316
臨床技術
低線量腹部 CT 撮影におけるアーチファクト低減処理法を 用いたダークバンドアーチファクト低減効果の検証 1, 2
論文受理 2015 年 2 月 4 日 Code No. 251
緒
1
福永正明
論文受付 2014 年 5 月 13 日
大西英雄
2
山本浩之
1
県立広島大学大学院総合学術研究科保健福祉学専攻
2
倉敷中央病院放射線技術部
3)
えられる .BH アーチファクトは,連続 X 線が物質
言 近年,computed tomography(CT)装置は多列化・高
を透過する際に低エネルギー側のフォトンが多く吸収
性 能 化 に 伴 い,比 較 的 簡 便 に 検 査 可 能 に な っ た.
され,X 線の線質が変化することによって物質の質量
multi-detector raw CT(MDCT)装置は広範囲の全身
減弱係数に線形性が失われたために発生するといわれ
評価でも短時間撮影で可能となり,高エネルギー外傷
ている .特に,この現象は原子番号の大きい骨や
などの患者において,高い精度で診断可能となってい
ヨード造影剤を低線量で撮影する際に顕著となる .
4)
4)
1)
る .多発外傷患者の全身 CT 検査は,上肢を挙げる
近年,装置に起因するアーチファクトや雑音の低減
ことが困難な場合が多く,上肢を腹部の横に配置した
を目的に逐次近似(iterative reconstruction: IR)を応用
場合,上肢から生じるアーチファクトによって肝臓・
した画像再構成法(IR 応用法) が多く用いられてい
脾臓・腎臓背側の画質が低下する
1, 2)
.
5)
る.IR 応用法の画像雑音低減効果は臨床画像におい
これら画質低下の主な原因は,ビームハードニング (beam hardening: BH)アーチファクトによる影響が考
ても評価されており,低線量撮影時や体格の大きい被 5∼11)
写体における画質改善に期待されている
.しか
Validation of Dark Band Artifact Reduction Using Artifact Reduction Processing Methods with Low-dose CT Images: Phantom Study 1, 2*
Masaaki Fukunaga, 1 2
1
2
Hideo Onishi, and Hiroyuki Yamamoto
Program in Health and Welfare Graduate School of Comprehensive Scientific Research, Prefectural University of Hiroshima Department of Radiology, Kurashiki Central Hospital
Received May 13, 2014; Revision accepted February 4, 2015 Code No. 251
Summary Purpose: The purpose of this study was to validate the reduction of dark band (DB) artifact using iterative reconstruction (IR) of abdomen CT. Methods: Phantoms were arranged with and without small phantom assuming arm position at the body side (Phantom-A, -B). Image reconstruction methods were derived by the following four methods: filtered back projection (FBP), IR [adaptive iterative dose reduction using three-dimensional processing: AIDR-3D (MILD)], organ specific reconstruction (OSR), and Boost-3D (Boost). We evaluated DB artifact with CT values, standard deviation (SD) values, and profile curves using the four reconstruction methods. Results: CT values of artifact decreased with low tube current in Phantom-A. CT values of artifact were significantly increased (15‒23 HU) in OSR and Boost compared to FBP and MILD (Phantom-A). SD values of artifact improved by IR method. However, IR method was not improved to CT values decreased by artifact (Phantom-A). CT values were not changed by the difference in image reconstruction methods in Phantom-B. Conclusion: IR method has an effect to reduce statistical noise, but reduced the CT value for DB artifact. On the other hand, the OSR and Boost methods are effective for the improvement of CT value in the DB artifact. Key words: iterative reconstruction, artifact reduction, beam hardening artifact, image quality *Proceeding author
日本放射線技術学会雑誌
317
a
Fig. 1
b
Photographs showing Phantom-A and -B.
し,IR 応用法による画質改善は上肢を下垂し,腹部
1.方
法
CT 撮影した場合におけるアーチファクトの改善にど
1-1 使用装置および使用ファントム
の程度寄与するかは,われわれが知る限りでは報告さ
CT 装置は東芝メディカルシステムズ社製 Aquilion
れていない.特に低線量撮影時のアーチファクトの影
CXL を使用した.われわれは,上肢の配置を下垂位
響において,IR 応用法による画質改善の有効性は報
と挙上位を想定した 2 種類のファントム(Phantom-
告されていない.
A,-B)を作成した.Phantom-A は,上肢を下垂し,腹
本研究で使用した CT 装置には,逐次近似応用再構
部の横に配置した場合を想定し,Phantom-B は,上肢
成 法 (adaptive iterative dose reduction using three
を挙上した場合を想定した.われわれは,水ファント
dimensional processing: AIDR-3D),organ specific
ム(直径 320 mm,長さ 90 mm)を寝台上に配置し,
12)
(Boost)が搭
Phantom-A は上肢模擬ファントムを水ファントムの
載され,アーチファクト低減処理法として臨床で用い
横に配置し,Phantom-B は水ファントムのみを配置し
られている.なお,OSR は椎体などの高吸収体から発
た(Fig. 1).上肢模擬ファントムは上腕骨を模擬した
生 す る ア ー チ フ ァ ク ト を 低 減 す る 処 理 法 で あ る.
直径 25 mm,長さ 200 mm の円柱状石膏を,ゼラチン
Boost は低線量での撮影時に顕著に出現する線状の
を封入した直径 50 mm,長さ 15 mm の円形ペットボ
アーチファクトを低減する処理法であり,IR 応用法
トルの中に挿入して作成した.われわれは,上記に示
が登場する以前にも CT 装置に搭載され,臨床で多く
す 2 種類のファントム(Phantom-A,-B)を用い,上肢
用いられた.これらのアーチファクト低減処理法は,
の有無による DB アーチファクトを評価した.Fig. 2
一般的に使用することが望ましいとされているが,明
に Phantom-A を配置した水ファントムの CT 画像を
確な使用方法に関する報告は見受けられない.
示す.
reconstruction(OSR)および Boost-3D
本研究の目的は,低線量腹部 CT 撮影時における上 肢挙上不可の場合をファントムで再現し,ダークバン
1-2 撮影条件
ド(dark band: DB)アーチファクトを発生させ,異な
1-2-1 撮影条件
るアーチファクト低減処理法を用いたアーチファクト 低減効果の有効性を評価することである.
撮影条件は,X 線管電圧:120 kV,X 線管電流:50, 100,200,400 お よ び 600 mA,X 線 管 回 転 速 度: 0.5 s/rotation,コリメーション:0.5 mm64 列,スラ
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318
a b c d
Fig. 2
CT images of the each X-ray tube current in Phantom-A. (a) FBP, (b) MILD, (c) OSR, (d) Boost
イス厚:5 mm,再構成 display field of view(DFOV): 320 mm,ピッチファクタ:0.828 に設定した.再構成 関数は,腹部標準関数の FC03 を用いた.X 線管電流 自動露出機構(auto exposure control: AEC)は使用せ ず,管電流は上記の 5 段階に変化させた.なお,この 場合の CT 線量指標(volume CT dose index: CTDIvol) はそれぞれ 3.3,6.5,13.1,27.2 および 40.9 mGy を示 した.データ収集は,それぞれの X 線管電流設定値 に対して 3 回行った. 1-2-2 画像再構成法およびアーチファクト低減処理法
Fig. 3
Experimental setup diagram of (a) ROI (20 mm 20 mm) and (b) profile curve ROI (10 mm 300 mm).
a
b
アーチファクト低減処理法は逐次近似応用再構成法 (AIDR-3D)と OSR および Boost を用いた.AIDR3D は 線 量 低 減 率 に 応 じ た 四 つ の モ ー ド (WEAK,
アーチファクト低減処理法の CT 値と統計雑音の影響
MILD,STANDARD,STRONG)から設定可能であ
を評価するために,DB アーチファクト内とアーチ
り,本研究においては当院の臨床で用いられている
ファクトの影響がない領域に関心領域(region of inter-
MILD に設定した.ファントムデータは各種撮影条件
est: ROI)を 3 カ所に設定して CT 値および standard
で得られたデータに対して,従来法である filtered
deviation(SD)値を算出した.測定値は,Image J
back projection(FBP),AIDR-3D MILD(MILD),OSR
使用して直径 20 mm20 mm の ROI を Fig. 3a に示す
および Boost の 4 種類を用いた.
ように DB アーチファクト内の上肢近位部(ROI1),水
13)
を
ファントムの中心部(ROI2)およびアーチファクトの 1-3 評価方法 1-3-1
CT 値と統計雑音
われわれは,前述した 4 種類の画像再構成法および
影響がない下端(ROI3)へ設定し,各収集データの 3 断 面に対して ROI 内の平均値を用いた.比較は,4 種類 の 画 像 再 構 成 法,X 線 管 電 流 の 変 化 に 対 し て,
日本放射線技術学会雑誌
319
Fig. 4
a
b
c
d
e
f
Comparison of CT values by (a) ROI1, (b) ROI2, (c) ROI3 in Phantom-A and (d) ROI1, (e) ROI2, (f) ROI3 in Phantom-B.
Phantom-A,-B 間で行った.
(Fig. 4a).OSR,Boost の CT 値は,同管電流の FBP
1-3-2 アーチファクトによる CT 値分布
と MILD と比較して 20 HU 程度であり,CT 値の上昇
われわれは,アーチファクトによる CT 値分布の変
を認めた(Fig. 4a).ROI2 における FBP,MILD およ
動を評価するために Fig. 3b に示すように DB アーチ
び OSR の CT 値 は ROI1 と 同 等 の 値 を 示 し た が,
ファクトが生じた中央部の CT 値プロファイルカーブ
Boost の CT 値は ROI1 より低値(47.5 HU(50 mA))
を求め,前述の 4 種類の画像再構成法,X 線管電流を
を示した(Fig. 4b).ROI3 における FBP,MILD の CT
変化させて,Phantom-A,-B でそれぞれ評価を行っ
値はほぼ同じ傾向を示し,50 mA で 4.4 HU,100 mA
た.測定画像は,統計雑音の影響をより少なくして
以上では水に近い CT 値(0.8∼1.2 HU)を示した(Fig.
CT 値分布を評価するため,1 回のデータ収集で均一
4c).OSR の CT 値は各管電流における FBP,MILD
な画像を得られた 13 断面のうち,両端各 2 断面を除
より低値(3.8∼3.1 HU)を示した(Fig. 4c).Boost の
外した連続 9 断面の加算平均画像を用いた.プロファ
CT 値は X 線管電流の増加に伴って CT 値の低下(3.8
イルカーブは,加算平均画像上に長方形 ROI(10 mm
HU(50 mA),3.1 HU(600 mA))を示し,FBP,MILD
300 mm)を Fig. 3b に示すように配置して,算出した.
および OSR と異なる傾向を示した(Fig. 4c).
更に,各 3 回の収集データに対して測定し,平均値を 算出して ROI 内の CT 値分布の評価を行った.
Phantom-B における FBP,MILD,OSR および Boost の CT 値は ROI2 を除いて明らかな差を認めず, 水 の CT 値 (0 HU) に 近 い 値 (1. 3∼3. 0 HU) を 示 し,
2.結 2-1
果
CT 値と統計雑音
Phantom-A で認められた CT 値の低下は認められな かった(Fig. 4d,f).しかし,ROI2 における Boost の
Phantom-A,-B における 3 カ所の ROI で測定した
CT 値 は 負 の 値 (12. 4 HU (50 mA),1. 5 HU (100
CT 値の結果を Fig. 4 に示す.Phantom-A の ROI1 に
mA))を示し,FBP,MILD および OSR と異なる傾向
おける FBP,MILD の CT 値は,200∼600 mA の範囲
を示した(Fig. 4e).
で水の CT 値(0 Hounsfield units: HU)に近い値(1.9∼
Phantom-A,-B における 3 カ所の ROI で測定した
3.9 HU)を示したが,50 mA,100 mA においてはそれ
SD 値の結果を Fig. 5 に示す.SD 値は X 線管電流の
ぞれ39.3 HU,11.8 HU となり CT 値の低下を認めた
上昇に伴って減少する傾向を示し,Phantom-A の
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a
b
c
d
e
f
Fig. 5 Comparison of standard deviation values by (a) ROI1, (b) ROI2, (c) ROI3 in Phantom-A and (d) ROI1, (e) ROI2, (f) ROI3 in Phantom-B.
a
Fig. 6
b
Comparison of profile curves of Phantom-A and -B reconstructed by FBP, MILD, OSR, and Boost (tube current: 600 mA). (a) Phantom-A (b) Phantom-B
ROI1 において,FBP の SD 値は,102.2 HU(50 mA)か
した(Fig. 5c∼f).Phantom-A の ROI3,Phantom-B の
ら 22. 7 HU (600 mA) へ 減 少 し,MILD の SD 値 は,
各 ROI における 50,100 mA の SD 値は FBP より
26.1(50 mA)から 11.7 HU(600 mA)へ減少した(Fig.
Boost の方で低下した(Fig. 5c∼f).
5a).OSR の SD 値は MILD と同等の値を示した. Phantom-A の ROI1 における Boost の SD 値は,60.3
2-2 アーチファクトによる CT 値分布
HU(50 mA)から 12.5 HU(600 mA)へ減少し,FBP よ
Fig. 6 に X 線管電流を 200 mA に設定した場合の
り低値を示した(Fig. 5a).Phantom-A の ROI2 におけ
Phantom-A,-B における FBP,MILD,OSR および
る SD 値 は ROI1 と ほ ぼ 同 様 の 傾 向 を 示 し,FBP,
Boost の CT 値 プ ロ フ ァ イ ル カ ー ブ を 示 す.
Boost,MILD の順で低下し,MILD と OSR はほぼ同
Phantom-A におけるプロファイルカーブの形状は,
等の値を示した(Fig. 5b).また,Phantom-A の ROI3,
FBP と MILD で 0 HU 付近で平坦な分布を示したが,
Phantom-B の各 ROI において,FBP と Boost の SD
OSR と Boost においては下に凸の形状を示し,FBP,
値は同等の値を示し,MILD と OSR で同等の値を示
MILD と 比 較 し て CT 値 は 上 昇 し た (15∼30 HU).
日本放射線技術学会雑誌
321
Fig. 7
a
b
c
d
Comparison of profile curves reconstructed by (a) FBP, (b) MILD, (c) OSR, and (d) Boost in Phantom-A.
Table 1
SD values of profile curves in Phantom-A
Phantom-A
FBP MILD OSR Boost
Phantom-B
50
100
200
Tube current [mA] 50 400 600
7.07 3.64 6.32 14.09
5.54 3.00 6.91 8.00
1.76 1.93 4.61 4.41
1.36 1.10 4.17 4.18
1.04 0.87 4.29 4.38
6.45 2.81 2.99 8.46
100
200
400
600
3.06 1.69 4.04 3.11
1.65 1.37 1.27 1.54
1.37 1.28 1.11 1.32
1.41 1.36 1.19 1.37
Phantom-B においては画像再構成法の違いによるプ
た.OSR と Boost のプロファイルカーブは,中心部に
ロファイルカーブの差を認めなかった.
比べて周辺部で 15 HU 程度,高値を示した.Boost の
Fig. 7 に Phantom-A の FBP,MILD,OSR および
50,100 mA における CT 値分布は,OSR と比較して
Boost における CT 値プロファイルカーブを示す.な
中心部で下に凸の形状が顕著となり,50 mA の中心部
お,各画像再構成における X 線管電流:200,400 およ
で60.0 HU に低下した(Fig. 7c,d).Phantom-A にお
び 600 mA の CT 値プロファイルカーブは同等の値を
ける OSR と Boost における CT 値プロファイルカー
示したため,X 線管電流:200 mA の結果のみ掲載し
ブの SD 値は,FBP および MILD と比較して,高値を
た.FBP,MILD 間および OSR,Boost 間でそれぞれ
示し,CT 値の変動が大きくなる傾向を示した(Table 1).
同等のプロファイルカーブを示したが,形状は異なる 傾向を示した.各画像再構成法のアーチファクトによ
3.考
察
る CT 値分布は X 線管電流:200,400 および 600 mA
逐次近似応用再構成法(IR 応用法)はアーチファク
で同等の値を示したが,X 線管電流(50,100 mA)が低
トや統計雑音の低減法として注目され,低線量撮影時
下するほどプロファイルカーブは全体的に低下した.
や体格の大きい被写体における画質改善に期待されて
Table 1 に Phantom-A,-B における CT 値プロファイ
いる
ルカーブの SD 値を示す.FBP と MILD のプロファ
とが困難な場合に上肢を横へ配置すると,画質はアー
イルカーブを比較した場合,平均的な CT 値の差は認
チファクトによって低下すると報告されている .そ
めない(Fig. 7a,b)が,SD 値は MILD の方で小さかっ
こでわれわれは,腹部 CT 撮影時における上肢挙上不
Vol. 71 No. 4 Apr 2015
5∼11)
.腹部 CT を撮影する際に,上肢を挙げるこ 2)
322
可の場合を想定し,各種ファントムを用いて,IR 応用
た.従来から,OSR はコーンビームアーチファクトを
法やその他のアーチファクト低減処理法を用いたアー
抑制する目的で,解剖学的モデルに基づいた処理を画
チファクト低減効果の有効性を評価した.
像ベース上で行うとされている.本研究の結果から,
CT 値の比較は Fig. 4 および Fig. 6,7 に示すように
OSR は,高吸収体によるアーチファクトが発生した場
Phantom-A において X 線管電流の低い場合(50,100
合に,CT 値を上昇させることで,BH 効果による CT
mA)に CT 値が低下する領域(DB アーチファクト)を
値の低下を補正する処理であることを示した.
認めた.CT 値の低下した原因は,BH 効果と散乱線
Boost はそれぞれの投影された信号プロファイルの
による影響が考えられる.これは,上肢模擬ファント
中で確率的雑音を解析することによって,360° すべて
ムで低エネルギー X 線が吸収され,BH 効果の影響で
の投影生データの最適化を行う .そのアルゴリズム
線質が硬化したと考える.すなわち,質量減弱係数
は投影データにおける高 X 線吸収(低カウント)領域
は,X 線エネルギーによって異なるため,誤った CT
を検索し,平滑化処理を生データ上で三次元的に行う
値が算出され,CT 値の低下を生じさせたと考える.
とされている .Boost は本検討においても,アーチ
また,この現象は,Phantom-A の低 X 線管電流(50,
ファクトが発生した場合(Phantom-A)にのみ CT 値,
100 mA)において認められたことから,上肢模擬ファ
SD 値の変化を認め,アーチファクト低減処理を加え
ントムによるフォトン不足によって散乱線の寄与する
た結果を示した.しかし,アーチファクトの影響が小
割合が増えたため,線減弱係数にずれを生じさせ DB
さい 600 mA の場合に,CT 値の上昇を認めた.これ
アーチファクトがより顕著となったと考える.DB
は,X 線が上肢模擬ファントムを通過する場合と通過
アーチファクトによって CT 値の低下した領域は,
しない場合に出力される信号に差を生じ,Boost によ
MILD を用いることで,SD 値の改善を認めた(Fig. 5)
る CT 値を補正する処理が加わったためであると考え
が,FBP と MILD の CT 値差は認められず,CT 値は
る.Boost は生データ上で処理を加えているため,
負 の 値 (39. 3 HU (50 mA),11. 8 HU (100 mA):
OSR と異なり,雑音低減に寄与していることを示し
Phantom-A(ROI1))を示した.これらの結果から西丸
た.また,Boost はアーチファクトの影響が考えられ
8)
12)
12)
ら が報告している通り,IR 応用法は平滑化処理と類
る領域のみで SD 値を改善していることから,ピクセ
似した統計雑音低減処理が基本となっているため SD
ルごとに SD 値の改善を行う MILD とは異なる傾向
値の改善を認めるが,CT 値の低下を改善する能力は
を示し,投影データにおける高 X 線吸収(低カウン
有しないことを示した.FBP と比較し MILD におけ
ト)領域を検索し,処理を加えていると考える.
る DB アーチファクト内の SD 値は改善されたことか 9)
特に肝臓などの上腹部臓器を評価する場合,約 15 15)
ら,木原ら の報告と同様の結果となり,IR 応用法が
HU 程度の低コントラストを識別する必要がある
CT 値の変動を抑え,画像の統計雑音を低減する効果
め,OSR,Boost による CT 値変化は診断に影響を与
があることを示唆するものである.
える可能性がある.このため,腹部 CT 撮影時に上肢
た
CT 値プロファイルカーブは,周辺部から中心部に
の挙上困難な場合に上肢から発生するアーチファクト
かけて下に凸の形状を示した(Fig. 6,7).この傾向は
で画質低下を伴った際には,OSR や Boost の有無でそ
水ファントムのみを配置した Phantom-B においても
れぞれ画像再構成を行うのが望ましい.しかし,低 X
認められた.中心部で CT 値の低下した原因は,散乱
線管電流(50,100 mA)使用時は,OSR を用いること
14)
線による影響
が考えられる.
で,CT 値を上昇(15∼23 HU 程度)させるため,アー
OSR,Boost の CT 値は,上肢模擬ファントムの有
チファクトの少ない領域との CT 値差を少なくし,
無によって FBP,MILD と異なる傾向を示した.これ
アーチファクト低減目的として有用であると考える.
らの結果から,OSR と Boost は DB アーチファクトの
ここで,Fig. 8 に Phantom-B,X 線管電流:50 mA に
発生した場合に,CT 値を補正する処理を加えている
おける FBP と Boost の CT 画像を示す.Fig. 7 の CT
と考える.
値プロファイルカーブにおいて,Boost の 50,100 mA
OSR は Phantom-A において MILD との SD 値の差
における CT 値分布は,FBP と比較して中心部で下に
を認めず,CT 値のみが変化(15∼23 HU 上昇)した.
凸の形状が顕著になり,CT 値が低下する傾向がみら
また,OSR のアーチファクトによる CT 値分布は,
れた.また Fig. 8 では視覚的に中心部の CT 値低下が
ROI 内の中心部と辺縁部で異なった(Fig. 6,7).これ
観察される.Boost は投影データの高い X 線吸収の
らの CT 値差は,アーチファクトの影響が小さい場合
低カウント領域を検索し,処理を加えていると考えら
(Phantom-A の ROI3,Phantom-B)は認められなかっ
れるため,50,100 mA 程度の低線量撮影においては,
日本放射線技術学会雑誌
323
a
Fig. 8
b
CT images of (a) FBP and (b) Boost in Phantom-B (tube current: 50 mA).
a
c
d
b
e
f
Fig. 9
Abdomen CT images reconstructed by FBP, MILD, OSR, and Boost. (a) Scano image (arms positioned alongside the body) (b) Seven regions-of-interest (ROIs) were placed within Aorta, Liver (in BHA and out BHA), bil.Renal, Spleen, and Muscle. CT values and standard deviation values were measured. (c) FBP, (d) MILD, (e) OSR, and (f) Boost Aquilion PRIME, 120 kV, CT-AEC (SD: 7.5), 0.5 s/rotate, 0.5 mm 80 row, slice thickness: 5 mm, DFOV: 320 mm, pitch factor: 0.813, kernel: FC03
処理エラーを起こすと考える.
模擬上肢に石膏を用いたため,実際の骨と密度・質量
更に Fig. 9 に上肢挙上困難で胸腹部 CT を撮影した
減弱係数が大きく異なり,過度なアーチファクトを発
臨床例を示す.撮影されたデータから FBP,MILD,
生させていると考える.しかし,本研究は同一データ
OSR および Boost の四つの再構成画像を作成し,Fig.
から画像再構成法(FBP,MILD,OSR,Boost)を変化
9b に示されるように大動脈,肝臓(アーチファクト内
させて比較を行っているため,画像再構成法の違いに
と外),両側腎臓,脾臓および筋肉の 7 カ所に関心領域
よる傾向は把握できたものと考える.また骨からの
を設定し,CT 値と SD 値を算出した(Table 2).大動
BH アーチファクトの影響や散乱線の影響を考慮し,
脈,アーチファクト外の肝臓および筋肉における CT
より臨床に即したファントム構成が必要とされる.次
値は,画像再構成法による明らかな差を認めなかっ
に,星野ら や高田ら
た.対照的に,アーチファクト内の肝臓,両側腎臓お
用法は,撮影線量や IR 強度によって画質に影響を与
よび脾臓の CT 値は OSR と Boost の場合で FBP や
えるため,解像度や低コントラスト検出能などの物理
MILD と比較して 15 HU 程度上昇した.これらは,本
特性の評価および視覚的な評価が必要である.
7)
10)
が指摘しているように,IR 応
研究のファントムから得られた傾向と同様の結果を示 した. 本研究の限界として,まずファントム構成において
Vol. 71 No. 4 Apr 2015
4.結
論
腹部 CT 撮影時における上肢の挙上困難な場合を想
324
Table 2
FBP MILD OSR Boost
Comparison of CT values and SD values for abdomen clinical image reconstructed by FBP, MILD, OSR, and Boost Aorta
Liver (in DBA)
Liver (out DBA)
Rt.renal
Lt.renal
Spleen
Muscle
53.714.1 53.88.6 52.88.8 53.713.9
62.623.2 60.08.8 79.19.5 78.816.5
65.814.9 66.29.6 65.49.8 66.515.2
31.723.8 28.510.7 48.811.4 48.717.7
35.726.0 32.511.7 51.512.9 52.219.5
45.329.5 43.411.7 63.913.1 64.320.4
63.610.7 64.46.6 63.46.7 64.310.6
CT values SD values DBA: dark band artifact CT values of Aorta, Liver (out DA), and Muscle showed no significant differences by reconstruction methods. In contrast, CT values of Liver (in DA), bil.Renal, and Spleen were significantly higher in OSR and Boost compared to FBP and MILD.
定して,上肢から発生するダークバンドアーチファク
う場合もあるため,各撮影領域に応じた設定を行う必
トに対する 3 種類のアーチファクト低減処理法の違い
要性がある.
によるアーチファクト低減効果について検証した.逐 次近似応用再構成法は,統計雑音の低減効果に期待で
謝
辞
きるため有用性は高いが,CT 値低下(DB アーチファ
本稿を終えるにあたり,ご協力,ご助言をいただい
クト)を改善する能力は有しないため,特に低線量撮
たデジタル画像評価研究会(広島県三原市)の皆様へ深
影時には注意を要する.また,OSR や Boost はアーチ
く感謝いたします.
ファクトによって生じた CT 値の低下した領域(ダー クバンド)を補正するため有効であるが,過補正を伴
なお本論文の要旨の一部は,第 40 回日本放射線技 術学会秋季学術大会(2012 年,東京)にて発表した.
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問合先 〒710-8602 倉敷市美和 1-1-1 倉敷中央病院放射線技術部 福永正明
日本放射線技術学会雑誌