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産 業 医 学

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Health,

Vo1.

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女 性労働 に関 連する疲労 の問題

酒井

一博(労 働科 学研究所)

【は じめ に 】女 性 に 関 す る 労 働 安 全 衛 生 は 、 こ れ ま で に2つ 護 で あ り、 第2は

の こ と を 措 置 し て き た。 第1は

、 母性 保

、 母 性 保 護 以 外 の 労 働 保 護 で 、 労 働 時 間 の 保 護、 深 夜 業 禁 止 、 危 険 有 害 業 務 に対 す

る 就 業 制 限 が 中 心 に な っ て き た。 しか し、 「雇 用 機 会 均 等 法 」 が 制 定 さ れ る に い た り、 女 性 に 対 す る 労 働 保 護 の 力 点 は 母 性 保 護 に 移 り、 そ の ほ か の 労 働 保 護 規 定 は 男 女 平等 の 観 点 か ら 大 幅 に緩 和 され た。 と く に 表1に み られ る よ う に、 危 険 有 害 業 務 へ の 就 業 制 限 は 妊 産 婦 の み に適 用 さ れ 、 一 般 女 性 に 対 して は 解 除 さ れ た。 こ う し た傾 向 は 、 今 後 、 一 層 の 拍 車 が か か る も の と 思 わ れ る。 しか し、 い ま の 労 働 現 場 が 女 性 の 生 理 、 心 理 、 社 会 的 な 特 性 に よ く あ っ て 働 き や す い か と 問 え ば 、 そ う で は な い。 雇 用 の 男 女 平 等 は 当 然 と して も、 同 時 に 職 場 の 働 き に く さ を と り あ げ、 改 善 の た め のINTERVENTIONを 行 う こ とが 重 要 で あ る。 職 場 の 安 全 、 衛 生 、 作 業 条 件 の-層

積極的に

き め 細 か な 対 応 を 進 め る 上 か ら も、 産 業

疲 労 研 究 の 応 用 が 望 ま れ る と こ ろ で あ る。 【女 性 の 就 労 と働 き に く さ 】 表2に よ っ て 、 女 性 の 就 労 領 域 か ら3つ

の 特 徴 を み て とれ る。 第1は

、女

性 の 就 労 数 は 従 来 か ら事 務 、 生 産 工 程 の 作 業 に お い て 多 か っ た こ と に 加 え て 、 サ ー ビ ス 業 で 急 増 して い る。 第2は

、 女 性 比 率 の 高 い 職 業 は 保 健 医 療 で あ る。 病 者 の 看 護 、 保 育 、 高 齢 者 や 障 害 者 の 介 護 な

ど、 人 の ケ ア に 関 す る 仕 事 で、 需 要 は さ ら に高 ま る こ と が 予 想 され る。 第3は

、 流 通 全般 へ の女性 の

関 わ り が 大 き く な っ て い る こ と で あ る。 な お 、 技 術 者 、 管 理 、 運 輸 、 保 安 な ど の 職 業 は 、 い ま の と こ ろ 大 半 が 男 性 で あ る。 こ れ らの 職 業 別 に そ れ ぞ れ の 負 担 要 因 を、 こ れ ま で の 労 研 で の 調 査 体 験 に も と つ い て 関 連 付 け て み る と、 女 性 の 働 き と負 担 との 関 係 を 多 少 浮 き彫 り に す る こ とが で き る。 ① 頸 肩 腕 障 害 や 腰 痛 の 原 因 と な る 反 復 動 作 や 姿 勢 負 担 、 重 量 物 の 取 扱 な どが 、 女 性 の 就 労 の 多 い 保 健 医 療 の ほ か 、 生 産 工 程 、 農 林 な ど の 職 業 に含 ま れ る。 ② 作 業 環 境 に つ い て は 多 面 的 な 要 素 が あ る が、 女 性 の 働 き と の 関 連 で み れ ば 「寒 冷 」 環 境 が キ ー の よ う で あ る。 女 性 は 冬 の 寒 冷 や 夏 の 冷 房 に 弱 い が 、 食 品 の 加 工 ・包 装 ・発 送 ・販 売 を は じめ 、 作 業 で 寒 冷 に 暴 露 さ れ る 機 会 は 少 な く な い。 ③ 男 性 ば か りで な く、

表2 職業別の女性就労者の比率と主要な負担要因

表1 法規 上の女 性と労働 衛生(主 要項 目)

A;女 性比率の 高い職業、B;男 女半々、C;男 性比率 が高 いが一定 数女性 が占める、無印;大 半が男性の職 業 ○;該 当職業と関連 の強 い負担 要因、△;該 当職業 と関連のある負担 要因

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女 性 も 残 業 や 変 則 勤 務 が 多 い。 と くに 、 看 護 婦 を は じめ 、 サ ー ビ ス 業 で は 変 則 勤 務 が 多 い。 ま た、 主 婦 を タ ー ゲ ッ ト に し た 早 朝 パ ー トも横 行 し は じ め て い る。 ④ 販 売 や サ ー ビ ス業 は 女 性 を 多 く含 む が、 い ず れ も 接 客 的 な 要 素 が 強 く、 人 間 関 係 の ス ト レ ス を 生 む。 さ ら に、 女 性 の 役 割 が 職 場 の 主 戦 力 で な く、 補 助 的 で あ る と い う ス ト レ ス も こ れ か ら は 考 え て い か か な くて は な らな い。 【女 性 労 働 に共 通 す る 負 担 の 構 造 】 女 性 労 働 に共 通 す る 負 担 の 構 造 を 考 え る と、 負 担 の 要 因 に は 図1の よ う に 少 な く と も3つ ENTION

STRATEGYを

あ る。 こ れ らの か か わ り か た に よ っ て 、 負 担 の 大 き さ が 変 化 す る の で、INTERV

ど う持 っ か が 重 要 と な る。 こ こで い う 直 接 要 因 と は、 女 性 労 働 に 優 位 な 働 き に く

さ の 要 因 の こ とで 、 作 業 負 荷 と して の 反 復 動 作 や 姿 勢 負 担 の ほ か 、 環 境 負 荷 、 変 則 勤 務 の 負 担 、 メ ン タ ル ヘ ル ス な ど を ま ず と り あ げ な くて は な らな い。 こ う し た 働 き に く さ を 、 男 性 よ り 身 体 的 能 力 の 小 さ い 女 性 が 受 け 止 め れ ば 、 当 然 、 ダ メ ー ジ は 大 き い も の と な る。 同 じ 内 容 の 作 業 な ら女 性 の 方 が 頸 肩 腕 障 害 や 腰 痛 発 症 の リ ス ク は 大 き くな る。 第3は

促 進 要 因 で あ る。 育 児 や 介 護 な ど の 家 庭 責 任 を 実 際

に誰 が 担 っ て い る か と い う こ と で あ る。 わ が 国 で は 圧 倒 的 に 女 性 で あ る た め に、 負 担 が 促 進 さ れ て し ま う の で あ る。 こ の 家 庭 責 任 の 遂 行 に あ た っ て の 家 庭 内 、 職 場 内 、 さ ら に社 会 的 な 支 え あ い の 仕 組 み が ど う で き る か に よ っ て も、 女 性 の 負 担 は 大 き く 変 化 す る。 ① 育 児 や 介 護 の た め の 頻 繁 な 休 暇 や 早 退 を受 け 入 れ る ゆ と り を 職 場 が も て る か 、 ② 家 庭 責 任 の 遂 行 を 男 女 が 平 等 に 分 か ち あ う た め に は 、 男 性 の 家 庭 滞 在 時 間 が 重 要 で あ る。 こ の 点 か ら ドラ ス テ ィ ッ ク な 時 短 が 可 能 か ど う か 、 ③ 保 育 所 の 整 備 や 通 勤 対 策 な ど の 社 会 的 な サ ポ ー トが 十 分 か ど う か な ど が 重 要 で あ る。 こ の3要

因 の う ち 、 と く に、 直

接 要 因 と 促 進 要 因 とが ど の く ら い 整 備 あ る い は コ ン ト ロ ー ル さ れ て い る か 否 か に よ っ て 、 女 性 労 働 者 の 日 々 の 疲 労 状 況 を は じ め、 作 業 関 連 疾 患 の 起 こ り方 、 メ ン タ ル ヘ ル ス、 さ ら に キ ャ リ ア 形 成 、 社 会 参 加 の 程 度 が 大 き く異 な る こ と に 注 目 しな け れ ば な らな い。 【女 性 を 対 象 と した こ れ か らの 疲 労 研 究 】 女 性 の 働 き に く さ を 改 善 す る た め のINTERVENTION

STRATEG

Yの 構 築 が 必 要 で あ る。 そ れ に は 女 性 労 働 に 共 通 す る 負 担 の 構 造 を 手 が か り に、 女 性 を対 象 と し た 疲 労 研 究 を 学 際 的 に 展 開 す る こ と が 望 ま れ る。 母 性 保 護 の た め の 研 究 を ペ ー ス に お き が ら も、 そ れ 以 上 に、 第1に

、 職 業 と関 連 し た 働 き に く さ の 改 善 を と りあ げ た い。 作 業 に 伴 う 上 肢-肩-腰

部 域 の静 的

負 担 の 改 善 や 、 神 経 感 覚 的 な 負 担 、 さ ら に メ ン タ ル ス ト レ ス に 関 す る 課 題 解 決 が 重 要 で あ る。 第2は



家 庭 責 任 遂 行 に あ た っ て の 男 女 の 分 か ち あ い に 関 す る こ と で 、 名 実 と も に 男 性 の ドラ ス テ ィ ッ ク な 労 働 時 間 の 短 縮 が い る。 育 児 や 介 護 の 性 質 を 考 え る と、 休 日 増 と と も に労 働 日の 短 縮 が 改 め て 重 要 で あ る。 第3は

、 女 性 の ラ イ フ サ イ ク ル を み て 、 負 担 対 策 を 多 面 的 に 講 じ る こ とで あ る。 こ こ で の 課 題 は

疲 労 対 策 を 少 し広 く捉 え る こ と が 必 要 で、 ① 女 性 の キ ャ リ ア 形 成 の 方 法 、 ② ラ イ フ ス テ ー ジ 別 の 就 労 や 勤 務 の 弾 力 化 、 ③ 生 涯 教 育 の 保 障 な どが 望 ま れ る。 大 事 な こ と は 、 妊 娠 、 出 産 に よ る キ ャ リ ア の 中 断 を ど う 補 償 す る か と、 働 き 手 の 選 択 に よ っ て就 労 や 勤 務 の 弾 力 化 が は か れ る か ど う か が 鍵 で あ る。

図1 女性労働に共通する負担の構造

[Strategy for reducing fatigue in women workers].

658  産 業 医 学 34巻, JAn J Ind Health, Vo1. 34, 1992 女 性労働 に関 連する疲労 の問題 酒井 一博(労 働科 学研究所) 【は じめ に 】女 性 に 関 す る 労 働 安 全 衛 生 は 、 こ れ ま で に2つ 護 で...
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