第72回 日本 内科 学 会 講 演 会(1975年)
シン ポ ジウ ム 慢性 呼 吸 不全 (1) 慢 性 呼 吸 不 全 の 病 態 と そ の 背 景 慶応義塾大学医学部内科学教室 横 SYMPOSIUM (1)
山
哲
朗
ON CHRONIC RESPIRATORY FAILURE
CHRONIC RESPIRATORY DISTRESS--CLINICAL
SIGNIFICANCE
OF ARTERIAL BLOOD GAS ABNORMALITIES Tetsuro YOKOYAMA, M.D. Department of Medicine, School of Medicine, Keio University, Tokyo 1.緒
論,慢 性 呼 吸不 全 の 定義
2.対
象 な らび に方 法
呼 吸不 全 と表 現 され る病 的 状 態 を診 断 す る基 準
臨 床 検 査 の 目的 で 動 脈 姦 検 査 を 実 施 した 合 計
に 関 し,現 時点 に お い て普 辺 的 な条 件 が きめ られ
3638件 の うち,同 一 症 例 に繰 返 して 実施 した 検査
て は い な い.著 者 は"原 因 の如 何 を問 わ ず 動脈 血
成 績 は これ を 除 外 し, 1症 例 に1回 の み の成 績 を
ガ ス(と くにO2お よびCO2)が 異 常 な値 を 示 し,そ
と りあ げ た.室 内 気 呼 吸 時 に動 脈 血 採 血 を 行 な う
れ が た め に生 体 が 正 常 な機 能 を営 み 得 な くな つ た
こ とが で きた2983症 例 の成 績 を 主 と しに 述 べ る.
状 態"を 呼 吸不 全 と定 義 す る こ と と し,そ の状 態
こ の うちル チ ー ンの ス パ イロ メ ト リーを動 脈 血検
が 相 当長 期 間,少 な く とも1ヵ 月 以上 に わ た つ て
査 と同 一 の 日に 行 な い 得 た もの は1116例 で あ つ
持 続 す る とき,こ れ を慢 性 呼 吸 不 全 と呼 ぶ こ と と
た.ス パ イロ メ トリーを平 行 的 に 実 施 し得 な か つ
した.本 報 告 に お い には,こ
の考 え方 に も とつ い
た 症 例 の中 に は,ス パ イ ロ メ トリーに 耐 え られ な
て動 脈 血ガ ス分 析 の成 績 を中 心 に 臨 床 例 に み られ
い病 状 の も のが 少 な か らず 含 ま れ て い た.な お酸
た 呼 吸 不 全 症 例 の病 態 をそ の背 景 とな つ た 疾患 の
素 療 法 中 に動 脈 血 検 査 を 行 な わ ね ば な らな か つ た
検 討 を含 め て述べ た.な
146例 に つ き得 られ た 成 績 に つ い て も後 述 す る.
お検 討 の 対 象 と した症 例
対 象 症 例 の病 名 は 一 部 に は生 検,手 術 あ るい は
は 無 作 為 的 に え らば れ た も ので も,あ るい は 予 め
剖 検 に よ り確 認 され た もの もあ つ た が,原 則 と し
作 製 せ られ た 実 験 計 画 に よつ に抽 出 され た もの で
てX線 所 見 お よび肺 機 能 検 査 所 見 を 含 め た 臨 床 知
も な く,担 当医 師 が 検 査 を必 要 と判 断 して え らん 見 に も とつ い て きめ られ た.肺 線 維 化 に つ い て は
だ 症 例 であ るが 故 に この 成 績 のみ か ら全 般 の疫 学
原 園 を知 り得 た も の につ い ては これ を別個 に 分 類
的 動 向 の詳 細 を 把 握 す る こ とは期 待 で きな い が,
した."細
気 管 支 炎症 候 群bronchio1itis syndrome"
今日 の 臨 床 にお け る問 題 点 を 明 らか に な し得 る も
と した もの は 末梢 肺 領 域に 局 在 す る病 変 に よ り
の と考 えた.ま た解 析 を ル チ ー ンの臨 床 検 査 成 績
自他 覚 的 臨 床 症 状 を呈 す る一 群 の肺 疾 患 で,こ
に 限 定 した の も,ま ず 基 本 的 問 題 点 を 的 確 に理 解
に と りあげ た 他 の 疾患 か ら 除 外 され た もの を い
す る こ とが 必 要 と考 えた か らで あ る.
う.
(2)
日内 会 誌 第64巻 第11号
こ
横山
分 析 に供 した 動 脈 血 試 料 は,背 臥 位 に て恒 常 状
哲 朗
1213
び に標 準 偏 差,動 脈 血O2分 圧 が75TORR以
態 を保 た せ た 患 者 の肘 動 脈 よ りヘ パ リン溶 液 で密 封 し た ガ ラ ス製10m1ル ア ー ロ ッ ク注 射 器 に 採 取
な らび にそ の対 象症 例数 に対 す る百 分 比 を 発 現 率
し,予 め 較 正 をす ませ たILメ
と して示 した(表1).
ー タ ー113型
い,可 及 的 速 や か にO2分 圧,CO2分
を用
圧, pHの 測 定
が75TORR以
づ
肺 胞気 ・動 脈 血O2分 圧 較 差(AaDo2)を
下 で あつ た 症 例 数
健 常 者159例 中空 気 呼 吸 時 に そ の動 脈血O2分 圧
を行 なつ た.採 血 よ り分 析 ま で の経 過 時 間 に も と い て測 定 値 の補 正 を行 な つた.
下, 50TORR以
下,
70TORR以
下 で あ つ た もの は1例
も なかつ
た.疾 患 例 で動 脈 血O2分 圧 が75TORR以
下を示
した も のの うち 著者 が確 認 し得 た もの 全 例 で 無 視
算 出す
るた めに肺 胞 気O2分 圧 を ガ ス 交 換 率 を0.83と 仮
で き な い程 度 の 自 ・他覚 的 異 常所 見 が あつ た.動
定 しに肺 胞 式 を用 い て求 め た.
脈 血O2分 圧 が75TORR以 下 で あ つた 症 例 と70 TORR以 下 で あ つ た もの との間 には 症例 数 に し
3.成
績
て374例,発
1) 動 脈 血O2分 圧:
下 の も の の発 現 率 は肺 塞 栓 症,各 種 肺 臓 炎,局 在 性 お よび び まん 性肺 線維 化,肺 気 腫,肺 が ん な ら び に各 種 心 疾 患 に お い に70%を こえ てい た.動 脈
均 値 な らび に そ の標 準 偏差 は75.0±27.1TORR であ り,そ の うち1484例(49.7%)で は 動 脈血O2
TORR以
下, 1110例(37.2%)で は70 た243例(8.2%)で は それ が50
下 で あ つた(表1).表1に
血O2分 圧 が50TORR以 塞 栓 症,び
は対象症例
の疾 患別 内訳 を症 例 数,動 脈血O2分 圧 平 均 値 な ら
Table
2.
oxygen Table
1.
Classified
standard ence
deviation of
arterial
indicate
prevalence.
fibrotic
diffuse
change
fibrotic
pulmonary CIN
pulmonary systemic
of
change
or
occupational fibrotic
of
the
Po2 Figures
the the
irradiation
caused
and
the
**DIF
FIB
***IAT
FIB
by therapy.
change
accompanied
of of
caused
by
accompanied
FIB: the
(3)
75 in
of
tort the
FIB:
in
cases
parenthesis
localized
**DIF
FIB:
diffuse
FIB:
pulmonary
BLEOMYCIN
therapy.
FIB: the
arterial
of
arterial
indicate
FIB:
change
fibrotic
change
fibrotic
diseases.
cha
or by
occupational
pulmonary
systemic
the
fibrotic
treatment
****OCC
by
with
terms
***IAT
moconiosis. •›SYST
diseases.
昭 和50年11月10日
lungs. lungs.
diation
****OCC
by
Figures *LOC
the the
numbers
below
tension.
nge
BLEOMY
pneumoconiosis. •›SYST
Classified
prevalence.
par
locali
下 の もの の 発 現 率 は肺
まん性 肺 線 維 化,系 統 疾 患 に合 併 した
tension
CO2
preval
FIB:
lungs. lungs.
mean and in
*LOC
change by
cases,
arterial Po2.
of
fibrotic
treatment
FIB:
the
depressed
enthesis zed
numbers for
差 が あつ た.
疾 患 別 に み る と 動 脈 血O2分 圧 が75TORR以
検 討 の 対 象 と した2983例 の 動 脈 血02分 圧 の 平
分圧 が75TORR以 TORR以 下,ま
現 率 に して12.5%の
fibrotic
irra pneu
change
1214
シ ンポ ジ ウム 慢性 呼 吸不 全(1)
肺 線 維 化,肺
で あつ た 疾 患 は 肺 塞 栓 症30.92±16.51TOR
結 核 な らび に 胸 か く変 形 例 に お い て
高 値 を 示 し,こ
れ と 前 述 した75TORR以
R,サ
下 の発
ル コ イドー シ ス33.60±3.14TORRで
あ
現 率 と は 必 らず し も 平 行 的 な 関 係 に な く,疾 患 に
つ た.
よ る 傾 向 の 若 干 の 差 異 の存 在 を 示 して い た.肺
動 脈 血O2分 圧 が75TORR以 下 の 呼吸不全例 1484例 に つ い て動 脈 血CO2分 圧 を み た(表2).動
・
胸 か く系 に 病 変 を 認 め な い そ の 他 の 疾 患 に お い て も481例
中141症(29.3%)に
TORR以
動 脈 血O2分
脈 血CO2分 圧 が36な い し45TORRの 範 囲内にあ つ た もの は766例(51.6%)で あ り, CO2分 圧 が46
圧 が75
下 の も の が 見 られ た.
2)動
脈 血CO2分
圧:
2983症 例 の 動 脈 血CO2分
圧 の 平均 値 な らび 目標
準 偏 差 は40.42±24.72TORRで
圧平
炎,気 管 支 拡 張 症,肺 結 核 症,胸 か く変 形 例 で は
圧平均値が
動脈 血CO2分 圧 が 異 常 な 高 値 を 呈 した もの が35 TORR以 下 の異 常 な低 値 を呈 した もの よ り多 か つ た.し か る に細 気 管 支 炎 症 候 群,肺 臓 炎,各 種
に つ い て のCO2分
患 別 に み て 動 脈 血CO2分
45.0TORRを
こえ て い た もの は 気 管 支 拡 張 症
45.22±50.13TORR,肺 TORR,胸
Table
方CO2分
3.
on
and
1484
cases
localized
FIB:
diffuse
FIB:
pulmonary•@
OCC FIB: the
with
fibrotic•@
FIB:•@
respiratory•@
change
or
occupational fibrotic
of of
change by
irradiation
distress. the
the
lungs. lungs.
caused
症,心 疾 患 な どに お い て はCO2分 圧 が 異 常 な 低 値 を示 した症 例 が高 値 を示 した も の よ り多 く,こ と
下 for
difference•@
change•@
fibrotic
pulmonary
deviation
tension
fibrotic
treatment
systemic
standard
oxygen
FIB:
MYCIN
圧 平 均 値 が35.0TORR以
Mean
alveolar-arterial ned
の肺 線維 化,肺 が ん,サ ルコ イ ドー シス,肺 塞 栓
結 核 症49.57±15.00
か く変 形62.15±21.75TORRで
あ つ た.一
Table
the
on
*LOC
therapy.
accompanied
Mean
85
cases
spirometry.
**DIF
of
***IAT by
4.
veolar-arterial
obtai•@
of
BLEO
the the
ange
****
radiation
pneumoconiosis. •›SYST change
れが
み られ た.疾 患 別 に み る と喘 息,肺 気 腫,気 管 支
均 値 な ら び に 標 準 偏 差 は39.20±4.15TORRで あ つ た.疾
あ つ た もの316例(21.3%),そ 下 で あ つ た もの402例(27.1%)が
の
あ つ た.こ
中 に 含 ま れ る 健 常 例159例
TORR以上 35TORR以
by
and
standard
oxygen
tensicn
of
lung.
caused
FIB:
**DIF
by therapy.
change
(4) 日
accomanied
the
change
or
FIB:
FIB: by
normal
fibrotic
treatment
****OCC
ch by
ir
occupational
pulmonary
systemic
al
change
fibrotic
pulmonary
BLEOMYCIN
pneumoconiosis. •›SYST
diseases.
with fibrotic
diffuse
FIB:
the
obtained
distress localized
FIB:
***IAT
for
difference
respiratory
*LOC
lungs.
deviation
fibrotic
diseases.
内 会 誌 第64巻 第11号
横山
に 職 業 じ ん 肺,系
統 疾 患 に 合 併 し た 肺 線 維 化,サ
ル コ イ ドー シ ス,肺 疾 患 例 の50%以
塞 栓 症,心
上 がCO2分
標 準 偏 差 を み る とそ の大 き さに は著 しい疾 患 別 差
下 を 呈
異 が あ り,そ
す る こ とが わ か つ た. 3)肺
胞 気 ・動 脈 血O2分
圧 較 差(AaDo2):
26.45±43.14TORR,こ
の うち に 含 ま れ る
159例 の 健 常 例 のAaDo2の
た.表3に
圧 が75TORR以
下 の 呼
検 討 し た(表3).AaDo2の
上 廻 つ て い た.と
の は 肺 臓 炎,び 線 維 化,職
ま ん 性 肺 線 維 化,治
業 じ ん 肺,肺
塞 栓 症,心
が ん,サ
例 のみに ついて 求め
般 に つ い て 求 め たAaDo2の
あ つ
TORR,表3)よ 2983症 り,な
きか つ た
は31例,
圧 が90TORR以
お か つAaDo2が20TORR以 AaDo2が25TORR以
上 あ つ た もの
例 み られ た.ま
で あ る に も か か わ らずAaDo2が10TORR以
必
た 動 脈 血O2分
圧 が75TORR以
症 例 が44例 み られ た.
らず し も正 規 分 布 す る わ け で は な い の で 測 定 値 の
4)ス
パ イ ロ メ ト リ ー と 動 脈 血 ガ ス:
Table 5. Arterial O2 tension, CO2 tension and alveolar-arterial O2 tension difference in terms of the types of ventilatory capacity. Figures without parenthesis indicate numbers of subjects and figu res in the parenthesis represent percent prevalence. *INDEX: percent (FEV1/predicted VC), **NO RMAL: normal spirometry, ***RESTR: restrictive ventilatory impairment, ****COMBINED: com bined ventilatory impairment, *****OBSTRUCT: obstructive ventilatory impairment.
昭和50年11月10日
(5)
上 あ
上 あ つ た も の は17
ル コ イ ドー シ AaDo2は
その平
り僅 か な が ら小 さ か つ た.
例 中 動 脈血O2分
療 に 伴 な う肺
臓 疾 患 例 で あ つ た.
まと 平均 値
均 値 は 呼 吸 不 全 症 例 全 体 に つ い て 求 め た 値(38.10
ず れ も25TO
く にAaDo2が大
の85症
平 均 値 な ら び に 標 準 偏 差 を 表4に
な び ら に 標 準 偏 差 は133.70±8.50TORRで
平
み られ る とお り 疾 患別 に み たAaDo2の
平 均 値 は 胸 か く変 形 例 を 除 い て,い
ス,肺
たAaDo2の め た(表4).全
の 動 脈 血O2分
率が 正常範囲内 にあつ た もの
が85症 例 あ つ た.こ
そ れ は6.86±6.04TO
均 値 な らび に 標 準 偏 差 は38.10±32.01で
RRを
肺 活 量 お よ び1秒
あ つ た.
吸 不 全 例 のAaDo2を
均 値 の 大 小 とは 必 らず
呼 吸 不 全 例 の う ち よ り,ス パ イ ロ メ ト リ ー で%
平 均 値 な らび に 標 準 偏 差 は
1484例
の に 小 は,平
し も 平 行 的 な 関 係 に は な か つ た(表3).
2983症 例 のAaDo2の
RRで
1215
バ ラ ツキ の 度 合 の 半 定 量 的指 標 に しか す ぎ な い が
疾 患 の よ うに 当該
圧35TORR以
哲 朗
下 下 の
1216
シ ン ポ ジ ウ ム 慢 性 呼 吸 不 全(1)
ス パ イ ロ メ ト リー と動 脈 血 ガ ス分 析 とを同 じ
とな る1116症 例 の 内 訳 を 表5に
示 した.
に実 施 し得 た1116症 例 に つ い て,換 気 能 力 と動 日脈
(73.8%)はCO2分
血 との 関 係 を 調 べ た(表5).換
範 囲 内に あつ た. CO2分 圧 が45TORRを
気 能 力 は1秒 量 の
圧 が36な い し45TORRの
予測 肺 活 量 に 対 す る 百 分 比(以 下 指 数indexと 略
もの は,
記),%肺
CO2分 圧 が35TORR以
活 量 と1秒 率 につ き区 分 し た 正 常 換 気
118例(10.6%)あ
機 能,拘 束 性,混 合性 お よび 閉 塞性 各換 気 障 害 に つ き検 討 した.動 脈 血O2分 圧 が75TORR以 下の
例(15.6%)み
症 例 は439例(39.3%),
TORR以
273例(24.5%), (2.4%)あ
70TORR以
50TORR以
ORR以
下 の 症 例 は27例
こ えた
つ た の に 対 し て, 下 で あつ た 症 例 は,
174
られ た.換 気 能 力 の型 別 に み る と混 下 の症 例 数 が45TORR以
上 の ものよ
り多 か つ た.こ の 傾 向 は 拘束 性 障害 例 に と くに 著
つ た.
し く認 め られ た,し か しな が ら指数35以 下 の 症例
下 の もの は192例(58.2%),
下 の もの は130例(39.4%),
以 下 の もの は14例(4.2%)で
にか ん しにはCO2分 圧 が45TORRを
70T
が, CO2分 圧35TORR以
50TORR
こえ る 症例
下 の もの よ り多 く 認 め
られ た.
あ つ た(表5).
動脈ま 血O2分 圧75TORR以
換 気 能 力 の 型 と 動 脈 血 ガ ス との 関 係 を02分 圧 75TORR以
正常
合 性 換 気 障 害 例 を除 い て 他 はす べ てCO2分 圧 が35
下 の症 例 は
指 数35以 下 の症 例330例 につ い てみ る と,O2分 圧75TORR以
824例
下 を 呈 し た 呼 吸不
全 例 のCO2分 圧 を み る と,そ れ が 正 常 範 囲 内 に あ
下 の 症例 に つ い て み る と,正 常 換 気
つ た もの の百 分 比 に は 著 しい差 異 が な か つ た が,
能 力 で はそ の20.0%が これ に 該 当 す る に過 ぎなか つ た が 拘 束 性 障 害 例 では, 41.4%,閉 塞 性 障 害例
CO2分 圧 が45TORRを
で は51.7%,混
全体 の症 例 に おけ る と き逆 転 して い た(表6).こ れ を換 気 能 力 別 に み る と正 常,拘 束 性 あ るい は 閉
TORR以
合 性 障 害例 で 最 も高 率 に62.8%が
これ に 該 当 して い た.動 脈血O2分 圧 が50TORR 以 下 の 症 例 は 合 計27例 に す ぎず,詳 細 な比 較 を行 な うに は十 分 で な か つ た が,拘 束 性 障 害 例 で 最 も
こえ た もの の 百 分 比 と35
下 で あつ た もの の 百分 比 と の関 係 が,
塞 性 障 害 例 で は,両 者 の関 係 は 全体 につ いて み た
多 く,そ の百 分 比 に つ い てみ て も拘 束 性 障 害 例 で
場 合 に較 べ に大 き な差 は な く,混 合 性 障 害 例 に お い にCO2蓄 積 を 呈 す る症 例 が比 較 的 に 増加 してい
最 も高 値 が み られ た.
た の がわ かつ た.
疾 患 例 に も これ を 検 討 した が,こ
1116症 例 に つ い にAaDo2を み る とそ れ は 広 範 囲
こで は そ の代
表 と して肺 気 腫 とび まん 性 線 維 化例 を 対 比 させ て
に分 布 して お り, 20TORRを
述 べ る.肺 気 腫 症 例124例 つ た も のは93例(75.0%)で
%に み られ た.拘 束 盤 障 害,混 合 性 障 害 お よ び閉
が75TORR以 た.び
中,指 数 が35以 下 で あ あ り,こ の うちO2分 圧
下 の もの は54例(58.1%)で
の が33例(62.3%)み ORR以
塞 性 障 害 を呈 した 症 例 に お い てAaDO2の 分 布 のパ タ ー ンに 著 明 な差 異 を見 出 し得 なか つ た(表5).
あっ
ま ん性 肺 線 維 化 例 に つ い てみ る と, 109例
中 指 数 が35以 下 の も の は53例(48.6%)に つ た が,そ の うち にO2分 圧 が75TORR以
こえ た も のが61.3
換 気 能 力 が 正 常範 囲 内 に あ つた426例 につ い てみ る と, AaDo2が10TORR以 下 で あ つた もの は96
す ぎな か 下の も
例(23.0%)に 過 ぎず, 20TORRを こえた もの が190例(48.6%)も み られ た(表5).動 脈 血O2
られ,さ らにO2分 圧 が50T
下 の も のが 肺 気 腫 例 よ り多 か つ た.こ の
分 圧 が, 75TORR以
下 の 呼 吸不 全 例 中 に も換 気
こ とは 肺 気 腫 例 では び まん 性 肺 線 維 化 例 に 較 べ て
能 力 が 正 常 範 囲 内 に あ つ た もの が85例 み られた
換 気 障 害 が 著 し く,肺 線 維 化 例 で は 換 気 障 害 に 比
(表6).こ
較 して 血 液 ガス 異 常 が 著 明で あつ た 事 実 を 示 して い る.肺 線 維 化 例 で は 拘 束 性 障 害 が と くに 著 し く
症 例 が83例(97.7%)含
肺 気 腫 例 で1秒 率 の 低 下 が 比較 的 に 著 明 で あ つ た こ とは あ らた め て 申 述 べ る まで もな い.
型 に よ る差 異 は 明 らか で な く, AaDo2の 分 布 は表 5に 示 した1116例 の場合 に較 べ て,全 般 的 に そ れ
動 脈 血CO2分 圧 に つ い て み る と,こ
の 中 に はAaDo2が20TORRを まれ て い た.何
こえ る らか の換 気
障 害 を塁 した 呼 吸 不 全 例 に お い て も,そ の障 害 の
が 相 対 的 増 加 の傾 向 を 呈 した.
こで 対 象
(6) 日
内 会 誌 第64巻 第11号
横山
哲朗
1217
Table 6. Arterial O2 tension , CO2 tension and alveolar-arterial O2 tension difference in terms of the types of ventilatory capacity. 439 cases with arterial O2 tension below 75 ton were chosen for the analysis. Figures without parenthesis indicate numbers of subjects and figures in the parenthesis represent percent prevalence. *INDEX: perent (FEV1/predicted VC), **NORMAL: normal spirom etry, ***RESTR: restrictive ventilatory impairment, ****COMBINED: combined ventilatory impa irment, *****OBSTRUCT: obstructive ventilatory impairment.
5)O2吸
入中 の動 脈 血 ガ ス:
具 体 的 な検討 に あ た つ て動 脈 血 ガ ス,例 え ばO2
高 度 の 呼吸 障 害 が あ り,止 む を 得 ずO2療 法 中 に 動 脈 血 ガ ス 分 析 を行 な つ た 症 例 が146例 あつ
分 圧 に か ん し,呼 吸不 全 と判定 す べ き限 界値 を 如
た.O2投 与量 が一 定 しに い なか つた の で,検 査 成
義 の理 解 の仕 方 と して は,正 常 限 界 そ の もの を 呼 吸 不 全 の限 界値 とす る こ とが で きな い わ け で は な い.し か し,そ の概 念 で規 定 して い る"そ の た め
何 に設 定 す べ きか は重 大 な問 題 で あ る.前 述 の定
績 の うち,動 脈 血O3分 圧 に か ん して は そ の詳 細 を論 ず る こ とは 出来 な い.
に生 体 が 正 常 な 機能 を営 み得 な く な つ た 状 態"
動脈血CO2分 圧 が36な い し45TORRの 正常範 囲内 に あ つた もの は,観 察 症例 の31.5%に 過 ぎず, これ は表2に 示 した 呼 吸 不 全 例 の空 気 呼 吸 中 のこ れに対 応 す る値51.6%に
比 し低 か つ た.こ
が,果
るか 否 か は疑 問 とせ ざる を得 な い.こ れ まで発 表 され た 論 文 で も,こ の限 界値 と して,研 究 者 は そ れ
の傾 向
ぞ れ 異 な る値 を 設定 して い る こ とが 多 い.こ の 点 に か ん し,し ば しば 引用 され る のはCIBA GUEST SYMPOSIUMの 報 告(1959)で あ る が,標 題 に も … …chronic pulmonary emphysema and related “
は疾 患 別 に分 類 して も 同様 に認 め られ た. CO2分 圧 が異 常 値 を 量 す る症 例 数 は45TORRを もの で も,ま た, 35TORRを
超 えた
下 廻 る も ので も認
め られ た が,と くに 肺 気 腫 お よび 喘 息症 例 では CO2の 蓄 積 傾 向を 呈 す る症 例 が 多 く認 め られ た. 4.考
して 正常 限 界 を わず か に こえた 条件 で お こ
ditions”とあ り,“ び ま ん性 閉塞 性 肺 疾 患con の重
察 な らび に結 語
症 度"と
して論 が 進 め られ て お り,決 しに呼 吸 不
著者 は 慢 性 呼 吸 不 全 の概 念 を本 論 文 の冒 頭 に述 べた 通 りに 理 解 し, 3129例(う ち146例 は 酸 素 療
全 全 般 につ い て述 べ られ て い るわ け で は な い.著
法中)の 臨 床 例 に つ い て実 施 した 動 脈 血 ガ ス分 析 の成 績 を 検 討 した.
となつ て い る疾 患 は 閉 塞 性 肺 疾 患 は そ の一 部 にす
昭 和50年11月10日
者 の得 た 成 績 か らもわ か る よ うに 呼 吸不 全 の背 景 ぎず,肺 線 維 化 また は そ れ に 関 連 を もつ と推 測 さ
(7)
1218
シ ン ポ ジ ウ ム 慢 性 呼 吸 不 全(1)
れ る一 群 の疾 患 が それ 以上 にに き い部 分 を 占め て
る こ とに もな る.
い る.こ れ らは 閉塞 性 肺 疾 患 とは病 態 の上 で もい
著 者 は本 研 究 の結 論 の一 つ と して,呼 吸 不全 と
さ さ か異 な る形 を と り,後 者 がoveral1の 換 気 障 害
して,診 断 され る べ き 動 脈 血 検 査 所 見 と し て,
が主 体 とな り, CO2蓄 積 傾 向 を 伴 う呼 吸 不 全 を 呈 す る の に薄 して,前 者 で は肺 に おけ るガ ス交 換 機
(1)O2分 圧 は75TORR以 下, TORR以 上 ま た は35TORR以
能 が主 体 とな り, CO2分 圧 が 低 い水 準 を 保 つ.本
してAaDo2は25TORR以
報 告 に お い て は,極 め に基 本 的 な指 標 の み を と り
(1)お よび(2)の 条 件 は いず れ か をみ た せ ば よい と考 え る.
あげ て検 討 したが,こ れ ら症 例 で は動 脈 血O2分 圧 の低 下 が 著 しい ほ どCO2分 圧 が 低 い傾 向 が あ り, 藤(1975)は
上 を 提 案 した い.上
5.要 1)空
呼 吸機 能 の不 均 等 分 布 の存 在 を示 唆 して い る.佐
(2)CO2分 圧 は45 下, (3)参 考 と 記
約
気 呼 吸 時 に 動 脈 血O2分 圧75TORR以
下 を示 した 呼 吸不 全 例1484例 を含 む臨 床 例,合 3129例(う ち146例 は 酸 素療 法 中 に 検 査 を計実施)に つ き,行 な つ た動 脈 血 ガ ス分 析 の成 績 を 中心 に報
動 脈血 ・肺 胞 気N2分 圧 較 差 の 測 定 を
同時 に行 な い,動 脈 血 低O2症 の原 因 と して は肺 に お け る換 気 ・血流 比 の不 均 等 分 布 が 重 要 で あ る こ
告 した. 2)疾 患 に よ り,あ る い は換 気 能 力 の障 害 の型
とを 証 明 した. 肺 胞低 換 気 を伴 う呼 吸不 全 と不 均 等 分 布 を 主 体 と し,呼 吸性 ア ル カ ロー シ ス を伴 う呼 吸 不 全 とは
に よ り,動 脈 血 ガ ス の異 常 に は無 視 し得 な い相 違 が あ り,呼 吸不 全 の診 断 を いわ ゆ る閉 塞 性 肺 疾 患
あ る 意 味 で両 極 端 の病 態 で あ り,当 然 の ことな が
の 場 合 と同 一 の基 準 で行 な う こ とは妥 当 で な い と の結 論 に 達 した.
ら両 者 の 中 間的 存 在 も少 な くな い.こ の よ うに 異 質 の病 態 を呈 す る呼 吸 不 全 例 に,画 一 的 に 閉 塞 性
3)動 脈 血O2分 圧 が 異 常 に 低 下 して い る 症 例 で も, CO2分 圧 は必 ず しも高 くは な く,そ れ が45
肺 疾 患 の た め の呼 吸不 全 の基 準 を適 用 す る こ とは 妥 当 とは考 え られ な い.著 者 は 包 括 的 に 種 々な 病
TORRを
態 の 呼吸 不 全 に適 用 で きる基 準 を理 論 的 に 導 くこ とが 可 能 とは考 え な いが,大 方 の合 意 に 立 脚 した "申 し合 わ せ"を つ くるべ く努 力 せ ねば な らな い
こえ た もの と35TORRに
達 しな い も
の は 互 に 同 程度 の発 現 率 で あつ た. 4)呼
吸性 アル カ ロー シ ス を伴 う呼 吸 不 全 例 で
は,そ の成 立 の機 序 に肺 にお け る ガス 交 換 機 能 の
と思 う. 本 論 文 に お い て,著 者 は 呼 吸 不 全 と診 断 す るた
不 均 等分 布 が重 要 な役 割 を果 た して い る も の と推
め のO2分 圧 の 基 準 を 空 気 呼 吸 時 に75TORRと
論 され た. 5)呼 吸 不全 と判 定す る動 脈血 ガ ス を 中心 に し
して検 討 し,な お 参 考 のた めに70TORRお 50TORRを
よび
た 呼 吸 病態 生 理 学的 立場 か らあ らた め て検 討 し,
基 準 と した 場 合 も仮 定 して 併 せ 評 価
新 しい"申 し合 わ せ"を つ くる こ とが 必 要 で あ る ことを 述 べ,著 者 の 考 え を一 例 と しに述 べ た.
した.呼 吸 性 アル カ ロー シ スを 伴 う場 合 には 然 ら ざ る場 合 に 較べ て,同 一 の 動 脈 血O2分 圧 に 対 し て もAaDo2を 指 標 に 評 価 した ガ ス 交換 障 害 の 程 度
文 1)
はは るか に著 しい.呼 吸 不 全 の診 断 はそ の基 本 か
chronic
ら して動 脈 血 ガ ス の値 だけ でな く,そ の 生 体 機 能 へ の影 響 を併 せ 勘 案 しに な され ね ば な らず,肺 に
ditions. guest
pulmonary A
献
definitions
report
symposium,
and
emphysema of
the
Thorax
classification and
conditions 14:
related of
286•`299,
a
of con CIBA 1959.
- 2)笹 本 浩,横山 哲 朗:肺 不 全 と呼 吸木 全,呼 吸 と 循 環, 17: 4∼7, 1969. -3)佐 藤 勝:末 梢 気 道 の 病 態 に 関 す る臨 床 的 研 究(1)肺 胞 気 ・動脈 血 ガ ス 分 圧 較差 の 臨床 的 意 義,日 本 胸 部 疾患 学 会 誌 掲 載 予 定. -4)横 山哲 朗:換 気 ・血 流 比不 均 等 分 布 に か んす る研 究(2)動 脈 血・ 肺 胞 気N2分 圧 につ い て の 臨 床 的観 察,日 本 胸 部疾 患 学会 誌, 7: 130∼136, 1969. -5)横山 哲朗:肺 の末 梢 領域 に お け る呼 吸 障害,日 本 胸部 疾 患学 会 誌, 12: 501∼514, 1974.
お け る機 能 障 害 の程 度 は あ くま で も参 考 で あ る に す ぎな い.し か し多 彩 な病 態 を墨 す る呼 吸不 全 の 診 断 の共 通 的 基 準 を考 え る場 合 に は,動 脈 血O2な らび にCO2分 圧 の値 に 加 え てAaDo2を 併 せ 考 慮 す る こ とは有 意 義で あ ろ うと考 え る. AaDo2を 考 え る こ とは, O2よ
Terminology,
びCO2分 圧 の相 互 関係 を 評価 す
る こ とに な り,一 そ う妥 当 な評 価 を 可能 な らしめ
(8)
日内 会 誌 第64巻 第11号