日本細菌学雑誌 70( 3 ):351–364,2015 ©2015 日本細菌学会

総 説

サルモネラ属菌のべん毛 III 型蛋白質輸送システムの構造と機能 南 野   徹 1 1

大阪大学大学院生命機能研究科 〒 565–0871 大阪府吹田市山田丘 1–3 [受理:2015 年 6 月]

多くの細菌は,べん毛と呼ばれる細胞外へ長く伸びる繊維状の運動器官を持っている。べん毛が細胞表層に 構築される際には,べん毛基部に存在する独自の蛋白質輸送装置が細胞内で合成されたべん毛蛋白質をべん毛 先端へと輸送する。輸送装置は 6 種類の膜蛋白質からなる輸送ゲート複合体と 3 種類の可溶性蛋白質からなる ATPase リング複合体から構成される。これらの他に,輸送シャペロンが自身の輸送基質蛋白質に特異的に結合 し,効率よく輸送ゲート複合体のドッキングプラットフォームへリクルートする。輸送装置は ATP と細胞膜を 横切るプロトン駆動力を動力源に利用してべん毛蛋白質を輸送する。その際,輸送装置はフック先端で起こる フック構築過程をモニターし,配送すべき輸送基質蛋白質を選別する。本総説では,Salmonella enterica serovar Typhimurium のべん毛輸送装置の機能と構造について,最新の研究成果を交えながら詳しく解説する。

1.はじめに 大腸菌(Escherichia coli)やネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)を始め,多くの細菌はべん

ネラのべん毛を作るために必要な蛋白質輸送装置の構造と 機能について解説する。 2.べん毛の構造

毛と呼ばれる,左巻きのらせん状繊維を菌体から伸ばし,

サルモネラのべん毛は約 30 種類の蛋白質からなる超分

それを根元のモーターで高速回転させて推進力を発生し,

子複合体で(表 1),基部体,フック,フック・繊維連結部,

水の中を活発に泳いだり,固体表面を移動したりする。大

繊維および繊維キャップの 5 つの部分構造から構成される

腸菌やサルモネラ属菌(本稿では以降,サルモネラと記載

(図 1)。基部体は細胞表層膜系内に存在し,細胞質側にカッ

する)のべん毛モーターは,細胞膜内外に形成される水素

プ状に突き出た C リング,細胞膜内に埋め込まれた MS

イオン(プロトン)の電気化学的ポテンシャルの勾配,す

リング,ペプチドグリカン層に接続した P リング,外膜

なわちプロトン駆動力をエネルギー源とし,1 秒間に最高

に埋め込まれた L リング,およびロッドと呼ばれる軸構

300 回転できる。べん毛モーターはプロトンの流入方向を

造から構成され,回転モーターとして働く。基部体の周り

変えずに反時計(CCW)方向と時計(CW)方向の両方向

にはプロトン流を回転力に変換する固定子複合体が 11 個

に回転できる。個々のべん毛モーターがべん毛側から見て

程度存在する。固定子は,MotA と MotB と呼ばれる 2 種

CCW 方向に高速回転すると,菌体の背後にべん毛の束が

類の膜蛋白質からなる複合体で,4 分子の MotA と 2 分子

形成される。その結果,大腸菌やサルモネラは推進力を得

の MotB から構成され,プロトンチャネルとして働く。プ

て,直線的に泳ぐことができる。べん毛モーターの回転が

ロトンの流れに共役して MotA が回転子である C リング

CW 方向に切り替わると,そのねじれ力によって瞬時にら

と相互作用すると,トルクが発生しべん毛モーターは回転

せんが右巻きに変換し,その結果べん毛の束がほぐれて推

する。フックは,フック蛋白質(FlgE)がらせん状に積み

力のアンバランスを生じ,菌体が回転して遊泳方向を転換

重なってできた,直径 18 nm,長さ約 55 nm のチューブ状

する。モーターの回転方向の切り替え頻度は細胞膜に存在

の構造体で,基部体で発生したトルクを繊維に伝えるユニ

する化学温度センサーが発信する信号によって制御されて

バーサルジョイントとして働く。繊維は,フラジェリン

おり,その結果大腸菌やサルモネラは栄養や温度などが最

(FliC あるいは FljB)と呼ばれる 1 種類の蛋白質がらせん 状に積み重なった,直径 23 nm,長さ十数 μm のらせん状

適な環境に集まることができる (75)。ここでは,サルモ

351

繊維で,緩やかな左巻きの超らせん構造を形成し,分子ス

3.べん毛の構築過程

クリューとして働く。フックと繊維の境界にはフック・繊 維連結部(FlgK, FlgL)と呼ばれる構造体が存在し,構造

べん毛の構築は基部体,フック,繊維の順に起こる(図

と機能が異なるフックと繊維をうまく連結する。繊維

2)(45)。まず,FliF が細胞膜内で自己集合し,MS リン

キャップ(FliD)は繊維の先端に存在し,繊維の重合を助

グが形成される (90)。次に,FliG,FliM および FliN の 3

ける (50,51)。

種類の蛋白質が MS リングの細胞質側に自己集合し,C リ 表 1.サルモネラ属菌のべん毛構成蛋白質

蛋白質 FliF FliG FliM FliN FlhA FlhB FliH FliI FliJ FliO FliP FliQ FliR FlgN FliS FliT FliE

機能 MS リング構成蛋白質 C リング構成蛋白質 C リング構成蛋白質 C リング構成蛋白質 III 型輸送装置構成蛋白質 III 型輸送装置構成蛋白質 III 型輸送装置構成蛋白質 III 型輸送装置構成蛋白質 III 型輸送装置構成蛋白質 III 型輸送装置構成蛋白質 III 型輸送装置構成蛋白質 III 型輸送装置構成蛋白質 III 型輸送装置構成蛋白質 基質特異的分子シャペロン 基質特異的分子シャペロン 基質特異的分子シャペロン MS リング・ロッド連結蛋白質

蛋白質 FlgB FlgC FlgF FlgG FlgJ FlgI FlgA FlgH FlgD FlgE FliK FlgK FlgL FliD FliC FljB MotA MotB

機能 ロッド構成蛋白質 ロッド構成蛋白質 ロッド構成蛋白質 ロッド構成蛋白質 ロッドキャップ蛋白質,ムラミダーゼ P リング構成蛋白質 P リング形成に関わるペリプラズミックシャペロン L リング蛋白質 フックキャップ蛋白質 フック蛋白質 フック長制御蛋白質 フック・繊維連結蛋白質 フック・繊維連結蛋白質 繊維キャップ蛋白質 べん毛繊維構成蛋白質(H1 フラジェリン) べん毛繊維構成蛋白質(H2 フラジェリン) 固定子構成蛋白質 固定子構成蛋白質

図 1.細菌べん毛の構造 (A)サルモネラの電子顕微鏡写真。 (B)サルモネラから単離精製されたべん毛の電子顕微鏡写真。 (C)べん毛の模式図。べん毛は基部体, フック,フック・繊維連結部,繊維および繊維キャップから構成される。基部体の周りには固定子複合体が配置する。べん毛の基部に はべん毛を作るために必要な III 型輸送装置が存在する。OM は外膜,PG はペプチドグリカン層,CM は細胞膜を示す。 352

日本細菌学雑誌 70( 3 ),2015

ングが形成される。べん毛特異的蛋白質輸送装置が組み上 がると,細胞膜を越えて存在するロッド―フック―繊維と

4.べん毛 III 型蛋白質輸送装置

連なるべん毛軸構造体の構築が開始する。まずは,輸送装

べん毛軸構造の伸長は,その先端,すなわち細胞から遠

置によりロッド蛋白質(FliE, FlgB, FlgC, FlgF, FlgG)およ

い側の端にべん毛軸構成蛋白質が順次重合することによっ

びロッドの構築を助けるロッドキャップ蛋白質(FlgJ)が

て起こる。そのため,細胞質内で合成されたべん毛軸構成

輸送され,ロッドを形成する。FlgJ はペプチドグリカンを

蛋白質は効率よくべん毛先端へ運ばれる必要がある。一般

分解するムラミダーセ活性を有し,その活性はロッドがペ

的によく知られている Sec 分泌装置により細胞膜を透過す

プチドグリカン層を貫通するために必須である (30,79)。

る LP リング構成蛋白質(FlgH と FlgI),さらに P リング

ロッドが完成すると,P リング蛋白質(FlgI)および L リ

形成に必要なペリプラズミックシャペロン(FlgA)を除き,

ング蛋白質(FlgH)がロッドの周りに重合し,LP リング

細胞膜の外側に存在するべん毛軸構造の構築に必要な 14

複合体が形成される。L リングが完成すると,ロッドキャッ

種類のべん毛蛋白質は,べん毛の基部に存在する独自の蛋

プがロッド先端から解離し,新たに送り出されてきたフッ

白質輸送装置により認識される。これらの蛋白質は,べん

クキャップ蛋白質(FlgD)がロッド先端で自己集合しフッ

毛中心を貫通する直径 2 nm の細長いチャネルの中を移動

クキャップを形成する (12)。フックキャップの直下にフッ

し,先端へと運ばれる (50,51,55,59)。輸送装置は,

ク蛋白質(FlgE)が連続的に重合することで,フックが形

FlhA,FlhB,FliO,FliP,FliQ お よ び FliR と 呼 ば れ る 6

成される (77,83)。フックが完成すると,フック・繊維

種類の細胞膜内在性蛋白質からなる輸送ゲート複合体と

連結蛋白質 FlgK および FlgL が輸送され,その結果フッ

FliH,FliI および FliJ と呼ばれる 3 種類の可溶性蛋白質か

クキャップがフックの先端から解離しフック・繊維連結部

らなる ATPase リング複合体から構成される(図 3)(63,

が形成される (32)。この連結部の先端に繊維の構築を助

66)。最近,電子線トモグラフィー法による in situ でのべ

ける繊維キャップが形成されると,その直下にフラジェリ ンが連続的に重合し,十数 μm の長さの繊維が形成される

ん毛基部体の構造解析によって輸送装置がべん毛基部体 C

(36,96)。

体のプラットフォーム構造および ATPase リング複合体に

リングの内側に存在することが観察され,輸送ゲート複合

図 2.細菌べん毛の形態形成過程 サルモネラ属菌の様々なべん毛変異株が作り出すべん毛中間体の構造を小さいものから順に並べることにより,べん毛の構築過程を示 すアセンブリーマップが提案されている (45)。これによれば,べん毛は,基部体,フック,繊維の順に構築される。OM は外膜,PG はペプチドグリカン層,CM は細胞膜を示す。 353

図 3.べん毛 III 型輸送装置と FOF1-ATP 合成酵素の模式図 べん毛基部に存在する独自の蛋白質輸送装置は FlhA,FlhB,FliO,FliP,FliQ,FliR の 6 種類の膜蛋白質からなる輸送ゲート複合体と FliH,FliI,FliJ の 3 種類の細胞質性蛋白質からなる ATPase リング複合体から構成される。FliH,FliI,FliJ はそれぞれ FOF1-ATP 合成 酵素の外周固定子である b と δ サブユニット,ヘテロ 6 量体リングを構成する α と β サブユニット,そして回転軸として働く γ サブユニッ トと高い相同性を示す。CM は細胞膜を示す。

興味深いことに,インジェクティソームの全体構造がべん 毛のフック・基部体と大変よく似ていることが報告されて いる (13,26,39)。 1)輸送ゲート複合体の構造 輸送ゲート複合体構成蛋白質の一つである FlhA は,分 子量約 75 kDa の細胞膜内在性蛋白質で,N 末端側に 8 本 の膜貫通ヘリックスからなる疎水性領域(FlhATM)と C 末端側の親水性細胞質領域(FlhAC)から構成される(図 5) (58)。X 線結晶構造解析により,サルモネラ由来の FlhAC の立体構造が 2.8 Å 分解能で解析されている (86)。FlhAC は,D1,D2,D3 お よ び D4 の 4 つ の ド メ イ ン と FlhATM につながるリンカーから構成される(図 5)。FlhATM は MS リング構成蛋白質(FliF)や輸送ゲート構成蛋白質で 図 4.べん毛輸送装置の立体構造モデル 電子線トモグラフィー法によって得られた輸送装置の電子密度 マップに FlhAC9 リングおよび FliI6FliJ リングの原子モデルをあて はめた。

ある FlhB,FliO,FliP,FliQ および FliR と相互作用する ことが示されている (6,29,41,48,53)。最近,我々は 黄色蛍光蛋白質(YFP)や青色蛍光蛋白質(CFP)などの 蛍光蛋白質を FliF や FlhA の C 末端に融合し,それらの細

対応する電子密度が同定された(図 4)(1,9,39)。これ

胞内局在を蛍光顕微鏡により解析した。その結果,MS リ

らの蛋白質に加え,FlgN,FliS および FliT と呼ばれる基

ング構築中に 9 分子程度の FlhA が他の輸送ゲート構成蛋

質特異的輸送シャペロンは,自身の結合相手であるべん毛

白質とともに MS リングの中心孔に組み込まれることが明

軸構成蛋白質に特異的に結合し,輸送前に凝集するのを防

らかとなった (74)。FlhAC が ATPase リング複合体の構成

いだり,細胞内プロテアーゼによる攻撃から守るボディー

蛋白質である FliH,FliI および FliJ,さらには輸送基質蛋

ガードとして働いている (2,3,8,23)。べん毛輸送装置は,

白質や輸送シャペロン・基質複合体と相互作用することか

病原性細菌が宿主細胞に感染する際に宿主細胞内へエフェ

ら,FlhAC はこれら蛋白質の結合プラットフォームである

クターと呼ばれる蛋白質群を直接注入する,インジェク

と 考 え ら れ る (5,35,42,61,66,67,72,73)。FlhAC

ティソームあるいはニードル複合体と呼ばれる病原性グラ

部分が欠失した FlhATM-YFP はべん毛基部に蛍光スポット

ム陰性細菌由来の分泌装置と高い相同性があり(表 2),

を全く形成できなかったことから,FlhA は FlhAC を介し

両者はタイプ III 分泌系に分類される (13,26,50,51)。

て 9 量 体 を 形 成 す る と 考 え ら れ る (74)。 こ の こ と は,

354

日本細菌学雑誌 70( 3 ),2015

表 2.べん毛輸送装置と病原性グラム陰性細菌の III 型分泌装置の遺伝的相同性 インジェクティソーム 機能 輸送ゲート構成蛋白質,プラットフォーム 輸送ゲート構成蛋白質,輸送スイッチ 輸送ゲート構成蛋白質 輸送ゲート構成蛋白質 輸送ゲート構成蛋白質 輸送ゲート構成蛋白質 外周固定子 ATPase 回転軸 MSリング Cリング 分子物差し

べん毛

Salmonella (SPI1)

Shigella

Yeshinia spp.

EPEC

FlhA FlhB FliO FliP FliQ FliR FliH FliI FliJ FliF FliM/N FliK

InvA SpaS ― SpaP SpaQ SpaR OrgB InvC InvI PrgH/PrgK SpaO InvJ

MxiA Spa40 ― Spa24 Spa9 Spa29 MxiN Spa47 Spa13 MxiG/MxiJ Spa33 Spa32

YscV YscU ― YscR YscS YscT YscL YscN YscO YscD/YscJ YscQ YscP

EscV EscU ― EscR EscS EscT EscL EscN EscO EscD/EscJ EscQ EscP

からなり,両者の間には非常に高く保存された NPTH ルー プ が 存 在 す る (64)。 こ の ル ー プ に 位 置 す る Asp-269 と Pro-270 の間で FlhBC は自己触媒的に切断され (22),切断 後も FlhBCN と FlhBCC は互いに強く会合している(図 6A) (64)。これらの知見については,サルモネラ FlhBC やその パラログである EscUC,SpaSC,Spa40C や YscUC の X 線結 晶構造解析結果からも支持されている (14,49,54,97)。 FlhBC は輸送スイッチとして輸送基質蛋白質の選別に重要 な役割を果たす (47,64,95)。FlhBC が FliH,FliI および FliJ とも結合することから,FlhBC は FlhAC とともに結合 プラットフォームの一部を形成していると考えられる (17,66)。 FliO は,分子量約 13 kDa の細胞膜内在性蛋白質で,1 本の膜貫通ヘリックスと分子量 8.8 kDa の細胞質ドメイン (FliOC)を持つ (52, 80)。興味深いことに,インジェクティ ソームでは,FliO パラログは存在しないことから(表 1), 図 5.FlhA のトポロジーモデルと輸送シャペロン・輸送基質複合 体の結合部位 FlhA は 8 本の膜貫通ヘリックスを持つ N 末疎水性領域(FlhATM) と C 末 細 胞 質 領 域(FlhAC) か ら な る。FlhAC は,D1,D2,D3 および D4 の 4 つのコンパクトなドメインと,FlhATM とつながる フレキシブルなリンカー領域から構成される。D1 と D2 ドメイ ンには非常に高く保存された疎水性残基(黄色で示す)からなる 窪みが存在する。この窪み内には高く保存されている親水性残基 である Asp-456 および Thr-490 も存在する。これらの残基が輸送 シャペロン・輸送基質複合体との相互作用に関与している。4 番 目と 5 番目の膜貫通ヘリックスの間に位置するループは FHIPEP ループと呼ばれている。CM は細胞膜を示す。

FliO はべん毛輸送装置に特化した機能を持つものと推察 される。これまでに,fliO 欠失株からバイパス変異株が単 離されており,そのバイパス変異が fliP 遺伝子内に存在す ることが示されている。このことは,FliO が FliP の機能 発現に重要な役割を果たしていることを示している (7)。 プラスミドから FliOC のみを ΔfliO fliP(F190L) バイパス変 異株内で発現させると,このバイパス変異株の運動能が野 生型レベルまでに回復する。このことから,FliOC はべん 毛蛋白質輸送に直接関与していることが示唆される (7)。 FliP は,分子量約 25 kDa で,N 末端にシグナル配列を

FlhA パラログである MxiAC の結晶構造が 9 量体リングを

持つ 4 回膜貫通型の膜蛋白質である。2 番目と 3 番目の膜

形成していることとよく一致している (1)。さらに,電子線

貫通ヘリックスの間には分子量約 9.5 kDa のペリプラズム

トモグラフィー法による in situ でのべん毛基部体の構造解

ドメイン(FliPP)が存在する (52,80)。FliP の N 末シグ

析から,FlhAC9 量体リングがプレート状のプラットフォー

ナル配列は膜透過中に切断され,分子量 23 kDa の成熟型

ム構造を形成していることが判明した(図 4)(1,39)。

FliP になる。シグナル配列の切断が阻害されると FliP の

FlhB は,分子量約 42 kDa の細胞膜内在蛋白質で,N 末

機能が著しく制限されることから,FliP はこのシグナル配

端側に 4 本の膜貫通ヘリックスを持つ疎水性領域(FlhBTM)

列を介して効率的に細胞膜に挿入されると考えられる

と C 末端側の親水性細胞質領域(FlhBC)から構成される(図

(80)。単離精製したべん毛基部体には 4 分子程度の FliP

6A)(58)。遺伝学的解析から,FlhBTM は FlhATM と相互作

が存在することが報告されている (21)。最近,我々は

用することが示されている (6)。FlhBC は FlhBCN と FlhBCC

Thermotoga maritima 由来の FliPP(Tm-FliPP)を単離精製 355

図 6.フックの長さ制御モデル (A)FlhB のトポロジーモデル。FlhB は 4 本の膜貫通ヘリックスからなる N 末疎水性領域(FlhBTM)と C 末細胞質領域(FlhBC)から なる。FlhBC は輸送スイッチとして機能し,フック構築中に起こる FlhBC の部位特異的分解反応と,FliK との相互作用による FlhBC の 構造変化によって輸送装置の基質特異性がロッド・フック型から繊維型のモードへと切り替わる。CM は細胞膜を示す。(B)FliK の分 子物差し機構。フックは,フックキャップの直下にフック蛋白質が順次重合する。輸送基質でもある FliK が,輸送中にその N 端をフッ ク先端に存在するフックキャップやフックに結合し,フックの長さを測定する。約 55 nm に到達すると,FliK の C 末領域に位置する FliKT3S4 ドメインが部位特異的切断された FlhBC と相互作用できる。

し分析超遠心の沈降平衡法により Tm-FliPP の分子量およ

現させた際,FlhA-YFP はべん毛基部に 9 量体リングを形

びオリゴマー状態を解析した。その結果,Tm-FliPP は溶

成することができなかった (74)。べん毛蛋白質輸送シス

液中で安定なホモ 4 量体を形成していることが明らかと

テムと高い相同性を示すサルモネラ由来のインジェクティ

なった (25)。即ち,FliP は輸送ゲート複合体内でホモ 4

ソ ー ム の III 型 分 泌 装 置 で は,SpaP(FliP パ ラ ロ グ ),

量体を形成していると考えられる。

SpaQ(FliQ パラログ)および SpaR(FliR パラログ)が複

FliQ は,分子量 9.6 kDa で,2 本の膜貫通ヘリックスを

合体を形成した後に InvA(FlhA パラログ)および SpaS

持つ (52,80)。しかしながら,FliQ の機能構造について

(FlhB パラログ)がその周りに組み込まれる (93)。この

はほとんど知られておらず,その化学量論比も不明である。

ことから,FliO,FliP,FliQ および FliR は,FlhA や FlhB

FliR は,分子量約 29 kDa で,6 本の膜貫通ヘリックス

が効率よく輸送ゲート複合体に組み込まれるためのコア部

を持つ (52,80)。単離精製したべん毛基部体には約 2 分 子 程 度 の FliR が 存 在 す る (21)。 人 為 的 に 作 製 さ れ た

分を形成していると考えられる。 2)ATPase 複合体の構造

FliR-FlhB 融合蛋白質が機能的であることから,これら 2

FliI は,ATP 加水分解酵素で,その ATPase ドメインは

つの蛋白質は MS リングの中心孔で互いに相互作用し,そ

FOF1-ATP 合成酵素(F 型 ATPase とも呼ばれる)の β サブ

の化学量論比は 1 対 1 であると推察される (91)。遺伝学

ユニットと非常に高い相同性を示す (20,92)。X 線結晶

的解析から,2 番目と 3 番目の膜貫通ヘリックスの間に存

構造解析から,ATPase ドメインだけではなく,FliI の全 体構造が F 型 ATPase の α および β サブユニットの構造に

在する細胞質ループが,FlhA の 4 番目と 5 番目の膜貫通 ヘリックスの間に位置する非常に高く保存されている

酷似していることが明らかとなった (38)。FliI はホモ 6 量

FHIPEP ループと相互作用することが示されている (29)。

体リングを形成して ATP を加水分解し,べん毛蛋白質輸

fliO,fliP,fliQ あるいは fliR 欠損株内で FlhA-YFP を発

送を促進する (11,40,60)。最近,電子線トモグラフィー

356

日本細菌学雑誌 70( 3 ),2015

法により,FliI が in vivo でもリング複合体を形成している ことが示された(図 4)(9,39)。 FliJ は 2 本の長い α ヘリックスが互いに巻きついたコイ

5.べん毛蛋白質輸送の動力源 生体膜を越える物質輸送には ATP や細胞膜を横切るプ

ルドコイル構造の細長い分子である (34)。この FliJ の構 造も F 型 ATPase の γ サブユニットの構造と酷似している

ロトン駆動力などの生体エネルギーが使われる。ATPase である FliI が欠失した変異株ではべん毛が形成されないこ

ことが示された。γ サブユニットは α3β3 リング複合体の中

とから,FliI がべん毛蛋白質の輸送を駆動するエンジンで

心孔に突き刺さって回転軸として働く。FliI と FliJ を 6:1

あると長い間信じられてきた (94)。しかしながら,FliI の

の割合で混合すると,FliI リング複合体の形成頻度が著し

結合相手である FliH を,FliI と一緒に欠失させるとわず

く増加した。また,極低温電子顕微鏡を用いた FliI リング

かにべん毛が形成されることを見いだした。さらに,この ΔfliH-fliI 欠失株から運動能が回復したバイパス変異株を単

複合体および FliI6FliJ リング複合体の単粒子像の解析結果 は,FliJ が FliI リング複合体の中心孔に存在することを示

離した結果,FlhA や FlhB のバイパス変異により,FliH と

唆していた (34)。即ち,べん毛輸送装置の ATPase リング

FliI がなくてもべん毛蛋白質が効率よく輸送されること

複合体の構造までもが F 型 ATPase の一部と酷似している

が明らかとなった (70)。プロトン駆動力を消失できる

ことが示された。さらに興味深いことに,FliJ は Thermus

プロトノフォア(carbonyl cyanide m-chlorophenylhydrazone)

thermophilus 由来の V 型 ATPase の A3B3 リング複合体に結

で処理すると,野生株も ΔfliH-fliI バイパス変異株もべん

合し,部分的に回転軸として働くことが示された (43)。

毛蛋白質を全く輸送しなかった (70,85)。以上の結果から,

このことから,FliI6FliJ リング複合体は F 型 ATPase や V

輸送される蛋白質を解きほぐしながら輸送チャネル内に送

型 ATPase と同じような仕組みで ATP を加水分解すると

り込む過程は,輸送ゲート複合体自体がプロトン駆動力の

考えられる。

エネルギーを使って推進していると考えられる。

FliH は N 末端領域および C 末端領域のアミノ酸配列が

プロトン駆動力は,細胞膜を隔てた電位差(Δψ)と細

それぞれ F 型 ATPase の外周固定子である b サブユニット および δ サブユニットと高い相同性を示す (84)。FliH は

胞膜内外のプロトン濃度差(ΔpH)から構成される。輸送 ゲート複合体のみでも効率よくべん毛を形成できる ΔfliH-

溶液中では非常に細長い分子形状をしたホモ 2 量体として 存在し,FliI の N 末端近傍領域に結合する (65)。FliH が

fliI flhB(P28T) バイパス変異株では,プロトン駆動力が一 定に保たれていても,Δψ と ΔpH のどちらか一方を消失さ

C リング構成蛋白質である FliN に結合することで,べん

せるとべん毛蛋白質が輸送されないことが明らかとなった

毛蛋白質輸送が効率的に行われる (27)。FliH の N 末近

(67)。従って,輸送ゲート複合体に結合する ATPase 複合

傍領域に存在する非常に高く保存された 2 つのトリプト ファン残基(Trp-7,Trp-10)が FliN および FlhA と直接相

体がない場合には,輸送ゲート複合体はエネルギーとして Δψ と ΔpH を明確に区別して利用していると考えられる。

互作用する (28,73)。これらのトリプトファン残基をア

Δψ を一定にして ΔpH のみを増加させると,細胞外へ輸送

ラニンに置換すると,YFP を標識した FliI(FliI-YFP)の

されるべん毛蛋白質量は増加した (67)。さらに,溶媒を

べん毛基部への局在が阻害された (4,28,73)。従って,

水(H2O)から重水(D2O)に置換すると,べん毛蛋白質

FliI6FliJ リ ン グ 複 合 体 は FliH-FliN 相 互 作 用 お よ び FliH-

の輸送量が減少した (67)。以上の結果から,ΔpH 勾配に

FlhA 相互作用を介して輸送ゲート複合体のプラットフォー

沿ったプロトンの透過速度がべん毛蛋白質輸送過程の律速

ム構造に安定に結合できると考えられる(図 3)。

になっていることが示唆される。従って,プロトンが ΔpH 勾配に沿って輸送ゲート複合体を透過することがべ

最近,我々は YFP1 分子の蛍光を十分に計測できる高感 度の蛍光顕微鏡を用いてべん毛基部に局在している FliIYFP の数を見積もった結果,6 分子以上の FliI-YFP がべん

ん毛蛋白質輸送に必須であると考えられる。一方,野生株 では,べん毛蛋白質は,ΔpH を消失させても輸送されたが,

毛基部体の C リングおよび輸送ゲートプラットフォーム

Δψ を消失させると輸送されなかった (67,85)。このこと

に結合していること,FliI-YFP は ATP に依存せずに 1 分

は,輸送ゲート複合体は Δψ のみで効率よくべん毛蛋白質

間あたり約 6 回程度離合集散を繰り返していることを明ら

を輸送できることを示している。

かにした (4)。細胞質中では,FliI は FliH ホモ 2 量体と安

最近,FliH および FliI の助けにより FliJ が FlhA のリン

定な FliH2FliI ヘテロ 3 量体を形成する (65)。つまり,べ

カー領域に結合すると,輸送ゲート複合体が Δψ のみに依

ん毛基部には FliI6FliJ リング複合体以外に,FliH2FliI ヘテ

存した高効率な輸送エンジンに変化することが判明した

ロ 3 量体も FliH-FliN 相互作用および FliH-FlhA 相互作用

(35,67)。このことから,ATPase リング複合体により,

を介してべん毛基部に局在すると考えられる。精製した

プロトンが効率よく輸送ゲート複合体を介して細胞質内へ

FliH2FliI ヘテロ 3 量体が輸送シャペロン・基質複合体に結

流入できると推察される。

合することから (37,62,89),FliH2FliI ヘテロ 3 量体が

それでは,FliI による ATP の加水分解反応で生じるエ

細胞質内で合成された輸送基質蛋白質や輸送シャペロン・

ネルギーはどのように使われるのだろうか? FliI の触媒部

基質複合体を輸送ゲートプラットフォームまで効率良く搬

位に存在する Glu-211 残基は ATP の加水分解反応に直接

送していると考えられる。

関与する。E211Q 変異体では,ATP は FliI に結合するが, 357

図 7.べん毛蛋白質輸送モデル FliH,FliI,FliJ からなる ATPase リング複合体が ATP を加水分解すると,輸送ゲート複合体は活性化される。その結果,輸送ゲート複 合体が,FliH2FliI 複合体によって細胞質から運ばれてきたべん毛蛋白質を順次受け取り,細胞膜を横切るプロトン駆動力の膜電位の成 分をエネルギーに使って細胞外へ輸送する。CM は細胞膜を,Δψ は膜電位を示す。

加水分解されなかった (40)。一方,E211D 変異体では,

べん毛遺伝子の発現はべん毛形成過程に応じて制御される

ATP はわずかに加水分解され,その ATP 加水分解活性は

(10)。べん毛遺伝子の転写発現の階層性から,べん毛オペ

野生型レベルの 1/100 以下であった (68)。興味深いことに,

ロンは,クラス 1,2,3 の 3 つのグループに分類される(図

fliI(E211D) 変異株の 90%以上の菌体で,べん毛の数及び

8)。クラス 1 には flhD オペロンのみが属し,クラス 2 と 3

長さはともに野生株と比べて 1/2 程度にしか低下しなかっ

オペロン群の発現に必須であることからマスターオペロン

た (68)。さらに,fliI(E211Q) 変異株でも 17%程度の菌体で,

と呼ばれている。flhD オペロンには,FlhC と FlhD の 2 つ

野生株と比べて 1/4 程度の長さのべん毛が 1~2 本形成さ

の蛋白質がコードされている。2 分子の FlhC と 4 分子の

れた (68)。以上の結果から,ATP がほとんど加水分解さ

FlhD が会合し,FlhD4C2 複合体を形成する (94)。FlhD4C2

れなくても,輸送ゲート複合体はべん毛蛋白質を連続して

複合体は,正の転写制御因子として機能し,クラス 2 遺伝

輸送できることが示唆される。このことから,輸送ゲート

子群の転写を誘導する。クラス 2 には基部体やフックの形

複合体は ATP の消費を最小限に押さえながら,プロトン 駆動力の Δψ のみを使って高速にかつ高効率に動く輸送エ

成に関与する蛋白質に加え,クラス 3 遺伝子の転写を誘導

ンジンであると考えられる。FliI6FliJ リング複合体と FOF1-

するべん毛特異的 σ 因子(σ28)である FliA とそのアンチ σ 因子として働く FlgM も含まれる。フック・基部体が構

ATP 合成酵素の α3β3γ 複合体との機能構造の類似性から,

築されている間,FlgM が FliA に結合しているため,クラ

我々は,FliI6FliJ リング複合体が ATP 駆動型回転分子モー

ス 3 遺伝子群の発現は抑制される (81,82)。一方,フック・

ターとして働くことで輸送ゲート複合体を活性化するモデ ルを提案した(図 7)(68)。このモデルによれば,FliI に

基部体が完成すると,FlgM がフック・基部体を介して細 胞外へ放出され,その結果 FliA が σ28 としてクラス 3 遺伝

よる ATP 加水分解反応に伴って FliJ が FliI6 リング内を回

子群の発現を誘導する(図 8)(33,46)。クラス 3 には,

転すると,FliJ-FlhA 相互作用を介して FlhA が構造変化す

繊維形成に関与する蛋白質,べん毛モーターの固定子蛋白

る。その結果,輸送ゲート複合体が活性化され,Δψ のみ

質,感覚受容蛋白質,走化性蛋白質などがコードされている。

を使ってべん毛蛋白質を次から次へと細胞外方向へ送り出

サルモネラが作り出すフックの長さは比較的よく制御さ

すことができるというものである。 6.輸送スイッチによるべん毛遺伝子の発現制御 サルモネラでは,べん毛形成,モーター機能,感覚受容,

れており,55 nm よりも長すぎても短すぎても運動機能の 異常をきたす (31,95)。fliK 欠失株や flhB(N269A) 変異株 では,フックが十分な長さに到達してもフック形成が終了 しないため,ポリフックと呼ばれる異常に伸長したフック

および走化性反応を司る遺伝子として約 60 以上が知られ

が作り出される (24,31)。興味深いことに,これらの変

ており,これらの遺伝子は 19 以上のオペロンを形成して

異株では,ポリフックの先端にべん毛繊維は作られない。

いる。これらのべん毛オペロンは全体として統合された発

このことから,べん毛基部体の細胞質側にある輸送装置が

現制御を受けるべん毛レギュロンを形成するため,個々の

遙かに離れたところにあるフックの先端の構築段階をモニ

358

日本細菌学雑誌 70( 3 ),2015

図 8.べん毛レギュロンのカスケードモデル べん毛遺伝子の発現は,クラス 1,2,3 の順に発現する。フック・基部体が構築している間,FlgM がべん毛特異的 σ 因子(σ28)とし て機能する FliA に結合しているため,クラス 3 遺伝子群は発現しない。フックが 55 nm の長さに到達すると,FlgM は細胞外に放出され, その結果 FliA が σ28 として働いてクラス 3 遺伝子群の発現を誘導する。OM は外膜,PG はペプチドグリカン層,CM は細胞膜を示す。

ターし,その情報にもとづいて FlgM の輸送をオフからオ

感知するのか? FliK は,フック構築中にべん毛輸送装置

ンに切り替えると考えられる。フックの長さと FlgM を細

により輸送されるフック型蛋白質の一つで,べん毛一本あ

胞外へ排出するタイミングは,輸送装置の細胞膜内在性蛋

たり数分子程度が細胞外へ分泌される (57)。FliK の N 末

白質である FlhB と,フック長制御蛋白質である FliK の少

端領域の変異によって FliK 自身の分泌が阻害されると,

なくとも 2 種類の蛋白質により決定される (47,95)。基

べん毛繊維が形成される,されないにかかわらず,フック

部体とフックが構築されている間は,輸送装置は,ロッド

の長さは 55 nm より長くなる。このことから,FliK の分

やフックの形成に関わる蛋白質(ロッド・フック型蛋白質

泌がフックの長さ制御と輸送スイッチに重要であると考え

と呼ぶ)を輸送する。フックの長さが約 55 nm に達する

られる (57)。FliK は 405 アミノ酸残基からなる可溶性蛋

と FliK がフックの長さ情報を感知し,その情報を FlhB の

白質で,N 末端(FliKN)および C 末端(FliKC)の,少な

C 末端細胞質ドメイン(FlhBC)に伝える。その結果,輸

くとも 2 つのドメインから構成される (44,71)。FliKN は,

送装置の基質特異性が,ロッド・フック型輸送モードから

フックの先端に存在するフックキャップ蛋白質やフック蛋

FlgM やべん毛繊維の形成に関わる蛋白質(繊維型蛋白質

白質と相互作用する (76)。これらの相互作用がなくなる

と呼ぶ)の輸送モードへと切り替わる (64)。

と,フックの長さが 55 nm より長くなることから,FliKN

輸送装置の 2 つの基質認識モードは FlhBC の構造状態

はフックの長さを感知するセンサーであると考えられる

に依存している (64)。FliK パラログの間で高く保存さ

(69)。FliKN に適当な長さのアミノ酸配列を挿入したり欠

れている FliK の T3S4 ドメイン(FliKT3S4;T3S4 は Type III

失したりすると,その長さに依存してフックが長くなった

Secretion Substrate Specificity Switch)が FlhBC と相互作用

り短くなったりする (15,16,88)。これらの結果から,

することで示されている (56,78)。上述したように,FlhBC

輸送中の FliK が分子物差しとして機能することが示唆さ

は Asp-269 と Pro-270 の間で自己触媒的に切断される (64)。

れる。分子物差しモデルによれば,FliK はその輸送中に

N269A 変異により部位特異的切断反応が阻害されると,輸

FliKC を輸送装置の細胞質側に残したまま,FliKN がフック

送スイッチが起こらないためにポリフックが形成される

キャップやフックに結合してロッド+フックの長さを測定

(24)。したがって,輸送装置の基質認識モードの切り替え

する。フックが十分な長さに達していない場合,FliKC は

は,FlhBC の部位特異的切断反応とその後の FliKT3S4 との

FlhBC と相互作用するための適切な位置に配置されず,輸

相互作用による FlhBC の構造変化によって起こると考えら

送基質特異性の切り替えが起こらない。FliK はそのまま

れる(図 6A)。

細胞外へ分泌され,次の FliK 分子が輸送されるまでフッ

それでは,FliK はどのようにしてフックの長さ情報を

クの重合が続く。フックの長さが約 55 nm に到達すると, 359

FliKC と FlhBC の相互作用が可能な相対配置が初めて実現

安定化に寄与していることを示している。FlgN の C 末端

し,輸送基質特異性がロッド/フック型から繊維型に切り

領域に高く保存されている Tyr-122 をアラニンに置換する

替わる(図 6B)。

と,FlhAC に対する結合親和性が顕著に低下し,その結果

7.基質特異的輸送シャペロンによるべん毛繊維の 構築順序の決定

FlgK および FlgL はほとんど輸送されなかった (61)。以上 の結果から,FlgN シャペロンは FlgK および FlgL を効率よ く FlhAC にリクルートするために重要であると考えられる。

フックが完成すると,フック・繊維連結蛋白質である

FlhAC の D1 ドメインと D2 ドメインの境界面に存在す

FlgK および FlgL がフック先端に重合してフック・繊維連

る疎水性アミノ酸残基からなる窪みは,多くの細菌種で非

結部が構築される。この連結部の先端にべん毛繊維の構築

常に高く保存されている(図 5)。FlgN 欠損をバイパスで

を助ける繊維キャップが形成すると,その直下にフラジェ

きる変異が見つかった Asp-456 および Thr-490 も高く保存

リンである FliC が連続的に自己集合し,べん毛繊維が形

された残基であり,この疎水性の窪み内に存在する (61)。

成される。べん毛繊維は一本あたり 2~3 万分子程度のフ

この窪みに存在する Phe-459 をアラニンに置換すると,

ラジェリンで構成される。フック・繊維連結部および繊維

FlgK,FlgL,FliD および FliC の輸送量が顕著に減少したが,

キャップは,べん毛 1 本あたりそれぞれ 11 分子の FlgK

フック型蛋白質の輸送は全く影響されなかった (42,61)。

と 11 分 子 の FlgL そ し て 5 分 子 の FliD か ら な る (50,

野生型 FlhAC とは異なり,FlhAC(F459A) は FlgN/FlgK 複

51)。べん毛繊維が構築されるには,繊維よりも先にフッ

合体,FlgN/FlgL 複合体,FliT/FliD 複合体および FliS/FliC

ク・繊維連結部や繊維キャップが形成される必要がある

複合体にほとんど結合しなかった (42,61)。これらの結

(32,36)。それでは,どのようにしてマイナーコンポーネ

果から,輸送シャペロン・基質複合体は FlhAC の D1 およ

ントである FlgK,FlgL および FliD が莫大な量のフラジェ

び D2 ドメインの境界面に保存されている疎水性の窪みに

リンよりも優先的に輸送されるのか? FlgK および FlgL

結合すると考えられる。

の輸送には FlgN シャペロンが,FliD の輸送には FliT シャ

FlgN と同様に基質特異的輸送シャペロンである,FliT

ペロンが,フラジェリンである FliC の輸送には FliS シャ

の C 末端領域(FliTC)に高く保存されている Tyr-106 や

ペロンが必要とされる (2,3,8,23)。FlgN および FliT

FliS の N 末近傍領域(FliSEN)に高く保存されている Tyr-

は FliI や FliJ に結合するが,FliS は結合しない (18,37,

10 が,FliT や FliS の FlhA への結合に直接関与すること

62,87,89)。このことから,FliI や FliJ に対する各輸送シャ

が明らかとなった (42)。さらに,FliS の Tyr-10 をアラニ

ペロンの結合親和性が繊維型輸送基質蛋白質の輸送順序の

ンに置換すると,FliS のシャペロン活性が著しく低下した

決定に重要な役割を果たしていると推察される。

(42)。以上の結果から,FliT/FliD 複合体や FliS/FliC 複合

第 5 セクションで述べたように,FliH や FliI がない場 合でも,べん毛を効率よく形成できる ΔfliH-fliI flhB(P28T)

体は FlgN/FlgK 複合体と同じような様式で FlhAC に結合す ると考えられる。興味深いことに,FliT および FliS はそ

バイパス変異株が単離されている (70)。それでは,この

れぞれ FliD や FliC が存在するときにのみ FlhAC に結合で

ようなバイパス変異株では,輸送シャペロンは必要なのだ

きる (5,42)。Aquifex aeolicus 由来の FliS やサルモネラの

ろうか?この問いに答えるために,ΔfliH-fliI flhB(P28T) 変

FliT の結晶構造では,これらの保存されたチロシン残基

異株から flgN 遺伝子を欠失させたところ,FlgK や FlgL

は分子表面には露出していない (19,37)。一方,FliC が

の輸送量は著しく減少し,その結果べん毛繊維がほとん

FliS に結合すると,保存された Tyr-10 残基を含む FliSEN

ど形成されなかった (61)。さらに,ΔfliH-fliI flhB(P28T) ΔflgN 変異株から運動能が顕著に回復した変異株を単離し

が FliS のコアドメインから解離する (19)。このことから,

た と こ ろ,FlhAC の D1 ド メ イ ン に 変 異 を 持 つ ΔfliH-fliI

イッチとして働いていると示唆される。

flhB(P28T) ΔflgN flhA(T490M) 株と D2 ドメインに変異を持 つ ΔfliH-fliI flhB(P28T) ΔflgN flhA(D456V) 株が見つかった

質複合体と FlhAC との相互作用を定量的に解析した結果,

(61)。これらのバイパス変異株では,FlgN シャペロン非

FlgN/FlgK 複合体の FlhAC への結合親和性は FliT/FliD 複

存在下でも FlgK および FlgL の輸送が顕著に回復してい

合体に比べて僅かに高く,FliS/FliC 複合体に比べ 14 倍程

た こ と か ら,FlgN と FlhAC の 間 の 直 接 的 な 相 互 作 用 が

度高いことが明らかとなった (42)。以上の結果から,各

FliSEN や FliTC が FlhAC への結合親和性を制御する構造ス 表面プラズモン共鳴法により各輸送シャペロン・輸送基

FlgK と FlgL の輸送に重要であることが示唆された。この

輸送シャペロン・輸送基質複合体に対する FlhAC の結合親

遺 伝 学 的 知 見 と 一 致 し て, 精 製 し た FlgN お よ び FlgN/

和性の違いにより,マイナーコンポーネントである FlgK,

FlgK 複合体や FlgN/FlgL 複合体は FlhAC に結合し比較的

FlgL および FliD が FliC よりも優先的に輸送されるものと

安定な複合体を形成した (61)。表面プラズモン共鳴法に

推察される。

より FlhAC との相互作用を定量的に解析した結果,FlgN/ FlgK 複合体に対する FlhAC の結合親和性は FlgN 単独に比

8.おわりに

べて 3 倍程度高いことが判明した (42)。この結果は,輸

べん毛 III 型輸送装置の ATPase 複合体,結合プラット

送基質である FlgK が FlgN と FlhAC との間の相互作用の

フォームおよび基質特異的輸送シャペロンの機能と構造に

360

日本細菌学雑誌 70( 3 ),2015

ついてはこの 10 年間で大きく進展した。しかしながら, フック・基部体の精製過程で大部分の輸送装置構成蛋白質 が基部体から解離してしまうため,輸送ゲート複合体の全 体構造や各輸送ゲート構成蛋白質の化学量論比については 未だ明らかではない。さらに,輸送ゲート複合体のコア部 分を形成している FliO,FliP,FliQ,FliR,さらには FlhA や FlhB の膜貫通ドメインについての機能構造は全く明ら かになっていない。『どのように輸送ゲート複合体はエネ ルギーとして Δψ と ΔpH を明確に区別し利用するのか?』 『ATPase 複合体が輸送ゲート複合体プラットフォームに結 合すると,なぜ輸送ゲート複合体は Δψ のみで高効率にべ ん毛蛋白質を輸送できるのか?』『プロトンの透過経路 は?』『輸送基質蛋白質の透過経路は?』など,べん毛輸 送装置のエネルギー変換の仕組みを理解する上で重要な課 題が残されている。今後,これらの課題に取り組むために は,6 種類の膜蛋白質で構成される輸送ゲート複合体を in vitro で再構成し,入力エネルギーと蛋白質輸送量を定量 的に解析するとともに,X 線結晶構造解析や極低温電子顕 微鏡による構造解析が必要である。 昔から赤痢菌やペスト菌による病原性細菌の感染症は社 会問題の一つで,それらの感染機構の解明ならびに克服の ための方法の探索が続けられている。これらの病原性細菌 は,細胞表層に存在する III 型と呼ばれる蛋白質輸送装置 を用い,エフェクターと呼ばれる蛋白質群を宿主細胞内に 直接輸送する。送り込まれたエフェクターは宿主細胞の細 胞骨格や膜輸送系に作用して細胞表面に形態変化を引き起 こし,細菌の宿主細胞への侵入を助け,感染が成立する。 この III 型分泌装置はべん毛の輸送装置と遺伝的にも機能 的にも良く似ており,べん毛蛋白質輸送装置と同様の仕組 みで機能することが示されている (13,26,50,51)。そ のため,べん毛蛋白質輸送装置の動作機構が解明できれば, 病原菌による感染症の予防を含めた医療分野へも,多大な 貢献をするものと期待される。 謝   辞 大阪大学大学院生命機能研科プロトニックナノマシン研 究室の難波啓一教授,木下実紀氏,守屋奈緒氏,風谷謙一氏, 島田賢史氏,伊吹達也氏,森本雄祐氏,吉村晋輔氏,川本 晃大氏,原典孝氏,福村拓真氏を始めとする研究室の皆様 および大阪大学大学院理学研究科の今田勝巳教授の研究室 の皆様のおかげで,本総説で紹介した多くの研究成果をあ げることができました。FlhAC の結晶構造モデル図は大阪 大学理学研究科の今田勝巳教授に提供して頂きました。サ ルモネラ属菌の電子顕微鏡写真像は大阪大学大学院生命機 能研究科の宮田知子特任助教に提供して頂きました。電子 線トモグラフィー法により得られた輸送装置の電子密度 マップおよびその原子モデルは川本晃大氏に提供して頂き ました。この場を借りて,皆様に厚く御礼申し上げます。

発表内容に関連し,開示すべき COI 関係にある企業な どは無い。 文   献 1) Abrusci, P., Vergara-Irigaray, M., Johnson, S., Beeby, M.D., Hendrixson, D.R., Roversi, P., Friede, M.E., Deane, J.E., Jensen, G.J., Tang, C.M., Lea, S.M. (2013): Architecture of the major component of the type III secretion system export apparatus. Nat. Struct. Mol. Biol. 20, 99–104. 2) Aldridge, P., Karlinsey, J.E., Hughes, K.T. (2003): The type III secretion chaperone FlgN regulates flagellar assembly via a negative feedback loop containing its chaperone substrates FlgK and FlgL. Mol. Microbiol. 49, 1333–1345. 3) Auvray, F., Thomas, J., Fraser, G.M., Hughes, C. (2001): Flagellin polymerisation control by a cytosolic export chaperone. J. Mol. Biol. 308, 221–229. 4) Bai, F., Morimoto, Y.V., Yoshimura, S.D.J., Hara, N., Kami-ike, N., Namba, K., Minamino, T. (2014): Assembly dynamics and the roles of FliI ATPase of the bacterial flagellar export apparatus. Sci. Rep. 4, 6528. 5) Bange, G., Kümmerer, N., Engel, C., Bozkurt, G., Wild, K., Sinning, I. (2010): FlhA provides the adaptor for coordinated delivery of late flagella building blocks to the type III secretion system. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107, 11295–11300. 6) Barker, C.S., Samatey, F.A. (2012): Cross-complementation study of the flagellar type III export apparatus membrane protein FlhB. PLoS One 7, e44030. 7) Barker, C.S., Meshcheryakova, I.V., Kostyukova, A.S., Samatey, F.A. (2010): FliO regulation of FliP in the formation of the Salmonella enterica flagellum. PLoS Genet. 6, e1001143. 8) Bennett, J.C., Thomas, J., Fraser, G.M., Hughes, C. (2001): Substrate complexes and domain organization of the Salmonella flagellar export chaperones FlgN and FliT. Mol. Microbiol. 39, 781–791. 9) Chen, S., Beeby, M., Murphy, G.E., Leadbetter, J.R., Hendrixson, D.R., Briegel, A., Li, Z., Shi, J., Tocheva, E.I., Müller, A., Dobro, M.J., Jensen, G.J. (2011): Structural diversity of bacterial flagellar motors. EMBO J. 30, 2972–2981. 10) Chevance, F.F., Hughes, K.T. (2008): Coordinating assembly of a bacterial macromolecular machine. Nat. Rev. Microbiol. 6, 455–465. 11) Claret, L., Susannah, C.R., Higgins, M., Hughes, C. (2003): Oligomerization and activation of the FliI ATPase central to bacterial flagellum assembly. Mol. Microbiol. 48, 1349–1355. 12) Cohen, E.J., Hughes, K.T. (2014): Rod-to-hook transition for extracellular flagellum assembly is catalyzed by the L-ringdependent rod scaffold removal. J. Bacteriol. 196, 2387–2395. 13) Cornelis, G.R. (2006): The type III secretion injectisome. Nat. Rev. Microbiol. 4, 811–825. 14) Deane, J.E., Graham, S.C., Mitchell, E.P., Flot, D., Johnson, S., Lea, S.M. (2008): Crystal structure of Spa40, the specificity switch for the Shigella flexneri type III secretion system. Mol. Microbiol. 69, 267–276. 15) Erhardt, M., Hirano, T., Su, Y., Paul, K., Wee, D.H., Mizuno, S., Aizawa, S., Hughes, K.T. (2010): The role of FliK molecular ruler in hook-length control in Salmonella enterica. Mol. Microbiol. 75, 1272–1284. 16) Erhardt, M., Singer, H.M., Wee, D.H., Keener, J.P., Hughes, K.T. (2011): An infrequent molecular ruler controls flagellar hook length in Salmonella enterica. EMBO J. 30, 2948–2961. 17) Evans, L.D.B., Poulter, S., Terentjev, E.M., Hughes, C., Fraser,

361

18)

19)

20)

21)

22)

23)

24)

25)

26)

27)

28)

29)

30)

31)

32)

33)

G.M. (2013): A chain mechanism for flagellum growth. Nature 504, 287–290. Evans, L.D.B., Stafford, G.P., Ahmed, S., Fraser, G.M., Hughes, C. (2006): An escort mechanism for cycling of export chaperones during flagellum assembly. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 17474–17479. Evdokimov, A.G., Phan, J., Tropea, J.E., Routzahn, K.M., Peters, H.K., Pokross, M., Waugh, D.S. (2003): Similar modes of polypeptide recognition by export chaperones in flagellar biosynthesis and type III secretion. Nat. Struct. Biol. 10, 789–793. Fan, F., Macnab, R.M. (1996): Enzymatic characterization of FliI: an ATPase involved in flagellar assembly in Salmonella typhimurium. J. Biol. Chem. 271, 31981–31988. Fan, F., Ohnishi, K., Francis, N.R., Macnab, R.M. (1997): The FliP and FliR proteins of Salmonella typhimurium, putative components of the type III flagellar export apparatus, are located in the flagellar basal body. Mol. Microbiol. 82, 1035–1046. Ferris, H.U., Furukawa, Y., Minamino, T., Kroetz, M.B., Kihara, M., Namba, K., Macnab, R.M. (2005): FlhB regulates ordered export of flagellar components via autocleavage mechanism. J. Biol. Chem. 280, 41236–41242. Fraser, G.M., Bennett, J.C.Q., Hughes, C. (1999): Substratespecific binding of hook-associated proteins by FlgN and FliT, putative chaperones for flagellum assembly. Mol. Microbiol. 32, 569–580. Fraser, G.M., Hirano, T., Ferris, H.U., Devgan, L.L., Kihara, M., Macnab, R.M. (2003): Substrate specificity of type III flagellar protein export in Salmonella is controlled by subdomain interactions in FlhB. Mol. Microbiol. 48, 1043–1057. Fukumura, T., Furukawa, Y., Kawaguchi, T., Saijo-Hamano, Y., Namba, K., Imada, K., Minamino, T. (2014): Crystallization and preliminary X-ray analysis of the periplasmic domain of FliP, an integral membrane component of the bacterial flagellar type III protein-export apparatus. Acta Crystallogr. Sect. F Struct. Biol. Cryst. Commun. 70, 1215–1218. Galán, J.E., Lara-Tejero, M., Marlovits, T.C., Wagner, S. (2014): Bacterial type III secretion systems: specialized nanomachines for protein delivery into target cells. Annu. Rev. Microbiol. 68, 415–438. González-Pedrajo, B., Minamino, T., Kihara, M., Namba, K. (2006): Interactions between C ring proteins and export apparatus components: a possible mechanism for facilitating type III protein export. Mol. Microbiol. 60, 984–998. Hara, N., Morimoto, Y.V., Kawamoto, A., Namba, K., Minamino, T. (2012): Interaction of the extreme N-terminal region of FliH with FlhA is required for efficient bacterial flagellar protein export. J. Bacteriol. 194, 5353–5360. Hara, N., Namba, K., Minamino, T. (2011): Genetic characterization of conserved charged residues in the bacterial flagellar type III export protein FlhA. PLoS One 6, e22417. Hirano, T., Minamino, T., Macnab, R.M. (2001): The role in flagellar rod assembly of the N-terminal domain of Salmonella FlgJ, a flagellum-specific muramidase. J. Mol. Biol. 312, 359–369. Hirano, T., Yamaguchi, S., Oosawa, K., Aizawa, S. (1994): Roles of FliK and FlhB in determination of flagellar hook length in Salmonella typhimurium. J. Bacteriol. 176, 5439–5449. Homma, M., Iino, T. (1985): Locations of hook-associated proteins in flagellar structures of Salmonella typhimurium. J. Bacteriol. 162, 183–189. Hughes, K.T., Gillen, K.L., Semon, M.J., Karlinsey, J.E. (1993): Sensing structural intermediates in bacterial flagellar assembly by export of a negative regulator. Science 262, 1277–1280.

362

34) Ibuki, T., Imada, K., Minamino, T., Kato, T., Miyata, T., Namba, K. (2011): Common architecture between the flagellar protein export apparatus and F- and V-ATPases. Nat. Struct. Mol. Biol. 18, 277–282. 35) Ibuki, T., Uchida, Y., Hironaka, Y., Namba, K., Imada, K., Minamino, T. (2013): Interaction between FliJ and FlhA, components of the bacterial flagellar type III export apparatus. J. Bacteriol. 195, 466–473. 36) Ikeda, T., Asakura, S., Kamiya, R. (1985):“Cap”on the tip of Salmonella flagella. J. Mol. Biol. 184, 735–737. 37) Imada, K., Minamino, T., Kinoshita, M., Furukawa, Y., Namba, K. (2010): Structural insight into the regulatory mechanisms of interactions of the flagellar type III chaperone FliT with its binding partners. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107, 8812–8817. 38) Imada, K., Minamino, T., Tahara, A., Namba, K. (2007): Structural similarity between the flagellar type III ATPase FliI and F1-ATPase subunits. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104, 485–490. 39) Kawamoto, A., Morimoto, Y.V., Miyata, T., Minamino, T., Hughes, K.T., Namba, K. (2013): Common and distinct structural features of Salmonella injectisome and flagellar basal body. Sci. Rep. 3, 3369. 40) Kazetani, K., Minamino, T., Miyata, T., Kato, T., Namba, K. (2009): ATP-induced FliI hexamerization facilitates bacterial flagellar protein export. Biochem. Biophys. Res. Commun. 388, 323–327. 41) Kihara, M., Minamino, T., Yamaguchi, S., Macnab, R.M. (2001): Intergenic suppression between the flagellar MS ring protein FliF of Salmonella and FlhA, a membrane component of its export apparatus. J. Bacteriol. 183, 1655–1662. 42) Kinoshita, M., Hara, N., Imada, K., Namba, K., Minamino, T. (2013): Interactions of bacterial flagellar chaperone-substrate complexes with FlhA contribute to co-ordinating assembly of the flagellar filament. Mol. Microbiol. 90, 1249–1261. 43) Kishikawa, J., Ibuki, T., Nakamura, S., Nakanishi, A., Minamino, T., Miyata, T., Namba, K., Konno, H., Ueno, H., Imada, K., Yokoyama, K. (2013): Common evolutionary origin for the rotor domain of rotary ATPases and flagellar protein export apparatus. PLoS One 8, e64695. 44) Kodera, N., Uchida, K., Ando, T., Aizawa, S. (2015): Two-ball structure of the flagellar hook-length control protein as revealed by high-speed atomic force microscopy. J. Mol. Biol. 427, 406– 414. 45) Kubori, T., Shimamoto, N., Yamaguchi, S., Namba, K., Aizwa, S. (1992): Morphological pathway of flagellar assembly in Salmonella typhimurium. J. Mol. Biol. 226, 433–446. 46) Kutsukake, K. (1994): Excretion of the anti-sigma factor through a flagellar substructure couples flagellar gene expression with flagellar assembly in Salmonella typhimurium. Mol. Gen. Genet. 243, 605–612. 47) Kutsukake, K., Minamino, T., Yokoseki, T. (1994): Isolation and characterization of FliK-independent flagellation mutants from Salmonella typhimurium. J. Bacteriol. 176, 7625–7629. 48) Li, H., Sourjik, V. (2011): Assembly and stability of flagellar motor in Escherichia coli. Mol. Microbiol. 80, 886–899. 49) Lountos, G.T., Austin, B.P., Nallamsetty, S., Waugh, D.S. (2009): Atomic resolution structure of the cytoplasmic domain of Yersinia pestis YscU, a regulatory switch involved in type III secretion. Protein Sci. 18, 467–474. 50) Macnab, R.M. (2003): How bacteria assemble flagella. Annu. Rev. Microbiol. 57, 77–100. 51) Macnab, R.M. (2004): Type III flagellar protein export and flagellar assembly. Biochim. Biophys. Acta 1694, 207–217.

日本細菌学雑誌 70( 3 ),2015

52) Malakooti, J., Ely, B., Matsumura, P. (1994): Molecular characterization, nucleotide sequence, and expression of the fliO, fliP, fliQ, and fliR genes of Escherichia coli. J. Bacteriol. 176, 189–197. 53) McMurry, J.L., Van Arnam, J.S., Kihara, M., Macnab, R.M. (2004): Analysis of the cytoplasmic domain of Salmonella FlhA and interactions with components of the flagellar export machinery. J. Bacteriol. 186, 7586–7592. 54) Meshcheryakov, V.A., Kitao, A., Matsunami, H., Samatey, F.A. (2013): Inhibition of a type III secretion system by the deletion of a short loop in one of its membrane proteins. Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr. 69, 812–820. 55) Minamino, T. (2014): Protein export through the bacterial flagellar type III export pathway. Biochim. Biophys. Acta 1843, 1642–1648. 56) Minamino, T., Ferris, H.U., Morioya, N., Kihara, M., Namba, K. (2006): Two parts of the T3S4 domain of the hook-length control protein FliK are essential for the substrate specificity switching of the flagellar type III export apparatus. J. Mol. Biol. 362, 1148–1158. 57) Minamino, T., González-Pedrajo, B., Yamaguchi, K., Aizawa, S., Macnab, R.M. (1999): FliK, the protein responsible for flagellar hook length control in Salmonella, is exported during hook assembly. Mol. Microbiol. 34, 295–304. 58) Minamino, T., Iino, T., Kutuskake, K. (1994): Molecular characterization of the Salmonella typhimurium flhB operon and its protein products. J. Bacteriol. 176, 7630–7637. 59) Minamino, T., Imada, K., Namba, K. (2008): Mechanisms of type III protein export for bacterial flagellar assembly. Mol. BioSyst. 4, 1105–1115. 60) Minamino, T., Kazetani, K., Tahara, A., Suzuki, H., Furukawa, Y., Kihara, M., Namba, K. (2006): Oligomerization of the bacterial flagellar ATPase FliI is controlled by its extreme N-terminal region. J. Mol. Biol. 360, 510–519. 61) Minamino, T., Kinoshita, M., Hara, N., Takeuchi, S., Hida, A., Koya, S., Glenwright, H., Imada, K., Aldridge, P.D., Namba, K. (2012): Interaction of a bacterial flagellar chaperone FlgN with FlhA is required for efficient export of its cognate substrates. Mol. Microbiol. 83, 775–788. 62) Minamino, T., Kinoshita, M., Imada, K., Namba, K. (2012): Interaction between FliI ATPase and a flagellar chaperone FliT during bacterial flagellar export. Mol. Microbiol. 83, 168–178. 63) Minamino, T., Macnab, R.M. (1999): Components of the Salmonella flagellar export apparatus and classification of export substrates. J. Bacteriol. 181, 1388–1394. 64) Minamino, T., Macnab, R.M. (2000): Domain structure of Salmonella FlhB, a flagellar export component responsible for substrate specificity switching. J. Bacteriol. 182, 4906–4919. 65) Minamino, T., Macnab, R.M. (2000): FliH, a soluble component of the type III flagellar export apparatus of Salmonella, forms a complex with FliI and inhibits its ATPase activity. Mol. Microbiol. 37, 1494–1503. 66) Minamino, T., Macnab, R.M. (2000): Interactions among components of the Salmonella flagellar export apparatus and its substrates. Mol. Microbiol. 35, 1052–1064. 67) Minamino, T., Morimoto, Y.V., Hara, N., Namba, K. (2011): An energy transduction mechanism used in bacterial type III protein export. Nat. Commun. 2, 475. 68) Minamino, T., Morimoto, Y.V., Kinoshita, M., Aldridge, P.D., Namba, K. (2014): The bacterial flagellar protein export apparatus processively transports flagellar proteins even with extremely infrequent ATP hydrolysis. Sci. Rep. 4, 7579.

69) Minamino, T., Moriya, N., Hirano, T., Hughes, K.T., Namba, K. (2009): Interaction of FliK with the bacterial flagellar hook is required for efficient export specificity switching. Mol. Microbiol. 74, 239–251. 70) Minamino, T., Namba, K. (2008): Distinct roles of the FliI ATPase and proton motive force in bacterial flagellar protein export. Nature 451, 485–488. 71) Minamino, T., Saijo-Hamano, Y., Furukawa, Y., GonzálezPedrajo, B., Macnab, R.M., Namba, K. (2004): Domain organization and function of Salmonella FliK, a flagellar hook-length control protein. J. Mol. Biol. 341, 491–502. 72) Minamino, T., Shimada, M., Okabe, M., Saijo-Hamano, Y., Imada, K., Kihara, M., Namba, K. (2010): Role of the C-terminal cytoplasmic domain of FlhA in bacterial flagellar type III protein export. J. Bacteriol. 192, 1929–1936. 73) Minamino, T., Yoshimura, S.D.J., Morimoto, Y.V., GonzálezPedrajo, B., Kami-ike, N., Namba, K. (2009): Roles of the extreme N-terminal region of FliH for efficient localization of the FliH-FliI complex to the bacterial flagellar type III export apparatus. Mol. Microbiol. 74, 1471–1483. 74) Morimoto, Y.V., Ito, M., Hiraoka, K.D., Che, Y-S., Bai, F., Kamiike, N., Namba, K., Minamino, T. (2014): Assembly and stoichiometry of FliF and FlhA in Salmonella flagellar basal body. Mol. Microbiol. 91, 1214–1226. 75) Morimoto, Y.V., Minamino, T. (2014): Structure and function of the bi-directional bacterial flagellar motor. Biomolecules 4, 217–234. 76) Moriya, N., Minamino, T., Hughes, K.T., Macnab, R.M., Namba, K. (2006): The type III flagellar export specificity switch is dependent on FliK ruler and a molecular clock. J. Mol. Biol. 359, 466–477. 77) Moriya, N., Minamino, T., Imada, K., Namba, K. (2011): Genetic analysis of the bacterial hook-capping protein FlgD responsible for hook assembly. Microbiology 157, 1354–1362. 78) Morris, D.P., Roush, E.D., Thompson, J.W., Moseley, M.A., Murphy, J.W., McMurry, J.L. (2010): Kinetic characterization of Salmonella FliK-FlhB interactions demonstrates complexity of the Type III secretion substrate-specificity switch. Biochemistry 49, 6386–6393. 79) Nambu, T., Minamino, T., Macnab, R.M., Kutsukake, K. (1999): Peptidoglycan-hydrolyzing activity of the FlgJ protein, essential for flagellar rod formation in Salmonella typhimurium. J. Bacteriol. 181, 1555–1561. 80) Ohnishi, K., Fan, F., Schoenhals, G.J., Kihara, M., Macnab, R.M. (1997): The FliO, FliP, FliQ, and FliR proteins of Salmonella typhimurium: putative components for flagellar assembly. J. Bacteriol. 179, 6092–6099. 81) Ohnishi, K., Kutsukake, K., Suzuki, H., Iino, T. (1992): A novel transcriptional regulation mechanism in the flagellar regulon of Salmonella typhimurium: an anti-sigma factor inhibits the activity of the flagellum-specific sigma factor, σF. Mol. Microbiol. 6, 3149–3157. 82) Ohnishi, K., Kutsukake, K., Suzuki, H., Iino, T. (1990): Gene fliA encodes an alternative sigma factor specific for flagellar operons in Salmonella typhimurium. Mol. Gen. Genet. 221, 139–147. 83) Ohnishi, K., Ohto, Y., Aizawa, S., Macnab, R.M., Iino, T. (1994): FlgD is a scaffolding protein needed for flagellar hook assembly in Salmonella typhimurium. J. Bacteriol. 176, 2272–2281. 84) Pallen, M.J., Bailey, C.M., Beatson, S.A. (2006): Evolutionary links between FliH/YscL-like proteins from bacterial type III secretion systems and second-stalk components of the FoF1

363

and vacuolar ATPases. Protein Sci. 15, 935–941. 85) Paul, K., Erhardt, M., Hirano, T., Blair, D.F., Hughes, K.T. (2008): Energy source of the flagellar type III secretion. Nature 451, 489–492. 86) Saijo-Hamano, Y., Imada, K., Minamino, T., Kihara, M., Shimada, M., Kitao, A., Namba, K. (2010): Structure of the cytoplasmic domain of FlhA and implication for flagellar type III protein export. Mol. Microbiol. 76, 260–268. 87) Sajó, R., Liliom, K., Muskotál, A., Klein, A., Závodszky, P., Vonderviszt, F., Dobó, J. (2014): Soluble components of the flagellar export apparatus, FliI, FliJ, and FliH, do not deliver flagellin, the major filament protein, from the cytosol to the export gate. Biochim. Biophys. Acta 1843, 2414–2423. 88) Shibata, S., Takahashi, N., Chevance, F.F.V., Karlinsey, J.E., Hughes, K.T., Aizawa, S. (2007): FliK regulates flagellar hook length as an internal ruler. Mol. Microbiol. 64, 1404–1415. 89) Thomas, J., Stafford, G.P., Hughes, C. (2004): Docking of cytosolic chaperone-substrate complexes at the membrane ATPase during flagellar type III protein export. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 3945–3950. 90) Ueno, T., Oosawa, K., Aizawa, S. (1992): M ring, S ring and proximal rod of the flagellar basal body of Salmonella typhimurium are composed of subunits of a single protein, FliF. J. Mol. Biol. 227, 672–677. 91) Van Arnam, J.S., McMurry, J.L., Kihara, M., Macnab, R.M. (2004): Analysis of an engineered Salmonella flagellar fusion

protein, FliR-FlhB. J. Bacteriol. 186, 2495–2498. 92) Vogler, A.P., Homma, M., Irikura, V.M., Macnab, R.M. (1991): Salmonella typhimurium mutants defective in flagellar filament regrowth and sequence similarity of FliI to F0F1, vacuolar, and archaebacterial ATPase subunits. J. Bacteriol. 173, 3564–3572. 93) Wagner, S., Königsmaier, L., Lara-Tejero, M., Lefebre, M., Marlovits, T.C., Galán, J.E. (2010): Organization and coordinated assembly of the type III secretion export apparatus. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107, 17745–17750. 94) Wang, S., Fleming, R.T., Westbrook, E.M., Matsumura, P., McKay, D.B. (2006): Structure of the Escherichia coli FlhDC complex, a prokaryotic heteromeric regulator of transcription. J. Mol. Biol. 355, 798–808. 95) Williams, A.W., Yamaguchi, S., Togashi, F., Aizawa, S., Kawagishi, I., Macnab, R.M. (1996): Mutations in fliK and flhB affecting flagellar hook and filament assembly in Salmonella typhimurium. J. Bacteriol. 178, 2960–2970. 96) Yonekura, K., Maki, S., Morgan, D.G., DeRosier, D.J., Vonderviszt, F., Imada, K., Namba, K. (2000): The bacterial flagellar cap as the rotary promoter of flagellin self-assembly. Science 290, 2148–2152. 97) Zarivach, R., Deng, W., Vuckovic, M., Felise, H.B., Nguyen, H.V., Miller, S.I., Finlay, B.B., Strynadka, N.C. (2008): Structural analysis of the essential self-cleaving type III secretion proteins EscU and SpaS. Nature 453, 124–127.

Structure and function of the bacterial flagellar type III protein export system in Salmonella Tohru MINAMINO1 1

Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University

The bacterial flagellum is a filamentous organelle that propels the bacterial cell body in liquid media. For construction of the bacterial flagellum beyond the cytoplasmic membrane, flagellar component proteins are transported by its specific protein export apparatus from the cytoplasm to the distal end of the growing flagellar structure. The flagellar export apparatus consists of a transmembrane export gate complex and a cytoplasmic ATPase ring complex. Flagellar substrate-specific chaperones bind to their cognate substrates in the cytoplasm and escort the substrates to the docking platform of the export gate. The export apparatus utilizes ATP and proton motive force across the cytoplasmic membrane as the energy sources to drive protein export and coordinates protein export with assembly by ordered export of substrates to parallel with their order of assembly. In this review, we summarize our current understanding of the structure and function of the flagellar protein export system in Salmonella enterica serovar Typhimurium.

364

[Structure and function of the bacterial flagellar type III protein export system in Salmonella
].

The bacterial flagellum is a filamentous organelle that propels the bacterial cell body in liquid media. For construction of the bacterial flagellum b...
5MB Sizes 0 Downloads 10 Views