 著 し く
早 い。
れ て い る[73]。
III .内 在 性MTVの
な
なわ
も,マ ウ スが あ る一定 の 日齢 に達 す
て乳腺 上 皮 に そ の情 報 を 伝 達 す る もの と考 え られ る。 乳
な
原 発 現 を 認 め る。 一 方, 比 べ て抗 原 発現 が著 し く遅 延
ウス にみ られ る 内在 性MTV,す
腺 上 皮 間 に も リンパ 球 が 存 在 す る[42,43]。
な お,Bリ
ウス は乳 汁 に て もMTV
起 因す る と結 論 し うる[69]。
る とMTV発
ンパ球 に は 腸 管 リンパ 節 の リソパ 球 が 乳腺 へ移 動,す
抗原 発
腺 に 早期 に 発 現 す るMTVは
内在 性MTVに
お,C3H,SHNマ
して 乳腺 へ 遊 走 し
内在 性MTVの
を 伝 達 す るが,(BALB/cxGR)F1,GRfBALB/cで
で あ る こ とが判 明 した。 併 せ て,こ れ ら リソパ球 は 生 存
く,少 数 のBリ
よ る発 現 が腺 胞 間 に 強 弱 が
よる もの とが あ る こ とを 述 べ た 。 乳
因子 の 乳腺 上 皮 へ の到 達 にはB-MTVす
な わ ちT細
胞
を 介 す る機 構 が存 在 し,染 色 体 に よ る も のは 各 マ ウ スの 日齢 に依 存 して抗 原 発現 をみ る。 通 常,RNAウ
イルス
MTVの Table
伝達 と腫瘍発生
115
2. Positivity of immunoperoxidase assay for MTV-gp52 antigen in the lactating mammary glands of BALB/c +/+ mice inoculated orally, intraperitoneally or intravenously with either B-MTV or M-MTV
1 : Tripple diluted peripheral blood was used 2 : 250mg of BALB/cfC3H mammary gland tissue was homogenized in lml sterile saline and centrifugazed, and 0.25ml of the supernatant was used 3 : Numbers indicate positive mice / mice examined の感 染 は 感 染 能 を もつ成 熟 粒 子 が感 受 性 細 胞 の細 胞 膜 に 存 在 す る受 容 体 に 吸 着 す る こ とに始 ま る。B粒 子 自身 に よ る乳 腺 上 皮 へ の 感 染 の 可能 性 に つ き検 討 した 。Nandi ら の方 法 に よ りB-MTV,M-MTVを
そ れ ぞれ 調整 し
た。 す なわ ち,BALB/cfC3H授 の生 食 粉 粋 液 を10,500gに M-MTVを
の上 清 よ り 一マ ウス の
全 血 を生 食 に て3倍 希 釈 して 得 た[35]。
両試 料 の0.25
mlを 雌BALB/cの-+/+,-nu/+,-nu/nuに
それ
ぞれ 静 注 また は 腹 腔 内接 種 した 後,こ れ ら被 接 種 マ ウス をBALB/c雄
と交 配 し,そ れ らの 分娩1日
投 与 群 で は感 染 を み なか った が,M-MTVは
発現 を み るこ と よ り,B粒 る(Table3)。 [22],マ
口 いか な る
ウ スに 接 種 して も乳腺 に 抗 原 陽 性
を認 め,さ ら にT欠 損 の-nu/nuマ
1 : All recipients Numbers
indicate
were below 100 days of age . positive mice / mice examined.
2:
目乳腺 のgp
て検 討 した(Table2)。B-MTV経
ル ー トでBALB/cマ
3. Positivity of immunoperoxidase assay for MTV-gp52 antigen in the lactating mammary glands of BALB/c nu/+ mice or BALB/ c nu/nu mice inoculated with M-MTV either intraperitoneally or intravenously
乳 期 乳 腺 の250mg/ml て 超 遠 沈 し,そ
回 収 した[34]。B-MTVは,同
52発 現 をIPAに
Table
接 触 も水 平 感 染 の 一 因 とい わ れ て い るが,皮 膚 付 属 器 で は皮 脂 腺 にはA粒 子 しか 認 め て お らず[58],こ
の可 能
性 は否 定 的 で あ る。
ウ スに お い て も抗 原
子 自身 に よ る感 染 が 示唆 され
V.マ ウス正常乳腺な らびに乳腺腫瘍 の形態学的特徴
乳 汁 は 多 数 の リ ン パ 球 を 含 有 して お り
ウス,ラ
ッ ト,モ ル モ ッ トで は 外 来 性 リンパ 球
が 腸管 の脉 管 内皮 細 胞 間 や バ イ エ ル板 に 侵 入 す る こ とが 知 られ て い る[7]。
しか し,た と え乳 汁 に 含 まれ る母親
a.免
疫 染 色 に よる乳 腺 上 皮,細 胞 間基 質 の 同定
マ ウス乳 腺 は,筋 上 皮 と小 葉 な らび に 乳 管 の腺 上 皮 と に 区別 され,ヒ
の リンパ球 が 生 き た ま ま乳 仔 に 侵 入 しよ うが,MTV抗
け ぼ,ヒ
原 性 は 消失 をみ る。 以 上 か ら,B-MTVの
トに比 べ て周 囲 結 合 織 が 少 な い こ とを除
ト類 似 の複 合 胞 状 構 造 を 呈 す る。 最近,種
々の
母仔 移 行は
免疫 染 色 に よる乳 腺 組 織 構 成 細 胞 の 鑑 別,同 定 が 可能 と
な い よ うで あ る。 自然 界 では,MTVの
感染経路 は 乳汁
な った が,細 胞 内/細 胞 間 抗 原 の 検 出 に は アル コー ル系
に よ る もの が主 要 な もの で あ る が,成
熟MTV粒
の 固定 液 が適 す る こ とが 多 く,凍 結 切 片 や ホル マ リソ固
子が
別 の マ ウ ス体 内 に侵 入す れ ば 乳 腺 は 粒 子 自身 に よ って 感
定 材料 と と もに,メ タ カ ル ン固 定 液[37]の
染 す る可能 性 は あ り,稀 に,ケ ー ジ 内水 平 感 染 の存 在 が
で あ ろ う。 筋上 皮 は,ア
利用 は 必須
報 告 され て い る[3]。MTV-B粒
子は唾 液 腺 や雄 性生
ア クチ ン抗 体 に て光 顕 レベ ル で 明 瞭 に 描 出 さ れ る 。 な
殖 器 に 存在 す るが[39,70],我
々 は マ ウス外 分 泌 腺 の 広
お,こ の ア クチ ンは,系 統 発 生 的 に よ く保 持 され て お
クチ ン細 線 維 を 豊 富 に 含 み,抗
範 な検 索 か ら,こ の 他外 涙 腺 や 尿 道 腺 に もB粒 子 を 同 定
り,霊 長 類,食 虫 類,齧 歯 類 で 抗 原 交 差 性 が み ら れ る
しえた[60]。
[52,65]。 ケ ラチ ンは,等 電 点 電 気 泳 動 を 組 み 合 わ せ た
よ って,咬 傷 に よる唾 液 内 のB粒
子 の侵
入,性 交 時 の 血 管破 綻 部 よ り精 液 内 のB粒 子 侵 入,さ
ら
二 次 元 電 気 泳 動 に よ り19の サ ブ タ イ プに 分 類 され,1番
に 何 らか の機 序 で尿 や涙 が感 受 性 マ ウス体 内 に入 れ ば,
か ら19番 と番 号 づ け され て い る[28]。
水 平 感 染 の 成 立 す る可能 性 は あ る。 個 体 表 面 間 の単 な る
に は ケ ラチ ン(K)5,8,14,18と19の5種
マ ウス乳腺 上 皮 類が存在す
116
螺 良愛郎 ・森井外吉
る と され て い るが[51],マ
ウス乳 腺 に有 効 な 抗 ケ ラ チ
ン単 ク ロ ー ン抗 体 は 少 な い 。 そ の うち,K14の す る312C8-1は,ヒ
ト同 様,マ
みを認識
増 殖 を きた す 。 この く り返 しの過 程 で一 部 の上 皮 細 胞 は 妊 娠 非 依 存 性乳 腺 腫 瘍(乳 癌)へ
と進 展 す る[57,68]。
ウス乳 腺 基 底 細 胞(筋 上
ほ とん どの マ ウス乳 癌 で は増 殖 に お け る ホ ル モ ン依 存 性
皮)を よ く描 出 す る[55]。 ア クチ ン とK14の 抗 原 性 が 認
が み られ な い の で,癌 の進 展 を 研 究 す る 上 で 貴 重 な 実
識 され る細 胞 の 相違 は,K14に
対 す る ものは 扁 平 上 皮 に
験 モ デ ル とい え る。 プ ラー ク は 結 合 織 内 に 乳 管 状 ・小
み られ る基 底細 胞 を も標 識 す る し,乳 腺 基 底 膜 に 接 して
葉 状 の 分 岐 を示 す 上 皮 増 生 巣 で,そ
存 在 す る ア クチ ン陰 性 の幹 細 胞 的 性 格 を もつ 上 皮 も標 識
底 細 胞 は み られ る が,ア
す る。 しか し,正 常 乳 腺 に お い て実 際 的 に ア クチ ン陰 性
epitheliosis様 増 生 を示 すK8陽
でK14陽
られ ず,ウ イ ル ス産 生 もみ な い[55,57]。
性 の細 胞 は判 然 とせ ず,幹 細 胞 の 存 在 は 推 定 さ
こ にK14陽
性 の基
クチ ン陽 性 の 筋 上 皮 を 欠 き, 性腺細胞に分泌像はみ なお,こ の 増
れ るが そ の状 態 で長 くは 止 ま らず,す み や か に腺 上 皮 な
生 巣 は連 続 性IV型 コ ラー ゲ ンで囲 まれ て い る。 以 上 の 如
い し筋 上 皮 と分 化 す る もの と考 え られ る。K8,K18を
く,2つ
夫 々認 識 す る単 ク ロ ー ン抗 体35BH11[13],RGE53
った組 織 学 的 相 違 を認 め る こ とは 注 目 され て よい 。
[38]は,マ
ウス腺 上 皮 を 認 識 す るが,腺 上 皮 の 機 能 相
の相 違 の た めか,い ず れ もす べ て の腺 細 胞 を標 識 し う る とい うこ とは ない よ うで あ る。 レクチ ン結 合能 も,ヒ 乳 腺 の相 同細 胞 とは 分 布 は 異 な るが,マ マ ー カ ー で あ る。 また,抗IV型 を よ く認 識 す る[54,65]。
ト
ウス乳 腺 の よい
コ ラ ー ゲ ン抗 体 は基 底 膜
これ ら マ ー カ ー はMTVに
[26,33]や
複雑 に絡 み 合 い,そ
る。 通 常,異 な るMTVは て,夫
らに種 々 の 細 胞 増 殖 因 の解析 を困難 に して い
在 に 至 る まで 広 く使 用 され て い る[11,
29,41]。 この 分 類 に 当 て は め る と,HANは
小葉 構造 よ
乳管 由来 を 示 唆 す るB型
して い る と記 載 して い るが,免 疫 染 色 でA型 腺 癌 をみ る と,HAN同
様 にK14陽
保 持 し[55],一
性 の基 底 細 胞 を もつ 二 層 構 造 を
部 の基 底細 胞 は ま た ア クチ ン陽 性 形 質
乳腺 の 異 な る 部 位 に 作 用 し
を も発 現 して 筋 上 皮 へ の分 化 を示 し,基 底 膜 は基 底 細 胞 外 周 に み られ て 数個 の細 葉 構 築 を連 続 的 に と りか こ ん で
MTV-Sに (HAN)が
い る。 一 方,B型
よ る前 癌 病 変 と して 過 形 成 性 腺 胞 結 節 生 ず る。HANは,径1mmま
での 外 表 よ り
触 知不 可 能 な乳 白色 を呈 す る小 結 節 で,gland
free fat
の移 植 で は,正 常 乳 腺 の 同 じ よ う な 継 代 移 植 が
5∼6代 で,さ
い る もの で,現
分 類 と呼ばれ て
々特 有 の 前癌 病 変 を 発来 し,乳 癌 へ と進 展 す る二
段 階 発 癌 が 示 唆 され て い る。
padへ
そ の一 部 は 進 展 して 乳 癌 を 生 ず る。
マ ウス乳 癌 の組織 分 類 の基 本 はDunnの
型 腺 癌 は 小 立 方 状細 胞 が細 葉 構 造 を模 倣 して単 層 に配 列
と もに,遺 伝 的 背 景
各 種 の ホ ル モン,さ
子[18]が
癌 の組 織 細 胞 化 学 的 特 徴
HANもplaqueも
腺 癌 に進 展 す る こ とが 多 い と考 え られ る。Dunnは,A
癌 病 変 の 組織 細 胞 化 学 的特 徴
マ ウ ス乳 癌 の 発 生 に は,MTVと
よ り生 じた前 癌 病 変 に,際 立
りな るA型 腺 癌 に,plaqueは
よ り惹 起 され る乳腺 腫 瘍 の 解析 に有 用 で あ る。 b.前
c.乳
の異 な るMTVに
で で き な くな る の に対 し,何 代 も継 代移 植 可 能
腺 癌 は乳 頭 状,嚢 胞 状,充 実 型 と多 彩
な 組織 像 を と るが,癌 細 胞 にA粒 子 凝 集 像 を よ くみ る特 徴 が あ り,こ れ らの癌 胞 巣 も一 般 的 には 連 続 性N型 コラ ー ゲ ンに よ りと り囲 まれ て い る。 乳 癌 では 組 織 型 のい か ん を 問 わ ず ヘ テ ロ ジエ ナ ス なMTV抗 るが,免 疫 電 顕 的 にgp52の
原 発 現 が み られ
局 在 を み る と,腺 癌 細 胞 膜
らに移 植10∼12週 後 で乳 腺 脂 肪 織 を 埋 め 尽 くす 程
の全 周 に み る ものや ま っ た く発 現 を み な い もの と多 様 性
に増 殖 して恰 か も妊 娠 乳 腺 の よ うな 形 態 で,異 型 浸 潤像
を示 し,癌 化 に よる腺 細 胞 の 極 性 喪 失 を うか が わ せ る
を欠 くこ とか ら前 癌 病 変 と定 義 され てい る。 な お,正 常
[64]。
乳 腺 に比 べ て有 意 に高 頻 度 に 乳 癌 へ と進 展 す るが,そ の
d.乳
乳 癌 進 展 率 は各HANに
癌 の悪 性 度 は,そ
よ り著 し く異 な る。HANは
妊
癌 転 移 形 質 の 同定 の究 極 に お い て 転 移 を 生 じて個 体 に
娠 期 の腺 胞 に類 似 し,筋 上 皮,腺 上 皮 の 二 層構 造 を保 つ
死 を もた らす こ とで あ る。 ヒ トで は ホル モ ン依 存 性 乳癌
細 葉 が 基 底 膜 で 囲 まれ てお り,腺 上 皮 は 高 い分 泌 能 を示
が進 展 して ホ ル モン 依 存 性 を 失 う現 象 は よ く知 られ て お
す ため か 周 囲 の 正 常 静 止 期 乳 腺 に 比 べ て 大量 の ウイ ル ス
り,こ の こ とは 乳 癌 治 療 の 原 則 に 現 在 と り こ まれ て い
産 生 をみ る[57]。
形 成,増 殖 に ホ ル モ
る。 最 近 では,乳 癌 死 亡 率 低 下 の た め に 転移 形成 能 を う
ンは必 須 で あ り,な か で も プ ロ ラ クチ ンが最 も重 要 で あ
る に至 る一 連 の 現 象 の 把 握 が 緊急 テ ーマ と され て い る。
る[74]。
しか し,多 くの マ ウ ス乳 癌 で は,ホ
な お,HANの
一方,MTV-Pは
前癌 病 変 と してplaqueを
生
ル モ ン依 存 性 を 欠
ず る。 これ は 妊 娠 依 存 性腫 瘍 の 性状 を示 す。 す な わ ち,
き,転 移 も極 め て 少 ない 。 この 実験 モ デ ル で転 移 とい う
妊 娠 と と もに 増 大 して 妊 娠 中 期 以降 円盤 状 に外 表 よ り触
現 象 を よ り明 瞭 に すベ く次 の 実験 が試 み られ た。 松 沢 ら
知 可 能 と な り,分 娩 と と もに 退縮 す るが,次 の妊 娠 で再
に よ りDDDマ
ウ スに樹 立 され た ホ ル モ ン依 存 性 可 移
MTVの 植 性 乳癌TPDMT-4はGRの
117
伝達 と腫瘍発生
プ ラ ー クに 類 似 す る組 織
れ る[49]と
か,MTV-A粒
子 に 対 す る掠 体 が ヒ ト乳 癌
像 を 示 す 。 さ らに,松 沢 らに よ り確 立 され た 転 移 形 成 性
患 者血 清 で証 明 され た り[77],ヒ
な らび に 転 移非 形 成 性 の 自律 性 増 殖 亜 株[25]を
関 連 を 示 唆 す る レポ ー トも存 在 す る。我 々 も,MTV-B
用 い て,
ト乳 癌 とMTVと
の
夫 々 の構 成 細 胞 の形 質 を免 疫 染 色 で検 討 した。 皮 下 移 植
粒 子 の 主 要 コ ア抗 原 を種 々 の ヒ ト乳 腺 患 者 に み た が,乳
され たTPDMT-4お
腺 以 外 の 正 常 組 織 や他 臓 器 よ り発 生 した 腫 瘍 に は これ を
よび そ の 亜株 はす べ て プ ラ ー ク と
類 似 した 組 織 を 呈 し,通 常 のH-E染 す べ て の これ ら移 植 株 は,プ 筋 上 皮 を欠 くが,TPDMT-4お
色 で は 区別 し難 い。
ラ ー ク同 様,ア
クチ ン陽 性
よび転 移 非 形 成 亜 株 は 癌
み なか った[66],一
方,MTVと
定 す る報 告 も存 在 し[19],現
ヒ ト乳 癌 との関 連 を否 時点 で は 明 確 な 最 終 結 論
を下 す こ とは で きな い が,齧 歯類 の み な らず,食 虫 類 で
胞巣 周辺 にK14陽 性 基 底 細 胞 が 一 列 に 配 列 し,そ の 外
あ る ス ソ クスや 霊 長 類 で あ るサ ル で も,レ
周 に 連続 性 のIV型 コ ラー ゲ ン で 示 され る基 底 膜 が 存 在
が乳 癌 の発 症 に関 与 して い る こ とが 証 明 され て い る こ と
す る。 と ころ が,転 移 形 成 亜 株 ではK14陽
は 注 目に値 す る[9,76]。
性 細 胞 の 完全
な 欠 落 と癌 巣外 周 の基 底 膜 に断 裂 像 が 観 察 され た[54]。
b.細
なお,過 半 を 占 め る増 生 上 皮 細 胞 のK18発 現 は,プ
ラー
ア クチ ン,ケ ラチ ン,IV型
ク と異 な り,す べ て の 亜 株 で 強 く不 規 則 化 し,ま
た,
MTV産
生 に も一 定 の傾 向 を み な い。 ま た,こ れ ら移 植
腫 瘍 では 転 移 形 成 亜 株 に 有 意 にhst遺 明 され て い る[32]。
伝 子 の活 性 が証
次 に,転 移 形 成 亜 株 の表 現 型 構 成
と転 移 形 質 との関 連 を 知 る 目的 で,原
発 巣,転
の レクチン 結 合 能 を比 較 検 討 した 。DBAレ TPDMT-4に
は 結 合 能 は な いが,転
OI96,T4-OI165)皮
移巣で
ク チン は,
胞形 質 よ りみ た乳 腺 腫 瘍 の 比 較 コ ラー ゲ ンの発 現 は,臨 床
病 理 学 的 に ヒ ト乳腺 腫 瘍 の診 断 に有 用 で あ る。 正 常 お よ び 良 性 乳 腺 腫 瘍 で は ア クチ ン陽 性 筋 上 皮 が 観 察 され,上 皮 細 胞 巣 は 必 ず 連 続 性 のN型
コ ラー ゲ ンで と り囲 まれ て
い る。 非 浸 潤 癌 もIV型 コ ラ ー ゲ ンで 取 り囲 まれ て い る が,こ の部 には 原 則 的 に ア クチ ン陽 性細 胞 を欠 く[65]。 浸潤 癌 の大 部 分 は,ケ
ラ チ ソ発 現 よ りみ る と,腺 上 皮 由
来 を示 唆 して お り,基 底 細 胞 由 来 の もの は ご くわ ず か で
移 形 成 亜 株(T4-
下 移 植 巣 で は と もにDBA陽
トロ ウイ ル ス
性
あ る[44,56]。
な お,浸 潤 癌 組 織 で はW型
コ ラ ーゲ ンは
細 胞 と陰 性細 胞 の混 在 よ りな っ て い た。 とこ ろが,T4-
断裂 また は 欠 損 を み る。 ヒ ト乳 癌 発 生 が 乳 管 に 多 い こ と
OI96由
の 他,マ
来 の 肺転 移 巣 で はす べ て の転 移 巣 のす べ て の構
成 癌 細 胞 がDBA陽 T4-OI165由
性 細 胞 よ りな っ て い る の に 対 し,
来 の 肺 転移 巣 で は逆 に す べ て の転 移 巣 が 陰
ウ スの もの に比 べ て,ヒ
ト乳 癌 では 基 底 細 胞 形
質 発 現 の 少 な い こ とや基 底 膜 の断 裂 ・欠 損 を 多 くみ る こ とで,こ の 観 察 成 績 は 両 者 に お け る転 移 の多 寡 に反 映 さ
腫瘍 は 一般 に単 一
れ る よ うで あ る。 次 に マ ウ ス可 移植 性 腫 瘍 を用 いた 観 察
細 胞 よ りモ ノ ク ロ ー ナ ル に 増 生 す る と され て い る が,
か ら転 移 ク ロー ンは モ ノ ク ロ ナ ル 由 来 を 示 唆 して い る
性 細 胞 に よ り構 成 され て い た[61]。
DBA結
合 能 よ りみ る と,増 殖 に と もな い 多 様化 した 表
現 を もつ 細 胞 集 団 をつ く り出 してい る。 一 方,転 移 に は
が,ヒ
ト乳 癌 も レク チ ン結 合 能 よ りみ て 転 移 巣 は 原 発
巣 に比 して表 現 形 質 の収 束 を み る とい う[21]。
しか し,
選 択 的 な淘 汰 現 象 が関 係 して い るか 否 か が 現 在 な お議 論
リンパ節 転 移 能 を示 した 乳 癌36例 の 我 々の 検 討 で は,原
され て い るが,我
合 能 と転 移 能 と
発巣 間 に著 明 な多 様 性 が み られ,原 発 巣 な らび に転 移 巣
は 相 関 しな い よ うだ が,転 移 は単 一 ク ロー ンよ りな る選
間 で は形 質 発現 に有 意 の差 異 は 認 め られ なか った 。 マ ウ
々の観 察 で はDBA結
択 的 な 現 象 で あ る こ とを示 唆 す る。 な お,こ れ ら移 植 性
ス可 移 植 株 で 得 た デ ー タは,直 ち に現 実 の ヒ ト乳 癌 に 外
乳 癌 にお け るMTV抗
挿 で きな い よ うで あ るが,恐
原 発現 に顕 著 な差 はみ ら れ な い。
ら くマ ウス の もの は す で に
ク ロー ンが 選 択 され た 状態 な の で,そ の解 析 が 容 易 で あ VI.ヒ
った の で あ ろ う。
ト乳 癌 へ の外 挿
c.乳 マ ウス に おけ るMTVの び に 異 な るMTVに
伝 達,乳
腺 で の 発 現,な
ら
よ り生 じた 特 徴 的 な 乳 腺 腫 瘍 の 組
織形 態 に つ き述 べ た が,介 在 す る ホ ル モ ン も ヒ ト乳 癌 と
癌 発 生 に 及 ぼ す ホル モ ン作 用 の比 較
エ ス トロゲ ン とプ ロゲ ス テ ロ ンの 共 同作 用 の も とに プ ラー クを生 じ,こ れ が 乳 癌 へ と進 展 す るGR系 ル も存 在 す るが,多
のモデ
くの系 統 に み られ る マ ウ ス 乳 癌 で
は 異 な:る。 この モ デ ルか ら我 々が 学 んだ こ との ヒ ト乳 癌
は,プ
へ の 外 挿 を試 み た い。
や が て 乳 癌 へ と進 展 す る の が一 般 で あ る。 そ れ 故,プ
a.MTV関 MTVと
連蛋 白の乳 癌 患 者 に お け る証 明 ヒ ト乳 癌 との 関連 に つ き多 くの研 究 が な さ れ
て きた 。MTV-gp52抗
原 が ヒ ト乳癌 に特 異 的 に発 現 さ
ロ ラ ク チ ン の 主 働 作 用 の も と にHANを
生 じ, ロ
ラ クチン は マ ウ ス乳癌 発 生 に主 働 的 に働 くホ ル モ ンで あ る とい え るが,プ
ロ ラ クチ ン と ヒ ト乳 癌 との関 係 は 未 だ
十 分 に 解 析 され て い な い 。 我 々は こ の問 題 に注 目 し た 。
118
螺 良愛郎 ・森井外吉
近 年 臨 床 で 繁 用 され て い る向精 神 薬 は,抗
ドー パ ミ ン作
を 含 め て無 細 胞 性 にT4リ
ンパ球(CD4陽
性 細 胞)に
用 に よ り高 プ ロ ラ クチ ン血 症 状態 を惹 起 す る。 これ ら服
水 平 感 染 す る。MTVと
用 群 の 乳 癌 発 症 頻 度 は,対 照群 との比 較 の困 難 さの た め
るが,経 母 乳感 染,分 泌 液 を介 す る水 平 感 染,さ
に 言 及 で きな い が,こ の服 用 既 往 の あ る乳 癌 症 例 を 臨 床
細 胞 へ の親 和 性 な ど,類 似 点 も多 い。
病 理学 的 に解 析 した。 過 去10年 間 に関 西 医 大 付 属 病 院 で
MTVのLTR内
比 較 して 若 干 異 な る と ころ もあ らにT
にorfが 存 在 し,そ れ が マ ウ ス 系 統
手 術 され た乳 癌 症 例 の うち,術 前 長 期 に わ た り向精 神 薬
内 で広 く保 存 され て い るが,そ
服 用 の既 往 を もつ10例 を検 討 した 。 い ず れ も経 過 中 に 乳
[10]。 最 近,orf遺
汁 漏 出 は訴 え て い な いが,血 中 プ ロ ラ クチ ン値 の測 定 さ
とが 見 い 出 された[1,8]。
れ て い る例 で は2例 と も高 値 を 示 した 。 この 高 プ ロ ラ ク
発 現 に よ りCD4陽
チ ン血 症 を呈 す る2例 を 含 め て7例 の 乳腺 に際 立 っ た変
オ カ イ ンを 放 出 し,リ ンパ 球 増殖 が 促進 され る。 これ ら
化 をみ な いが,他 の3例 は 非癌 部乳 腺 が分 泌 期 様 形 態 を
が ウ イ ル スの 貯蔵 庫 とな って 乳腺 への 、MTV感 染 を 容 易
の機 能 は不 明 で あ った
伝 子 はMls遺
伝 子 に ほ か な らな い こ
乳 因 子 に感 染 した細 胞 は,orf
性T細 胞 を 活 性 化 し,種 々の リン フ
と り,脂 肪 お よび α一ラ ク トア ル ブ ミン[30]を 活 発 に分
な ら しめ る。 一 方,感 染 細 胞 の 増 加 は 胸腺 に てCD4陽
泌 して い る像 を み た 。 この うち の1例 を含 む2例 の 乳 癌
性T細 胞 の 欠失 を 促 し,免 疫 能 低 下 を もた ら してMTV
は 脂 肪 の産 生 ・分 泌 を み せ る脂 質 分 泌 乳 癌 で あ った 。 脂
の 排 除 を 抑 制 す るの で あ ろ う。
質 分 泌 乳癌 は極 め て稀 な もの で,文 献 的 に37例 が 報 告 さ
MTVは
時 に異 所 的産 生 をみ る こ とが あ る。GR雄
れ て い るが,そ の発 症 機 序 につ い ては 十 分 論 じ られ て い
は400日 齢で 約10%にT細
な い[63]。
Mtv-2陰
しか し,ラ ッ ト可 移 植 性 乳 癌(R3230)や
ト乳 癌 培 養 株(T-47D)で
は,プ
ヒ
ロ ラ ク チ ン処 置 に よ
で
胞 性 白血 病を 発 症す るが,GR-
性 マ ウスでは この発 症 を み ない こ と よ り,MTV
が 白血 病 の発 生 に関 与 してい る こ とが うか が わ れ る。 こ
り癌 細 胞 に脂 肪 産 生 を み るこ とが知 られ て い る[16,47]。
の場 合 も,orfの 関 与 に よ っ てT細
我 々 の観 察 結 果 か ら,脂 質 分 泌像 が(1)正常 乳腺 細 胞 の み
これ が 腫 瘍 化 に 有 利 な 状 況 を 提供 して い る よ うで あ る。
胞 の 増 殖 を 招 来 し,
にみ られ る,(2)乳 癌 細 胞 の み に み られ る,(3)正 常 お よび 癌 いず れ に もみ られ る,(4)双 方 と もに ま った くみ られ な
VII .お
わ りに
い と4つ に 分 類 で き る。 個 々の症 例 の術 前 血 清 プ ロ ラ ク チ ン値 を 知 りた い と ころ で あ る が,デ い。 現 在 の と ころ,高
ー タは十分 で な
プ ロ ラ クチ ン血 症 はす くな くと も
ヒ ト疾 病 の 病 因解 明 や 発症 機 序 解 析 に は,実 験 動 物 で 作 製 され る疾患 モ デ ル の応 用 が必 須 で あ る。 しか し,用
乳 癌 細 胞 形 態像 に修 飾 を もた らす 可 能 性 が あ る。 我 々の
い た モ デ ル と ヒ ト疾 患 との異 同 の把 握 が なけ れ ぽ ,有 用
観 察 で 特 記 す べ きい ま 一 つ の特 徴 は,同 時 性,異 時 性, 一側 性 ,両 側 性 と若 干 多彩 では あ るが,10例 中4例 に 乳
な モ デ ル とは な りえ な い。 マ ウス乳 癌 モ デ ルは,古
癌 の 多発 が み られ た点 で あ る。 乳腺 にお い て 多 発癌 は 稀
わ た って広 範 に奨 用 され て きた 。 今 回,我
な現 象 で,一 側 乳 房 で の多 発 や10年 間 の 経 過観 察 で の 両
の生 活 環 の解 明に よ り,ヒ
側 性 乳 癌 は いず れ も10%以 下 の 頻 度 で あ る[23,27]。
機 構 との異 同を よ り明 瞭 と した 。 また,MTVに
マ
り病理 形 態 学,ウ
くよ
イ ル ス学,内 分 泌 学 や 遺 伝 学 の 領 域 に 々は,MTV
トの レ トロ ウ イル ス との感 染 よ り生
ウス の もの よ りも ヒ ト乳 癌 に 似 て い る発癌 剤 誘 発 ラ ッ ト
じた乳 腺 腫 瘍 の 組 織 細 胞 学 的 検 討 に よ りヒ ト乳癌 との差
乳 癌 では,ラ
異 を も 明 らか に した 。 しか し,MTVが,い
ッ トに 向 精 神 薬 を 与 え る と,高
チ ン血 症 を 介 して,1個 [48]。 以 上,プ
プロラク
体 当 り高 率 に 乳 癌 多 発 を み る
ロ ラ クチ ンは ヒ トに お い て もプ ロモ ー シ
して何 故 に,マ
か に して そ
ウ ス乳腺 細 胞 の み を癌 化 す る か とい う基
本 的 命 題 に 対 して は依 然 未解 決 の まま で あ る。
ョ ン作 用 を 発 揮 して い る可 能性 が極 め て 高 い。 d.ヒ
トの レ トロ ウイ ル ス感 染 機 構 との比 較
ほ とん どの脊 椎 動 物 に レ トロ ウイ ル スが 見 い出 され て
文
お り,近 年 遂 に ヒ トの レ トロ ウイ ル ス発 癌 も発 見 され る に 至 った。HTLV-1は,T4リ
ンパ 球 に プ ロ ウ イ ル ス
[1]
の形 で組 み込 まれ て存 在 し,遊 離 ウ イル ス と して は 存 在 せず,母 乳 中 の感 染T4リ
ンパ 球 が 腸 管 壁 よ り侵 入,胎
児 リンパ球 とのcell-to-cellに され て い る[15]。
一 方,HIVは
よ る母 児 感染 が最 近 想定 ウ イル ス が血 液 の 他,
乳 汁,唾 液,精 液 や 尿 な どの分 泌 液 中 に 存在 し,母 児 間
[2]
献
Acha,-Orbea, H, Shakhov, N., Scarpellino, L., Kolb, E., Muller, V., Vessaz-Shaw, A., Fuchs, R., Blochlinger, K., Rollini, P., Billotte, J., Sarafidou, M., MacDonald, H. R., and Diggelmann, H. (1991) . Clonal deletion of VB 14-bearing T cells in mice transgenic for mammary tumor virus. Nature. 354, 207-211. Bentvelzen P. (1974). Host-virus interactions in murine mammary carcinogenesis. Biochem Biophys Acta, 355, 236-259.
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―総 説―
マ ウ ス 乳 癌 ウ イ ル ス(MTV)の
体 内 伝 達 と腫 瘍 発 生
―マ ウス乳癌 モデ ル の ヒ ト乳 癌 へ の外 挿― 螺 良 愛 郎 ・森 井 外 吉 関 西 医 科 大 学 第二 病理 学 教 室 (受付1991.11.19/受
理1991.12.6) 目
I.は
次
じめ にII
b.前
癌 病 変 の 組 織 細 胞 化学 的特 徴
.乳 因 子 の 生 活 環
c.乳
癌 の 組 織 細 胞 化 学 的特 徴
a.乳
汁 中 へ のMTVの
b.腸
管 に お け るMTVの
c.リ
ンパ 球 に よ るMTVの
III .内 在 性MTVの IV .MTVの V.マ
発現
d.乳
運命
VI.ヒ
伝達
a.MTV関
乳 腺 に お け る発 現
そ の他 の感 染 経 路
ウス正 常 乳 腺 な らび に乳 腺 腫 瘍 の 形 態 学 的 特 徴
a.免
癌 転 移 形 質 の 同定 ト乳 癌 へ の外 挿 連 蛋 白 の乳 癌 患 者 に お け る証 明
b.細
胞 形 質 よ りみ た 乳腺 腫瘍 の 比較
c.乳
癌 発 生 に 及 ぼ す ホル モ ン作 用 の比 較
d.ヒ
疫 染 色 に よる乳 腺 上 皮,細 胞 間 基 質 の 同定
トの レ トロ ウイ ル ス感 染 機 構 との 比 較
VII .お わ りに
れ 以 後 に見 つ か った 発 癌 性 レ トロ ウイ ル ス と比 較 して, I.は
じめ に
MTV研
究 は 立 ち 遅 れ て い る。現 在,多 数 の近 交 系 マ ウ
スが 乳 癌 研 究 に 利 用 され てい るが,MTVは マ ウス乳 癌 研 究は ,今 世 紀 初 頭 のApolantやHaaland
C3H系
,Bittnerが マ ウ スで 見 い 出 して乳 因子 と名 付 け た よ うに 乳
に よる腫 瘍 の 組 織 形 態像 の観 察 に始 ま り,Lathrop[46]
汁 を 介 して 乳仔 に 伝 わ る もの(外 因 性MTV,Somatic
らに よ る近 交 系 マ ウス の樹 立 と と もに,遺 伝 因 子 の 解 析
provirus)と,胚
や ホル モ ン との相 互 作 用 の 研 究 が 飛 躍 的 に 促 進 され,
て(内 在 性MTV,Germinal
1936年 のBittnerに
染 す る もの に区 別 され る。 内在 性MTVに
よる乳 因 子 の発 見 へ と続 く[6]。 し
細 胞 に プ ロ ウイ ル ス と して組み 込 まれ provirus)子
孫に垂直感 は,生 涯 不 活
か し,乳 因子 が ウイ ル ス(マ ウ ス乳 癌 ウ イル ス:MTV)
性 な もの も存 在 す るが,な か にはGR-MTVの
で あ る と電 顕 的 に 同定 され る に は さ らに20年 近 くを 要
極 的 に乳 癌 を誘 発 す る もの も知 られ てい る。Bentvelzen
し,1950年 代 に な っ てか ら初 め てMTVの
[2]は,MTVの
存在 が承 認
よ うに 積
造 腫 瘍 能,宿 主域 や 伝 達 形 式 とMTV
され た[36,77]。MTVは,Retrovirus科Oncorna
誘 発 腫 瘍 の組 織 像 に よ り,MTVの
virusB属
ウ ス由 来 の 乳 因 子 は標 準 型 と してMTV-S(standard)
に属 し,哺 乳 類 で 初 め て報 告 され,し か も上
皮 細 胞 を 癌 化 させ る唯 一 の腫 瘍 ウイ ル ス で あ る。 そ れ に
と呼 ぼ れ,別 名Bittner
もか か わ らず,標 的 で あ る乳 腺 は複 雑 な ホ ル モ ン支 配 下
内 在 性MTVが
分 類 を試み た。C3Hマ
virusと もい う。C3Hに
は また
存 在 し,そ の発 癌 性 が 弱 いためMTV-L
に あ り,ま た,培 養 細 胞 の トラ ンス フ ォー メ ー シ ョンに
(low oncogenic)と
よ る この ウイ ル ス の定 量 法 が 確 立 され て いな いた め ,そ
を つ く る こ と に よ りNIV(Nodule
呼ばれ,過 形 成 性腺 胞 結節(HAN) inducing
virus)
Review : Transmission of Mouse Mammary Tumor Virus (MTV) and its Tumorigenesis-Comparison between Mouse Mammary Tumor System and Human Breast Cancer-Afro TSUBURA and Sotokichi MORII, Department of Pathology, Kansai Medical University, 1 Fumizono , Moriguchi-shi, Osaka 570, J apan
112
螺良愛郎 ・森井外吉
と もい う。GRマ
ウス の 内在 性MTVは
盤 状 乳 腺 腫 瘍(plaque)を (plaqueinducing)と
妊娠依存性の円
し,側 方 や 基 底 の 細 胞 膜 に は 陽 性所 見 を み い だ して い な
誘 発 す る こ とか らMTV-P
呼 ば れ,Miihlbockvirusと
出芽 像 の な い腺 腔 側 細 胞 膜 に も陽 性 像 を 呈 す る。 しか
もい
う。現 在 この領 域 で奨 用 され て い る近 交 系 マ ウ スは 必 ず
い[64]。
ま た,gp52は,細
胞 内 で は核 膜,小
胞体 膜,
ゴル ジ膜 に も陽 性 で,生 体 膜 と結 合 した リボ ゾ ー ムで の
内 在 性 ウイ ル ス を もつ こ とが知 られ て い るが,BALB/c
合成 が 示唆 され る。 抗A抗 体 はA粒 子 と と もにB粒 子 の
で は そ のMTV造
核 様 体 と も反 応 す る の で,A粒
腫 瘍 性 を強 く抑 え る機 構 が あ って生 涯
不 活 性 に と ど ま るの で,こ looked)と MTVに
れ をMTV-O(virusover・
名 付 け て い る。BALB/cは
高 感 受 性 な の で,C3Hに
BA:LB/cfC3HはMTV-Sの た,GRは
貰 い乳 させ て作 製 した 造腫瘍能を発 現 す る。 ま
内在 性MTVと
来 性MTVを
種 々の外 来 性
と もに 乳汁 に よ って伝 わ る 外
もつ が,GRをBALB/cに
作 製 したGRfBALB/cに
はGR同
貰 い乳 させ て 様 に 高造 腫 瘍 能 を み
る。 本 総 説 で,BALB/cfC3Hを
用 い た乳 因子 体 内 伝 達
経 路 の解 析 を詳 細 に述 べ,さ なMTV-S,MTV-Pに
らにMTVの
なかで 代 表 的
よ り誘 発 され た乳 腺 腫 瘍 の 生 物
子 がB粒 子 の 前駆 体 で あ
る と され る。MTVの
成熟過程は宿主腺上皮の分泌極性
と密 接 に 関 連 し,A粒
子 は必 ず 腺 腔 側 のgp52陽
細 胞 膜 を か ぶ って 出芽 す る 。 以 上 のMTVの び に 抗 原 性 は,現 在 の と こ ろMTV亜 られ な い。 な お,BA:LB/cで
性宿主 形態 な ら
型 間 に差異 は み
はMTVの
粒子 や抗原 発
現 は 形 態 学 的 に は 生 涯 認 め られ な い。 b.腸
管 にお け るMTVの
乳 因子 す なわ ちMTV-B粒
運命 子 が,そ れ を 含 む 乳 汁 を
哺 乳 した乳 仔 の乳 腺 上 皮 に いた る体 内 生 活 環,す な わ ち そ の 侵 入 門戸,吸 収 機 構,そ
して 乳 腺 へ の 伝 達経 路 な ど
学 的 な らび に組 織 細 胞 学 的特 徴 を 解 説 す る。 また,こ れ
は現 在 の と ころ殆 ん ど不 明 で あ る。 乳 癌 好 発 系 マ ウ スで
らマ ウ ス乳癌 モ デ ル で得 られ た情 報 の ヒ ト乳 癌 へ の 外 挿
は 胃底 部 よ り発す るshort
を試みた。
還 流 す るの に 対 し,乳 癌 嫌 発 系 で は これ が 脾 静 脈 と連 結
gastric veinの 脾 実 質 内 に
して 門 脈 を経 て肝 に 還 流す る 。 こ の よ うに 乳 癌 好 発 系 で 静 脈 血 が 脾 の 微 小循 環 に 直 接 還 流 され る こ とが 重 要
II.乳 因 子 の生 活 環
で,要 す るに 胃底 部 をMTVの a.乳
汁 中へ のMTVの
る[40]。
発現
乳 腺 上 皮 は マ ウ スが 妊 娠 す る と盛 ん に分 裂 ・増 殖 し, 分 娩 後 直 ち に乳 汁 の分 泌 を 開 始 す る。MTV-S陽
性マ ウ
スで は,乳 腺 腺 腔 側 胞 体 縁 か ら,脂 肪 や カゼ イ ンの 分 泌 とともに,MTVも
出芽 して乳 汁 中 に放 出 され る。MTV
侵 入 門戸 とす る考 えが あ
しか し,乳 因 子哺 乳 前 に 乳癌 好 発 系 マ ウ ス の
short gastric veinを 閉 塞 して も,乳 癌 発生 頻 度 を低 下 させ る が乳 癌 を 完 全 には 抑 制 で きな い 。 この ル ー トよ り のMTV侵
入 も完 全 に は 否 定 で き な い が,他
の主要 ル
ー トの 存在 が現 在 考 え られ て い る 。 電 顕 的 に,B粒
子
は 電顕 的 にA粒 子 とB粒 子 とに区 別 され る[4]。 乳 汁 中
は,胃 内 容 で は カ ゼ イ ン小 滴 と癒 合 ・凝 集 し,腸 管 管 腔
の 成 熟MTV-B粒
内 で は 時 に 微絨 毛 に接 して存 在 す る が,腸 管 上 皮 内に は
子 は,表 面 に ス パ イ ク を も つ 楕 円 形
粒 子(長 径120nm)で,偏
在 性 の核 様 体 を もつ。 そ の前
駆 体 と して 乳腺 上皮 胞体 内 に径70nmの
円形 ドー ナ ツ 様
粒 子 と して は み い だ せ な い[50]。 免 疫 組 織 学 的 に 消 化 管 を み る と,MTV抗
原 性 は,腸 管 管 腔 内 に は大 腸 に 至 る
の2重 膜 よ りな るA粒 子 の 集 合 を み る。 この電 顕 的 観 察
まで ひ ろ く検 出 され るが,特 に上 部 消化 管 の腸 管 吸 収 上
の他,MTVの
皮 の核 上 部 に 明 瞭 に 証 明 され,こ
証 明 に は 免 疫 染 色 が 有 用 で あ る。 そ の 抗
体 作 製 に利 用 され た 抗 原 に は,B粒
子 の 主要 膜 抗 原 で分
子 量52,000ダ ル トソ の糖 蛋 白(gp52)や
主 要 コア抗原
で27,000ダ ル トンの ポ リペ プ チ ド(p27),さ
らにA粒
子 そ の もの な ど が あ る。BALB/cfC3Hか 系 で あ るMuMT-73よ C3H自
り作 製 した 抗gp52家
然 発生 乳癌 よ り作 製 した抗p27家
にDBA/2乳 い て,A,B粒
らの乳 癌 培 養 兎 抗 体,
兎抗体 な らび
癌 よ り作 製 した抗A粒 子 家 兎 抗 体 な どを 用 子 の 光 顕 レベ ル の 動態 を み る と,MTV陽
こ がMTVの
入 門 戸 で あ ろ うと考 え させ る[14,67,71]。
主要 侵
な お,吸 収 上
皮 細 胞 膜 に接 す る基 底 膜 近 辺 に 抗 原 性 を 認 め え な い。 ま た,食 道 扁 平 上 皮 や 胃腺 上 皮 内,腸 管 に お い て も杯細 胞 やバ イ エ ル板 上 に 存 在 す るM細 胞 に はMTV抗
原性を検
出 しえ な い 。免 疫 電 顕 的 に も,小 腸 吸 収 上 皮 微絨 毛 基 部 の 形 質 膜嵌 入 内,そ れ に 続 く核 上 部 の 空 胞 内 にMTV 抗 原 陽 性像 を み るが(Fig.1),こ
の部 位 に 明瞭 な ウ イ
ル ス粒 子 は 観 察 され な い。 稀 に腸 管 吸 収 上 皮 内 にB粒 子
性 マ ウ スの 授 乳 期 乳腺 腺 腔 側胞 体 縁 に は線 状 のgp52陽
を 認 め た とす る報 告 もあ るが[5]こ
性 所 見 を み るが,癌 組織 とは異 な り,A粒
で,通 常 で はB粒 子 は 吸 収 と と も に 粒 子 形 態 を 失 う。
子 の細 胞 内凝
集 を 稀 に しか み な い 。 免 疫 電 顕 的 に も,gp52は,出 芽 ∼成 熟B粒 子 の スパ イ クを 標 識 す る と と もに,ウ イ ル ス
MTV抗
れは例 外的 な現 象
原 性 は,吸 収 上皮 の空 胞 内 に 認 め られ るが,腸
管 吸 収 上 皮 細 胞 間 隙,基 底 膜 下 結 合 織 や そ こに 存在 す る
MTVの
伝達 と腫瘍発生
113
血 清 に よ り中和 され ず,ウ イ ル ス情 報 を含 む と考 え られ る血 球 か ら の無 細 胞 性 抽 出 液 に よ る伝 達 も不可能 であ る。 一方 ,成 熟 マ ウ ス乳腺 にB粒 子 と して 出現 して い る もの は,そ の 活 性 は 放 射 線 抵 抗 性 を 示 し,抗MTV血
清で中
和 され,無 細 胞 性 伝 達 も可 能 な も の で あ る 。 この よ う に異 な る性 状 を 示 す こ と よ り,Nandiら[36]は,乳
腺
に粒 子 形 態 と して存 在 す る ものをM-MTV(mammary derived),血 bome)と
球 中 に 存 在 す る も の をB-MTV(blood
区 別 した 。 最 近,LieglerとBlair[24]は,
乳 汁 由来 の 活 性MTVに
特 徴 的 な4。2kbのDNA制
限
酵 素 断 片 が 乳腺 よ りも早 い 時期 に リンパ組 織 に組 み 込 ま れ て い る こ とを 見 い 出 した 。 我 々 は 乳 因 子 を もつ マ ウ スの リンパ 球 をT細 胞,B細 T,B両
胞 に分 け,同
じ手 法 に よ り
細 胞 い ず れ に も乳 因子 に特 異 的 なDNA制
素 断 片 を 検 出 しえ た。 つ い で,T,B細 腺 へ のMTV伝
胞 につ い て,乳
達 能 の有 無 を ヌー ドマ ウ ス を用 い たin
vivoの 実 験系 で 検討 した[53]。 もつnu遺
限酵
伝 子 はMTVの
なお,ヌ
ー ドマ ウ ス が
乳 腺 に おけ る発 現 に 直 接 影 響
を 及 ぼ さな い こ と も確 認 した[62]。
乳 腺 で のMTV感
染発 現 の確 認 に は,生 物 学 的 手 法,電 顕 観 察 及 び 免 疫 学 的手 法 が応 用 で き る。 生 物 学 的 手 法 とは検 体 をMTV感 受 性 マ ウス に接 種 して腫 瘍 発 生 にて 確 認 す る方 法 で,電 顕 観 察 とはMTV粒 Fig
1.
Intestine
positive gen
of
10-day-old
milk. is
seeen
supranuclear
mice
Positivity in
the
suckling
for
MTV-
MTV-gp
microcysts
52 and
vacuoles. •~30,
in
antithe
子 の乳 腺 に おけ る局 在 でみ る方 法 で
あ る。 免 疫 学 的 手 法 には,免 疫 拡 散 法,ラ ッセ イ法[17]の
ジ オイ ム ノ ア
他,組 織 切 片上 で のMTV抗
を認 識 で き る酵 素 抗 体 法(IPA)[59]が
原性局在
あ る。IPA法
000
は,簡 便 で鋭 敏 な手 法 で あ り,特 に 広 い海 の よ うな 脂 肪 組 織 内 に疎 に島 状 に あ る静 止 期 乳 腺 で,そ 間質 細 胞 内 には 認 め られ ない 。 c.リ
ンパ球 に よ るMTVの
伝達
MTV-gp52に
腸 管 か ら乳 腺 に至 る乳 因 子 の 体 内 伝 達 機構 は 謎 で あ っ た。Wolley[75]は,既
に1941年
に 乳 癌好 発 系 マ ウ ス
対 す る抗 体 を 用 いたIPAに
発 現 を検 討 した 。BALB/cfC3Hの
よ り発 現 を認 め る[69]。T細
て お り,血 液 にMTV活
fC3H,BALB/c-nu/nufC3H+新
性の存在 す るこ とを認 め てい
た。1960年 代 に 入 り,乳 腺 組 織 でMTV活 れ る よ りは るか に 早 い 時 期 に,血
性 が証 明 さ
液 中 にMTV活
存 在 す る こ とが 判 明 し,血 液 成 分 がMTVの
性が 腸管 よ り
乳 腺 に至 る体 内 生 活 環 に 重要 な 役割 を担 っ て い る可 能 性 が 示 唆 され,広 範 な 実験 が展 開 され た[36]。
そ の結 果,
性 は 血 球 成 分 に 存在 して 血漿 成 分 に は欠 くこ と
てMTV抗
原
正 常 乳腺 で 出生 直 後
よ り抗 原 発 現 を み る と,正 常 静 止 期 乳腺 で は生 後60日 頃
の末 梢 血 を 嫌 発 系 に 注 射 す る こ とに よ り乳癌 の発 生 をみ
MTV活
の 上不 均 一
な抗 原 発 現 をみ せ る乳 腺 にお いて は 極 め て 有 用 で あ る。
ス で もgp52の
胞 を もつBALB/c-nu/+ 生仔期胸腺 移 植 マ ウ
発 現 は60日 齢 頃 よ りみ い だ す が,T細
欠 損BALB/c-nu/nufCaHで
胞
は そ の発 現 が120日 齢 に ま
で 遅 延 した 。 これ ら ヌ ー ドマ ウ スは 少 数 のThy1.2陽
性
細 胞 を もつ こ とが 知 られ て い るが,年 齢 と と もに増 加 す る機 能 性T細 胞 が 存 在 し,ConA反
応 性 を指 標 と して 機
能 性T細 胞 の 出 現 を み る と,乳 腺 で のgp52活
性 の発 現
が 明 らか に され た 。 血 球成 分 の うち,赤 血 球,有 核 白血
と よ く正 に 相 関 す る こ とが 判 明 した。 以上 よ り,乳 腺 へ
球 あ るい は リンパ 球 と種 々の 血 球 がMTVの
のMTVの
担 体 の候
伝 達 に はT細 胞 の 関与 が 強 く示 唆 され る。 次
補 に あげ られ た が,確 か な証 明 は され なか っ た。MTV
に 各 種 のMTV活
性陽 性 血 球 のMTV陰
性 雌 マ ウスへ の
活 性 を 示 す 血 球細 胞 に は電 顕 的 にB粒 子 は み られ ず,放
接 種 実 験を 試 みた。BALB/c-nu/+C3H,-nu/nufC3H
射 線 照 射 に よ り容 易 に そ の活 性 が失 活 され るが 抗MTV
の 末 梢 血,脾 細 胞 と もにBALB/cへ
の接 種 群 に い ず れ
114
螺良愛郎 ・森井外吉 Table
1. Immunoperoxidase assay for MTV-gp52 antigen mammary glands of BALB/c nu/nu mice inoculated ly with either viable or fixed speen cells
1 :106 spleen
cells without
2.5% paraformaldehyde mice / mice examined
fixation
solution
2 : 106 spleen
for 30 min 3
in the lactating intraperitoneal-
cells were incubated
: Numbers
indicate
in
positive
に も感 染 を み た が,血 漿 に は そ の 感 染 効 果 は み ら れ な
Grumbach教
い。 宿 主 のT細 胞 の 影 響 を 考 慮 して,MTV陽
来 す る。GR-MTVは,germinalprovirusと
性 血 球を
BALB/c-nu/+fC3H,とBALB/c-nu/nufC3Hそ
れ
授 が 「Grunder」
雄 の 性細 胞 に組 み 込 まれ,1個
と称 して い た こ とに 由 して 雌
の 優 性遺 伝 子 と して メ ン
ぞれ か ら得 て,BA:LB/c-nu/+やBALB/c-nu/nuに
デ ル の法 則 に従 っ て子 孫 に発 現 す る もの で,い わ ば 垂 直
接 種 を試 み たが,そ
感 染 し た と も い え る もの で,乳
の結 果,T細
せ の場 合 のみ にMTVの
胞 の 欠 損 して い る組 合
乳 腺 へ の 感 染 は 成 立 しな か っ
た。 さ らに,MTV活
性 陽 性 血 球 をT細 胞,B細
ク ロ フア ー ジ,NK細
胞 に分 け,BALB/c-nu/nuに
種 す る と,T細
胞,マ 接
胞 接 種 マ ウス にの み 感 染 の 成 立 を み た 。
生存 状 態 で のMTV活
性 陽 性 血 球 を 接 種 す ると乳 腺 へ の
汁 を 介 す るsomatic
provirusと は区 別 され る。GRのMTV遺 伝 子 は,Mtu -2と 命 名 され ,18番 染 色 体 に 同 定 され て い る[72]。 他 に 10数 種 の 内在 性MTVが 性MTVが
同定 され て い るが[20],内
在
活 性化 され て高 い造 腫 瘍 能 を 示 す の は,現
在 の と ころGR由
来 の も の だ け で あ る。Shannonら
感染 は成 立 す るが,固 定 液 に よ り生 存 状 態 で な くした も
[45]は
の に は この効 果 は な い(Table1)。
電 顕 的 に観 察 して い るが,我 々 も,同 週 齢 の ものにMTV
なお,MTV情
報伝
生後2週 齢 の雌GR乳
腺 で既 にB粒 子 の 出 芽 を
達 に つ い て腸 管 か ら乳 腺 へ の全 経 路 でT細 胞 の み が 関 与
抗 原 を 光 顕 レベ ル で 認 め始 め て お り,30日 齢 以 降 では ほ
して い るのか,B細
ぼ す べ て の 乳腺 組 織 に そ の抗 原 発 現 を認 め て い る。 授 乳
胞 か らT細 胞 へ のMTV情
報 の 受渡
しが途 中 に あ っ て最 終 的 にT細 胞 が 乳 腺 へ 情 報 を 伝 え る
期 乳 腺 で の 乳 因子 のIPAに
の か と,2つ
あ って 不 均 一 な の に 対 し,GRの
の 可能 性 は考 え られ るが,と
の 研 究 結 果 か ら,T,Bリ
にか く,我 々
ンパ 球 と もMTVの
担体で
報 伝 達 に はT細
胞 が必須
あ り,乳 腺 上皮 へ のMTV情
現 は 極 め て 均 一 で あ る。GRマ
もGR同
状 態 に あ る こ とが 必要 で あ る。 腸 管 上 皮 細 胞 間 や 腸 粘 膜
BALB/cfGRで
固 有 層 に は リンパ 球 が 存在 し,概
様 に 早 期 にMTV抗 はGRに
し てTリ
ソパ球 が多
す る。 以 上 か ら,GR乳
ンパ 球 も認 め られ る[12]。
腸 管 吸収 上
GRの
皮 よ り放 出 され た ウイ ル ス情報 は これ らの リンパ球 に受 け 継 が れ る もの と思 わ れ,B-MTVと
ちMtv-1,Mtv-4で
れ ら と比 較 して もGRの
わ ちentero-mammarycirculationの
現 を 免 疫 染 色 で み る こ と が で き るが,こ
存 在 も報 告 さ N.MTVの
MTVの
乳 腺 に お け る 発現
MTVのchromosomaltransmission,い 認 識 はMuhlbockに
発 に 始 ま る[31]。
ち な み に,GRと
わ ゆ る 内 よ るGRマ
ウ スの 開
は チ ュー リ ッ ヒの
そ の 他 の 感 染経 路
乳 腺 上 皮 へ の発 現 に は,乳 汁 を 介 す る経 路 と
染 色 体(遺 伝 子)に
在 性MTVの
もの の 抗 原 発 現 開 始 は 著 し く
早 い。
れ て い る[73]。
III .内 在 性MTVの
な
なわ
も,マ ウ スが あ る一定 の 日齢 に達 す
て乳腺 上 皮 に そ の情 報 を 伝 達 す る もの と考 え られ る。 乳
な
原 発 現 を 認 め る。 一 方, 比 べ て抗 原 発現 が著 し く遅 延
ウス にみ られ る 内在 性MTV,す
腺 上 皮 間 に も リンパ 球 が 存 在 す る[42,43]。
な お,Bリ
ウス は乳 汁 に て もMTV
起 因す る と結 論 し うる[69]。
る とMTV発
ンパ球 に は 腸 管 リンパ 節 の リソパ 球 が 乳腺 へ移 動,す
抗原 発
腺 に 早期 に 発 現 す るMTVは
内在 性MTVに
お,C3H,SHNマ
して 乳腺 へ 遊 走 し
内在 性MTVの
を 伝 達 す るが,(BALB/cxGR)F1,GRfBALB/cで
で あ る こ とが判 明 した。 併 せ て,こ れ ら リソパ球 は 生 存
く,少 数 のBリ
よ る発 現 が腺 胞 間 に 強 弱 が
よる もの とが あ る こ とを 述 べ た 。 乳
因子 の 乳腺 上 皮 へ の到 達 にはB-MTVす
な わ ちT細
胞
を 介 す る機 構 が存 在 し,染 色 体 に よ る も のは 各 マ ウ スの 日齢 に依 存 して抗 原 発現 をみ る。 通 常,RNAウ
イルス
MTVの Table
伝達 と腫瘍発生
115
2. Positivity of immunoperoxidase assay for MTV-gp52 antigen in the lactating mammary glands of BALB/c +/+ mice inoculated orally, intraperitoneally or intravenously with either B-MTV or M-MTV
1 : Tripple diluted peripheral blood was used 2 : 250mg of BALB/cfC3H mammary gland tissue was homogenized in lml sterile saline and centrifugazed, and 0.25ml of the supernatant was used 3 : Numbers indicate positive mice / mice examined の感 染 は 感 染 能 を もつ成 熟 粒 子 が感 受 性 細 胞 の細 胞 膜 に 存 在 す る受 容 体 に 吸 着 す る こ とに始 ま る。B粒 子 自身 に よ る乳 腺 上 皮 へ の 感 染 の 可能 性 に つ き検 討 した 。Nandi ら の方 法 に よ りB-MTV,M-MTVを
そ れ ぞれ 調整 し
た。 す なわ ち,BALB/cfC3H授 の生 食 粉 粋 液 を10,500gに M-MTVを
の上 清 よ り 一マ ウス の
全 血 を生 食 に て3倍 希 釈 して 得 た[35]。
両試 料 の0.25
mlを 雌BALB/cの-+/+,-nu/+,-nu/nuに
それ
ぞれ 静 注 また は 腹 腔 内接 種 した 後,こ れ ら被 接 種 マ ウス をBALB/c雄
と交 配 し,そ れ らの 分娩1日
投 与 群 で は感 染 を み なか った が,M-MTVは
発現 を み るこ と よ り,B粒 る(Table3)。 [22],マ
口 いか な る
ウ スに 接 種 して も乳腺 に 抗 原 陽 性
を認 め,さ ら にT欠 損 の-nu/nuマ
1 : All recipients Numbers
indicate
were below 100 days of age . positive mice / mice examined.
2:
目乳腺 のgp
て検 討 した(Table2)。B-MTV経
ル ー トでBALB/cマ
3. Positivity of immunoperoxidase assay for MTV-gp52 antigen in the lactating mammary glands of BALB/c nu/+ mice or BALB/ c nu/nu mice inoculated with M-MTV either intraperitoneally or intravenously
乳 期 乳 腺 の250mg/ml て 超 遠 沈 し,そ
回 収 した[34]。B-MTVは,同
52発 現 をIPAに
Table
接 触 も水 平 感 染 の 一 因 とい わ れ て い るが,皮 膚 付 属 器 で は皮 脂 腺 にはA粒 子 しか 認 め て お らず[58],こ
の可 能
性 は否 定 的 で あ る。
ウ スに お い て も抗 原
子 自身 に よ る感 染 が 示唆 され
V.マ ウス正常乳腺な らびに乳腺腫瘍 の形態学的特徴
乳 汁 は 多 数 の リ ン パ 球 を 含 有 して お り
ウス,ラ
ッ ト,モ ル モ ッ トで は 外 来 性 リンパ 球
が 腸管 の脉 管 内皮 細 胞 間 や バ イ エ ル板 に 侵 入 す る こ とが 知 られ て い る[7]。
しか し,た と え乳 汁 に 含 まれ る母親
a.免
疫 染 色 に よる乳 腺 上 皮,細 胞 間基 質 の 同定
マ ウス乳 腺 は,筋 上 皮 と小 葉 な らび に 乳 管 の腺 上 皮 と に 区別 され,ヒ
の リンパ球 が 生 き た ま ま乳 仔 に 侵 入 しよ うが,MTV抗
け ぼ,ヒ
原 性 は 消失 をみ る。 以 上 か ら,B-MTVの
トに比 べ て周 囲 結 合 織 が 少 な い こ とを除
ト類 似 の複 合 胞 状 構 造 を 呈 す る。 最近,種
々の
母仔 移 行は
免疫 染 色 に よる乳 腺 組 織 構 成 細 胞 の 鑑 別,同 定 が 可能 と
な い よ うで あ る。 自然 界 では,MTVの
感染経路 は 乳汁
な った が,細 胞 内/細 胞 間 抗 原 の 検 出 に は アル コー ル系
に よ る もの が主 要 な もの で あ る が,成
熟MTV粒
の 固定 液 が適 す る こ とが 多 く,凍 結 切 片 や ホル マ リソ固
子が
別 の マ ウ ス体 内 に侵 入す れ ば 乳 腺 は 粒 子 自身 に よ って 感
定 材料 と と もに,メ タ カ ル ン固 定 液[37]の
染 す る可能 性 は あ り,稀 に,ケ ー ジ 内水 平 感 染 の存 在 が
で あ ろ う。 筋上 皮 は,ア
利用 は 必須
報 告 され て い る[3]。MTV-B粒
子は唾 液 腺 や雄 性生
ア クチ ン抗 体 に て光 顕 レベ ル で 明 瞭 に 描 出 さ れ る 。 な
殖 器 に 存在 す るが[39,70],我
々 は マ ウス外 分 泌 腺 の 広
お,こ の ア クチ ンは,系 統 発 生 的 に よ く保 持 され て お
クチ ン細 線 維 を 豊 富 に 含 み,抗
範 な検 索 か ら,こ の 他外 涙 腺 や 尿 道 腺 に もB粒 子 を 同 定
り,霊 長 類,食 虫 類,齧 歯 類 で 抗 原 交 差 性 が み ら れ る
しえた[60]。
[52,65]。 ケ ラチ ンは,等 電 点 電 気 泳 動 を 組 み 合 わ せ た
よ って,咬 傷 に よる唾 液 内 のB粒
子 の侵
入,性 交 時 の 血 管破 綻 部 よ り精 液 内 のB粒 子 侵 入,さ
ら
二 次 元 電 気 泳 動 に よ り19の サ ブ タ イ プに 分 類 され,1番
に 何 らか の機 序 で尿 や涙 が感 受 性 マ ウス体 内 に入 れ ば,
か ら19番 と番 号 づ け され て い る[28]。
水 平 感 染 の 成 立 す る可能 性 は あ る。 個 体 表 面 間 の単 な る
に は ケ ラチ ン(K)5,8,14,18と19の5種
マ ウス乳腺 上 皮 類が存在す
116
螺 良愛郎 ・森井外吉
る と され て い るが[51],マ
ウス乳 腺 に有 効 な 抗 ケ ラ チ
ン単 ク ロ ー ン抗 体 は 少 な い 。 そ の うち,K14の す る312C8-1は,ヒ
ト同 様,マ
みを認識
増 殖 を きた す 。 この く り返 しの過 程 で一 部 の上 皮 細 胞 は 妊 娠 非 依 存 性乳 腺 腫 瘍(乳 癌)へ
と進 展 す る[57,68]。
ウス乳 腺 基 底 細 胞(筋 上
ほ とん どの マ ウス乳 癌 で は増 殖 に お け る ホ ル モ ン依 存 性
皮)を よ く描 出 す る[55]。 ア クチ ン とK14の 抗 原 性 が 認
が み られ な い の で,癌 の進 展 を 研 究 す る 上 で 貴 重 な 実
識 され る細 胞 の 相違 は,K14に
対 す る ものは 扁 平 上 皮 に
験 モ デ ル とい え る。 プ ラー ク は 結 合 織 内 に 乳 管 状 ・小
み られ る基 底細 胞 を も標 識 す る し,乳 腺 基 底 膜 に 接 して
葉 状 の 分 岐 を示 す 上 皮 増 生 巣 で,そ
存 在 す る ア クチ ン陰 性 の幹 細 胞 的 性 格 を もつ 上 皮 も標 識
底 細 胞 は み られ る が,ア
す る。 しか し,正 常 乳 腺 に お い て実 際 的 に ア クチ ン陰 性
epitheliosis様 増 生 を示 すK8陽
でK14陽
られ ず,ウ イ ル ス産 生 もみ な い[55,57]。
性 の細 胞 は判 然 とせ ず,幹 細 胞 の 存 在 は 推 定 さ
こ にK14陽
性 の基
クチ ン陽 性 の 筋 上 皮 を 欠 き, 性腺細胞に分泌像はみ なお,こ の 増
れ るが そ の状 態 で長 くは 止 ま らず,す み や か に腺 上 皮 な
生 巣 は連 続 性IV型 コ ラー ゲ ンで囲 まれ て い る。 以 上 の 如
い し筋 上 皮 と分 化 す る もの と考 え られ る。K8,K18を
く,2つ
夫 々認 識 す る単 ク ロ ー ン抗 体35BH11[13],RGE53
った組 織 学 的 相 違 を認 め る こ とは 注 目 され て よい 。
[38]は,マ
ウス腺 上 皮 を 認 識 す るが,腺 上 皮 の 機 能 相
の相 違 の た めか,い ず れ もす べ て の腺 細 胞 を標 識 し う る とい うこ とは ない よ うで あ る。 レクチ ン結 合能 も,ヒ 乳 腺 の相 同細 胞 とは 分 布 は 異 な るが,マ マ ー カ ー で あ る。 また,抗IV型 を よ く認 識 す る[54,65]。
ト
ウス乳 腺 の よい
コ ラ ー ゲ ン抗 体 は基 底 膜
これ ら マ ー カ ー はMTVに
[26,33]や
複雑 に絡 み 合 い,そ
る。 通 常,異 な るMTVは て,夫
らに種 々 の 細 胞 増 殖 因 の解析 を困難 に して い
在 に 至 る まで 広 く使 用 され て い る[11,
29,41]。 この 分 類 に 当 て は め る と,HANは
小葉 構造 よ
乳管 由来 を 示 唆 す るB型
して い る と記 載 して い るが,免 疫 染 色 でA型 腺 癌 をみ る と,HAN同
様 にK14陽
保 持 し[55],一
性 の基 底 細 胞 を もつ 二 層 構 造 を
部 の基 底細 胞 は ま た ア クチ ン陽 性 形 質
乳腺 の 異 な る 部 位 に 作 用 し
を も発 現 して 筋 上 皮 へ の分 化 を示 し,基 底 膜 は基 底 細 胞 外 周 に み られ て 数個 の細 葉 構 築 を連 続 的 に と りか こ ん で
MTV-Sに (HAN)が
い る。 一 方,B型
よ る前 癌 病 変 と して 過 形 成 性 腺 胞 結 節 生 ず る。HANは,径1mmま
での 外 表 よ り
触 知不 可 能 な乳 白色 を呈 す る小 結 節 で,gland
free fat
の移 植 で は,正 常 乳 腺 の 同 じ よ う な 継 代 移 植 が
5∼6代 で,さ
い る もの で,現
分 類 と呼ばれ て
々特 有 の 前癌 病 変 を 発来 し,乳 癌 へ と進 展 す る二
段 階 発 癌 が 示 唆 され て い る。
padへ
そ の一 部 は 進 展 して 乳 癌 を 生 ず る。
マ ウス乳 癌 の組織 分 類 の基 本 はDunnの
型 腺 癌 は 小 立 方 状細 胞 が細 葉 構 造 を模 倣 して単 層 に配 列
と もに,遺 伝 的 背 景
各 種 の ホ ル モン,さ
子[18]が
癌 の組 織 細 胞 化 学 的 特 徴
HANもplaqueも
腺 癌 に進 展 す る こ とが 多 い と考 え られ る。Dunnは,A
癌 病 変 の 組織 細 胞 化 学 的特 徴
マ ウ ス乳 癌 の 発 生 に は,MTVと
よ り生 じた前 癌 病 変 に,際 立
りな るA型 腺 癌 に,plaqueは
よ り惹 起 され る乳腺 腫 瘍 の 解析 に有 用 で あ る。 b.前
c.乳
の異 な るMTVに
で で き な くな る の に対 し,何 代 も継 代移 植 可 能
腺 癌 は乳 頭 状,嚢 胞 状,充 実 型 と多 彩
な 組織 像 を と るが,癌 細 胞 にA粒 子 凝 集 像 を よ くみ る特 徴 が あ り,こ れ らの癌 胞 巣 も一 般 的 には 連 続 性N型 コラ ー ゲ ンに よ りと り囲 まれ て い る。 乳 癌 では 組 織 型 のい か ん を 問 わ ず ヘ テ ロ ジエ ナ ス なMTV抗 るが,免 疫 電 顕 的 にgp52の
原 発 現 が み られ
局 在 を み る と,腺 癌 細 胞 膜
らに移 植10∼12週 後 で乳 腺 脂 肪 織 を 埋 め 尽 くす 程
の全 周 に み る ものや ま っ た く発 現 を み な い もの と多 様 性
に増 殖 して恰 か も妊 娠 乳 腺 の よ うな 形 態 で,異 型 浸 潤像
を示 し,癌 化 に よる腺 細 胞 の 極 性 喪 失 を うか が わ せ る
を欠 くこ とか ら前 癌 病 変 と定 義 され てい る。 な お,正 常
[64]。
乳 腺 に比 べ て有 意 に高 頻 度 に 乳 癌 へ と進 展 す るが,そ の
d.乳
乳 癌 進 展 率 は各HANに
癌 の悪 性 度 は,そ
よ り著 し く異 な る。HANは
妊
癌 転 移 形 質 の 同定 の究 極 に お い て 転 移 を 生 じて個 体 に
娠 期 の腺 胞 に類 似 し,筋 上 皮,腺 上 皮 の 二 層構 造 を保 つ
死 を もた らす こ とで あ る。 ヒ トで は ホル モ ン依 存 性 乳癌
細 葉 が 基 底 膜 で 囲 まれ てお り,腺 上 皮 は 高 い分 泌 能 を示
が進 展 して ホ ル モン 依 存 性 を 失 う現 象 は よ く知 られ て お
す ため か 周 囲 の 正 常 静 止 期 乳 腺 に 比 べ て 大量 の ウイ ル ス
り,こ の こ とは 乳 癌 治 療 の 原 則 に 現 在 と り こ まれ て い
産 生 をみ る[57]。
形 成,増 殖 に ホ ル モ
る。 最 近 では,乳 癌 死 亡 率 低 下 の た め に 転移 形成 能 を う
ンは必 須 で あ り,な か で も プ ロ ラ クチ ンが最 も重 要 で あ
る に至 る一 連 の 現 象 の 把 握 が 緊急 テ ーマ と され て い る。
る[74]。
しか し,多 くの マ ウ ス乳 癌 で は,ホ
な お,HANの
一方,MTV-Pは
前癌 病 変 と してplaqueを
生
ル モ ン依 存 性 を 欠
ず る。 これ は 妊 娠 依 存 性腫 瘍 の 性状 を示 す。 す な わ ち,
き,転 移 も極 め て 少 ない 。 この 実験 モ デ ル で転 移 とい う
妊 娠 と と もに 増 大 して 妊 娠 中 期 以降 円盤 状 に外 表 よ り触
現 象 を よ り明 瞭 に すベ く次 の 実験 が試 み られ た。 松 沢 ら
知 可 能 と な り,分 娩 と と もに 退縮 す るが,次 の妊 娠 で再
に よ りDDDマ
ウ スに樹 立 され た ホ ル モ ン依 存 性 可 移
MTVの 植 性 乳癌TPDMT-4はGRの
117
伝達 と腫瘍発生
プ ラ ー クに 類 似 す る組 織
れ る[49]と
か,MTV-A粒
子 に 対 す る掠 体 が ヒ ト乳 癌
像 を 示 す 。 さ らに,松 沢 らに よ り確 立 され た 転 移 形 成 性
患 者血 清 で証 明 され た り[77],ヒ
な らび に 転 移非 形 成 性 の 自律 性 増 殖 亜 株[25]を
関 連 を 示 唆 す る レポ ー トも存 在 す る。我 々 も,MTV-B
用 い て,
ト乳 癌 とMTVと
の
夫 々 の構 成 細 胞 の形 質 を免 疫 染 色 で検 討 した。 皮 下 移 植
粒 子 の 主 要 コ ア抗 原 を種 々 の ヒ ト乳 腺 患 者 に み た が,乳
され たTPDMT-4お
腺 以 外 の 正 常 組 織 や他 臓 器 よ り発 生 した 腫 瘍 に は これ を
よび そ の 亜株 はす べ て プ ラ ー ク と
類 似 した 組 織 を 呈 し,通 常 のH-E染 す べ て の これ ら移 植 株 は,プ 筋 上 皮 を欠 くが,TPDMT-4お
色 で は 区別 し難 い。
ラ ー ク同 様,ア
クチ ン陽 性
よび転 移 非 形 成 亜 株 は 癌
み なか った[66],一
方,MTVと
定 す る報 告 も存 在 し[19],現
ヒ ト乳 癌 との関 連 を否 時点 で は 明 確 な 最 終 結 論
を下 す こ とは で きな い が,齧 歯類 の み な らず,食 虫 類 で
胞巣 周辺 にK14陽 性 基 底 細 胞 が 一 列 に 配 列 し,そ の 外
あ る ス ソ クスや 霊 長 類 で あ るサ ル で も,レ
周 に 連続 性 のIV型 コ ラー ゲ ン で 示 され る基 底 膜 が 存 在
が乳 癌 の発 症 に関 与 して い る こ とが 証 明 され て い る こ と
す る。 と ころ が,転 移 形 成 亜 株 ではK14陽
は 注 目に値 す る[9,76]。
性 細 胞 の 完全
な 欠 落 と癌 巣外 周 の基 底 膜 に断 裂 像 が 観 察 され た[54]。
b.細
なお,過 半 を 占 め る増 生 上 皮 細 胞 のK18発 現 は,プ
ラー
ア クチ ン,ケ ラチ ン,IV型
ク と異 な り,す べ て の 亜 株 で 強 く不 規 則 化 し,ま
た,
MTV産
生 に も一 定 の傾 向 を み な い。 ま た,こ れ ら移 植
腫 瘍 では 転 移 形 成 亜 株 に 有 意 にhst遺 明 され て い る[32]。
伝 子 の活 性 が証
次 に,転 移 形 成 亜 株 の表 現 型 構 成
と転 移 形 質 との関 連 を 知 る 目的 で,原
発 巣,転
の レクチン 結 合 能 を比 較 検 討 した 。DBAレ TPDMT-4に
は 結 合 能 は な いが,転
OI96,T4-OI165)皮
移巣で
ク チン は,
胞形 質 よ りみ た乳 腺 腫 瘍 の 比 較 コ ラー ゲ ンの発 現 は,臨 床
病 理 学 的 に ヒ ト乳腺 腫 瘍 の診 断 に有 用 で あ る。 正 常 お よ び 良 性 乳 腺 腫 瘍 で は ア クチ ン陽 性 筋 上 皮 が 観 察 され,上 皮 細 胞 巣 は 必 ず 連 続 性 のN型
コ ラー ゲ ンで と り囲 まれ て
い る。 非 浸 潤 癌 もIV型 コ ラ ー ゲ ンで 取 り囲 まれ て い る が,こ の部 には 原 則 的 に ア クチ ン陽 性細 胞 を欠 く[65]。 浸潤 癌 の大 部 分 は,ケ
ラ チ ソ発 現 よ りみ る と,腺 上 皮 由
来 を示 唆 して お り,基 底 細 胞 由 来 の もの は ご くわ ず か で
移 形 成 亜 株(T4-
下 移 植 巣 で は と もにDBA陽
トロ ウイ ル ス
性
あ る[44,56]。
な お,浸 潤 癌 組 織 で はW型
コ ラ ーゲ ンは
細 胞 と陰 性細 胞 の混 在 よ りな っ て い た。 とこ ろが,T4-
断裂 また は 欠 損 を み る。 ヒ ト乳 癌 発 生 が 乳 管 に 多 い こ と
OI96由
の 他,マ
来 の 肺転 移 巣 で はす べ て の転 移 巣 のす べ て の構
成 癌 細 胞 がDBA陽 T4-OI165由
性 細 胞 よ りな っ て い る の に 対 し,
来 の 肺 転移 巣 で は逆 に す べ て の転 移 巣 が 陰
ウ スの もの に比 べ て,ヒ
ト乳 癌 では 基 底 細 胞 形
質 発 現 の 少 な い こ とや基 底 膜 の断 裂 ・欠 損 を 多 くみ る こ とで,こ の 観 察 成 績 は 両 者 に お け る転 移 の多 寡 に反 映 さ
腫瘍 は 一般 に単 一
れ る よ うで あ る。 次 に マ ウ ス可 移植 性 腫 瘍 を用 いた 観 察
細 胞 よ りモ ノ ク ロ ー ナ ル に 増 生 す る と され て い る が,
か ら転 移 ク ロー ンは モ ノ ク ロ ナ ル 由 来 を 示 唆 して い る
性 細 胞 に よ り構 成 され て い た[61]。
DBA結
合 能 よ りみ る と,増 殖 に と もな い 多 様化 した 表
現 を もつ 細 胞 集 団 をつ く り出 してい る。 一 方,転 移 に は
が,ヒ
ト乳 癌 も レク チ ン結 合 能 よ りみ て 転 移 巣 は 原 発
巣 に比 して表 現 形 質 の収 束 を み る とい う[21]。
しか し,
選 択 的 な淘 汰 現 象 が関 係 して い るか 否 か が 現 在 な お議 論
リンパ節 転 移 能 を示 した 乳 癌36例 の 我 々の 検 討 で は,原
され て い るが,我
合 能 と転 移 能 と
発巣 間 に著 明 な多 様 性 が み られ,原 発 巣 な らび に転 移 巣
は 相 関 しな い よ うだ が,転 移 は単 一 ク ロー ンよ りな る選
間 で は形 質 発現 に有 意 の差 異 は 認 め られ なか った 。 マ ウ
々の観 察 で はDBA結
択 的 な 現 象 で あ る こ とを示 唆 す る。 な お,こ れ ら移 植 性
ス可 移 植 株 で 得 た デ ー タは,直 ち に現 実 の ヒ ト乳 癌 に 外
乳 癌 にお け るMTV抗
挿 で きな い よ うで あ るが,恐
原 発現 に顕 著 な差 はみ ら れ な い。
ら くマ ウス の もの は す で に
ク ロー ンが 選 択 され た 状態 な の で,そ の解 析 が 容 易 で あ VI.ヒ
った の で あ ろ う。
ト乳 癌 へ の外 挿
c.乳 マ ウス に おけ るMTVの び に 異 な るMTVに
伝 達,乳
腺 で の 発 現,な
ら
よ り生 じた 特 徴 的 な 乳 腺 腫 瘍 の 組
織形 態 に つ き述 べ た が,介 在 す る ホ ル モ ン も ヒ ト乳 癌 と
癌 発 生 に 及 ぼ す ホル モ ン作 用 の比 較
エ ス トロゲ ン とプ ロゲ ス テ ロ ンの 共 同作 用 の も とに プ ラー クを生 じ,こ れ が 乳 癌 へ と進 展 す るGR系 ル も存 在 す るが,多
のモデ
くの系 統 に み られ る マ ウ ス 乳 癌 で
は 異 な:る。 この モ デ ルか ら我 々が 学 んだ こ との ヒ ト乳 癌
は,プ
へ の 外 挿 を試 み た い。
や が て 乳 癌 へ と進 展 す る の が一 般 で あ る。 そ れ 故,プ
a.MTV関 MTVと
連蛋 白の乳 癌 患 者 に お け る証 明 ヒ ト乳 癌 との 関連 に つ き多 くの研 究 が な さ れ
て きた 。MTV-gp52抗
原 が ヒ ト乳癌 に特 異 的 に発 現 さ
ロ ラ ク チ ン の 主 働 作 用 の も と にHANを
生 じ, ロ
ラ クチン は マ ウ ス乳癌 発 生 に主 働 的 に働 くホ ル モ ンで あ る とい え るが,プ
ロ ラ クチ ン と ヒ ト乳 癌 との関 係 は 未 だ
十 分 に 解 析 され て い な い 。 我 々は こ の問 題 に注 目 し た 。
118
螺 良愛郎 ・森井外吉
近 年 臨 床 で 繁 用 され て い る向精 神 薬 は,抗
ドー パ ミ ン作
を 含 め て無 細 胞 性 にT4リ
ンパ球(CD4陽
性 細 胞)に
用 に よ り高 プ ロ ラ クチ ン血 症 状態 を惹 起 す る。 これ ら服
水 平 感 染 す る。MTVと
用 群 の 乳 癌 発 症 頻 度 は,対 照群 との比 較 の困 難 さの た め
るが,経 母 乳感 染,分 泌 液 を介 す る水 平 感 染,さ
に 言 及 で きな い が,こ の服 用 既 往 の あ る乳 癌 症 例 を 臨 床
細 胞 へ の親 和 性 な ど,類 似 点 も多 い。
病 理学 的 に解 析 した。 過 去10年 間 に関 西 医 大 付 属 病 院 で
MTVのLTR内
比 較 して 若 干 異 な る と ころ もあ らにT
にorfが 存 在 し,そ れ が マ ウ ス 系 統
手 術 され た乳 癌 症 例 の うち,術 前 長 期 に わ た り向精 神 薬
内 で広 く保 存 され て い るが,そ
服 用 の既 往 を もつ10例 を検 討 した 。 い ず れ も経 過 中 に 乳
[10]。 最 近,orf遺
汁 漏 出 は訴 え て い な いが,血 中 プ ロ ラ クチ ン値 の測 定 さ
とが 見 い 出 された[1,8]。
れ て い る例 で は2例 と も高 値 を 示 した 。 この 高 プ ロ ラ ク
発 現 に よ りCD4陽
チ ン血 症 を呈 す る2例 を 含 め て7例 の 乳腺 に際 立 っ た変
オ カ イ ンを 放 出 し,リ ンパ 球 増殖 が 促進 され る。 これ ら
化 をみ な いが,他 の3例 は 非癌 部乳 腺 が分 泌 期 様 形 態 を
が ウ イ ル スの 貯蔵 庫 とな って 乳腺 への 、MTV感 染 を 容 易
の機 能 は不 明 で あ った
伝 子 はMls遺
伝 子 に ほ か な らな い こ
乳 因 子 に感 染 した細 胞 は,orf
性T細 胞 を 活 性 化 し,種 々の リン フ
と り,脂 肪 お よび α一ラ ク トア ル ブ ミン[30]を 活 発 に分
な ら しめ る。 一 方,感 染 細 胞 の 増 加 は 胸腺 に てCD4陽
泌 して い る像 を み た 。 この うち の1例 を含 む2例 の 乳 癌
性T細 胞 の 欠失 を 促 し,免 疫 能 低 下 を もた ら してMTV
は 脂 肪 の産 生 ・分 泌 を み せ る脂 質 分 泌 乳 癌 で あ った 。 脂
の 排 除 を 抑 制 す るの で あ ろ う。
質 分 泌 乳癌 は極 め て稀 な もの で,文 献 的 に37例 が 報 告 さ
MTVは
時 に異 所 的産 生 をみ る こ とが あ る。GR雄
れ て い るが,そ の発 症 機 序 につ い ては 十 分 論 じ られ て い
は400日 齢で 約10%にT細
な い[63]。
Mtv-2陰
しか し,ラ ッ ト可 移 植 性 乳 癌(R3230)や
ト乳 癌 培 養 株(T-47D)で
は,プ
ヒ
ロ ラ ク チ ン処 置 に よ
で
胞 性 白血 病を 発 症す るが,GR-
性 マ ウスでは この発 症 を み ない こ と よ り,MTV
が 白血 病 の発 生 に関 与 してい る こ とが うか が わ れ る。 こ
り癌 細 胞 に脂 肪 産 生 を み るこ とが知 られ て い る[16,47]。
の場 合 も,orfの 関 与 に よ っ てT細
我 々 の観 察 結 果 か ら,脂 質 分 泌像 が(1)正常 乳腺 細 胞 の み
これ が 腫 瘍 化 に 有 利 な 状 況 を 提供 して い る よ うで あ る。
胞 の 増 殖 を 招 来 し,
にみ られ る,(2)乳 癌 細 胞 の み に み られ る,(3)正 常 お よび 癌 いず れ に もみ られ る,(4)双 方 と もに ま った くみ られ な
VII .お
わ りに
い と4つ に 分 類 で き る。 個 々の症 例 の術 前 血 清 プ ロ ラ ク チ ン値 を 知 りた い と ころ で あ る が,デ い。 現 在 の と ころ,高
ー タは十分 で な
プ ロ ラ クチ ン血 症 はす くな くと も
ヒ ト疾 病 の 病 因解 明 や 発症 機 序 解 析 に は,実 験 動 物 で 作 製 され る疾患 モ デ ル の応 用 が必 須 で あ る。 しか し,用
乳 癌 細 胞 形 態像 に修 飾 を もた らす 可 能 性 が あ る。 我 々の
い た モ デ ル と ヒ ト疾 患 との異 同 の把 握 が なけ れ ぽ ,有 用
観 察 で 特 記 す べ きい ま 一 つ の特 徴 は,同 時 性,異 時 性, 一側 性 ,両 側 性 と若 干 多彩 では あ るが,10例 中4例 に 乳
な モ デ ル とは な りえ な い。 マ ウス乳 癌 モ デ ルは,古
癌 の 多発 が み られ た点 で あ る。 乳腺 にお い て 多 発癌 は 稀
わ た って広 範 に奨 用 され て きた 。 今 回,我
な現 象 で,一 側 乳 房 で の多 発 や10年 間 の 経 過観 察 で の 両
の生 活 環 の解 明に よ り,ヒ
側 性 乳 癌 は いず れ も10%以 下 の 頻 度 で あ る[23,27]。
機 構 との異 同を よ り明 瞭 と した 。 また,MTVに
マ
り病理 形 態 学,ウ
くよ
イ ル ス学,内 分 泌 学 や 遺 伝 学 の 領 域 に 々は,MTV
トの レ トロ ウ イル ス との感 染 よ り生
ウス の もの よ りも ヒ ト乳 癌 に 似 て い る発癌 剤 誘 発 ラ ッ ト
じた乳 腺 腫 瘍 の 組 織 細 胞 学 的 検 討 に よ りヒ ト乳癌 との差
乳 癌 では,ラ
異 を も 明 らか に した 。 しか し,MTVが,い
ッ トに 向 精 神 薬 を 与 え る と,高
チ ン血 症 を 介 して,1個 [48]。 以 上,プ
プロラク
体 当 り高 率 に 乳 癌 多 発 を み る
ロ ラ クチ ンは ヒ トに お い て もプ ロモ ー シ
して何 故 に,マ
か に して そ
ウ ス乳腺 細 胞 の み を癌 化 す る か とい う基
本 的 命 題 に 対 して は依 然 未解 決 の まま で あ る。
ョ ン作 用 を 発 揮 して い る可 能性 が極 め て 高 い。 d.ヒ
トの レ トロ ウイ ル ス感 染 機 構 との比 較
ほ とん どの脊 椎 動 物 に レ トロ ウイ ル スが 見 い出 され て
文
お り,近 年 遂 に ヒ トの レ トロ ウイ ル ス発 癌 も発 見 され る に 至 った。HTLV-1は,T4リ
ンパ 球 に プ ロ ウ イ ル ス
[1]
の形 で組 み込 まれ て存 在 し,遊 離 ウ イル ス と して は 存 在 せず,母 乳 中 の感 染T4リ
ンパ 球 が 腸 管 壁 よ り侵 入,胎
児 リンパ球 とのcell-to-cellに され て い る[15]。
一 方,HIVは
よ る母 児 感染 が最 近 想定 ウ イル ス が血 液 の 他,
乳 汁,唾 液,精 液 や 尿 な どの分 泌 液 中 に 存在 し,母 児 間
[2]
献
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