YAKUGAKU ZASSHI 135(3) 383―390 (2015)  2015 The Pharmaceutical Society of Japan

383

―Symposium Review―

生物に倣うインドール酸化反応を用いた生物活性アルカロイドの全合成 石川勇人

Total Synthesis of Biologically Active Alkaloids Using Bio-inspired Indole Oxidation Hayato Ishikawa Department of Chemistry, Graduate School of Science and Technology, Kumamoto University; 2391 Kurokami, Chuo-ku, Kumamoto 8608555, Japan. (Received October 3, 2014) Many tryptophan-based dimeric diketopiperazine (DKP) alkaloids including WIN 64821 and ditryptophenaline, which exhibit fascinating biological activities, have been isolated from fungi. These alkaloids possess a unique architecture; therefore several total syntheses of these compounds have been accomplished via bio-inspired reactions. Despite these elegant strategies, we were convinced that a more direct bio-inspired solution for the preparation of tryptophanbased DKP alkaloids was possible because in a true biosynthesis, direct dimerization of tryptophan occurs in aqueous media without incorporation of a protecting group on the substrates. Thus we developed direct bio-inspired dimerization reactions in aqueous, acidic media, along with a novel biomimetic pathway, to provide C2-symmetric and non-symmetric dimeric compounds from commercially available amine-free tryptophan derivatives using Mn(OAc)3, VOF3, and V2O5 as one-electron oxidants. In addition, concise two-pot or three-step syntheses of the naturally occurring dimeric DKP alkaloids (+)-WIN 64821, (-)-ditryptophenaline, and (+)-naseseazine B were accomplished with total yields of 20%, 13%, and 20%, respectively. The present synthesis has several noteworthy features: 1) the tryptophan-based C2symmetric and non-symmetric dimeric key intermediates can be prepared on a multigram scale in one step; 2) the developed oxidation reaction was carried out in aqueous, acidic solution without deactivation of the metal oxidants; 3) protection of the primary amine can be avoided by salt formation in aqueous acid; 4) for the total two-pot operation, the reaction media are environmentally friendly water and ethanol; 5) satisfactory total yields are obtained compared with previously reported syntheses. Key words―bio-inspired reaction; diketopiperazine; one-pot reaction; WIN 64821; ditryptophenaline; naseseazine B

1.

はじめに

合は,以前から積極的に行われており,これまで

自然界は複雑な構造かつ有用な生物活性を持つ有

に,生合成模擬的全合成と銘打った研究成果が数多

機化合物(天然物)が数多く存在する.これまで,

く報告されている.自然界で行われている生合成は

抗生物質や抗がん剤を始めとして,様々な医薬品が

人類の英知を遥かに越える合成経路でなされている

天然より見い出され,人類の健康に大きく寄与して

ことも多く,ときとして有機合成化学の手法として

きた.また,そのような複雑かつ有用な天然物は,

極めて魅力的,かつ効率的な場合がある.一方,生

有機合成化学者の全合成の標的として盛んに研究さ

合成で欠かすことのできない酵素や補酵素の働きを

れ,近代有機合成化学の大きな発展をもたらした.

明らかにすることは現代科学においても容易ではな

一方,自然界でなぜ,どのように天然物が合成され

く,真の意味で生体内での反応をフラスコ内で再現

ているのかを解明することは天然物化学や生化学の

することは,近代有機化学における重要な課題と

大きな表題であり,継続的に活発な研究が行われて

なっている.

いる.この有機合成化学と天然物化学の両分野の融

バイオインスパイアード反応とは生物から着想を 得た有機合成反応を指す.生合成模擬的反応と同義

熊本大学大学院自然科学研究科理学専攻化学講座 (〒8608555 熊本市中央区黒髪 2 丁目 39 番 1 号) e-mail: ishikawa@sci.kumamoto-u.ac.jp 本総説は,日本薬学会第 134 年会シンポジウム S49 で 発表した内容を中心に記述したものである.

語と考えられているが,生合成が酵素レベルで明ら かとなっておらず,「独自に発案した生合成仮説」 をフラスコ内で行う場合はバイオインスパイアード 反応の使用が適切であろうと考えている.

384

YAKUGAKU ZASSHI

Fig. 1.

Vol. 135 No. 3 (2015)

Natural Tryptophan-based Diketopiperazine Alkaloids

今回,われわれが標的とするトリプトファン由来

Lera らによりこれらアルカロイド類の生合成を考

二量体型ジケトピペラジンアルカロイド類は多様な

慮した高度な全合成が報告され,大きな注目を集め

二量化結合様式を有し,また,特異な生物活性を有

16,17) そのほかにも,先端有機合成化学を駆使し た.

するものが数多く知られている.13) Figure 1 にその

たこれらアルカロイド類の独自の全合成が複数の研

一部を示した.WIN 64821 (1),ジトリプトフェナ

1830) いずれの手 究グループにより報告されている.

リン( 2 )は Aspergillus 属の細菌から単離された

法も精巧な合成手法であるが,実際に自然界で行わ

C3sp3-C3sp3 結合を有するアルカロイドであり,その

れている生合成には,特別な保護基の導入は必要な

生物活性としてサブスタンス P アンタゴニスト活

く,また,水中で,酵素の疎水場を利用して生合成

性を有することが知られている.49) ナセセアジン B

されていることが予想される.われわれは異なる架

(3)は Streptomyces 属の細菌から単離された C3sp3

橋様式を有するこれら二量体アルカロイド類が同一

-C7sp2 結合を有するアルカロイドであり,いまだ生

の生合成経路により生成されていると推定し,独自

物活性は報告されていないが,その特異な結合様式

に生合成仮説を立案した.さらに,提案する生合成

10,11) そのほかにもペスタラ に興味が持たれている.

をフラスコ内で再現し,3 種の天然物を短段階で合

ジン B(4)12,13)は N1-C3sp3 結合,アスペルギラジン

成することに成功したので本総説で紹介する.31,32)

(5)14) は N1-C7sp2 結合をそれぞれ有しており,抗イ

2.

生合成仮説

ンフルエンザ活性や抗 HIV 活性を有することが知

生物は酵素を巧みに用い水中で化学変換を行って

られている.これらの化合物群は,その特異的な構

いる.また,有機合成において水は環境に優しく理

造や有用な生物活性から注目され,全合成研究も盛

想的な溶媒である.しかしながら,フラスコ内で反

んに行われてきた. 1981 年,世界に先駆けてバイ オインスパイアード反応を鍵工程とした 2 の全合成 が日野,中川らによって達成された.15)

毒性のある

タリウムを酸化剤として用いる点や,鍵反応が低収 率である点などの問題があったが,バイオインスパ イアード反応による全合成アプローチが,短工程で の合成を可能にすることを示した非常に重要な研究 で あ る . そ れ か ら 27 年 後 , Movassaghi ら , de

石川勇人

熊本大学大学院自然科学研究科准教 授.博士(薬学). 1999 年東京薬科大 学製薬学科卒業. 2004 年千葉大学大学 院医学薬学教育府博士後期課程修了. その後,米国スクリプ研究所化学科に て博士研究員,同研究所アシスタント プロフェサー,東京理科大学助教を経 て 2011 年より現職. 2013 年有機合成 化学奨励賞受賞.

Vol. 135 No. 3 (2015)

YAKUGAKU ZASSHI

Scheme 1.

385

Proposed Biosynthetic Pathway

応を再現しようとする場合,基質となる有機化合物

位上に共鳴混成体として存在する(中間体 A, B,

は水に溶解しない場合が多く,さらに,用いる試薬

C ).これら中間体がそれぞれの組み合わせで二量

によっては水により失活してしまうという問題が生

化し,さらに,対応するアミノ酸とジケトピペラジ

じる.したがって,通常の天然物合成研究では有機

ン形成後,Fig. 1 に示すような天然物へ誘導されて

溶媒中で反応を行い,反応性の高い官能基は人工的

いると考えた.なお,近年,Boger らのグループに

な保護基を用いてその活性を失活させ,順次フラグ

より,モノテルペノイドインドールアルカロイドの

メントを構築していく手法が常法である.これまで

一種であるビンカアルカロイド類の全合成におい

に報告されている生合成を考慮した全合成において

て,塩酸水溶液とトリフルオロエタノールの混合溶

も上記の理由から,水を溶媒として用いている例は

媒中での塩化鉄を用いた酸化的ラジカルカップリン

ほとんどない.一方,われわれは生合成においてア

グ反応が報告されている.3335) また,2014 年,渡辺

ルカロイドを基質とする場合,酸性条件では水中で

らはジトリプトフェナリン(2)が,シトクローム

反応が行えると考えた.塩基性部位を有するアルカ

P450 による酸化反応により,ラジカル中間体を経

ロイドは,中性及び塩基性条件下では上述の理由か

由して生合成されていることを示した.36)

ら水を溶媒として反応を行うことは困難であるが, 酸性条件下では塩を形成することで水に可溶とな

3.

水中バイオインスパイアード二量化反応の開



る.また,塩を形成することで求核性を有するアミ

提案する生合成仮説をフラスコ内で再現するべ

ン部位の不対電子は失活すると考えた.すなわち,

く,まず,不斉点を持たない Nb-メチルトリプタミ

酸性水溶液中でアミン部位が塩形成により保護され

ン(6 )をモデル基質として 1 M 塩酸水溶液中,二

ている状態であると考えることができる.われわれ

量化反応を促進させる酸化剤の検討を行った(Ta-

は自然界において,このような状況下でアルカロイ

ble 1).酸化剤は有機溶媒中で電子豊富な芳香環同

ドが生合成されているという着想を得た.以下,ト

士のビアリールカップリングを進行させる金属酸化

リプトファン由来二量体型ジケトピペラジンアルカ

剤を選定し,反応に用いた.酸化剤として 5 価のモ

ロイド類のわれわれの提案する生合成仮説について

リブデン試薬(MoCl5),2 価の銅試薬(Cu(acac)2,

説明する(Scheme 1).酸性水溶液中,有機化合物

CuBr2 ), 3 価の鉄試薬( FeCl3 )などを用いて検討

であるトリプトファン誘導体は塩を形成し水に可溶

を行ったが,塩形成により基質は水に完全に溶解し

となる.生じた塩は水中で働く一電子酸化剤によ

ているものの反応は全く進行せず,原料を回収する

り,望まない 1 級アミン部位の酸化を伴うことな

のみであった( Table 1, Entries 1 4 ).一方,低温

く,インドール環部が選択的に酸化される.イン

条件下,1.5 当量の酢酸マンガン(Mn(OAc)3 ・2H2

ドール環上に生じるラジカルは C3 位,C7 位,N1

O)を用いた場合に,反応は 2 時間で終了し,望む

386

YAKUGAKU ZASSHI

Table 1.

Vol. 135 No. 3 (2015)

The Screening of Oxidants for Bio-inspired Oxidative Dimerization Reaction

Entry

Oxidants (eq)

Temp. [° C]

Time [h]

1 2 3 4 5 6 7

MoCl5 (2.0) Cu(acac)2 (1.5) CuBr2 (1.5) FeCl3 (2.0) Mn(OAc)3 (1.5) VOF3 (1.5) V2O5 (0.55)

23 2380 2380 2380 0 0 0

5 19 19 19 2 2 12

Yield [%] 7

8

9

recovered 6

― ― ― ― 7 9 8

― ― ― ― 37 30 50

― ― ― ― 9 12 ―

>90 >90 >90 >90 trace 12 19

ラジカルを経由して生成したと考えられる C2-対称

ムクロマトグラフィーで容易に分離可能であった.

型の 3 位同士で結合した二量化生成物で,天然から

しかしながら,3 M 塩酸水溶液中では反応の効率に

単離報告のあるキモナンチン(7)37)を 7%,ナセセ

問題があり,多くの原料が回収された.そこで,本

アジン B(3)と同様の C3sp3-C7sp2 結合を有する非

二量化反応における酸の影響を精査することとし

対称型二量体 838) を 37%得た(Table 1, Entry 5).

た.酸性度の異なる様々な酸性水溶液中で反応を

また,天然からの報告例はないが,ラジカルの共鳴

行った結果,塩酸,硫酸,メタンスルホン酸,トリ

混成を考えれば生成が予測される C3sp3-C5sp2 結合

クロロ酢酸,リン酸を用いた場合に反応は速やかに

を有する非対称型二量体 9 が 9%で得られた.更な

進行し,対応する二量体を与えた( Table 2, En-

る酸化剤の検討の結果,三フッ化酸化バナジウム

tries 1 5 ).一方で,弱酸である蟻酸や酢酸を添加

(VOF3),五酸化バナジウム(V2O5)でも同様に二

した場合,基質は水に溶解するものの反応は全く進

量化反応が進行することを見い出した( Table 1,

行しなかった( Table 2, Entries 6, 7 ).最も効率的

Entries 6, 7 ).Nb-メチルトリプタミン( 6)を基質

に二量化反応を進行させた酸はメタンスルホン酸で

とした場合は,いずれの反応も化合物 8 が主生成物

あり,3 の合成の際の鍵中間体となる 13 を収率 28

であった.

%で得ることができ,二量体の総収率は 79 %と良

上記の検討で酸性水溶液中,インドール環部を選

好な値であった(Table 2, Entry 3).また,三フッ

択的に酸化し,二量化反応を進行させる酸化剤を見

化酸化バナジウム,五酸化バナジウムを酸化剤とし

い出すことに成功したため,天然物合成へと展開す

て酸の検討を行った結果,酢酸マンガンと同様に,

ることを視野に入れ,不斉点を有する市販のトリプ

メタンスルホン酸が最も効率的に二量化生成物を与

トファンエチルエステル(10)を基質とした反応の

えた( Table 2, Entries 8, 9 ).興味深いことに,三

検討を行った(Table 2).まず,3 M 塩酸水溶液中,

フッ化酸化バナジウムを酸化剤として用いた場合に

酢酸マンガンを用いて反応を行った.その結果,反

は酢酸マンガンとほぼ同等の結果であったが,二核

応は問題なく進行し,1 の絶対立体配置と同様の立

錯体である五酸化バナジウムを低温条件下用いる

体を持つ 11, 2 と同様の立体を有する 12, 3 と同様

と,反応時間は長時間になるものの,3 位同士の二

の立体を有する 13 及びそのジアステレオマー 14 を

量化反応が効率的に進行し,11 及び 12 がそれぞれ

それぞれ得ることができた(Table 2, Entry 1).な

28%で得られた.また,今回開発した反応はグラム

お,得られる 4 種の二量体は通常のシリカゲルカラ

スケールで行っても再現よく進行し,市販の 10 か

Vol. 135 No. 3 (2015)

Table 2.

YAKUGAKU ZASSHI

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The Bio-inspired Oxidative Dimerization Reaction with Tryptophan Ethyl Ester

Oxidants(eq)

Acid

pK a

Temp. [° C]

Time

1 2 3 4 5 6 7

Mn(OAc)3 (1.2)

HCl H2SO4 MeSO3H Cl3CO2H H3PO4 HCO2H AcOH

-8.0 -3.0 -2.6 0.7 2.1 3.8 4.8

0 0 0 0 0 023 023

8

VOF3 (1.1)

MeSO3H

-2.6

9

V2O5 (0.65)

MeSO3H

-2.6

Entry

Yield [%] 11

12

13

14

recovered 10

40 min 40 min 40 min 2h 2h 24 h 24 h

7 15 19 12 12 ― ―

4 8 11 9 8 ― ―

12 23 28 27 21 ― ―

9 20 21 20 17 ― ―

37 9 4 14 14 >90 >90

-10

30 min

19

11

28

21

8

-15

129 h

28

28

14

10

0

らわずか一段階で天然物合成の鍵中間体を大量に供

ン雰囲気下,常圧条件で加熱したところ,目的とす

給することができる.

る 1 は生成するものの,その単離収率は 59 %と中

4.

WIN 64821,ジトリプトフェナリン,ナセセ

アジン B の 3 段階合成

程度に留まった.本反応では副生成物として,エタ ノール,二酸化炭素,イソブテンが生じる.そこ

天然物合成のための鍵二量体が十分量得られたの

で,反応系内から効率的にこれら副生成物を除去す

で,更なる誘導化による天然物の全合成を目指し

るべく,減圧下( 1 mbar )同様の反応を行った.

た. まず, 3 位同士で二量化した対称型の WIN

その結果,収率低下を招いていた副反応は抑えら

64821 ( 1 )の全合成を行った. 1 は鍵中間体 11 と

れ,収率は 73%まで向上した.さらに,中間体 11

フェニルアラニンの脱水縮合反応に続く,ジケトピ

から 1 までの 2 段階の化学変換はワンポット反応へ

ペラジン形成(分子内アミド化反応)により導かれ

展開することができた.すなわち, 11 と 2 当量の

る.脱水縮合反応に際して,われわれは近年,国嶋

フェニルアラニン誘導体との DMT-MM を用いた

らにより開発された 4-(4,6-dimethoxy-1,3,5-triazin-

脱水縮合後,溶媒を留去し,フラスコ内の減圧度を

2-yl ) -4-methylmorpholinium chloride ( DMT-MM )

保ったまま 230 ° C に加熱すると目的とする WIN

に着目した.3944) 本試薬は中性条件下,塩基などの

64821 ( 1 )が,ワンポット,収率 70 %で得ること

添加剤を一切必要としない上,環境に優しいアル

ができた.本合成をまとめると,本合成は市販のト

コールや水を溶媒としてカルボン酸とアミンの選択

リプトファンエチルエステル(10)から,五酸化バ

的脱水縮合反応を進行させることができる.した

ナジウムを用いたバイオインスパイアード反応を経

がって,中間体 11 を基質として,2 当量の N-Boc-

由して,わずか 2 ポット,反応に使用した溶媒は環

フェニルアラニンをエタノール中,DMT-MM を縮

境に優しい水とエタノールのみであり,総収率も

合剤として反応を行った(Scheme 2).その結果,

20%と非常に効率的な合成となっている.

望む脱水縮合は速やかに進行し,定量的に目的とす

同様の 2 ポット合成戦略はナセセアジン B( 3 )

るジアミド体 15 を得た. 1 の合成のための Boc 基

の全合成にも適用できた(Scheme 3).すなわち,

の除去に続くジケトピペラジン形成反応は,無溶媒

酢酸マンガン若しくは三フッ化酸化バナジウムを用

条件下,230° C に加熱する手法を採用した.アルゴ

いたバイオインスパイアード反応により主生成物と

388

YAKUGAKU ZASSHI

Scheme 2.

Scheme 3.

Vol. 135 No. 3 (2015)

Synthesis of WIN 64821

Synthesis of Naseseazine B

して得られる非対称二量体型化合物 13 を基質とし,

いた場合に良好な結果を得ることはできなかった.

2 当量の N-Boc- プロリンを 1 級アミンと 2 級アミ

そこで,脱水縮合剤の再検討を行った( Scheme

ンの双方に縮合させ,ワンポットで加熱による Boc

4 ).最終的に,同様のアルカロイド合成において

基の除去及びジケトピペラジン形成を行った.その

de Lera ら に よ り 頻 繁 に 用 い ら れ て い る O- ( 7-

結果,70%と非常に良好な収率で 3 が得られた.ナ

,N ′ -tetramethyluroniazabenzotriazol-1-yl ) -N,N,N ′

セセアジン B ( 3 )は市販品 10 からわずか 2 ポッ

um hexa‰uorophosphate ( HATU ) を 縮 合 剤 と し

ト,総収率 20%で合成できる.

て,添加剤にトリエチルアミンを用いた場合に,目

一方,ジトリプトフェナリン(2)の合成におけ

的とする縮合体を中程度の収率で縮合体 16 を得る

る中間体 12 と N-Me-Boc-フェニルアラニンとの脱

16) 続く 16 のジケトピペラジン形 ことに成功した.

水 縮 合 反 応 は DMT-MM で は 全 く 進 行 し な か っ

成反応は,減圧条件下,無溶媒条件で加熱すること

た.問題点を明らかにすべく,副生成物の探索を

により達成され,定量的に 2 を得ることができた.

行ったところ,N-Me-Boc-フェニルアラニンエチル

本合成では市販の 10 から五酸化バナジウムによる

エステルが単離された.この結果は,中間体 12 よ

バイオインスパイアード反応を経由して,総収率

り溶媒として用いるエタノールの方が高い反応性を

13%で 2 を得ることができる.

有していることを示唆している.溶媒や温度など

5.

様々検討を行ったが,DMT-MM を縮合剤として用

今回われわれは,生体内で溶媒として利用されて

おわりに

Vol. 135 No. 3 (2015)

YAKUGAKU ZASSHI

Scheme 4.

389

Synthesis of Ditryptophenaline

いる水に着目し,塩形成を利用する酸性水溶液中で

謝致します.加えて,本研究を遂行して頂いた只野

のアルカロイド合成法を提案するに至った.また,

慎治氏,迎田友里氏に心より感謝申し上げます.な

本概念を利用して,一電子酸化剤を利用するイン

お,本研究の一部は日本学術振興会科学研究費補助

ドール二量化反応を見い出し,トリプトファン由来

金基盤( B ),挑戦的萌芽研究並びに公益財団法人

二量体型ジケトピペラジンアルカロイド類の合成へ

ノバルティス科学振興財団の補助により行われたも

と応用した.本合成における特徴として以下の点が

のです.

挙げられる.1)わずか 1 段階で多くの天然物にみ られる C2- 対称型及び非対称型二量体をグラムス

利益相反

ケールで供給できる.2)開発した酸化反応は金属

REFERENCES

酸化剤が失活することなく酸性水溶液中で行える. 3)酸性水溶液中で,塩形成を利用することにより

1)

1 級アミンを保護することなく酸化反応が行える. 4 ) WIN 64821 ( 1 ) と ナ セ セ ア ジ ン B ( 3 ) の 2

ポット合成では,反応に使用した溶媒は環境に優し い水とエタノールのみである.5)総収率は過去の

2)

報告例と比べても十分良好な値となっている.6) 本合成では酸素や水を気にすることなく行える.7) DMT-MM による縮合と,減圧条件下,加熱による

3)

Boc 基の除去及びジケトピペラジン形成反応をワン

ポット反応へ展開できる. 自然界で行われている生合成の手法は,ときとし て人類の英知を遥かに越えており,天然物全合成に おける新しい合成手法のアイデアを提供してくれ

4)

る.現在,そのような自然界から着想される化学反 応をフラスコ内で再現し,効率的な天然物全合成を

5)

実現するべく,更なる検討を行っている. 謝辞

本研究を行うにあたり,有益なるご助言

6)

を頂きました熊本大学大学院自然科学研究科の西野 宏先生,入江

亮先生に心より感謝申し上げます.

また,質量分析を行って頂きました千葉大学大学院 薬学研究科の高山廣光先生,小暮紀行先生に深く感

開示すべき利益相反はない.

7)

Cordell G. A., Saxton J. E., ``The Alkaloids: Chemistry and Physiology,'' Vol. 20, ed. by Rodrigo R. G. A., Academic Press, New 295. York, 1981, pp. 3 Hino T., Nakagawa M., ``The Alkaloids: Chemistry and Pharmacology,'' Vol. 34, Chap. 1, ed. by Brossi A., Academic Press, New York, 75. 1989, pp. 1 Anthoni U., Christophersen C., Nielsen P. H., ``Alkaloids: Chemical and Biological Perspectives,'' Vol. 13, Chap. 2, ed. by Pelletier S. W., Pergamon Press, London, 1999, pp. 163 236. Barrow C. J., Cai P., Snyder J. K., Sedlock D. M., Sun H. H., Cooper R., J. Org. Chem., 58, 6021 (1993). 6016 Popp J. L., Musza L. L., Barrow C. J., Rudewicz P. J., Houck D. R., J. Antibiot., 419 (1994). 47, 411 Oleynek J. J., Sedlock D. M., Barrow C. J., Appell K. C., Casiano F., Haycock D., Ward S. J., Kaplita P., Gillum A. M., J. Antibiot., 410 (1994). 47, 399 Sedlock D. M., Barrow C. J., Brownell J. E., Hong A., Gillum A. M., Houck D. R., J. An-

390

8)

9) 10)

11) 12)

13) 14)

15) 16) 17)

18) 19) 20) 21)

22) 23)

24)

25)

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YAKUGAKU ZASSHI

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[Total synthesis of biologically active alkaloids using bio-inspired indole oxidation].

Many tryptophan-based dimeric diketopiperazine (DKP) alkaloids including WIN 64821 and ditryptophenaline, which exhibit fascinating biological activit...
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