94-924
1991
2次 性側頭骨悪性腫瘍 とその側頭骨病理 山梨医科 大学 耳鼻 咽喉 科学教 室(主 任:村 上嘉彦 教 授) 今 SECONDARY
SHUN-ICHI
Metastatic The actual
involvement
performed metastatic
嘉
彦
OF THE TEMPORAL
AND REVIEW
Yamanashi
bone tumors,
The reason
MURAKAMI,
Medical
bone by malignant
temporal
in the literature.
BONE
OF THE WORLD LITERATURE
M.D. and YOSHIHIKO
of the temporal
of metastatic
by reports
上
TUMORS
STUDY
IMAMURA,
一,村
Otorhinolaryngology,
incidence
suggested
俊
MALIGNANT
A HISTOPATHOLOGIC
Department
村
M.D.
College, Yamanashi tumors
however,
is considered
is probably
to be rare.
much higher than
for this is that histologic
studies
are rarely
on temporal bones in routine postmortem examinations of patients with possible disease. Also, in patients with multiple metastatic lesions, otologic complaints and
signs may often be overshadowed Twelve temporal
temporal
by other more disabling
bones were histopathologically
bone disease from various
cases were:
3 cases
primaries
of hematogenous
cinoma,
a bronchogenic
2 cases
of direct
squamous
invasion
cell carcinoma,
head and neck tumors
transitional
cell carcinoma
of the renal pelvis).
carcinoma
or renal
that there were 212 reported in order of frequency and literature extension
to the
reports
were breast, lung, pharynx,
bone:
1) hematogenous
from adjacent
kidney,
dissemination
temporal
and prostate.
either hepatic cell
bone tumors
bone symptoms
carcinomatosis appeared
(DMLC).
late in the course
particularly metastatic
conspicuous in the cases of DMLC. In the cases of hematogenous dissemination, the lesion tends to be overlooked or undiagnosed because occult metastases are relatively
or, when symptomatic, form of mastoiditis.
recognition
of temporal
the otologic
symptoms
In the cases
bone involvement
often resemble
of direct
is usually
an initial
from the primaries 2) direct neoplastic
but in some
a severe
were
bone study
of disease,
common
symptoms
primary,
and found
sites of origin
Our temporal
leptomeningeal
(a
has not been reported
routes of tumor spread from a distant
that in most cases temporal
cases the otologic
bone
of the
carcinomatosis
and that the most common
areas, and 3) diffuse metastatic
Our study also indicates
temporal
cell carprimary);
cell carcinomas
leptomeningeal
of metastatic
cases cited in the literature
survey reveal that there are three distinct
to the temporal
of unknown
(squamous
series of 6
(a hepatic
Among these, to our knowledge
metastatic
previously in the world literature. We reviewed the previously published
who had metastatic
in our present
primary
and an adenocarcinoma
and one case of diffuse metastatic carcinoma
obtained
from a distant
eyelid and hypopharynx); pelvis
from 6 patients
and the results
dissemination
from adjacent
symptoms.
examined
neoplastic simple
sign of tumor,
the features invasion,
which
charaterized
on the other
since the primary
was
disease
by hand,
is quite
evident. Although
metastatic
temporal
bone malignancies
are rare, otologist
should always
be aware
of
日耳 鼻
今 村･他=2次
existence ments
of this disease in recent
entity
diagnostic
in clinical
imaging
性 側 頭 骨 悪性 腫 瘍
practice.
technology,
It is expected earlier
94-925
that,
diagnosis
with
of these
advances difficult
and improvelesions
will
be
possible.
Keywords:
側 頭 骨 病 理 組 織 学,2次
性 悪 性 腫 瘍,浸
は じ め に
潤様 式
A94-0924-20311
考 慮 し,自 験 症 例 の 検 索 と これ ま で の 文 献 報 告 例 の 検
近 年 の 耳 科 学 的 研 究 の 進 歩 は め ざ ま し く,数 多 くの 新 知 見 や 成 果 が 報 告 さ れ て い る が,そ
討 を 行 い,腫 瘍 の 側 頭 骨 へ の 進 展 様 式 や 経 路,原
発腫
の一 方で聴 器疾
瘍 の 病 理 学 と臨 床 症 状 や 経 過 と の 関 連 性 そ の他 に つ い
患 の 中 に は そ の 原 因 や 病 態 す ら不 明 の もの が か な り残
て 系 統 的 に解 析 し考 察 を試 み た の で そ の 結 果 を 報 告 す
され て い る.そ
る.
て,ヒ
の 解明 の た めの基 本的 な研 究手 段 とし
ト側 頭 骨 の 病 理 組 織 学 的 研 究 の 重 要 性 が 以 前 か
らつ と に 指 摘 さ れ て は い る が,聴
研 究 林 料 な らび に方 法
器病 変 を有 す る患者
の 側 頭 骨 を死 後 入 手 す る こ との 困 難 さや,標
本作 製 に
各 症 例 の 剖 検 時,開
頭,脳
摘 出 後,ス
トラ イ カ ー 社
時 間 と熟 練 を要 す る こ と な どの 理 由 か ら,国 内 外 を問
製 円 形 ド リル(直 径1.5イ ン チ)を 用 い 両 側 側 頭 骨 を採
わず この種 の研 究 施 設 の 数 は眼 られ て い る だ け で な
取 し た.採
く,最 近 む し ろ 減 少 傾 向 に あ り憂 慮 さ れ て い る の が 現
液 に て 固 定,ト リ ク ロ ル 酢 酸 に て 脱 灰 し た後,ア ル コ ー ル 上 昇 系 列 に て説 水 し,セ ロ イ ジ ン に包 埋 し た.セ
状 で あ る1). 著 者 ら は か ね て か ら こ の 古 典 的 な が ら も基 本 的 な 聴 器病 変 の 病 理 形 態 学 的研 究 に着 手 し継 続 しつ つ あ る が,今
回 は こ れ まで に 研 究 発 表 の 少 な い2次
性 側頭 骨
取 し た 側 頭 骨 は 直 ち にHeidenhain-SuSa
ロ イ ジ ン ブ ロ ッ ク を25μ に 薄 切 し10枚 お き にH-E染 色 を施 行 し光 学 顕 微 鏡 に て 観 察 した. 自験 症 例 の 病 歴 な らび に 側 頭 骨 病 理 所 見
悪 性 腫 瘍 に つ い て 生 前 の 詳 細 な 臨 床 病 歴 を 有 す る6症
【 症 例1】65歳
例12側 頭 骨 を 入 手 し そ の 臨 床 病 理 学 的 検 索 を 実 施 す る
主 訴:左
機 会 が え ら れ た の で,こ
既 往 歴･家
る と と も に,国
れ らの 検 索 結 果 に つ き記 述 す
内 外 の2次
性 側頭 骨 悪性 腫瘍 の文献 報
女性
顔面 神 経 麻 痺,耳 族 歴:特
臨 床 経 過:1986年8月
痛
記事 項 な し 初 旬,左
顔 面神経 麻痺 に気づ
告 を 広 く集 計 し 解 析 を加 え た. 2次 姓 側 頭 骨 悪 姓 腫 瘍 に 関 す る これ まで の 報 告 の 大 多数 は,後
述 の よ う に単 発 的 な 症 例 報 告 で あ っ て,臨
床 経 過 と側 頭 骨 病 理 所 見 の 双 方 が 記 載 され,そ
の関 連
性 や 臨 床 病 理 学 的 意 義 な ど に つ い て 組 織 的,系
統的 な
論議 を加 えた 報 告 は現 時 点 で は ほ とん ど見 あ た ら な い. また 劉 頭 骨 へ の 悪 性 腫 瘍 の2次
的 浸 潤 は,原
発巣 や
そ の 他 の 転 移 巣 に よ る重 篤 な 症 状 に 隠 蔽 され,耳 症 状 が 現 れ に くい た め,き 存 在 す る の み で あ る.し
科的
わ め て 限 ら れ た数 の 報 告 が
か し近 年 潜 在 的 な転 移 は,従
来 の 報 告 数 が 示 唆 す る ほ ど ま れ で は な い こ と が よ く知 られ て き て お り,さ
ら に は,診
断 学,中
で も画像 診 断
法 の 格 段 の 進 歩,悪
性 腫 瘍 患 者 に お け る原 発 巣 制 御 成
績 の 向 上 や 平 均 余 命 の 延 長 な どの 理 由 か ら臨 床 的 に も こ れ ら の 転 移 腫 瘍 が 発 見 され る機 会 が 増 加 し つ つ あ る も の と推 測 さ れ る. そ こ で 著 者 らは,今
後 の 臨 床 診 断,治
療 への 対応 も
図1(症
例1) 1986年11月14日,死 検 査 成 績,左
亡2ヵ
月前 の純音 聴 力
側 混 合 性 難 聴 を認 め る.
94-926
図2(症
1991
今 村 ・他＝2次 性側頭 骨悪 性腫 瘍
例1) 左 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見 10×2
図3(症
腫 瘍 細 胞 は 中 耳 腔 内 に 充 満 し,顔 面 神 経 管, 外 耳 道 を破 壊 して い る.鼓 膜 は 腫 瘍 に よ り 中 耳 腔 内 に 圧 排 され て い る(矢 印). M-ツ チ 骨 Ⅶ-顔 面 神 経 EAM-外 耳 道 T-腫
例2) 頭 郎CTに て,腫 瘍 は広 範 な 骨 破 壊 を伴 い 左 側 頭 骨 に 浸 潤 し て い る(矢 印). T-腫 瘍
板 は残存 し,卵 円窓,正 円窓 を越 えて膜迷 路 内へ の腫
瘍
瘍 細胞 の浸 潤 は認 めな か った.蝸 牛基 底 回転 の ラセ ン き,8月
下 旬 に は 左 頸 部 腫 瘤 が 出 現 し,10月
耳 痛,難
聴,右
に 入 り左
眼 瞼 下 垂 を 自覚 す る に 至 っ た た め,10
月28日 当 科 外 来 を受 診 し 緊 急 入 院 とな っ た.初
診 時,
神 経節 細胞 の減 少 を認 めた が内耳 道 内及 び蝸 牛軸 には 腫 瘍細 胞 の浸潤 はな く,膜 迷 路 の感覚 上 皮 は死後 変化 はあ る もの のほ ぼそ の残存 が確認 で きた.
左 耳 内 に は 腫 瘤 が 充 満 し,左 頸 部 に直 径 約3cmの
弾性
硬,可
球運
顔 面神 経管 の鼓 室側 は膝 部 か ら垂直 部上 部 まで完全 に消失 し,顔 面神 経 は局所 的 に腫瘍 細 胞,炎 症 細胞 の
動 障 害 な らび に,純 音 聴 力 検 査 で は 左 混 合 性 難 聴 を 示
浸潤 の ため,著 しい変 性 を来 し部分 的 に消 失 して いた.
動 性 の 少 な い腫 瘤 を 認 め,右
した(図1).側
頭 骨 単 純X線
眼 瞼 下 垂,眼
写 真 で左 鼓 室 と乳 突 洞 に
乳 突蜂 巣,錐 体 蜂巣 に も腫瘍 の 浸潤 を認 めた.
び ま ん 性 の 陰 影 が あ り,頭 部CTで
左 側頭 骨 に骨破 壊
右 側頭 骨病 理所 見:錐 体 尖 部蜂 巣 に左側 と同様 の腫
を と もな う 占拠 性 病 変 の 存 在 と,骨
シ ンチ グ ラ フ ィ に
瘍細 胞 の浸潤 を認 めた.鼓 室,乳 突蜂 巣 に炎 症細胞 の
て 左 側 頭 骨,左
腸 骨,左
肘 関 節 等 に 集 積 を 認 め た.血
液 検 査 で肝 機 能 異 常 が 認 め ら れ,肝 エ コ ー,CT等 臓 に腫 瘍 の 存 在 が 確 認 さ れ,左
耳 内 腫 瘤,頸
で肝
部腫瘤 の
生 検 に よ り肝 細 胞 癌 の 側 頭 骨 転 移 と の 診 断 が 得 られ
浸潤 を認 め るものの腫 瘍細 胞 の浸 潤 は なか った. なお肝 細胞 癌 の側頭 骨転 移 症例 の報 告 は,こ れ まで 国 内外 の文献 検 索 に よって見 い だす こ とが で きず,最 初 の報 告例 と考 えられ る. 【症例2】 68歳 男性
た. 腫 瘍 の頭 蓋 底 浸 潤 は そ の 後 も進 行 し1987年1月25日
主訴:左 耳後 部腫瘤,耳 痛 既往 歴:1987年10月,肺
に死 亡 した. 死 亡 約16時 間 後 に 両 側 の 側 頭 骨 を採 取 し た. 左 側 頭 骨 病 理 所 見:腫 瘍 は 鼓 室 内 に 充 満 し,耳 管 周 囲,内 頸 動 脈 周 囲 及 び 岬 角 の一 部 に 骨 破 壊 像 を認 め た.
腫瘍(扁 平 上 皮癌)の ため
左 肺全 摘 出術 家族 歴:特 記事 項 な し 臨床経 過:1988年1月
中旬 よ り左耳 介後 部 に小 指頭
外 耳 道 上 皮 は腫 瘍 に よ り前 方 に圧 排 さ れ 鼓 膜 は 中 耳 腔
大 の腫瘤 が 出現 した.腫 瘤 は徐 々 に増 大 し耳 痛,側 頭
内 に 押 しや られ て い た(図2).前
庭 外 リ ンパ 腔 に 少 量
部 痛 を伴 う ようにな った た め4月11日 当院 脳 神経 外 科
迷 路 の 破 壊 は な く,ア ブ ミ骨 底
を受 診 し翌 日入院 とな り,耳 科 的 精査 の た め同 月14日
の 出 血 を 認 め た が,骨
日耳 鼻
今村 ・他＝2次 性 側頭 骨悪 性腫 瘍
図5(症
94-927
例2) 左 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見 10×2 腫 瘍 は 中 耳 腔 内 に 充 満 し,顔 面 神 経 管 は完 全 に破 壊 さ れ,新
生 骨 の 形 成 を認 め る.
Ⅶ- 顔 面 神 経 M-ツ N-新 生 骨 T-腫 瘍 図4(症
顔 面 神 経 管 は 膝 部 か ら水 平 部 ま で鼓 室 側 は完 全 に 消
頭 蓋 底 へ 浸 潤 し た腫 瘍 は 硬 膜 下 を這 い 内 耳 道 付 近 ま で 浸 潤 して い る. S一 球 形 嚢U一 卵 形 嚢IAM一 内 耳道
失 し て お り,一 部 で 新 生 骨 の形 成 を 認 め た(図5). 骨 迷 路 内,膜
迷 路 内 に は 腫 瘍 細 胞 は 認 め な か っ た.
右 側 頭 骨 病 理 所 見:中
T一 腫 瘍
見 を 認 め た が,腫 当 科 を受 診 した.初
診 時,左
耳 介 後 部 か ら側 頭 部 に か
け65mm×55mmの
硬 い 可 動 性 の な い 腫 瘤 を認 め た.
当 時 顔 面 神 経 麻 痺 は 認 め ず,難
め,錐
体 後 部 及 び 乳 突 部 に 骨 破 壊 像 を 認 め た(図3).
当 院 脳 神 経 外 科 に て4月25日,腫
日 よ り電 子 線30Gy,6月18日
既 往 歴:20歳
よ り コ バ ル ト16Gyを
中 旬 よ り難 聴 を訴 え,左
時 に胆石 の手術
家 族 歴:特
記事項 な し
し出 現 した た め,当
よ り右 下 眼 瞼 に腫 瘤 が繰 り返
院 眼 科 に て 試 験 切 除 を 施 行 し,扁
平 上 皮 癌 と診 断 さ れ,腫 瘍 摘 出術,電 施
側 テ ィンパ ノグ
さ れ て い る.1987年
子 線 照 射 を施 行
に入 り右 鼻 閉 感 が 出現 し近 医 に て
右 鼻 腔 内 腫 瘤 を 指 摘 され 当 科 を紹 介 され 生 検 に て 扁 平
た同時 期
上 皮 癌 と診 断 され た.右 上 顎 洞 に 浸 潤 し た 腫 瘍 に 対 し,
過 中進 行 を認 めな
三 者 併 用 療 法 を 施 行 し,右 側 の 腫 瘍 は 縮 小 効 果 を得 た
イ プ,中 等 度 伝 音 難 聴 を認 め た.ま
よ り 口 角 の 不 対 称 が 出 現 した が,経
突 蜂 巣 に軽 度 の 炎 症 所
24歳 時 に 右 尿 管 結 石 の 手 術
臨 床 経 過:1986年7月
瘍 亜全 摘 が施行 さ
れ病 理 組 織 検 索 に て 扁 平 上 皮 癌 と診 断 され た.5月15
行 し た.5月
耳,乳
瘍 細 胞 の 浸 潤 は 認 め な か っ た.
【症 例3】 57歳 女 性
聴 も訴 え て い な い.頭
て左 側 頭 骨 鱗部 を 中 心 と した 腫瘍 病 巣 を認
ラ ムBタ
ヌ タ骨
例2) 左 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見10×1
部CTに
チ 骨 Ⅰ-キ
か っ た.頭
蓋 内 浸 潤 の 進 行 に と もな い 全 身 状 態 が 悪 化
し10月4日
死 亡 し た.剖 検 時 に 左 肺 門 部 に 腫 瘍 の 再 発,
及 び 多 発 性 の リ ンパ 節 転 移 を認 め た.こ
れ らは 組 織 学
が,腫
瘍 は 硬 口 蓋 よ り左 上 顎 洞 に 進 展 す る に至 っ た.
翌1988年3月
頃 よ り左 耳 痛 を訴 え る よ う に な り,さ
ら に5月 頃 よ り左 顔 面 神 経 麻 痺 が 出現 し,6月
的 に 側 頭 骨 腫 瘍 とほ ぼ 同 一 で あ り,発 症 状 況 と併 せ て
全 麻 痺 と な っ た.同 年8月
転 移 性 側 頭 骨 腫 瘍 と診 断 さ れ た.
出 現 を 認 め,こ
に は完
に は左 外 耳 道 下 壁 に腫 瘤 の
の 頃 よ り左 耳 の 難 聴 を 自覚 す る よ うに
死 亡 約11時 間 後 に 両 側 の 側 頭 骨 を採 取 し た.
な り,聴 力 検 査 に て も聴 力 の 悪 化 が 確 認 さ れ た.10月
左 側 頭 骨 病 理 所 見:腫
に は 眼 球 運 動 障 害,視
管 周 囲,内
瘍 は 乳 突 洞,鼓
室 に充 満 し耳
頸 動 脈 周 囲 及 び 岬 角 の 一 部 に骨 を破 壊 し浸
潤 して い た.一
部 で 頭 蓋 底 に浸 潤 し た 腫 瘍 は,硬
を這 い 内 耳 道 付 近 へ 浸 潤 して い た(図4).内 神 経 線 維 束 の 変 性,減
少 も認 め ら れ た が,内
は 腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 は 認 め な か っ た.
膜下
耳 道 内の 耳道 内に
左 眼 窩,側
力 低 下 も 出 現 し,頭 部CTに
て
頭 下 窩 に 腫 瘍 の 浸 潤 を 認 め 中 頭 蓋 窩 を 中心
とす る 広 範 な 骨 破 壊 像 を認 め た.1989年 膜炎 を お こ し,3月2日
に 入 り癌 性 胸
死 亡 し た.
死 亡 約10時 間 後 に 両 側 の 側 頭 骨 を採 取 した. 左 側 頭 骨 病 理 所 見:腫
瘍 は 鼓 室 天 蓋 を破 り側 頭 骨 中
94-928
図6(症
1991
今村 ・他＝2次 性側 頭 骨悪性 腫瘍
例3) 左 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見 10×1 腫 瘍 は 中 耳 腔 内,内
図8(症
耳道 内 に充満 して いる
が,内 耳 に は腫 瘍 の 浸 潤 を認 め な い. S-球 形 嚢 U-卵 形 嚢 fp-ア ブ ミ骨 底 板 T-腫
例4) 右側 頭 骨病 理組織 所 見 10×1 腫瘍 は中耳構 築 を広 範 に破壊 し浸潤 してい る.内耳 道 内 に も腫瘍細 胞 の 浸潤 を認 め る. Ⅶ-顔 面神経 T-腫 瘍
瘍 認 め,蝸 牛,前 庭 の 感 覚 細 胞 に は 高 度 の 変 性 を認 め た. 内 リ ンパ 嚢 周 囲 の 蜂 巣 に 転 移 巣 が 存 在 し一 部 内 リ ンパ 嚢 の 結 合 組 織 に 浸 潤 を認 め た が,内
腔 に は 出 血 を認 め
る もの の 腫 瘍 細 胞 は み られ な か っ た. 腫 瘍 は,顔
面 神 経 窩 を 破 壊 し顔 面 神 経 膝 部 を取 り巻
くよ う に存 在 した.顔 壊 さ れ,顔
面 神 経 管 は 水 平 部 で は,ほ
ぼ破
面 神 経 に は腫 瘍 の 浸 潤 と 高 度 の 変 性 を 認 め
た. 乳 突蜂 巣 に は 出 血 と炎 症 性 変 化 が 著 明 で あ り,錐 体 部 蜂 巣 に は 腫 瘍 細 胞 浸 潤 が 認 め られ た. 右 側 頭 骨 病 理 所 見:上 観 察 不 能 で あ っ た.乳 図7(症
例3)
潤 が 見 ら れ た が,腫
左 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見 10×2 腫 瘍 細 胞 は 輪 状 靱 帯 を前 庭 外 リ ン パ 腔 に圧 排 す る よ う に 進 展 して い る(矢 印). V-前 庭 外 リ ンパ 腔 C-蝸 牛 T-腫
瘍
頭 蓋 窩 面 に広 範 に 浸 潤 し て お り,内 耳 道
71歳
既 往 歴:高
血圧
家 族 歴:特
記 事項 な し
男性
右 頸 部 腫 瘤 に気 づ い て 当 科 受
診 し,諸 検 査 を 施 行 した 結 果,下
咽 頭 腫 瘍 の 頸 部 リン
内 に も腫 瘍 細 胞 が 充 満 し,神 経 線 維 束 は 変 性 し ほ ぼ 消
パ 節 転 移 と診 断 さ れ た.1986年10月22日
失 して い た(図6).腫 瘍 の 浸 潤 の た め 内 耳 道 は 拡 大 し, 一 部 で 硬 膜 を 破 壊 し骨 へ 浸 潤 す る像 が 認 め られ た .し
療(62Gy),1987年2月6日
か しcribrose
areaを
越 え て の 浸 潤 は な く,Rosenthal
管 内 に 微 小 出 血 は あ っ た もの の,そ に は 異 常 を認 め な か った.中 は,アブ
耳 腔 に充 満 した腫瘍 細胞
ミ骨 底 板 を 一 部 破 壊 し,輪 状 靱 帯 を前 庭 外 リ
ンパ 腔 内 へ 圧 排 して い た(図7).骨
性,な
ら び に膜 迷 ォ
に 入 り右 顎 下 部 痛,6月
下 旬 に な り右 顎
に わ た る化 学 療 法 を施
行 し た が 効 果 な く腫 瘤 は 増 大 壊 死 し耳 下 部 か ら頸 部 に か け て の 大 き な 組 織 欠 損 が 生 じ た.11月 神 経 麻 痺,12月
に 入 り右 顔 面
右 外 転 神 経 麻 痺 が 出 現 し た.1988年1
月 に な り大 量 の 右 耳 漏 が 出 現 した が,治 続 す る よ う に な った.2月
り,卵 形 嚢,球
た し2月13日
牛 管 に 軽 度 の 内 リ ンパ 水 腫 を
に喉 頭 全 摘,両 側 頸 部 郭 清
下 部 に 腫 瘤 の 出 現 を 認 め,3回
ジ ン に 淡 く染 色 さ れ る 滲 出 液 が 骨 迷 路 内 に 充 満 し て お 形 嚢,蝸
よ り放 射 線 治
頭 部 分 切 除 術 が 施 行 され た.
1987年5月
のほ か の 蝸 牛 所 見
路 内 に は 腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 は 認 め られ な か った が,エ
術,咽
損し
室 内 に炎症 細胞 の浸
瘍 細 胞 は 認 め られ な か っ た.
【症 例4】
臨 床 経 過:1986年9月 頭 蓋 窩 面,後
鼓 室 は標 本 採 取 の 際,破
突 洞 内,鼓
死 亡 し た.
療 に抵 抗 し持
に入 り全 身 状 態 の 悪 化 を き
日耳鼻
今 村･他=2次
性 側 頭 骨 悪性 腫 瘍
94-929
死 亡 約16時 間 後 に 両 側 の 側 頭 骨 を採 取 し た.
ま い が 出 現 し,ク
右 側 頭 骨 病 理 所 見:腫
科 に 入 院 した が,諸
検 査 に異 常 な く7月17日
管 周 辺 及 び 内 頸 動 脈 周 囲 の 骨 を破 壊 し 浸潤 し て い た
た.こ
側 の 難 聴 を 自 覚 す る よ う に な り,
(図8).鼓
7月21日
た.ま
瘍 は 中耳腔 に 充 満 し岬 角,耳
膜 は ほ ぼ 消 失 し腫 瘍 は 外 耳 道 に も及 ん で い
た 乳 突 蜂 巣,錐
体 尖 部 蜂 巣 に も腫 瘍 細 胞 を認 め
た.
の 頃 より,覇
に 当 科 外 来 を受 診 した.初
膜 所 見 等,耳
を認 め な か っ た.そ
の後,聴
鼻 咽 喉 科 学 的 に 異 常 所見
て 会 話 不 能 の 状 態 と な り,8月14日
呈 し所 々 で 腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 を認 め た.
全 聾 の 状 態 と な っ た(図9)た
骨 迷路 の破壊 は認 め られず
ア ブ ミ骨 底 板,正
膜 を越 え て の 浸 潤 も認 め られ な か った.内 量 の 腫 瘍 細 胞 の 存 在 を 認 め た が,蝸 内 に腫 瘍 細 胞 は 認 め な か っ た.蝸
円窓
耳道 内 に少
牛 や前庭 の膜迷 路
牛の 血管 条 の中程 度
の 萎 縮 と,ラ セ ン器 の 死 後 の 変性 所 見 を 認 め た が,細 構 築 の 確 認 は可 能 で あ っ た.球 性 の 滲 出 液 を 認 め,卵
形 嚢内 にエ オ胞 ジ ン好
形 嚢 内 に は 出血 を 認 め た が,内
体 尖部蜂 巣 の一 部 及 び内頸動
脈 周 囲 に 右 側 と 同 様 の 腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 を 認 め た.そ
の
主 訴:両
家 族 歴:特
男性
月 に な り左 側 顔 面 神 経 麻 痺,複 害 等 の 多 発 性 脳 神 経麻痺,四 等 が 出 現 した.髄
耳 道断 屡撮影
に 異 常 所 髭 は 認 め な か っ た.9 視,嚥
肢 麻 痺,深
膜 炎 等 を 疑 い,腰
と こ ろ,髄 液 圧 の 上 昇,髄
下 困 難,構
音障
部反射 の低 下
椎 穿 刺 を施 行 した
液 の 白 色 混 濁 を認 め,細
胞
IVの
異 型 性 の 強 い 大 型細 胞 が 多 数 存 在 し た.Gaシ
チ に て 肺,腎
臓 に 集 積 を 認 め た.9月
ン
中旬 に な り右 側
頭 反 射 消 失 な ど が 加 わ り頭痛,項
部
の 経 過 か ら腎
臓 も し くは肺 を原 発 とす る び ま ん 性 転 移 性 髄 膜 癌 腫 症
形 性 膝 関 節 症,心 筋 梗 塞,高 血 圧,糖 尿 病
(diffuse metastatic 以 下DMLCと
記 事項 な し
臨 床 経 過:1986年4A30日
ロ リ ッ ク テ ス トと
強 直 等 の 髄 膜 刺 激 症 状 も出 現 した.以上
側性 難聴
既 往 歴:変
検 査 上,特
顔 面 神 経 麻 痺,咽
他 に は腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 は 認 め な か った. 【 症 例5】71歳
め精査 加療 目的 にて 入
に はABR,カ
数,蛋 白 の 増 加,糖 の減 少 を認 め,細 胞 診 の 結果class
リ ンパ 嚢 に は 腫 瘍細 胞 を 認 め な か っ た. 左 側 頭 骨 病 理 所 見:錐
の聴 力 検 査 で は完
も に全 く無 反 応 の 状 態 で あ っ た.CT,内 を含 めX線
音聴 力検
認 め た以外 に
力 レ ベ ル の 悪 化 は進 行 し
面 神 経 は 腫 瘍 に 取 り巻 か れ る状 態 で 高 度 の 変 性 所 見 を
院 とな っ た.8月28日
に退 院 し
診 時,純
査 で 両 側 高 音 漸 傾 型 感 音 難 聴(図9)を 脳 神 経 症 状,鼓
顔 面 神 経 管 は膝 部 か ら垂 直 部 ま で 広 範 に 欠 損 し,顔
モ 膜 下 出血 の 疑 い に て 本 院 脳 神 経 外
に 突 然,頭
痛,悪
心,め
leptomeningeal
略 す)と
carcinomatosis
の 診 断 の も と に 脳室 ド レ ナ ー
ジ,脊 髄 控 内 へ の 抗 癌 剤 投 与 を施 行 した が,10月 い り急 激 に 全 身状 態 が 悪 化 し10月8日 巣 に つ い て は,種
々の 検 査 を施 行 した が,生
定 診 断 に は 至 らず,剖 のDMLCと 死 亡 約3時
には
死 亡 し た.原 発 前 に は確
検 に よ り腎 孟 原 発 の 移 行 上 皮 癌
判 明 し た. 間 後 に両 側 の 側 頭 骨 を 採 取 した.
側 頭 骨 病 理 所 見:両
側 ほ ぼ同 様 な所 見 を呈 して お
り,内 耳道 に は 腫 瘍細 胞 が 充 満 し て お り(図10),内耳 道 内 の 硬 腰 は 所 々 で 腫 瘍 細 胞 の 圧 迫 に よ り菲 薄 化 し一 部 消 失 して い た が,内
耳 道 壁 へ の 明 ら か な腫 瘍 細 胞 の
浸 潤 は 認 め な か っ た. 内 耳 道 内の両 側 蝸 牛 前 庭 神 経 束 は ほ ぼ100%腫 置 換 さ れ て い た.腫
瘍 細 胞 は,蝸
瘍 に
牛 軸 か らRosenthal
管 内 に浸 潤 し中 回 転 に まで 及 ん で い た.ラ
セ ン神 経 節
細 胞 は基 底 回 転 で は ほ とん ど完 全 に消 失 して お り,中 回 転 で も著 明 な 減 少 が 見 られ た.基 底 回 転 で は 腫 瘍 細 図9
(症例5) 初 診 時(7月21田)と 死 亡 約2ヵ 月14日)の 純 音 聴 力 検 査 成績,初
胞 は 骨 ラ セ ン板 内 に も浸 潤 し て お り,さ 月 剛(8 診 時,両
側 高 音 漸 傾 型 感 音 難 聴 を み とめ,急 行 し,聾
の 状 態 と な っ て い る.
速 に進
部 に 侵 入 した 腫 瘍 細 胞 群(図1)を
ら に鼓 室 階 内
認 め た.
ラ セ ン器 に は 死 後 変 化 が 認め ら れ た もの の,腫
瘍細
胞 の 浸 潤 は な く感 覚細 飽 の 残 存 は ほ ぼ 確 認 で き た.正
94-930
図10(症
1991
今村 ・他＝2次 性側 頭骨 悪 性腫 瘍
例5) 左 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見 10×1 腫 瘍 細 胞 は 内 耳 道 内 へ 浸 潤 し蝸 牛 軸 か ら鼓 室 階 へ と浸 潤 し て お り,蝸 牛 管,球 形 嚢 に 内 リン パ 水 腫 を 認 め る.中 耳 腔 内 に は腫 瘍 図ll(症
細 胞 を 認 め な い. Ⅶ- 顔 面 神 経 S-球 T-腫 瘍
円 窓 膜 は 肥 厚 し て い た が,同
形 嚢 U-卵
例6) 初 診 時(9月25日)の 純 音 聴 力 検 査 成 績, 右 混 合 性 難 聴 を 認 め る.
形嚢
部 を越 え 中 耳 腔 内 へ の 腫
瘍 細 胞 の 浸 潤 は な か った. 前 庭 系 で は,両
側 と も上 前 庭 神 経 に著 し い 腫 瘍 浸 潤
を認 め,前 庭 神 経 節 細 胞 は,ほ ぼ 完 全 に 消 失 して い た. 後 半 規 管 神 経 に も腫 瘍 は 浸 潤 し て お り,中 枢 側 は腫 瘍 に 置 換 さ れ て お り末 梢 側 で は 神 経 線 維 の 消 失 を 認 め た.前
庭 膜 迷 路 内 に は 腫 瘍 浸 潤 を認 め ず,感
覚細胞 に
は 変 性 を認 め た が 消 失 は し て い な か っ た. 左 側 に お い て は,蝸
牛 管,球
水 腫 を認 め た(図10).左
形 嚢 に軽 度 の 内 リ ン パ
右 と も 内 リン パ 管,及
び内 リ
ン パ 嚢 へ は腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 は な く,正 常 所 見 を呈 し た. 顔 面 神 経 も 内 耳 道 内 で は,膝 残 し,ほ ぼ100%腫 垂 直 部 に は,腫
神経 節細 胞 をわ ずか に
瘍 に 置 換 さ れ て い た.水 平 部,及
瘍 細 胞 を 認 め な か っ た が,運
維 の 高 度 の 変 性 が 認 め られ た.中
び
動 神経線
間神経 系 の感覚 神経
線 維 束 と見 な さ れ る 部 分 の み は,良
図12(症
例6) 右 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見 10×1 錐 体 部 に 広 範 な腫 瘍 の 浸 潤,骨 破 壊 を認 め る.左 上 腫 瘍 組 織 の 拡 大 像 10×20 Ⅶ-顔 面 神 経 sca-上 半 規 管 膨 大 部 IAM-内 耳 道 T-腫 瘍
好 な染 色性 を保 っ 臨 床 経 過:1979年9月
て い た. 一部 ,錐 体 部 の 蜂 巣 へ の 腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 を 認 め た が,
が 出 現 し,ま
鼓 室 部,乳
で 同 側 の 耳 鳴,難
突 部 へ の 浸 潤 は 認 め な か っ た.
中 旬,右
耳 後 部 痛,眼
周囲痛
も な く右 顔 面 神 経 麻 痺 が 出 現 し た.つ
い
聴 も 自覚 す る よ う に な り,翌 朝,回
転 性 眩 量 を 自覚 して い る.9月25日
の 初 診 時 に は,右
的 症 状 が 先 行 して 生 じ た 転 移 性 側 頭 骨 悪 性 腫 瘍 は これ
末 梢 性 顔 面 神 経 麻 痺(完 全 麻 痺),純
音 聴 力検 査 にて右
ま で に 報 告 さ れ て お ら ず,国
混 合 性 難 聴(図11)を
ま い 感 は な く,自
な お 腎盂 の 移 行 上 皮 癌 か らDMLCの
形 式 で耳 科 学
内 外 で も唯 一 の 報 告 と見
発 眼 振 等 は認 め な か っ た.ま
な され る.
害 は 認 め な か っ た.右
【症 例6】 82歳 女 性 主 訴:右
認 め た が,め
顔 面 神 経 麻 痺,難
既 往 歴 ・家 族 歴:特
聴,耳
記 事項 な し
鳴,耳
痛
して お り,側 頭 骨 単 純X線 を 認 め,CTに
た 眼 球 運 動 障 害,視
力障
外 耳道 は 易出血 性 の肉 芽 で充 満 写 真 に て右乳 突蜂 巣 に陰 影
て 右 側 頭 骨 錐 体 部 か ら鼓 室 部,乳 突 部 に
日耳鼻
今村 ・他＝2次 性 側頭 骨悪 性腫 瘍
94-931
部 分 が 腫 瘍 に 置 換 され て お り(図12)腫
瘍 は後 方の乳
突 部 に も蜂 巣 を経 由 し,中 耳 内 に も浸 潤 し,顔 面 神 経 管,耳
小 骨 等 を広 範 に破 壊 して い た.ま
に 内 耳 道 まで 浸 潤 し て い た が(図12),内 前 庭 神 経,顔
た一 部硬膜 下 耳道 内の蝸 牛
面 神 経 は 剖 検 時 に脳 幹 部 摘 出 と と も に 引
き出 され て し ま っ て お り観 察 不 能 で あ っ た.蝸
牛,前
庭 に お い て膜 迷 路 内 に は 腫 瘍 の 浸 潤 は 認 め な い が,二 次 性 の 迷 路 感 染 に よ る 変 化 と考 え られ る 内 耳 炎 の 病 像 が 蝸 牛 基 底 回 転 や 前 庭 迷 路 に 著 明 に 認 め られ て い る (図13). 図13(症
顔 面 神 経 は顔 面 神 経 管 の 破 壊 に と も な い,膝
例6)
右 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見 10×1 内 内 耳 に は 腫 瘍 の 浸 潤 を 認 め な い が ,二
次性 耳 炎 に よ る と思 わ れ る所 見 を 蝸 牛 基 底 回
転 前 庭 迷 路 に著 明 に 認 め る. S-球 形 嚢 U-卵 形 嚢 IAM-内 V-前 庭 外 リ ンパ 腔
左 側 頭 骨 所 見:腫 以 上 自験 例6症
量 術 が 施 行 され,転 得 られ た.腺 て,全
瘍 浸 潤 所 見 を認 め な か っ た.
例 に つ き表1に
ま と め た.
耳道
考 2次
か け 異 常 陰 影 を 認 め た.10月18日
部 を含
め 末 梢 は ほ ぼ 完 全 に 変 性 消 失 し て い た.
生検 をかね た腫瘍 減
移 性 腺 癌 との 病 理 組 織 学 的 診 断 が
癌 の原 発部 位 につ い ては各科 の協 力 を得
身 を詳 細 に 検 索 した が 確 定 に は 至 らず,翌1980
年2月20日
全 身 状 態 の 悪 化 を 来 し死 亡 し た.剖
検 時,
胃,膵,肝
に腫瘍 を認 めたが 原発 巣 は結局 確定 す る こ
とが で き な か っ た.
按
性 側 頭 骨 悪 性 腫 瘍 に つ い て は,1968年
Schuknechtら
の
の 報 告2)以 降,報 告 症 例 数 は増 加 し,同
報 告 に追 加 す る形 で,1976年 計103症 例 を,ま
に は Hillと Kohut3)が
た1986年 に は Kobayashiら4)が
合 これ
に加 え て 計134症 例 の 集 計 を報 告 し,2次 性 側 頭 骨 腫 瘍 は従 来 言 わ れ て い た ほ ど まれ で は な い と の 認 識 が 広 が っ て い る.し
か し,聴 器 の 病 態 を形 態 学 的 に 検 討 す る
唯 一 の 手 段 で あ る側 頭 骨 病 理 組 織 学 は,検 体 入 手 の 困
死 亡 約17時 間 後 に 両 側 の 側 頭 骨 を 採 取 し た.
難 さ や.標
右 側 頭 骨 病 理 所 見:錐
及 して い る と は 言 い が た い の が 現 状 で あ り1),そ の た
表1
体 尖 部 の 骨 髄,蜂
巣 はその大
自験 例6症 例 の ま とめ 転 移 経 路,原 発 巣,臨 床 症 状,病
本 作 製 の 技 術 的 な 問 題 な どの た め に 広 く普
理 組 織 学 的 所 見 に つ い て の ま とめ.
94-932
表2
*
今 村･他=2次
性側 頭骨 悪性 腫瘍
1991
原発 巣 な らび に腫瘍 病 理組織 国 内外 の転移 姓側 頭骨 悪性 腫瘍 文献 報告例212例 の 原発臓 器及 び腫 瘍病 理組 織 別症 例数.
Adaptedfrom
various
report2)and3)-61)
め い ま だ に 組 織 学 的 に転 移 腫 瘍 に よ る 側 頭 骨 の 病 理 形
ま た側
骨 へ の 悪 性 腫 瘍 の 浸 潤 経 路 に つ い て も
態 を 確 認 し,そ の 臨 床 症 状 発 現 機 序 や 腫 瘍 の 転 移 経 路
Schuknechtら2),Hoshinoら10)に
な ど に つ き病 理 形 態 学 的 に検 討 した 報 告 は 極 め て 少 な
近 隣 接 臓 器 腫 瘍 の直 接 浸 潤,び
い.
症(diffuse
metastatic
よ り,血
行性
転 移,
まん性 転移 性髄 膜 癌腫 leptomeningeal
car-
日耳 鼻
今 村･他=2次
cinomatosis以
下DMLCと
指 摘 さ れ て い るが,こ
略 す)と 主 要3経
性側 頭骨 悪性腫 瘍
路 が既 に
れ ら3経 路 に つ き臨 床 症 状 と側
頭 骨 病 理 組 織 学 的所 見 との 関 連 性 な ど を呈 示 し,さ
ら
94-933
的 所 見 か ら 原発 巣 を断 定 で き た まれ な1例
と見な され
た. 近 隣 臓 器 腫 瘍 の 直 接浸 潤 と して は,こ
れ までの報 告
に こ れ ら を体 系 的 に ま とめ た 報 告 は い ま だ に 見 あ た ら
か ら は唾 液 腺 腫 瘍,鼻
な い.
パ 節 転 移 巣 の 順 に 多 く,当 然 の こ とな が ら頭 頸 部 腫 瘍
今 回 著 者 ら は 上 記3経 瘍 の 自験 例6症
路 に よ る2次
例(表1)の
性儲 頭 骨悪性 腫
詳 細 な 検 索 を行 い,さ
ら
咽 腔 腫 瘍,上
か らの 進 展 例 が 大 多 数 で あ る が,自
顎 腫 瘍,頸
部 リン
験 症 例3,4は
と
に 国 内 外 の 症 例 報 告 に つ い て 可 能 な 限 り集 計 し検 索 を
も に この 範 疇 に 属 す る もの で あ っ た. 一方 ,DMLCは 一 般 的 な病 理 学 的 傾 向 と し て,そ の
加 え て,Schuknechtら
原 発 巣 は,胃 癌,肺
の 自 験 例 を含 め た82症 例 の 報
癌,乳
癌 な どが 多 い と い わ れ て い
告2)に そ れ 以 降 の130症 例3)-61)を 追 加 し,総 計212症 例
る が,こ
につ い て 臨 床 症 状,側
多 数 を 占 め て お り,腎 孟 癌 を原 発 す るDMLCは
き主 要3浸
頭 骨 病 理 所 見,原
発臓 器 等 につ
潤 経 路 別 に 系 統 的 に 検 討 した.
【浸潤 経 路 と原 発 巣 】 こ れ 豪 で 報 告 さ れ た2次
性 側 頭 骨 悪 性 腫 瘍 の 計212
症 例 の う ち,そ の 原 発 巣 に つ い て は表2に 側 頭 骨 へ の2次 癌,鼻
示 す よ う に,
性 浸 潤 発 現 頻 度 は 多 い 順 か ら乳 癌,肺
咽 腔 癌,腎
癌,前
立 膝 癌,唾
液腺 癌 となっ てい
れ ま で の 側 頭 骨 へ の 転 移 報 告 例 で は肺 癌 が 大
症 例5以
外,こ
き ず,前
記 自験 症例1の
れ まで の報 告 か ら は 見 い だ す こ とが で 肝 細胞 癌 の 血 行性 転 移 と と も
に 極 め て まれ な 初 の 報 告 例 で あ る こ とが 判 明 し て い る. 【臨 床 症 状 】 悪 性 腫 瘍 の 側 頭骨 へ の 転 移 に よ る臨 床 症 状 につ い て
た.側 頭 骨 へ の 悪 性 腫 瘍 の 浸 潤 経 路 に は,Schuknecht
は,Schuknechtら2),Maddox63),Greerら12)の
ら2),Hoshinoら10)に
が 参 考 に な る.Schuknechtら2)は
よ る 前 述 の3経
そ の 後,Berlingerら62)は,頭 悪 性 リ ンパ 腫,白 い る.今
路 が 有名 であ り
蓋内 の腫瘍 の直 接浸 潤 と
血 病 か らの浸 潤 の2経
路 を追 加 して
回 の こ れ ま で の 報 告 の 集 計 か ら可 能 な 限 り推
測 し検 討 し た と こ ろ,そ
の浸 潤経 路 に つい て分類可 能
で あ っ た111例 の う ち,血 行 性 転 移 と思 われ2る症 例 は53 例(47.8%),直 %),DMLCか
報告
難聴 は一般 的 に早期
に 見 られ 顔 面 神 経 麻 痺 も約 半 数 に み られ た と報 告 し て お り,Maddox63)は41%に
難 聴,34%に
顔藤 神経 麻痺
が 出現 した と報 告 して い る.ま たGreerら12)は,耳 (70%),耳
痛(41%)等
の 中 耳 炎,乳
状 が 高 率 に 出 現 し た と報 告 し て い る.
あ っ た.頭
い の で,無
症 候 の もの は 除 外 し,転 移 に よ る耳 症 状 の
蓋 内 腫 瘍 の 直 接 進 展 例 は き わ め て ま れ で あ り(5症
確 認 で きた 症 例 に つ い て み る と耳 症 状 の 頻 度 は,顔
例),悪
神 経麻痺(67%),難
性 リ ンパ 腫,白
認 め ら れ る とは い え,こ
血 病 の 浸 潤(13症 例)は か な り れ らは い わ ば 全 身 疾 患 の 一 部
3
分 症 と して の 骨 髄 病 変 が 主 体 で あ る と こ ろ か ら,二 次 性,転
移 性 腫 瘍 の 範疇 に い れ る の は 合 理 的 で は な い と
考 え ら れ る の で,Berlingerの5経
聴(60%)が
転 移 に よる臨床症状 表 主 要3転 移 経 路 別 に み た 側 頭 骨 転 移 に よ る 臨 床 症 状 の 発 現 頻 度.(総 報 告 症 例 数70)
を主 要 経 路
と見 な す の が 妥当 で あ る と考 え て い る. 主 要 浸 潤 経 路 別 に 原 発 巣 を見 る と,血 行 性 転 移 の 型 を と る もの は,乳 癌,前
立 腺 癌,肺
癌,大
腸 癌,腎
癌,
に 多 くみ ら れ た.肝
原 発 の転 移 性 側 頭 骨 腫 瘍 は胆 管
癌8),肝 肉 腫30)の2報
告 が あ る の み で,肝 細 胞 癌 の 転 移
は 自験 例1の
み で あ り著 者 らの 症 例 が 初 の 報 告 例 と考
え ら れ た.一
般 に 転 移 巣 は,原
発 巣 に 比 較 し腫 瘍 組 織
の 分化 度 が 低 下 す る こ とが 知 ら れ て い るが,例 腎 癌,甲
外的に
状 腺 癌 な どで は 特 異 的 な 組織像 が 転 移 熱 こお
い て も保 た れ て い る こ とが 特 徴 と さ れ て い る.自 験 症 例1は
これ ら例 外 の 内 に含 まれ 転 移 巣 の 腫 瘍 の 組 織 学
*
DMLCび (diffuse
まん 性 転 移 性 髄 膜 癌 腫 症 metastatic
carcinomatosis)
面
多 く,耳 痛 ま た は耳
路 よ りもすで に述
べ た 血 行 性 転 移,直 接 浸 潤,DMLCの3者
漏
突洞 炎類似 の症
転 移 初 期 に は 臨 床 症 状 の 出 現 し な い こ と も少 な くな
接浸 潤 と思 わ れ る症 例 は,25例(22.5 らの 転 移 は15例(13.5%)で
自験
leptomeningeal
94-934
今 村･他=2次
後 部 痛(25%),耳 (12%)の
後 部 腫 脹(12%),耳
漏
順 で あ っ た.
ま た 表3に示 は,血
内 腫 瘤,耳
性 側頭骨 悪性 腫瘍
1991
あ る これ まで の 報 告 症 例49例 に つ き,浸
潤経 路 別 にみ
た 側 頭 骨 に お け る腫 瘍 の 浸 潤 部 位 を表4に
す よ う に浸 潤 経 路 別 に み た特 徴 と し て
行 性 転 移 の 場 合 は 耳 痛,耳
漏 等 の 中 耳 炎,乳
突
血 行 性 転 移 の 場 合,Proctorら63)は フ ィ ル タ ー の 働 き を し て,こ
示 した.
錐体 部 の骨 髄 が
こに腫瘍 細胞 が 定着 しや
洞 炎 類 似 の 症 状 が 比 較 的 多 く,直 接 浸 潤 の 場 金 は顔 面
す く す る 可 能 性 が あ る と述 べ て い る.ま
神 経 麻 痺 が 多 い 傾 向 が み ら れ た.こ
細血 管 の血 流 速 度 が きわ め て遅 い こ と も,腫 瘍 細 胞 定
移 の 自験 症 例1,2,6ま
の こ とは 血 行 姓 転
た直接 浸 潤 の 自験 症 例3,
4に お い て も 一 致 した 所 見 を 示 して い る. DMLCの
上に 認 め られ,全
着 の 原 因 と し て あ げ られ て い る2}.著 者 ら の 自 験 例 の 症 例1,6は
場 合 は極 め て 特 徴 的 で あ り,難 聴 は90%以 例 が 感 音 難 聴 で あ り,両 側 例 が79%
た静脈 洞 の毛
錐 体 尖 部,症
れ た が,表4で の は,錐
例2は
乳 突 部 に転移 が 見 ら
は その 頻 度 が29%と
予 想 に 反 し て低 い
体 部 へ の 転 移 が直 接 臨 床 症 状 を引 き起 こす こ
と他 の 転 移 経 路 と懸 け 離 れ て 多 い.ま
た 発症 が 突 発 性
とが 少 な く,記 載 が 省 略 さ れ る こ とが 多 い た め と推 測
で あ る こ と も多 く,顔 面 神 経 麻 痺,前
庭 症 状 を随 伴 す
さ れ る.ま
る こ と も少 な くな い.こ 症 例5で
れ ら の 特 徴 の ほ と ん ど は 自験
明 確 に 示 さ れ て い る.
耳 痛,耳
漏 等 の 中 耳 炎,乳
突蜂 巣へ の浸 潤頻 度 が高 い こと
は,錐 体 部 か ら比 較 的 容 易 に 中 耳 腔 内,乳
突蜂 巣 内に
進 展 し う る可 能性 が 想 定 さ れ る.
突洞 炎類 似の症 状 で初発
す る 転 移 症 例 で は,顔 面 神 経 麻 痺,難
た 中 耳,乳
聴 に比 較 し感 染
直 接 浸 潤 例 に お い て は,耳 胞 が 高 頻 度 に 認 め られ,こ
管,顔
面 神 経 管 に腫 瘍 細
れ らが 転 移 経 路 と な っ た も
症 との 鑑 別 が 難 しい こ と も多 く,腫 瘍 に は感 染 を 伴 う
の と考 え ら れ,乳
こ と も珍 し くな い だ け に 早 期 に は見 の が さ れ や す い 傾
腫 瘍 進 展 に比 較 的 抵 抗 の 少 な い 部 位 を 介 し て 浸 潤 が起 こ りや す い こ と を 示 唆 し て い る も の と思 わ れ る(自 験
向 が あ る. 浸 潤 経 路 別 に み た 臨 床 症 状 に は 以 上 の よ う な特 徴 が あ る が,い
突 蜂 巣 へ の 下 面 か ら の 浸 潤 も含 め て
ず れ の転 移 様 武 に お い て も,腫 瘍 浸 潤 の 拡
症 例3,9参
照).
前 述 の2経
路 の 場 合,自
骨 迷 路,正
が あ り,腫 瘍 が 頭 蓋 底 に 浸 潤 し た 場 合 は 広 範 な脳 神 経
の 浸 潤 に 対 し抵 抗 を示 し,浸 潤 初 期 に お い て 内 耳 へ の
麻 痺 を来 す こ と も多 い.(自 験 症 例1,3,4,5参
波 及 を起 こ す こ と は まれ で あ る.ま
照)
し くは そ の ま とめ の 記 載 の
円窓 な どは腫瘍
た 内耳道 への浸潤
耳 道 内 へ は い る場 合 が 多 い(自 験症 例2,3,4). DMLCの
表4
ブ ミ骨 底 板,卵
は 一 旦 頭 蓋 内 方 向 へ 進 展 した 腫 瘍 が 硬 膜 下 を 通 っ て 内
【浸 潤 経 路 と浸 潤 部 位 】 側 頭 骨 病 理 組 織 所見,も
円 窓 膜,ア
験 症 例 で も見 ら れ る よ うに
大 に と もな い これ らの 症 状 が 合併 し て 出 現 す る 可 能 性
側 頭 骨 内 で の 腫 瘍 の 浸 潤 占拠 部 位 主 要3転 移 経 路 別 に み た 転 移 性 悪 性 腫 瘍 の 側 頭 骨 内 で の 腫 瘍 の 進 展 範 囲 の 頻 度. (総報 告 症 例 数49)
場 合 は 後 腹 膜 リ ン パ節 に 転 移 し た 腫 瘍 は
リ ンパ 行 性 に 脊 髄 腔 内 に浸 潤 し髄 膜 内 面 を び まん 性 に 浸 潤 し,内 耳 道 に た ど り着 く もの と思 わ れ る.自 験 症 例5で
明 ら か に認 め られ る よ う に,腫 瘍 が 内 耳 道 内 に
広 く浸 潤 し,内 耳 道 底,cribrose
area,な
どのbarrier
を 乗 り越 え蝸 牛 へ浸 潤 し て い く経 路 が 多 い も の と推 測 さ れ る.ま
た 顔 面 神 経 に お い て も,内 耳 道 内 へ の 浸 潤
に比 較 し て水 平 部 へ の 浸 潤 は11%と 部 がbarrierの
極 め て 少 な く,膝
役割 を 果 た して い る 可 能 性 が 大 き い も
の と思 わ れ る. DMLCの
形 式 で の 蝸 牛 へ の 腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 は,蝸 牛
軸 か ら骨 ラ セ ン板 内,鼓 もの で あ り,habenula め か,腫
室 階 な ど に達 す る 経 路 が 主 な perforataがbarrierと
瘍 の 浸 潤 に よ る ラ セ ン器 の 破 壊 は,自
で は 認 め ら れ ず,こ
な るた 験 症例
れ までの 報告 例 で もきわめ て例外
的 な もの と考 え られ る. *
DMLCび (diffuse
まん 性 転 移 性 髄 膜 癌 腫 症 metastatic
carcinomatosis)
leptomeningeal
【2次 性 側 頭 骨 悪 性 腫 瘍 と今 後 の 臨 床 的 展 望 】 す で に 著 者 ら が 指 摘 した よ う に 側 頭 骨 の 転 移 性 悪 性
日耳 鼻
今 村･他=2次性
腫 瘍 に 関 す る 国 内 外 の 報 告 症 例 は,積
側 頭骨 悪性 腫瘍
極 的 に 広 く文 献
を検 索 し た に も か か わ ら ず,総 計212症 例 とい う限 られ た 数 に と ど ま っ て い た.し
か し,今 後 の 平 均 余 命 の 上
昇 と と も に,悪 性 腫 瘍 と こ れ に伴 う2次 性 悪 性 腫 蕩 の 増 加 が 考 え ら れ る こ と,最 近 の 画 像 診 断 を 中 心 とす る 診 断 学 の 進 歩 に よ り こ れ ま で 見 逃 され 易 か っ た側 頭 骨 転 移 腫 瘍 の 診 断 率 も 向 上 す る こ と な ど か ら,結 は2次
果的 に
性 側 頭 骨 悪 性 腫 瘍 に 遭 遇 す る頻 度 も今 後 増 加 す
る も の と推 測 さ れ,こ
れ ま で は ほ とん ど そ の 対 象 とな
らな か っ た 早 期 診 断 と治 療 が 要 求 さ れ る機 会 が 多 くな る 可 能 性 が 考 え られ る.近 隣 臓 器 か らの 直 接 漫 潤 の 場 合 は原 発 巣 は 頭 頸 部 腫 瘍 で あ る の で診 断 は 比 較 的 容 易 で あ る が,今
回 著 者 ら の 示 し た 自験 症 例1,5,6の
よ う な 蜘 行 性 転 移 やDMLCの
場 合 に は,耳
移
囲 の 診 断 や 原 発 病 巣 の 確 定 を早 期 に 行 う こ と
に よ り,今 後 の 治 療 対 策,少
な くとも延命 的治療 の可
能 姓 は 展 望 で き る よ う に思 わ れ る.今 経 路 別 の 原 発 巣 頻 度,臨
回 示 し た 主 要3
床 症 状 出 現 の 機 序,病
学 的 な 腫 瘍 の 浸 潤 様 式 な ど を知 る こ とが,早
理 組織
期発 見 と
確 定 診 断 な らび に 各 種 の 症 例 に 応 じ た 治 療 計画 策 定 に お い て 今 後 重 要 な 役 割 を演 じ る可 能 性 が 示 唆 さ れ る.
ま
と
過,側
例 を呈 示 し,そ の 臨 床 経
頭 骨 病 理 所 見 に つ き検 索 を 行 い,国
内外 の文献
報 告 例 に つ い て も可 能 な 限 り検 討 を加 え て,悪 の 側 頭 骨 へ の 主 要3浸
性腫瘍
潤 経 路 別 に 原 発 巣 お よ び,腫 瘍
潤 様 式 と臨 床 症 状 発 現 の 機 序 に つ き分 析 を加 え 考浸 察 を 行 っ た.
1)
Naunton ral
RE:
bone
Rhinol 2)
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田
昇,古 屋 義 隆:結
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茂,逸
見 善 彦,渋
床 解 剖 例.脳
濱 口 勝 彦,春
腸 よ り転 移 し た
谷 信 明:Garcin症
と神 経10:115-119,1958,
日善 男,杉山
裕 次 郎:急
速 にGarcin症
群 を呈 し た 鼻 咽 腔 悪 性 腫 瘍 の1例｡臨
候
床 神 経 学8:
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45)
坂田 英 治,谷川 譲:
朴 沢 二 郎,金
Garcin症
喉 子
候 群 を呈 した 上咽 頭腫
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衡 障 害 を 示 し た1症
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井 栄 司,吉
村 美 智 子,加
鼻臨 床
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彰,西 崎 和 則,藤 本 政 明,井
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口郁雄
癌 の 側 頭 骨 転 移 に よ る 顔 面 神 経 麻 ひ.耳 喉 -125 55)
諭:
他:
57:117肺
斉 藤 龍 介,靹
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木 博 文,鈴
木 智 雄,吉
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小 林 一 豊,形 nant
浦 昭 克,斉
lymphomaの
Res
Jpn
下腺腫 18:428
宮 沼 英 雄,五
藤 龍 介,五
十嵐
側 頭 骨 病 理 所 見.Ear
さ らに側頭 骨 標本,論 文作 製 に ご助 力 い た だ い た今 村 ま
真:maligRes
JAn18:
島 桂 子,吉
村 美 智 子,下 Res
川 邦 泰:悪 Jpn
性 リン
01570948)に 通,大 谷
巖,赤 池 徹 哉,安 斉 友 博,鈴 木 聡 明
癌 性 髄 膜 炎 症 例 の 側 頭 骨 病 理 所 見Ear
Res
Jpn
(1990年12月7日 別 刷 請求 先 〒409-38山
宮田 英 雄,高 木 恭 也,吉 村 美 智 子:上 の 側 頭 骨 病 理 所 見.Ear
よ る もの で あ る.
他: 20:
287-289,1989. 61)
91回 日本 耳 鼻咽 喉 科学 会 総 会 にて口 演 した. 本研 究 の 一 部 は昭 和64年 度 文部 省 科学 研 究 費(課 題 番号
19:228-229,
1988. 相川
ゆ み助 手,渡 辺 光 子医 局 秘書 に感謝 致 し ます. 本 論文 の 要 旨の 一 部 は第36回,37回 日本基 礎 耳 科学 会,第
パ 腫 の 側 頭 骨 病 理 所 見.Ear
60)
巖 教 授,並 び に教 室 員 各位 に
深甚 な る謝 意 を捧 げ ます.
425-426,1987. 59)
稿 を終 わ る に臨 み,側 頭 骨 病理 標 本 作 製 法 に つ きご指 導 賜 っ た,編 島 県 立医 大,大 谷
Res
Jpn
顎 癌 頭 蓋内 浸 潤 例 20:293-294,1989.
受稿
1991年2月21日
受 理)
梨 県 中 巨摩郡 玉 穂 町 下河 東1110
山 梨医 科 大 掌耳 鼻咽 喉 科 学教 案
今村 俊 一
1991
2次 性側頭骨悪性腫瘍 とその側頭骨病理 山梨医科 大学 耳鼻 咽喉 科学教 室(主 任:村 上嘉彦 教 授) 今 SECONDARY
SHUN-ICHI
Metastatic The actual
involvement
performed metastatic
嘉
彦
OF THE TEMPORAL
AND REVIEW
Yamanashi
bone tumors,
The reason
MURAKAMI,
Medical
bone by malignant
temporal
in the literature.
BONE
OF THE WORLD LITERATURE
M.D. and YOSHIHIKO
of the temporal
of metastatic
by reports
上
TUMORS
STUDY
IMAMURA,
一,村
Otorhinolaryngology,
incidence
suggested
俊
MALIGNANT
A HISTOPATHOLOGIC
Department
村
M.D.
College, Yamanashi tumors
however,
is considered
is probably
to be rare.
much higher than
for this is that histologic
studies
are rarely
on temporal bones in routine postmortem examinations of patients with possible disease. Also, in patients with multiple metastatic lesions, otologic complaints and
signs may often be overshadowed Twelve temporal
temporal
by other more disabling
bones were histopathologically
bone disease from various
cases were:
3 cases
primaries
of hematogenous
cinoma,
a bronchogenic
2 cases
of direct
squamous
invasion
cell carcinoma,
head and neck tumors
transitional
cell carcinoma
of the renal pelvis).
carcinoma
or renal
that there were 212 reported in order of frequency and literature extension
to the
reports
were breast, lung, pharynx,
bone:
1) hematogenous
from adjacent
kidney,
dissemination
temporal
and prostate.
either hepatic cell
bone tumors
bone symptoms
carcinomatosis appeared
(DMLC).
late in the course
particularly metastatic
conspicuous in the cases of DMLC. In the cases of hematogenous dissemination, the lesion tends to be overlooked or undiagnosed because occult metastases are relatively
or, when symptomatic, form of mastoiditis.
recognition
of temporal
the otologic
symptoms
In the cases
bone involvement
often resemble
of direct
is usually
an initial
from the primaries 2) direct neoplastic
but in some
a severe
were
bone study
of disease,
common
symptoms
primary,
and found
sites of origin
Our temporal
leptomeningeal
(a
has not been reported
routes of tumor spread from a distant
that in most cases temporal
cases the otologic
bone
of the
carcinomatosis
and that the most common
areas, and 3) diffuse metastatic
Our study also indicates
temporal
cell carprimary);
cell carcinomas
leptomeningeal
of metastatic
cases cited in the literature
survey reveal that there are three distinct
to the temporal
of unknown
(squamous
series of 6
(a hepatic
Among these, to our knowledge
metastatic
previously in the world literature. We reviewed the previously published
who had metastatic
in our present
primary
and an adenocarcinoma
and one case of diffuse metastatic carcinoma
obtained
from a distant
eyelid and hypopharynx); pelvis
from 6 patients
and the results
dissemination
from adjacent
symptoms.
examined
neoplastic simple
sign of tumor,
the features invasion,
which
charaterized
on the other
since the primary
was
disease
by hand,
is quite
evident. Although
metastatic
temporal
bone malignancies
are rare, otologist
should always
be aware
of
日耳 鼻
今 村･他=2次
existence ments
of this disease in recent
entity
diagnostic
in clinical
imaging
性 側 頭 骨 悪性 腫 瘍
practice.
technology,
It is expected earlier
94-925
that,
diagnosis
with
of these
advances difficult
and improvelesions
will
be
possible.
Keywords:
側 頭 骨 病 理 組 織 学,2次
性 悪 性 腫 瘍,浸
は じ め に
潤様 式
A94-0924-20311
考 慮 し,自 験 症 例 の 検 索 と これ ま で の 文 献 報 告 例 の 検
近 年 の 耳 科 学 的 研 究 の 進 歩 は め ざ ま し く,数 多 くの 新 知 見 や 成 果 が 報 告 さ れ て い る が,そ
討 を 行 い,腫 瘍 の 側 頭 骨 へ の 進 展 様 式 や 経 路,原
発腫
の一 方で聴 器疾
瘍 の 病 理 学 と臨 床 症 状 や 経 過 と の 関 連 性 そ の他 に つ い
患 の 中 に は そ の 原 因 や 病 態 す ら不 明 の もの が か な り残
て 系 統 的 に解 析 し考 察 を試 み た の で そ の 結 果 を 報 告 す
され て い る.そ
る.
て,ヒ
の 解明 の た めの基 本的 な研 究手 段 とし
ト側 頭 骨 の 病 理 組 織 学 的 研 究 の 重 要 性 が 以 前 か
らつ と に 指 摘 さ れ て は い る が,聴
研 究 林 料 な らび に方 法
器病 変 を有 す る患者
の 側 頭 骨 を死 後 入 手 す る こ との 困 難 さや,標
本作 製 に
各 症 例 の 剖 検 時,開
頭,脳
摘 出 後,ス
トラ イ カ ー 社
時 間 と熟 練 を要 す る こ と な どの 理 由 か ら,国 内 外 を問
製 円 形 ド リル(直 径1.5イ ン チ)を 用 い 両 側 側 頭 骨 を採
わず この種 の研 究 施 設 の 数 は眼 られ て い る だ け で な
取 し た.採
く,最 近 む し ろ 減 少 傾 向 に あ り憂 慮 さ れ て い る の が 現
液 に て 固 定,ト リ ク ロ ル 酢 酸 に て 脱 灰 し た後,ア ル コ ー ル 上 昇 系 列 に て説 水 し,セ ロ イ ジ ン に包 埋 し た.セ
状 で あ る1). 著 者 ら は か ね て か ら こ の 古 典 的 な が ら も基 本 的 な 聴 器病 変 の 病 理 形 態 学 的研 究 に着 手 し継 続 しつ つ あ る が,今
回 は こ れ まで に 研 究 発 表 の 少 な い2次
性 側頭 骨
取 し た 側 頭 骨 は 直 ち にHeidenhain-SuSa
ロ イ ジ ン ブ ロ ッ ク を25μ に 薄 切 し10枚 お き にH-E染 色 を施 行 し光 学 顕 微 鏡 に て 観 察 した. 自験 症 例 の 病 歴 な らび に 側 頭 骨 病 理 所 見
悪 性 腫 瘍 に つ い て 生 前 の 詳 細 な 臨 床 病 歴 を 有 す る6症
【 症 例1】65歳
例12側 頭 骨 を 入 手 し そ の 臨 床 病 理 学 的 検 索 を 実 施 す る
主 訴:左
機 会 が え ら れ た の で,こ
既 往 歴･家
る と と も に,国
れ らの 検 索 結 果 に つ き記 述 す
内 外 の2次
性 側頭 骨 悪性 腫瘍 の文献 報
女性
顔面 神 経 麻 痺,耳 族 歴:特
臨 床 経 過:1986年8月
痛
記事 項 な し 初 旬,左
顔 面神経 麻痺 に気づ
告 を 広 く集 計 し 解 析 を加 え た. 2次 姓 側 頭 骨 悪 姓 腫 瘍 に 関 す る これ まで の 報 告 の 大 多数 は,後
述 の よ う に単 発 的 な 症 例 報 告 で あ っ て,臨
床 経 過 と側 頭 骨 病 理 所 見 の 双 方 が 記 載 され,そ
の関 連
性 や 臨 床 病 理 学 的 意 義 な ど に つ い て 組 織 的,系
統的 な
論議 を加 えた 報 告 は現 時 点 で は ほ とん ど見 あ た ら な い. また 劉 頭 骨 へ の 悪 性 腫 瘍 の2次
的 浸 潤 は,原
発巣 や
そ の 他 の 転 移 巣 に よ る重 篤 な 症 状 に 隠 蔽 され,耳 症 状 が 現 れ に くい た め,き 存 在 す る の み で あ る.し
科的
わ め て 限 ら れ た数 の 報 告 が
か し近 年 潜 在 的 な転 移 は,従
来 の 報 告 数 が 示 唆 す る ほ ど ま れ で は な い こ と が よ く知 られ て き て お り,さ
ら に は,診
断 学,中
で も画像 診 断
法 の 格 段 の 進 歩,悪
性 腫 瘍 患 者 に お け る原 発 巣 制 御 成
績 の 向 上 や 平 均 余 命 の 延 長 な どの 理 由 か ら臨 床 的 に も こ れ ら の 転 移 腫 瘍 が 発 見 され る機 会 が 増 加 し つ つ あ る も の と推 測 さ れ る. そ こ で 著 者 らは,今
後 の 臨 床 診 断,治
療 への 対応 も
図1(症
例1) 1986年11月14日,死 検 査 成 績,左
亡2ヵ
月前 の純音 聴 力
側 混 合 性 難 聴 を認 め る.
94-926
図2(症
1991
今 村 ・他＝2次 性側頭 骨悪 性腫 瘍
例1) 左 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見 10×2
図3(症
腫 瘍 細 胞 は 中 耳 腔 内 に 充 満 し,顔 面 神 経 管, 外 耳 道 を破 壊 して い る.鼓 膜 は 腫 瘍 に よ り 中 耳 腔 内 に 圧 排 され て い る(矢 印). M-ツ チ 骨 Ⅶ-顔 面 神 経 EAM-外 耳 道 T-腫
例2) 頭 郎CTに て,腫 瘍 は広 範 な 骨 破 壊 を伴 い 左 側 頭 骨 に 浸 潤 し て い る(矢 印). T-腫 瘍
板 は残存 し,卵 円窓,正 円窓 を越 えて膜迷 路 内へ の腫
瘍
瘍 細胞 の浸 潤 は認 めな か った.蝸 牛基 底 回転 の ラセ ン き,8月
下 旬 に は 左 頸 部 腫 瘤 が 出 現 し,10月
耳 痛,難
聴,右
に 入 り左
眼 瞼 下 垂 を 自覚 す る に 至 っ た た め,10
月28日 当 科 外 来 を受 診 し 緊 急 入 院 とな っ た.初
診 時,
神 経節 細胞 の減 少 を認 めた が内耳 道 内及 び蝸 牛軸 には 腫 瘍細 胞 の浸潤 はな く,膜 迷 路 の感覚 上 皮 は死後 変化 はあ る もの のほ ぼそ の残存 が確認 で きた.
左 耳 内 に は 腫 瘤 が 充 満 し,左 頸 部 に直 径 約3cmの
弾性
硬,可
球運
顔 面神 経管 の鼓 室側 は膝 部 か ら垂直 部上 部 まで完全 に消失 し,顔 面神 経 は局所 的 に腫瘍 細 胞,炎 症 細胞 の
動 障 害 な らび に,純 音 聴 力 検 査 で は 左 混 合 性 難 聴 を 示
浸潤 の ため,著 しい変 性 を来 し部分 的 に消 失 して いた.
動 性 の 少 な い腫 瘤 を 認 め,右
した(図1).側
頭 骨 単 純X線
眼 瞼 下 垂,眼
写 真 で左 鼓 室 と乳 突 洞 に
乳 突蜂 巣,錐 体 蜂巣 に も腫瘍 の 浸潤 を認 めた.
び ま ん 性 の 陰 影 が あ り,頭 部CTで
左 側頭 骨 に骨破 壊
右 側頭 骨病 理所 見:錐 体 尖 部蜂 巣 に左側 と同様 の腫
を と もな う 占拠 性 病 変 の 存 在 と,骨
シ ンチ グ ラ フ ィ に
瘍細 胞 の浸潤 を認 めた.鼓 室,乳 突蜂 巣 に炎 症細胞 の
て 左 側 頭 骨,左
腸 骨,左
肘 関 節 等 に 集 積 を 認 め た.血
液 検 査 で肝 機 能 異 常 が 認 め ら れ,肝 エ コ ー,CT等 臓 に腫 瘍 の 存 在 が 確 認 さ れ,左
耳 内 腫 瘤,頸
で肝
部腫瘤 の
生 検 に よ り肝 細 胞 癌 の 側 頭 骨 転 移 と の 診 断 が 得 られ
浸潤 を認 め るものの腫 瘍細 胞 の浸 潤 は なか った. なお肝 細胞 癌 の側頭 骨転 移 症例 の報 告 は,こ れ まで 国 内外 の文献 検 索 に よって見 い だす こ とが で きず,最 初 の報 告例 と考 えられ る. 【症例2】 68歳 男性
た. 腫 瘍 の頭 蓋 底 浸 潤 は そ の 後 も進 行 し1987年1月25日
主訴:左 耳後 部腫瘤,耳 痛 既往 歴:1987年10月,肺
に死 亡 した. 死 亡 約16時 間 後 に 両 側 の 側 頭 骨 を採 取 し た. 左 側 頭 骨 病 理 所 見:腫 瘍 は 鼓 室 内 に 充 満 し,耳 管 周 囲,内 頸 動 脈 周 囲 及 び 岬 角 の一 部 に 骨 破 壊 像 を認 め た.
腫瘍(扁 平 上 皮癌)の ため
左 肺全 摘 出術 家族 歴:特 記事 項 な し 臨床経 過:1988年1月
中旬 よ り左耳 介後 部 に小 指頭
外 耳 道 上 皮 は腫 瘍 に よ り前 方 に圧 排 さ れ 鼓 膜 は 中 耳 腔
大 の腫瘤 が 出現 した.腫 瘤 は徐 々 に増 大 し耳 痛,側 頭
内 に 押 しや られ て い た(図2).前
庭 外 リ ンパ 腔 に 少 量
部 痛 を伴 う ようにな った た め4月11日 当院 脳 神経 外 科
迷 路 の 破 壊 は な く,ア ブ ミ骨 底
を受 診 し翌 日入院 とな り,耳 科 的 精査 の た め同 月14日
の 出 血 を 認 め た が,骨
日耳 鼻
今村 ・他＝2次 性 側頭 骨悪 性腫 瘍
図5(症
94-927
例2) 左 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見 10×2 腫 瘍 は 中 耳 腔 内 に 充 満 し,顔 面 神 経 管 は完 全 に破 壊 さ れ,新
生 骨 の 形 成 を認 め る.
Ⅶ- 顔 面 神 経 M-ツ N-新 生 骨 T-腫 瘍 図4(症
顔 面 神 経 管 は 膝 部 か ら水 平 部 ま で鼓 室 側 は完 全 に 消
頭 蓋 底 へ 浸 潤 し た腫 瘍 は 硬 膜 下 を這 い 内 耳 道 付 近 ま で 浸 潤 して い る. S一 球 形 嚢U一 卵 形 嚢IAM一 内 耳道
失 し て お り,一 部 で 新 生 骨 の形 成 を 認 め た(図5). 骨 迷 路 内,膜
迷 路 内 に は 腫 瘍 細 胞 は 認 め な か っ た.
右 側 頭 骨 病 理 所 見:中
T一 腫 瘍
見 を 認 め た が,腫 当 科 を受 診 した.初
診 時,左
耳 介 後 部 か ら側 頭 部 に か
け65mm×55mmの
硬 い 可 動 性 の な い 腫 瘤 を認 め た.
当 時 顔 面 神 経 麻 痺 は 認 め ず,難
め,錐
体 後 部 及 び 乳 突 部 に 骨 破 壊 像 を 認 め た(図3).
当 院 脳 神 経 外 科 に て4月25日,腫
日 よ り電 子 線30Gy,6月18日
既 往 歴:20歳
よ り コ バ ル ト16Gyを
中 旬 よ り難 聴 を訴 え,左
時 に胆石 の手術
家 族 歴:特
記事項 な し
し出 現 した た め,当
よ り右 下 眼 瞼 に腫 瘤 が繰 り返
院 眼 科 に て 試 験 切 除 を 施 行 し,扁
平 上 皮 癌 と診 断 さ れ,腫 瘍 摘 出術,電 施
側 テ ィンパ ノグ
さ れ て い る.1987年
子 線 照 射 を施 行
に入 り右 鼻 閉 感 が 出現 し近 医 に て
右 鼻 腔 内 腫 瘤 を 指 摘 され 当 科 を紹 介 され 生 検 に て 扁 平
た同時 期
上 皮 癌 と診 断 され た.右 上 顎 洞 に 浸 潤 し た 腫 瘍 に 対 し,
過 中進 行 を認 めな
三 者 併 用 療 法 を 施 行 し,右 側 の 腫 瘍 は 縮 小 効 果 を得 た
イ プ,中 等 度 伝 音 難 聴 を認 め た.ま
よ り 口 角 の 不 対 称 が 出 現 した が,経
突 蜂 巣 に軽 度 の 炎 症 所
24歳 時 に 右 尿 管 結 石 の 手 術
臨 床 経 過:1986年7月
瘍 亜全 摘 が施行 さ
れ病 理 組 織 検 索 に て 扁 平 上 皮 癌 と診 断 され た.5月15
行 し た.5月
耳,乳
瘍 細 胞 の 浸 潤 は 認 め な か っ た.
【症 例3】 57歳 女 性
聴 も訴 え て い な い.頭
て左 側 頭 骨 鱗部 を 中 心 と した 腫瘍 病 巣 を認
ラ ムBタ
ヌ タ骨
例2) 左 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見10×1
部CTに
チ 骨 Ⅰ-キ
か っ た.頭
蓋 内 浸 潤 の 進 行 に と もな い 全 身 状 態 が 悪 化
し10月4日
死 亡 し た.剖 検 時 に 左 肺 門 部 に 腫 瘍 の 再 発,
及 び 多 発 性 の リ ンパ 節 転 移 を認 め た.こ
れ らは 組 織 学
が,腫
瘍 は 硬 口 蓋 よ り左 上 顎 洞 に 進 展 す る に至 っ た.
翌1988年3月
頃 よ り左 耳 痛 を訴 え る よ う に な り,さ
ら に5月 頃 よ り左 顔 面 神 経 麻 痺 が 出現 し,6月
的 に 側 頭 骨 腫 瘍 とほ ぼ 同 一 で あ り,発 症 状 況 と併 せ て
全 麻 痺 と な っ た.同 年8月
転 移 性 側 頭 骨 腫 瘍 と診 断 さ れ た.
出 現 を 認 め,こ
に は完
に は左 外 耳 道 下 壁 に腫 瘤 の
の 頃 よ り左 耳 の 難 聴 を 自覚 す る よ うに
死 亡 約11時 間 後 に 両 側 の 側 頭 骨 を採 取 し た.
な り,聴 力 検 査 に て も聴 力 の 悪 化 が 確 認 さ れ た.10月
左 側 頭 骨 病 理 所 見:腫
に は 眼 球 運 動 障 害,視
管 周 囲,内
瘍 は 乳 突 洞,鼓
室 に充 満 し耳
頸 動 脈 周 囲 及 び 岬 角 の 一 部 に骨 を破 壊 し浸
潤 して い た.一
部 で 頭 蓋 底 に浸 潤 し た 腫 瘍 は,硬
を這 い 内 耳 道 付 近 へ 浸 潤 して い た(図4).内 神 経 線 維 束 の 変 性,減
少 も認 め ら れ た が,内
は 腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 は 認 め な か っ た.
膜下
耳 道 内の 耳道 内に
左 眼 窩,側
力 低 下 も 出 現 し,頭 部CTに
て
頭 下 窩 に 腫 瘍 の 浸 潤 を 認 め 中 頭 蓋 窩 を 中心
とす る 広 範 な 骨 破 壊 像 を認 め た.1989年 膜炎 を お こ し,3月2日
に 入 り癌 性 胸
死 亡 し た.
死 亡 約10時 間 後 に 両 側 の 側 頭 骨 を採 取 した. 左 側 頭 骨 病 理 所 見:腫
瘍 は 鼓 室 天 蓋 を破 り側 頭 骨 中
94-928
図6(症
1991
今村 ・他＝2次 性側 頭 骨悪性 腫瘍
例3) 左 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見 10×1 腫 瘍 は 中 耳 腔 内,内
図8(症
耳道 内 に充満 して いる
が,内 耳 に は腫 瘍 の 浸 潤 を認 め な い. S-球 形 嚢 U-卵 形 嚢 fp-ア ブ ミ骨 底 板 T-腫
例4) 右側 頭 骨病 理組織 所 見 10×1 腫瘍 は中耳構 築 を広 範 に破壊 し浸潤 してい る.内耳 道 内 に も腫瘍細 胞 の 浸潤 を認 め る. Ⅶ-顔 面神経 T-腫 瘍
瘍 認 め,蝸 牛,前 庭 の 感 覚 細 胞 に は 高 度 の 変 性 を認 め た. 内 リ ンパ 嚢 周 囲 の 蜂 巣 に 転 移 巣 が 存 在 し一 部 内 リ ンパ 嚢 の 結 合 組 織 に 浸 潤 を認 め た が,内
腔 に は 出 血 を認 め
る もの の 腫 瘍 細 胞 は み られ な か っ た. 腫 瘍 は,顔
面 神 経 窩 を 破 壊 し顔 面 神 経 膝 部 を取 り巻
くよ う に存 在 した.顔 壊 さ れ,顔
面 神 経 管 は 水 平 部 で は,ほ
ぼ破
面 神 経 に は腫 瘍 の 浸 潤 と 高 度 の 変 性 を 認 め
た. 乳 突蜂 巣 に は 出 血 と炎 症 性 変 化 が 著 明 で あ り,錐 体 部 蜂 巣 に は 腫 瘍 細 胞 浸 潤 が 認 め られ た. 右 側 頭 骨 病 理 所 見:上 観 察 不 能 で あ っ た.乳 図7(症
例3)
潤 が 見 ら れ た が,腫
左 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見 10×2 腫 瘍 細 胞 は 輪 状 靱 帯 を前 庭 外 リ ン パ 腔 に圧 排 す る よ う に 進 展 して い る(矢 印). V-前 庭 外 リ ンパ 腔 C-蝸 牛 T-腫
瘍
頭 蓋 窩 面 に広 範 に 浸 潤 し て お り,内 耳 道
71歳
既 往 歴:高
血圧
家 族 歴:特
記 事項 な し
男性
右 頸 部 腫 瘤 に気 づ い て 当 科 受
診 し,諸 検 査 を 施 行 した 結 果,下
咽 頭 腫 瘍 の 頸 部 リン
内 に も腫 瘍 細 胞 が 充 満 し,神 経 線 維 束 は 変 性 し ほ ぼ 消
パ 節 転 移 と診 断 さ れ た.1986年10月22日
失 して い た(図6).腫 瘍 の 浸 潤 の た め 内 耳 道 は 拡 大 し, 一 部 で 硬 膜 を 破 壊 し骨 へ 浸 潤 す る像 が 認 め られ た .し
療(62Gy),1987年2月6日
か しcribrose
areaを
越 え て の 浸 潤 は な く,Rosenthal
管 内 に 微 小 出 血 は あ っ た もの の,そ に は 異 常 を認 め な か った.中 は,アブ
耳 腔 に充 満 した腫瘍 細胞
ミ骨 底 板 を 一 部 破 壊 し,輪 状 靱 帯 を前 庭 外 リ
ンパ 腔 内 へ 圧 排 して い た(図7).骨
性,な
ら び に膜 迷 ォ
に 入 り右 顎 下 部 痛,6月
下 旬 に な り右 顎
に わ た る化 学 療 法 を施
行 し た が 効 果 な く腫 瘤 は 増 大 壊 死 し耳 下 部 か ら頸 部 に か け て の 大 き な 組 織 欠 損 が 生 じ た.11月 神 経 麻 痺,12月
に 入 り右 顔 面
右 外 転 神 経 麻 痺 が 出 現 し た.1988年1
月 に な り大 量 の 右 耳 漏 が 出 現 した が,治 続 す る よ う に な った.2月
り,卵 形 嚢,球
た し2月13日
牛 管 に 軽 度 の 内 リ ンパ 水 腫 を
に喉 頭 全 摘,両 側 頸 部 郭 清
下 部 に 腫 瘤 の 出 現 を 認 め,3回
ジ ン に 淡 く染 色 さ れ る 滲 出 液 が 骨 迷 路 内 に 充 満 し て お 形 嚢,蝸
よ り放 射 線 治
頭 部 分 切 除 術 が 施 行 され た.
1987年5月
のほ か の 蝸 牛 所 見
路 内 に は 腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 は 認 め られ な か った が,エ
術,咽
損し
室 内 に炎症 細胞 の浸
瘍 細 胞 は 認 め られ な か っ た.
【症 例4】
臨 床 経 過:1986年9月 頭 蓋 窩 面,後
鼓 室 は標 本 採 取 の 際,破
突 洞 内,鼓
死 亡 し た.
療 に抵 抗 し持
に入 り全 身 状 態 の 悪 化 を き
日耳鼻
今 村･他=2次
性 側 頭 骨 悪性 腫 瘍
94-929
死 亡 約16時 間 後 に 両 側 の 側 頭 骨 を採 取 し た.
ま い が 出 現 し,ク
右 側 頭 骨 病 理 所 見:腫
科 に 入 院 した が,諸
検 査 に異 常 な く7月17日
管 周 辺 及 び 内 頸 動 脈 周 囲 の 骨 を破 壊 し 浸潤 し て い た
た.こ
側 の 難 聴 を 自 覚 す る よ う に な り,
(図8).鼓
7月21日
た.ま
瘍 は 中耳腔 に 充 満 し岬 角,耳
膜 は ほ ぼ 消 失 し腫 瘍 は 外 耳 道 に も及 ん で い
た 乳 突 蜂 巣,錐
体 尖 部 蜂 巣 に も腫 瘍 細 胞 を認 め
た.
の 頃 より,覇
に 当 科 外 来 を受 診 した.初
膜 所 見 等,耳
を認 め な か っ た.そ
の後,聴
鼻 咽 喉 科 学 的 に 異 常 所見
て 会 話 不 能 の 状 態 と な り,8月14日
呈 し所 々 で 腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 を認 め た.
全 聾 の 状 態 と な っ た(図9)た
骨 迷路 の破壊 は認 め られず
ア ブ ミ骨 底 板,正
膜 を越 え て の 浸 潤 も認 め られ な か った.内 量 の 腫 瘍 細 胞 の 存 在 を 認 め た が,蝸 内 に腫 瘍 細 胞 は 認 め な か っ た.蝸
円窓
耳道 内 に少
牛 や前庭 の膜迷 路
牛の 血管 条 の中程 度
の 萎 縮 と,ラ セ ン器 の 死 後 の 変性 所 見 を 認 め た が,細 構 築 の 確 認 は可 能 で あ っ た.球 性 の 滲 出 液 を 認 め,卵
形 嚢内 にエ オ胞 ジ ン好
形 嚢 内 に は 出血 を 認 め た が,内
体 尖部蜂 巣 の一 部 及 び内頸動
脈 周 囲 に 右 側 と 同 様 の 腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 を 認 め た.そ
の
主 訴:両
家 族 歴:特
男性
月 に な り左 側 顔 面 神 経 麻 痺,複 害 等 の 多 発 性 脳 神 経麻痺,四 等 が 出 現 した.髄
耳 道断 屡撮影
に 異 常 所 髭 は 認 め な か っ た.9 視,嚥
肢 麻 痺,深
膜 炎 等 を 疑 い,腰
と こ ろ,髄 液 圧 の 上 昇,髄
下 困 難,構
音障
部反射 の低 下
椎 穿 刺 を施 行 した
液 の 白 色 混 濁 を認 め,細
胞
IVの
異 型 性 の 強 い 大 型細 胞 が 多 数 存 在 し た.Gaシ
チ に て 肺,腎
臓 に 集 積 を 認 め た.9月
ン
中旬 に な り右 側
頭 反 射 消 失 な ど が 加 わ り頭痛,項
部
の 経 過 か ら腎
臓 も し くは肺 を原 発 とす る び ま ん 性 転 移 性 髄 膜 癌 腫 症
形 性 膝 関 節 症,心 筋 梗 塞,高 血 圧,糖 尿 病
(diffuse metastatic 以 下DMLCと
記 事項 な し
臨 床 経 過:1986年4A30日
ロ リ ッ ク テ ス トと
強 直 等 の 髄 膜 刺 激 症 状 も出 現 した.以上
側性 難聴
既 往 歴:変
検 査 上,特
顔 面 神 経 麻 痺,咽
他 に は腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 は 認 め な か った. 【 症 例5】71歳
め精査 加療 目的 にて 入
に はABR,カ
数,蛋 白 の 増 加,糖 の減 少 を認 め,細 胞 診 の 結果class
リ ンパ 嚢 に は 腫 瘍細 胞 を 認 め な か っ た. 左 側 頭 骨 病 理 所 見:錐
の聴 力 検 査 で は完
も に全 く無 反 応 の 状 態 で あ っ た.CT,内 を含 めX線
音聴 力検
認 め た以外 に
力 レ ベ ル の 悪 化 は進 行 し
面 神 経 は 腫 瘍 に 取 り巻 か れ る状 態 で 高 度 の 変 性 所 見 を
院 とな っ た.8月28日
に退 院 し
診 時,純
査 で 両 側 高 音 漸 傾 型 感 音 難 聴(図9)を 脳 神 経 症 状,鼓
顔 面 神 経 管 は膝 部 か ら垂 直 部 ま で 広 範 に 欠 損 し,顔
モ 膜 下 出血 の 疑 い に て 本 院 脳 神 経 外
に 突 然,頭
痛,悪
心,め
leptomeningeal
略 す)と
carcinomatosis
の 診 断 の も と に 脳室 ド レ ナ ー
ジ,脊 髄 控 内 へ の 抗 癌 剤 投 与 を施 行 した が,10月 い り急 激 に 全 身状 態 が 悪 化 し10月8日 巣 に つ い て は,種
々の 検 査 を施 行 した が,生
定 診 断 に は 至 らず,剖 のDMLCと 死 亡 約3時
には
死 亡 し た.原 発 前 に は確
検 に よ り腎 孟 原 発 の 移 行 上 皮 癌
判 明 し た. 間 後 に両 側 の 側 頭 骨 を 採 取 した.
側 頭 骨 病 理 所 見:両
側 ほ ぼ同 様 な所 見 を呈 して お
り,内 耳道 に は 腫 瘍細 胞 が 充 満 し て お り(図10),内耳 道 内 の 硬 腰 は 所 々 で 腫 瘍 細 胞 の 圧 迫 に よ り菲 薄 化 し一 部 消 失 して い た が,内
耳 道 壁 へ の 明 ら か な腫 瘍 細 胞 の
浸 潤 は 認 め な か っ た. 内 耳 道 内の両 側 蝸 牛 前 庭 神 経 束 は ほ ぼ100%腫 置 換 さ れ て い た.腫
瘍 細 胞 は,蝸
瘍 に
牛 軸 か らRosenthal
管 内 に浸 潤 し中 回 転 に まで 及 ん で い た.ラ
セ ン神 経 節
細 胞 は基 底 回 転 で は ほ とん ど完 全 に消 失 して お り,中 回 転 で も著 明 な 減 少 が 見 られ た.基 底 回 転 で は 腫 瘍 細 図9
(症例5) 初 診 時(7月21田)と 死 亡 約2ヵ 月14日)の 純 音 聴 力 検 査 成績,初
胞 は 骨 ラ セ ン板 内 に も浸 潤 し て お り,さ 月 剛(8 診 時,両
側 高 音 漸 傾 型 感 音 難 聴 を み とめ,急 行 し,聾
の 状 態 と な っ て い る.
速 に進
部 に 侵 入 した 腫 瘍 細 胞 群(図1)を
ら に鼓 室 階 内
認 め た.
ラ セ ン器 に は 死 後 変 化 が 認め ら れ た もの の,腫
瘍細
胞 の 浸 潤 は な く感 覚細 飽 の 残 存 は ほ ぼ 確 認 で き た.正
94-930
図10(症
1991
今村 ・他＝2次 性側 頭骨 悪 性腫 瘍
例5) 左 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見 10×1 腫 瘍 細 胞 は 内 耳 道 内 へ 浸 潤 し蝸 牛 軸 か ら鼓 室 階 へ と浸 潤 し て お り,蝸 牛 管,球 形 嚢 に 内 リン パ 水 腫 を 認 め る.中 耳 腔 内 に は腫 瘍 図ll(症
細 胞 を 認 め な い. Ⅶ- 顔 面 神 経 S-球 T-腫 瘍
円 窓 膜 は 肥 厚 し て い た が,同
形 嚢 U-卵
例6) 初 診 時(9月25日)の 純 音 聴 力 検 査 成 績, 右 混 合 性 難 聴 を 認 め る.
形嚢
部 を越 え 中 耳 腔 内 へ の 腫
瘍 細 胞 の 浸 潤 は な か った. 前 庭 系 で は,両
側 と も上 前 庭 神 経 に著 し い 腫 瘍 浸 潤
を認 め,前 庭 神 経 節 細 胞 は,ほ ぼ 完 全 に 消 失 して い た. 後 半 規 管 神 経 に も腫 瘍 は 浸 潤 し て お り,中 枢 側 は腫 瘍 に 置 換 さ れ て お り末 梢 側 で は 神 経 線 維 の 消 失 を 認 め た.前
庭 膜 迷 路 内 に は 腫 瘍 浸 潤 を認 め ず,感
覚細胞 に
は 変 性 を認 め た が 消 失 は し て い な か っ た. 左 側 に お い て は,蝸
牛 管,球
水 腫 を認 め た(図10).左
形 嚢 に軽 度 の 内 リ ン パ
右 と も 内 リン パ 管,及
び内 リ
ン パ 嚢 へ は腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 は な く,正 常 所 見 を呈 し た. 顔 面 神 経 も 内 耳 道 内 で は,膝 残 し,ほ ぼ100%腫 垂 直 部 に は,腫
神経 節細 胞 をわ ずか に
瘍 に 置 換 さ れ て い た.水 平 部,及
瘍 細 胞 を 認 め な か っ た が,運
維 の 高 度 の 変 性 が 認 め られ た.中
び
動 神経線
間神経 系 の感覚 神経
線 維 束 と見 な さ れ る 部 分 の み は,良
図12(症
例6) 右 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見 10×1 錐 体 部 に 広 範 な腫 瘍 の 浸 潤,骨 破 壊 を認 め る.左 上 腫 瘍 組 織 の 拡 大 像 10×20 Ⅶ-顔 面 神 経 sca-上 半 規 管 膨 大 部 IAM-内 耳 道 T-腫 瘍
好 な染 色性 を保 っ 臨 床 経 過:1979年9月
て い た. 一部 ,錐 体 部 の 蜂 巣 へ の 腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 を 認 め た が,
が 出 現 し,ま
鼓 室 部,乳
で 同 側 の 耳 鳴,難
突 部 へ の 浸 潤 は 認 め な か っ た.
中 旬,右
耳 後 部 痛,眼
周囲痛
も な く右 顔 面 神 経 麻 痺 が 出 現 し た.つ
い
聴 も 自覚 す る よ う に な り,翌 朝,回
転 性 眩 量 を 自覚 して い る.9月25日
の 初 診 時 に は,右
的 症 状 が 先 行 して 生 じ た 転 移 性 側 頭 骨 悪 性 腫 瘍 は これ
末 梢 性 顔 面 神 経 麻 痺(完 全 麻 痺),純
音 聴 力検 査 にて右
ま で に 報 告 さ れ て お ら ず,国
混 合 性 難 聴(図11)を
ま い 感 は な く,自
な お 腎盂 の 移 行 上 皮 癌 か らDMLCの
形 式 で耳 科 学
内 外 で も唯 一 の 報 告 と見
発 眼 振 等 は認 め な か っ た.ま
な され る.
害 は 認 め な か っ た.右
【症 例6】 82歳 女 性 主 訴:右
認 め た が,め
顔 面 神 経 麻 痺,難
既 往 歴 ・家 族 歴:特
聴,耳
記 事項 な し
鳴,耳
痛
して お り,側 頭 骨 単 純X線 を 認 め,CTに
た 眼 球 運 動 障 害,視
力障
外 耳道 は 易出血 性 の肉 芽 で充 満 写 真 に て右乳 突蜂 巣 に陰 影
て 右 側 頭 骨 錐 体 部 か ら鼓 室 部,乳 突 部 に
日耳鼻
今村 ・他＝2次 性 側頭 骨悪 性腫 瘍
94-931
部 分 が 腫 瘍 に 置 換 され て お り(図12)腫
瘍 は後 方の乳
突 部 に も蜂 巣 を経 由 し,中 耳 内 に も浸 潤 し,顔 面 神 経 管,耳
小 骨 等 を広 範 に破 壊 して い た.ま
に 内 耳 道 まで 浸 潤 し て い た が(図12),内 前 庭 神 経,顔
た一 部硬膜 下 耳道 内の蝸 牛
面 神 経 は 剖 検 時 に脳 幹 部 摘 出 と と も に 引
き出 され て し ま っ て お り観 察 不 能 で あ っ た.蝸
牛,前
庭 に お い て膜 迷 路 内 に は 腫 瘍 の 浸 潤 は 認 め な い が,二 次 性 の 迷 路 感 染 に よ る 変 化 と考 え られ る 内 耳 炎 の 病 像 が 蝸 牛 基 底 回 転 や 前 庭 迷 路 に 著 明 に 認 め られ て い る (図13). 図13(症
顔 面 神 経 は顔 面 神 経 管 の 破 壊 に と も な い,膝
例6)
右 側 頭 骨 病 理 組 織 所 見 10×1 内 内 耳 に は 腫 瘍 の 浸 潤 を 認 め な い が ,二
次性 耳 炎 に よ る と思 わ れ る所 見 を 蝸 牛 基 底 回
転 前 庭 迷 路 に著 明 に 認 め る. S-球 形 嚢 U-卵 形 嚢 IAM-内 V-前 庭 外 リ ンパ 腔
左 側 頭 骨 所 見:腫 以 上 自験 例6症
量 術 が 施 行 され,転 得 られ た.腺 て,全
瘍 浸 潤 所 見 を認 め な か っ た.
例 に つ き表1に
ま と め た.
耳道
考 2次
か け 異 常 陰 影 を 認 め た.10月18日
部 を含
め 末 梢 は ほ ぼ 完 全 に 変 性 消 失 し て い た.
生検 をかね た腫瘍 減
移 性 腺 癌 との 病 理 組 織 学 的 診 断 が
癌 の原 発部 位 につ い ては各科 の協 力 を得
身 を詳 細 に 検 索 した が 確 定 に は 至 らず,翌1980
年2月20日
全 身 状 態 の 悪 化 を 来 し死 亡 し た.剖
検 時,
胃,膵,肝
に腫瘍 を認 めたが 原発 巣 は結局 確定 す る こ
とが で き な か っ た.
按
性 側 頭 骨 悪 性 腫 瘍 に つ い て は,1968年
Schuknechtら
の
の 報 告2)以 降,報 告 症 例 数 は増 加 し,同
報 告 に追 加 す る形 で,1976年 計103症 例 を,ま
に は Hillと Kohut3)が
た1986年 に は Kobayashiら4)が
合 これ
に加 え て 計134症 例 の 集 計 を報 告 し,2次 性 側 頭 骨 腫 瘍 は従 来 言 わ れ て い た ほ ど まれ で は な い と の 認 識 が 広 が っ て い る.し
か し,聴 器 の 病 態 を形 態 学 的 に 検 討 す る
唯 一 の 手 段 で あ る側 頭 骨 病 理 組 織 学 は,検 体 入 手 の 困
死 亡 約17時 間 後 に 両 側 の 側 頭 骨 を 採 取 し た.
難 さ や.標
右 側 頭 骨 病 理 所 見:錐
及 して い る と は 言 い が た い の が 現 状 で あ り1),そ の た
表1
体 尖 部 の 骨 髄,蜂
巣 はその大
自験 例6症 例 の ま とめ 転 移 経 路,原 発 巣,臨 床 症 状,病
本 作 製 の 技 術 的 な 問 題 な どの た め に 広 く普
理 組 織 学 的 所 見 に つ い て の ま とめ.
94-932
表2
*
今 村･他=2次
性側 頭骨 悪性 腫瘍
1991
原発 巣 な らび に腫瘍 病 理組織 国 内外 の転移 姓側 頭骨 悪性 腫瘍 文献 報告例212例 の 原発臓 器及 び腫 瘍病 理組 織 別症 例数.
Adaptedfrom
various
report2)and3)-61)
め い ま だ に 組 織 学 的 に転 移 腫 瘍 に よ る 側 頭 骨 の 病 理 形
ま た側
骨 へ の 悪 性 腫 瘍 の 浸 潤 経 路 に つ い て も
態 を 確 認 し,そ の 臨 床 症 状 発 現 機 序 や 腫 瘍 の 転 移 経 路
Schuknechtら2),Hoshinoら10)に
な ど に つ き病 理 形 態 学 的 に検 討 した 報 告 は 極 め て 少 な
近 隣 接 臓 器 腫 瘍 の直 接 浸 潤,び
い.
症(diffuse
metastatic
よ り,血
行性
転 移,
まん性 転移 性髄 膜 癌腫 leptomeningeal
car-
日耳 鼻
今 村･他=2次
cinomatosis以
下DMLCと
指 摘 さ れ て い るが,こ
略 す)と 主 要3経
性側 頭骨 悪性腫 瘍
路 が既 に
れ ら3経 路 に つ き臨 床 症 状 と側
頭 骨 病 理 組 織 学 的所 見 との 関 連 性 な ど を呈 示 し,さ
ら
94-933
的 所 見 か ら 原発 巣 を断 定 で き た まれ な1例
と見な され
た. 近 隣 臓 器 腫 瘍 の 直 接浸 潤 と して は,こ
れ までの報 告
に こ れ ら を体 系 的 に ま とめ た 報 告 は い ま だ に 見 あ た ら
か ら は唾 液 腺 腫 瘍,鼻
な い.
パ 節 転 移 巣 の 順 に 多 く,当 然 の こ とな が ら頭 頸 部 腫 瘍
今 回 著 者 ら は 上 記3経 瘍 の 自験 例6症
路 に よ る2次
例(表1)の
性儲 頭 骨悪性 腫
詳 細 な 検 索 を行 い,さ
ら
咽 腔 腫 瘍,上
か らの 進 展 例 が 大 多 数 で あ る が,自
顎 腫 瘍,頸
部 リン
験 症 例3,4は
と
に 国 内 外 の 症 例 報 告 に つ い て 可 能 な 限 り集 計 し検 索 を
も に この 範 疇 に 属 す る もの で あ っ た. 一方 ,DMLCは 一 般 的 な病 理 学 的 傾 向 と し て,そ の
加 え て,Schuknechtら
原 発 巣 は,胃 癌,肺
の 自 験 例 を含 め た82症 例 の 報
癌,乳
癌 な どが 多 い と い わ れ て い
告2)に そ れ 以 降 の130症 例3)-61)を 追 加 し,総 計212症 例
る が,こ
につ い て 臨 床 症 状,側
多 数 を 占 め て お り,腎 孟 癌 を原 発 す るDMLCは
き主 要3浸
頭 骨 病 理 所 見,原
発臓 器 等 につ
潤 経 路 別 に 系 統 的 に 検 討 した.
【浸潤 経 路 と原 発 巣 】 こ れ 豪 で 報 告 さ れ た2次
性 側 頭 骨 悪 性 腫 瘍 の 計212
症 例 の う ち,そ の 原 発 巣 に つ い て は表2に 側 頭 骨 へ の2次 癌,鼻
示 す よ う に,
性 浸 潤 発 現 頻 度 は 多 い 順 か ら乳 癌,肺
咽 腔 癌,腎
癌,前
立 膝 癌,唾
液腺 癌 となっ てい
れ ま で の 側 頭 骨 へ の 転 移 報 告 例 で は肺 癌 が 大
症 例5以
外,こ
き ず,前
記 自験 症例1の
れ まで の報 告 か ら は 見 い だ す こ とが で 肝 細胞 癌 の 血 行性 転 移 と と も
に 極 め て まれ な 初 の 報 告 例 で あ る こ とが 判 明 し て い る. 【臨 床 症 状 】 悪 性 腫 瘍 の 側 頭骨 へ の 転 移 に よ る臨 床 症 状 につ い て
た.側 頭 骨 へ の 悪 性 腫 瘍 の 浸 潤 経 路 に は,Schuknecht
は,Schuknechtら2),Maddox63),Greerら12)の
ら2),Hoshinoら10)に
が 参 考 に な る.Schuknechtら2)は
よ る 前 述 の3経
そ の 後,Berlingerら62)は,頭 悪 性 リ ンパ 腫,白 い る.今
路 が 有名 であ り
蓋内 の腫瘍 の直 接浸 潤 と
血 病 か らの浸 潤 の2経
路 を追 加 して
回 の こ れ ま で の 報 告 の 集 計 か ら可 能 な 限 り推
測 し検 討 し た と こ ろ,そ
の浸 潤経 路 に つい て分類可 能
で あ っ た111例 の う ち,血 行 性 転 移 と思 われ2る症 例 は53 例(47.8%),直 %),DMLCか
報告
難聴 は一般 的 に早期
に 見 られ 顔 面 神 経 麻 痺 も約 半 数 に み られ た と報 告 し て お り,Maddox63)は41%に
難 聴,34%に
顔藤 神経 麻痺
が 出現 した と報 告 して い る.ま たGreerら12)は,耳 (70%),耳
痛(41%)等
の 中 耳 炎,乳
状 が 高 率 に 出 現 し た と報 告 し て い る.
あ っ た.頭
い の で,無
症 候 の もの は 除 外 し,転 移 に よ る耳 症 状 の
蓋 内 腫 瘍 の 直 接 進 展 例 は き わ め て ま れ で あ り(5症
確 認 で きた 症 例 に つ い て み る と耳 症 状 の 頻 度 は,顔
例),悪
神 経麻痺(67%),難
性 リ ンパ 腫,白
認 め ら れ る とは い え,こ
血 病 の 浸 潤(13症 例)は か な り れ らは い わ ば 全 身 疾 患 の 一 部
3
分 症 と して の 骨 髄 病 変 が 主 体 で あ る と こ ろ か ら,二 次 性,転
移 性 腫 瘍 の 範疇 に い れ る の は 合 理 的 で は な い と
考 え ら れ る の で,Berlingerの5経
聴(60%)が
転 移 に よる臨床症状 表 主 要3転 移 経 路 別 に み た 側 頭 骨 転 移 に よ る 臨 床 症 状 の 発 現 頻 度.(総 報 告 症 例 数70)
を主 要 経 路
と見 な す の が 妥当 で あ る と考 え て い る. 主 要 浸 潤 経 路 別 に 原 発 巣 を見 る と,血 行 性 転 移 の 型 を と る もの は,乳 癌,前
立 腺 癌,肺
癌,大
腸 癌,腎
癌,
に 多 くみ ら れ た.肝
原 発 の転 移 性 側 頭 骨 腫 瘍 は胆 管
癌8),肝 肉 腫30)の2報
告 が あ る の み で,肝 細 胞 癌 の 転 移
は 自験 例1の
み で あ り著 者 らの 症 例 が 初 の 報 告 例 と考
え ら れ た.一
般 に 転 移 巣 は,原
発 巣 に 比 較 し腫 瘍 組 織
の 分化 度 が 低 下 す る こ とが 知 ら れ て い るが,例 腎 癌,甲
外的に
状 腺 癌 な どで は 特 異 的 な 組織像 が 転 移 熱 こお
い て も保 た れ て い る こ とが 特 徴 と さ れ て い る.自 験 症 例1は
これ ら例 外 の 内 に含 まれ 転 移 巣 の 腫 瘍 の 組 織 学
*
DMLCび (diffuse
まん 性 転 移 性 髄 膜 癌 腫 症 metastatic
carcinomatosis)
面
多 く,耳 痛 ま た は耳
路 よ りもすで に述
べ た 血 行 性 転 移,直 接 浸 潤,DMLCの3者
漏
突洞 炎類似 の症
転 移 初 期 に は 臨 床 症 状 の 出 現 し な い こ と も少 な くな
接浸 潤 と思 わ れ る症 例 は,25例(22.5 らの 転 移 は15例(13.5%)で
自験
leptomeningeal
94-934
今 村･他=2次
後 部 痛(25%),耳 (12%)の
後 部 腫 脹(12%),耳
漏
順 で あ っ た.
ま た 表3に示 は,血
内 腫 瘤,耳
性 側頭骨 悪性 腫瘍
1991
あ る これ まで の 報 告 症 例49例 に つ き,浸
潤経 路 別 にみ
た 側 頭 骨 に お け る腫 瘍 の 浸 潤 部 位 を表4に
す よ う に浸 潤 経 路 別 に み た特 徴 と し て
行 性 転 移 の 場 合 は 耳 痛,耳
漏 等 の 中 耳 炎,乳
突
血 行 性 転 移 の 場 合,Proctorら63)は フ ィ ル タ ー の 働 き を し て,こ
示 した.
錐体 部 の骨 髄 が
こに腫瘍 細胞 が 定着 しや
洞 炎 類 似 の 症 状 が 比 較 的 多 く,直 接 浸 潤 の 場 金 は顔 面
す く す る 可 能 性 が あ る と述 べ て い る.ま
神 経 麻 痺 が 多 い 傾 向 が み ら れ た.こ
細血 管 の血 流 速 度 が きわ め て遅 い こ と も,腫 瘍 細 胞 定
移 の 自験 症 例1,2,6ま
の こ とは 血 行 姓 転
た直接 浸 潤 の 自験 症 例3,
4に お い て も 一 致 した 所 見 を 示 して い る. DMLCの
上に 認 め られ,全
着 の 原 因 と し て あ げ られ て い る2}.著 者 ら の 自 験 例 の 症 例1,6は
場 合 は極 め て 特 徴 的 で あ り,難 聴 は90%以 例 が 感 音 難 聴 で あ り,両 側 例 が79%
た静脈 洞 の毛
錐 体 尖 部,症
れ た が,表4で の は,錐
例2は
乳 突 部 に転移 が 見 ら
は その 頻 度 が29%と
予 想 に 反 し て低 い
体 部 へ の 転 移 が直 接 臨 床 症 状 を引 き起 こす こ
と他 の 転 移 経 路 と懸 け 離 れ て 多 い.ま
た 発症 が 突 発 性
とが 少 な く,記 載 が 省 略 さ れ る こ とが 多 い た め と推 測
で あ る こ と も多 く,顔 面 神 経 麻 痺,前
庭 症 状 を随 伴 す
さ れ る.ま
る こ と も少 な くな い.こ 症 例5で
れ ら の 特 徴 の ほ と ん ど は 自験
明 確 に 示 さ れ て い る.
耳 痛,耳
漏 等 の 中 耳 炎,乳
突蜂 巣へ の浸 潤頻 度 が高 い こと
は,錐 体 部 か ら比 較 的 容 易 に 中 耳 腔 内,乳
突蜂 巣 内に
進 展 し う る可 能性 が 想 定 さ れ る.
突洞 炎類 似の症 状 で初発
す る 転 移 症 例 で は,顔 面 神 経 麻 痺,難
た 中 耳,乳
聴 に比 較 し感 染
直 接 浸 潤 例 に お い て は,耳 胞 が 高 頻 度 に 認 め られ,こ
管,顔
面 神 経 管 に腫 瘍 細
れ らが 転 移 経 路 と な っ た も
症 との 鑑 別 が 難 しい こ と も多 く,腫 瘍 に は感 染 を 伴 う
の と考 え ら れ,乳
こ と も珍 し くな い だ け に 早 期 に は見 の が さ れ や す い 傾
腫 瘍 進 展 に比 較 的 抵 抗 の 少 な い 部 位 を 介 し て 浸 潤 が起 こ りや す い こ と を 示 唆 し て い る も の と思 わ れ る(自 験
向 が あ る. 浸 潤 経 路 別 に み た 臨 床 症 状 に は 以 上 の よ う な特 徴 が あ る が,い
突 蜂 巣 へ の 下 面 か ら の 浸 潤 も含 め て
ず れ の転 移 様 武 に お い て も,腫 瘍 浸 潤 の 拡
症 例3,9参
照).
前 述 の2経
路 の 場 合,自
骨 迷 路,正
が あ り,腫 瘍 が 頭 蓋 底 に 浸 潤 し た 場 合 は 広 範 な脳 神 経
の 浸 潤 に 対 し抵 抗 を示 し,浸 潤 初 期 に お い て 内 耳 へ の
麻 痺 を来 す こ と も多 い.(自 験 症 例1,3,4,5参
波 及 を起 こ す こ と は まれ で あ る.ま
照)
し くは そ の ま とめ の 記 載 の
円窓 な どは腫瘍
た 内耳道 への浸潤
耳 道 内 へ は い る場 合 が 多 い(自 験症 例2,3,4). DMLCの
表4
ブ ミ骨 底 板,卵
は 一 旦 頭 蓋 内 方 向 へ 進 展 した 腫 瘍 が 硬 膜 下 を 通 っ て 内
【浸 潤 経 路 と浸 潤 部 位 】 側 頭 骨 病 理 組 織 所見,も
円 窓 膜,ア
験 症 例 で も見 ら れ る よ うに
大 に と もな い これ らの 症 状 が 合併 し て 出 現 す る 可 能 性
側 頭 骨 内 で の 腫 瘍 の 浸 潤 占拠 部 位 主 要3転 移 経 路 別 に み た 転 移 性 悪 性 腫 瘍 の 側 頭 骨 内 で の 腫 瘍 の 進 展 範 囲 の 頻 度. (総報 告 症 例 数49)
場 合 は 後 腹 膜 リ ン パ節 に 転 移 し た 腫 瘍 は
リ ンパ 行 性 に 脊 髄 腔 内 に浸 潤 し髄 膜 内 面 を び まん 性 に 浸 潤 し,内 耳 道 に た ど り着 く もの と思 わ れ る.自 験 症 例5で
明 ら か に認 め られ る よ う に,腫 瘍 が 内 耳 道 内 に
広 く浸 潤 し,内 耳 道 底,cribrose
area,な
どのbarrier
を 乗 り越 え蝸 牛 へ浸 潤 し て い く経 路 が 多 い も の と推 測 さ れ る.ま
た 顔 面 神 経 に お い て も,内 耳 道 内 へ の 浸 潤
に比 較 し て水 平 部 へ の 浸 潤 は11%と 部 がbarrierの
極 め て 少 な く,膝
役割 を 果 た して い る 可 能 性 が 大 き い も
の と思 わ れ る. DMLCの
形 式 で の 蝸 牛 へ の 腫 瘍 細 胞 の 浸 潤 は,蝸 牛
軸 か ら骨 ラ セ ン板 内,鼓 もの で あ り,habenula め か,腫
室 階 な ど に達 す る 経 路 が 主 な perforataがbarrierと
瘍 の 浸 潤 に よ る ラ セ ン器 の 破 壊 は,自
で は 認 め ら れ ず,こ
な るた 験 症例
れ までの 報告 例 で もきわめ て例外
的 な もの と考 え られ る. *
DMLCび (diffuse
まん 性 転 移 性 髄 膜 癌 腫 症 metastatic
carcinomatosis)
leptomeningeal
【2次 性 側 頭 骨 悪 性 腫 瘍 と今 後 の 臨 床 的 展 望 】 す で に 著 者 ら が 指 摘 した よ う に 側 頭 骨 の 転 移 性 悪 性
日耳 鼻
今 村･他=2次性
腫 瘍 に 関 す る 国 内 外 の 報 告 症 例 は,積
側 頭骨 悪性 腫瘍
極 的 に 広 く文 献
を検 索 し た に も か か わ ら ず,総 計212症 例 とい う限 られ た 数 に と ど ま っ て い た.し
か し,今 後 の 平 均 余 命 の 上
昇 と と も に,悪 性 腫 瘍 と こ れ に伴 う2次 性 悪 性 腫 蕩 の 増 加 が 考 え ら れ る こ と,最 近 の 画 像 診 断 を 中 心 とす る 診 断 学 の 進 歩 に よ り こ れ ま で 見 逃 され 易 か っ た側 頭 骨 転 移 腫 瘍 の 診 断 率 も 向 上 す る こ と な ど か ら,結 は2次
果的 に
性 側 頭 骨 悪 性 腫 瘍 に 遭 遇 す る頻 度 も今 後 増 加 す
る も の と推 測 さ れ,こ
れ ま で は ほ とん ど そ の 対 象 とな
らな か っ た 早 期 診 断 と治 療 が 要 求 さ れ る機 会 が 多 くな る 可 能 性 が 考 え られ る.近 隣 臓 器 か らの 直 接 漫 潤 の 場 合 は原 発 巣 は 頭 頸 部 腫 瘍 で あ る の で診 断 は 比 較 的 容 易 で あ る が,今
回 著 者 ら の 示 し た 自験 症 例1,5,6の
よ う な 蜘 行 性 転 移 やDMLCの
場 合 に は,耳
移
囲 の 診 断 や 原 発 病 巣 の 確 定 を早 期 に 行 う こ と
に よ り,今 後 の 治 療 対 策,少
な くとも延命 的治療 の可
能 姓 は 展 望 で き る よ う に思 わ れ る.今 経 路 別 の 原 発 巣 頻 度,臨
回 示 し た 主 要3
床 症 状 出 現 の 機 序,病
学 的 な 腫 瘍 の 浸 潤 様 式 な ど を知 る こ とが,早
理 組織
期発 見 と
確 定 診 断 な らび に 各 種 の 症 例 に 応 じ た 治 療 計画 策 定 に お い て 今 後 重 要 な 役 割 を演 じ る可 能 性 が 示 唆 さ れ る.
ま
と
過,側
例 を呈 示 し,そ の 臨 床 経
頭 骨 病 理 所 見 に つ き検 索 を 行 い,国
内外 の文献
報 告 例 に つ い て も可 能 な 限 り検 討 を加 え て,悪 の 側 頭 骨 へ の 主 要3浸
性腫瘍
潤 経 路 別 に 原 発 巣 お よ び,腫 瘍
潤 様 式 と臨 床 症 状 発 現 の 機 序 に つ き分 析 を加 え 考浸 察 を 行 っ た.
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さ らに側頭 骨 標本,論 文作 製 に ご助 力 い た だ い た今 村 ま
真:maligRes
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島 桂 子,吉
村 美 智 子,下 Res
川 邦 泰:悪 Jpn
性 リン
01570948)に 通,大 谷
巖,赤 池 徹 哉,安 斉 友 博,鈴 木 聡 明
癌 性 髄 膜 炎 症 例 の 側 頭 骨 病 理 所 見Ear
Res
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(1990年12月7日 別 刷 請求 先 〒409-38山
宮田 英 雄,高 木 恭 也,吉 村 美 智 子:上 の 側 頭 骨 病 理 所 見.Ear
よ る もの で あ る.
他: 20:
287-289,1989. 61)
91回 日本 耳 鼻咽 喉 科学 会 総 会 にて口 演 した. 本研 究 の 一 部 は昭 和64年 度 文部 省 科学 研 究 費(課 題 番号
19:228-229,
1988. 相川
ゆ み助 手,渡 辺 光 子医 局 秘書 に感謝 致 し ます. 本 論文 の 要 旨の 一 部 は第36回,37回 日本基 礎 耳 科学 会,第
パ 腫 の 側 頭 骨 病 理 所 見.Ear
60)
巖 教 授,並 び に教 室 員 各位 に
深甚 な る謝 意 を捧 げ ます.
425-426,1987. 59)
稿 を終 わ る に臨 み,側 頭 骨 病理 標 本 作 製 法 に つ きご指 導 賜 っ た,編 島 県 立医 大,大 谷
Res
Jpn
顎 癌 頭 蓋内 浸 潤 例 20:293-294,1989.
受稿
1991年2月21日
受 理)
梨 県 中 巨摩郡 玉 穂 町 下河 東1110
山 梨医 科 大 掌耳 鼻咽 喉 科 学教 案
今村 俊 一
