日耳鼻
95 ― 1005
高 分 解 能CTに
よ る中耳 換 気通 路 の観 察 か らみ た
上鼓 室型 真 珠 腫 の成 因 に つ いて 東 京都 立府 中病 院 耳鼻咽 喉科 船
井
洋
光,田
島
文
司,田 久保
正
道,太
田
康,小
川
恵
子
東京 大学 医学 部 附属病 院 分院 耳鼻 咽喉 科 飯 VENTILATION A STUDY
HIROAKI
IN PATIENTS
M.D., BUNJI
YASUSHI Department
壽
TAJIMA,
Tokyo
Operative
records
of Otolaryngology,
limited
aditus, 5 cases),
of 75 patients extensions
to the attic,
mastoid
antrum,
14 cases), conditions,
epitympanum,
Tokyo
were classified
into five groups
Group
2 (cholesteatoma
extending
University,
Tokyo
were evaluated as follows;
occupying
down to the posterior
Group 4 (cholesteatoma
or the existence recess,
and compar-
occupying extending
Group
1 (choles-
both the attic and the
tympanum,
the attic,
also occupying
the aditus and the
down to the posterior
of soft tissue density, were evaluated
mesotympanum,
and mastoid
1, all these locations
In Group 2, complete
tympanum,
anterior
and posterior
by HRCT at such
parts
of the tympanic
antrum. were aerated
opacification
Soft tissue masses involved
with the exception
was observed
the anterior
and/or
in almost posterior
of a few cases.
all of the antrums.
parts of the tympanic
isthmus in both
3 and 5.
In Group 3, the posterior tympanic
Tokyo
are as follows.
In Group
Groups
Hospital,
M.D.
Hospital,
and Group 5 (cholesteatoma
as the supratubal
Results
Branch
M.D.
an area as in Group 4, 41 cases)
Ventilatory
isthmus,
IINUMA,
TAKUBO,
M.D.
Fuchu
attic cholesteatoma
9 cases),
as in Group 2, 6 cases),
locations
M.D., MASAMICHI
with acquired
Group 3 (cholesteatoma
an area
also occupying
CHOLESTEATOMA
HRCT findings.
The cholesteatoma teatoma
ATTIC
Metropolitan
TOSHITAKA
ed with preoperative
IN THE MIDDLE EAR
WITH
OTA, M.D. and KEIKO OGAWA,
of Otolaryngology,
Department
孝
AND PASSAGES
BY HRCT
FUNAI,
沼
part of tympanic
isthmus
was less aerated
than the anterior
part of
isthmus.
In Group 5, all locations mesotympanum, These results
where
were filled with soft tissue density except the supratubal
some degree
indicate
of aeration
that blockage
recess and the
was observed.
of the ventilatory
passages
is not essential
for formation
95 ― 1006
1992
船 井 ・他=中 耳 換気 路 と真珠 腫 の発 生
of an attic extension
cholesteatoma.
Soft
tissue
density
in HRCT
is not
the cause,
but rather,
the
result
of
of a cholesteatoma
Key words:
真 珠 腫 成 因,中
耳 換 気 通 路,高
分 解 能CT,鼓
室 峡 部,
A95
― 1005
― 22106
耳 管上 陥凹
は じめ に 耳 管,鼓
室,上
鼓 室,乳
つ づ い て 術 前 に撮 影 さ れ た 高 分 解 能CTよ
突 洞 とつ づ く中 耳 換 気 通 路
は 真 珠 腫 の 発 生 お よび 進 展 過 程,中
耳 炎 症 過 程 と密 接
陥 凹,中
鼓 室,鼓
室 峡 前 部 お よ び 後 部,上
洞 の 含 気 化 を 各 群 ご とに 調 べ た.具
体 的 には上記領域
に か か わ り あ っ て い る。 と くに鼓 室 と上 鼓 室 との 境 界
が,軟
に あ る 鼓 室 峡 部(tympanic
織 陰 影 は あ る が 空 気 陰 影 を 含 む か,す
isthmus)1)や
耳管上 陥
凹2)3),乳 突 洞 口 の 病 巣 は診 断,治 療 に あ た っ て極 め て 重 要 で あ る. 開発 に よ って分解能 の高
い 精 密 画 像 が 得 られ る よ う に な っ た.と
くに 高 分 解 能
優 れ て い る点 は 骨 陰 影 と軟 部 組 織 陰 影,空
気陰
影 が 明 瞭 に 区 別 で き る こ とで あ る.こ れ を指 標 に 各 空 間 が 換 気 さ れ て い る か 否 か を 間 接 的 に把 握 で き る。 そ こ で 高 分 解 能CT面
像 を利 用 して,種
示 した 真 珠 腫 性 中 耳 炎 の,中 の 結 果,真
部 組 織 陰 影 で 満 た さ れ て い る か,一 部 に軟 部 組
で 満 た さ れ て い る か を,高
べ てが空気陰影
分 解 能CTか
ら判 定 した,
病 変 の 進 展 度 は す べ て 手 術 用 顕 微 鏡 下 に行 い,真 珠
近 年 側 頭 骨 高 分 解 能CTの
CTの
り耳管 上 鼓 室,乳 突
珠 腫 の 発 生,進
々 の進展 を
耳 換 気 状 態 を調 べ た.そ
展 と,換 気 通 路 と の 関 係 に
興 味 あ る 結 果 を得 た の で 報 告 す る.
腫 の 周 辺 に形 成 され た 肉 芽 組 織 は 真 珠 腫 の 進 展 に含 め た.ま
た,そ
れ ぞ れ の 症 例 で 病 変 か ら 出 る分 泌 物 が外
耳 道 に存 在 し た か ど う か を記 載 し た. と こ ろ で,鼓 室 峡 部 や 乳 突 洞 口,中 鼓 室 な ど はCT画 像 上,解
剖 学 的 境 界 が 明 瞭 で な い.
分 析 に際 して は, 1)
鼓 室 峡 前 部 は鼓 膜 張 筋 腱 の 後 ろで ア ブ ミ骨 の上
部 構 造 と キ ヌ タ骨 長 脚 の 前 の 空 間, 2)
鼓 室 峡 後 部 は キ ヌ タ 骨 短 脚,ア
ブ ミ骨 の上 部 構
造 と ア ブ ミ骨 筋 腱 に 囲 ま れ る領 域(図1), 対 象 と方 法 分 析 対 象 症 例 は昭 和61年4月 の5年
間 に,棄
3)
か ら平 成3年3月
まで
京 大 学 医 学 部 附 属 病 院 分 院,粟
京都 立
府 中 病 院 で 手 術 治 療 を受 け,病 巣 が 確 認 さ れ た 上 鼓 室 型 真 珠 腫75症 例 で あ る.症 例 の 内 訳 は 男45例,女30例, 16歳 か ら68歳(平
均39.7歳)で
真 珠 腫 の 形 成(主
病 巣)所
あ っ た.鼓 膜 弛 緩 部 に
見 が あ り,か つ 緊 張 部 後 上
耳 管 上 陥 凹 は 上 鼓 室 前 骨 板 よ り前 で,鼓 膜 張 筋
腱 よ り上 方 の 空 間3), 4)
中 鼓 室 は ア プ ミ骨 の 上 部 構 造 よ り前 方 の 中鼓 室
空 間 と定 義 し た. 使 用 し たCTス 60AとTCT-900Sで
キ ャ ン は,東 芝CTス
した.TCT-60Aで
は1mm間
隔,2mmス
方 に も 陥 凹 や 真 珠 腫 形 成 所 見 の あ る 例 は 含 め た が,弛
オ ー バ ー ラ ッ ピ ン グ ・ス キ ャ ン,TCT-900Sで
緩 部 に所 見 が な い か また は,弛 緩 部 は2次
間 隔,1mmス
的 所見 に す
ぎ な い 緊 張 部 型 真 珠 腫 は 対 象 か ら は 省 い た. まず,季
を 以 下 の5群
鼓 室 に真 珠 鍾 が 限局 して い た9例
2群:上
鼓 室,乳
突 洞 口 に 真 珠 腫 が 存 在 し た5例
3群:上
鼓 室,乳
突 洞 口 の み な ら ず,顔
は1mm
はOMラ
イ ン,TCT-
は ドイ ツ 水 平 面 に平 行 と し た .
結
面 神 経 窩,
鼓 室 洞 と い っ た後 部 鼓 室 に 真 珠 腫 が 存 在 した6例 鼓 室,乳
突 洞 口 を満 た した 真 珠 腫 が 乳 突 洞
珠 腫 が 上 鼓 室,乳
後 部 鼓 室 に 存 在 して い た41例
1.
真 珠 腫 が 上 鼓 室 の み に 限 局 し乳 突 洞 口 に ま で病 巣 が
突 洞,さ
らに
で あ る.全
例 耳 漏 は な く,鼓
膜 緊 張 部 に は異 常 所 見 は み ら れ な か っ た.真 小 骨(ツ
突 洞 口,乳
果
上 鼓 室 限 局 例(1群)
進 展 し て い な か っ た9例
ま で 入 り こ ん で い た14例 5群:真
ラ イ ス厚 の
に 分 類 し た.
1群:上
4群:上
900Sで
に使 用
ラ イ ス厚 ス キ ャ ン と し た.す べ て軸 位 断
撮 影 で あ る が,TCT-60Aで
術 中 確 認 し た 真 珠 腫 の 進 展 度 を も と に75例
キ ャ ナTCT-
あ る.そ れ ぞ れ49例,26例
チ 骨 頭,キ
例 は7例,内
ヌ タ骨 体)の
側 へ も進 展 して い た 例 は2例
当 然 な が ら 全 例 に,上
珠 腫が耳
外 側 に の み 存 在 した で あ っ た.
鼓 室 に 軟 部 組 織 陰 影 が み られ
日耳 鼻
船 井 ・他=中 耳換 気路 と真珠腫 の 発生
95 ― 1007
織 陰 影 と空 気 陰 影 が 混 在 した. 鼓 室 峡 前 部 で は6例
中3例
に軟部組 織陰 影 の充満 を
認 め た の み で あ っ た.こ
の3例
を 認 め た 例 で あ っ た.耳
管 上 陥 凹 に は,こ
得 た5例
中4例
中2例
は 外 耳 道 に耳 漏 れ を観察 し
に 空 気 陰 影 を認 め た(表1).
真 珠 腫 が 乳 突 洞 口,顔 面 神 経 窩 を満 た し,鼓 室 峡 前, 後 部 さ ら に乳 突 洞 に 軟 部 組 織 陰 影 が み ら れ た 例 の 高 分 解 能CTを
図3に
示 した.こ
の例で は耳管 上 陥凹 は空
気 陰 影 の み で あ っ た. 4.
上 鼓 室,乳
突 洞 口,乳
突 洞 進 展 例(4群)
乳 突 洞 口 か ら乳 突 洞 へ と進 展 し て い た 上 鼓 室 型 真 珠 腫14例(耳
漏 あ り5例,耳
前 部 に12例,鼓
漏 な し9例)で
室 峡 後 部 に13例,乳
は,鼓
室峡
突 洞 に は13例 で 異
常 軟 部 組 織 陰 影 が 観 察 さ れ た. 中 鼓 室 は14例 中8例
で 空 気 陰 影 が 観 察 され た.耳
上 陥 凹 が 観 察 し得 た13例 中5例
管
に 空 気 陰 影 が 観 察 され
た(表1). 5.
上 鼓 室,乳
突 洞 口,乳 突 洞,後 部 鼓 室 進 展 例(5
群) 上 鼓 室 か ら乳 突 洞,後
図1
正常 高分 解能CT像
に 耳 漏 が 認 め られ た の は21例,認
高 分 解 能CTで 鼓 室,鼓
た(表1).ま
室 峡前 部 は空 気陰 影 で満 た され てい
た,鼓
室 峡 後 部,耳
の み ら れ な か っ た の は9例
管 上陥 凹 で空気 陰 影
中1例(そ
れ ぞ れ 別 の 例)
は 中 鼓 室,鼓
室 峡 前 部,上
耳 管 上 陥 凹 は41例 中5例
が 空 気 陰 影 で あ り,換 気 され
突 洞 が 軟 部 組 織 陰 影 で 充 満 して い る
て い る 率 が 最 も高 か っ た(表1).耳
な わ ち 高 分 解 能CT画
気 陰 影 が み ら れ た1例
気 機 能 は 全 例 で 保 た れ て い た.1例 像 を 図2に 2.
考
漏 な し2例,耳
漏 あ り3例)中4例
乳 突 洞 に軟 部 組 織 陰 影 が 充 満 し て い た. 一方 ,鼓 室 峡 前,後 部 の 軟 部 組 織 陰 影 は,外
で
按 は,上
鼓室 型 真珠腫
の発生 初 期段 階で は中耳 換気 通路 が軟 部陰影 で満 た さ れ て い る 所 見 は 得 られ な い,と
い う点 で あ る.そ
れに
続 く上 鼓 室 や 乳 突 洞 に も十 分 な 空 気 陰 影 が 観 察 さ れ る 耳道 に
耳 漏 が 観 察 さ れ た2例
に 認 め た だ け で あ っ た.耳
陥 凹 が 観 察 し 得 た3例
中1例
管上
が空 気 陰影 の みで あ った
こ とよ り,こ の 時 点 で の 換 気 通 路 の 完 全 閉 塞 は 考 え に くい.し た が っ て 上 鼓 室 型 真 珠 腫 の 初 期 発 生 過 程 に は, 換 気 通 路 の 完 全 閉 塞 は 必 ず し も必 要 で な い と い う こ と に な る.
(表1). 3.
管上 陥凹 の みに空
示 し た.
今 回 の 観 察 で 重 要 な 結 論 の1つ
突 洞 口 進 展 例(2群)
上 鼓 室 型 真 珠 腫 の 進 展 で 乳 突 洞 口 に まで 真 珠 腫 が み られ た5例(耳
を 図4に
の 高 分 解 能CT画
示 し た.
上 鼓 室,乳
室峡
後 部 が 空 気 陰 影 だ っ た の も1例 の み で あ っ た.し か し,
例 もな か っ た.す
耳換
鼓 室,乳
突 洞 の す べ て に 異 常 な 軟 部 組 織 陰 影 が み られ,鼓
の み で あ っ た.乳
像 上,中
の う ち外 耳 道
め られ な か っ た の は
20例 で あ っ た.
定 義 し た 各構 造 の 範 囲 は,本 文 中 に 示 した.
た が,中
部 鼓室 の 全範囲 に病 巣が み ら
れ た 上 鼓 室 型 真珠 腫 は41例 で あ っ た.そ
上 鼓 室,乳
上 鼓 室,乳 した6例(耳
突 洞 口,後
突 洞 口,さ
逆 に進 展 し た 真 珠 腫 で は,進
部 鼓 室 進 展 例(3群)
らに後部 鼓 室 に真珠 腫が 存 在
漏 あ り2例,耳
漏 な し4例)で
は,全
例
に 乳 突 洞 異 常 軟 部 組 織 陰 影 が 観 察 さ れ た.鼓
室峡 後 部
で も6例
で軟 部組
中5例
で 軟 部 組 織 陰 影 が 充 満,1例
つ れ,進
展範 囲 が高度 にな るに
展 範囲 に応 じて中耳 含気腔 の 空気陰 影 が軟 部
組 織 陰 影 に お き変 わ っ て い く こ とが 明 ら か に な っ た (表2). 具 体 的 に は,
95 ― 1008
表1
1992
船 井 ・他=中 耳換 気 路 と真珠 腫 の発 生
各群 の軟 部組織 陰影 の み られた例 数
(1) 真珠 腫が 乳突 洞 口 を満 た す と,乳 突 洞 内 に空 気 陰影 の み られ る率が 低下 す る. (2) 鼓 室 峡部 で は,真 珠 腫 が乳 突洞 や後 部鼓 室 に進 展 した例 で軟 部組 織 陰影 の率 が増加 す る. (3) 顔 面神経 窩か ら後部 鼓室 に入 り込 む真珠 腫例 で
影 が 保 た れ る 例 が あ る. な どの 所 見 が そ れ を 示 し て い る 。 す な わ ち高 分 解 能CT上,換
気 通 路 の 軟 部 組 織 充満
陰 影 は 真 珠 腫 発 生 前 に 形 成 さ れ る の で は な く,進 展 の 過 程 や 病 巣 に よ る 分 泌 物 の 広 が りの 程 度 に 応 じて 観察
は鼓 室峡 前部 よ り,鼓 室峡 後部 に軟部組 織 陰影 充満 率
され る所 見 で あ る.鼓
が高 い.
真 珠 腫 発 生 の 原 因 で は な く,む
(4) 最 も含 気 化が保 た れ るの は耳 管 上陥 凹 を含 めた 前鼓 室 と,中 鼓 室 で あ る. (5) 高度 進展 真珠 腫 で 中鼓室 か ら上 鼓室,乳 突洞 ま で が軟 部組 織陰 影 で充 満 して も,耳 管 上陥 凹 に空気 陰
室峡 部 の軟 部組 織 に よる閉塞は し ろ真 珠 腫 進 展 の 結 果
で あ る とい う こ とに な る. 中 耳 仮 性 真 珠 腫 の 成 因 と し て 穿 孔 説,内 状 増 殖 説,上
皮 化 生 説,移
され て き た4)5)が,今
陥 説,乳 頭
植 説 な ど多 くの 学 説 が 提 唱
日にお い て もい まだ に 定 説 はな
日耳 鼻 5群:上
図2
い.し
船 井 ・他=中 耳換 気路 と真珠腫 の 発生
鼓 室,乳 41例
1群,1症
突 洞 口,乳
突 洞,後
例 の 高 分 解 能CT画
部 鼓室 進 展例
像
か し な が ら中 耳 換 気 通 路 の 持 続 的 な 閉 塞 が もた
図3
3群,1症
例 の 高 分 解 能CT画
像
図4
5群,1症
例 の 高 分 解 能CT画
像
や 滲 出 性 中 耳 炎 の 既 往 の あ る 例 が 多 い こ と,そ の結 果,
多
(3) 乳 突 洞,乳
くの 研 究 者 の 支 持 を 得 て い る5)∼8).とくに 中 鼓 室,耳 管
い とい う所 見,さ
らす 上 鼓 室 陰 圧 が 原 因 とす る説(上
鼓 室 陥 凹 説)は
上 陥 凹 と,後 続 す る 上 鼓 室 や 乳 突 洞 と の 問 の 閉 塞 が 続 く と,上 鼓 室,乳
突洞 の陰 圧 に よって鼓膜 弛 緩部 が 内
陥 し,こ れ に 炎 症 過 程 が 加 わ っ て 真 珠 腫 が 形 成 され る と い う5) こ の 説 は, (1) 初 期 の 上 鼓 室 型 真 珠 腫 で は 弛 緩 部 の み が 陥 凹 し 緊 張 部 鼓 膜 は 正 常 で あ る と い っ た 所 見, (2)
95 ― 1009
真 珠 腫 発 生 に 先 行 し,幼 少 児 期 に反 復 性 中 耳 炎
(4)
突 蜂巣 の 含気化 が抑 制 された例 が 多 ら に,
中 鼓 室 と上 鼓 室 とは 解 剖 学 的 に ツ チ 骨 靱 帯,顔
面 神 経 管 隆 起,鼓
膜 張 筋 腱,サ
ジ状 突 起 な どに 囲 まれ
る 狭 い 領 域 に境 され て い る とい っ た 事 実 に 支 持 さ れ て い る. こ の 説 に 従 え ば,プ
ル ザ ッ ク腔 に 限 局 す る よ うな 小
真 珠 腫 に お い て も鼓 室 峡 部 の 狭 窄 や.耳
管 上 陥 凹 を介
す る 疎 通 路 の 狭 窄 が 潜 在 的 に存 在 す る こ と に な る.こ れ らの 換 気 通 路 は 耳 管 と は 異 な り筋 肉 組 織 な ど を 持 た
表2
1992
船 井 ・他=中 耳 換気路 と真珠 腫 の発生
95 ― 1010
各 群 の含 気化 の状態 各 群 別 に 各 部 位 の 含 気 化 の 割 合 を 表 した.す な わ ち表1で ― と ± で 表 され た 症 例 数 の,各 群 の 症 例 数 に 占 め る 罰 合 を 銘 で 表 し た もの で あ る. 含 気 通 路 の 軟 部 組 織 陰 影 は 真 珠 腫 発 生 前 に形 成 さ れ る の で は な く,進 展 範 囲 が 広 くな る に つ れ,そ の 過 程 で観 察 され る所 見 で あ る こ とが 分 か る.軟 珠 腫 進 展 の 結 果 で あ る.
な い た め 能 動 的 な換 気 機 能 は な い.し
部 組 織 に よ る閉 塞 は 真 珠 腫 発 生 の 原 函 で は な く,む
た が って狭 窄は
し,耳 管 上 陥 凹,中
室 峡 前 お よ び 後 部,上 鼓
粘 膜 ヒ ダ の 肥 厚 や 肉 芽 組 織 の 形 成 な ど物 理 的 狭 窄 で あ
室,乳
る は ず で あ る.
の 真 珠 腫 進 展 所 見 と比 較 し た と こ ろ,以
高 分 解 能CTで
これ らの 病 巣 が 捕 ら え きれ る か ど う
か と い う問 題 点 は最 後 ま で 残 る.し ほ と ん ど で,鼓
室 峡 部,耳
ら れ な か っ た 点 は,換
気 通 路 の 閉 塞 に よ る上 鼓 室 陰 圧
が 真 珠 腫 発 生 の 原 因 とす る 説 に1つ
1)
れ と術 中
下 の 事 実 が判
上 鼓 室 に 真 珠 腫 が 限 局 して い る場 合,中
鼓 室 峡 部,耳
鼓 室,
管 上 陥 凹 は 空 気 陰 影 で 満 た され,ほ
とん
どの 例 で 乳 突 洞 まで 換 気 が 保 た れ て い る.
の 疑 問 を 投 じ る結
果 とな っ た.
突 蜂 巣 の 含 気 化 を調 べ た.こ
明 し た.
か し初 期 真 珠 腫 の
管 上 陥 凹 に 空 気 陰 影 しか み
突 洞,乳
鼓 室,鼓
し ろ真
2)
真 珠 腫 が 乳 突 洞 口 ま で進 展 す る と,乳 突 洞 の 空
気 陰 影 率 が 減 少 す る.
近 年 本 庄 ら9)10)によ り各 種 の 中 耳 疾 患 の 耳 管 機 能 が 調 べ られ た.そ
の 一 連 の 実 験 の 中 で,上
鼓 室 や鼓膜 後
上 部 に 陥 凹 や 真 珠 塊 の あ る症 例 で は,耳
管 の受 動 的開
3)
鼓 室 峡 部 で は,真
珠 腫 が 乳 突 洞 や 後 部 鼓 室 に存
在 し た 例 で 軟 部 組 織 陰 影 の 率 が 増 加 す る. 4)
顔 面 神 経 窩 か ら後 部 鼓 室 に 入 り込 む 真 珠 腫 例 で
大 圧 は 正 常 か む しろ 低 い も の が 多 く,耳 管 閉 塞,狭
窄
は 鼓 室 峡 前 部 よ り,鼓 室 峡 後 部 の 軟 部 陰 影 充 満 率 が高
は 存 在 し な い と い う.ま た,耳
泄
い
管 の 動 的 換 気 能,排
.
能 で も良 好 な例 が 多 く,耳 管 鼓 室 口 粘 膜 も正 常 例 が 多 い と い う.中 耳 の 換 気 通 路 を 耳 管 機 能 だ け で 表 す こ と は で きな い し観 察 方 法 も異 な っ て い る た め,本 結 果 と直 接 比 較 す る こ と は で き な い.し
5)
高 い の は,前,中
論文 の
か し両 者 は 中
耳 換 気 通 路 と真 珠 腫 の 発 生 との 関 係 に重 要 な 情 報 を提 供 して い る の で は な か ろ うか.
高 度 進 展 真 珠 腫 で 空 気 陰 影 が 最 も保 た れ る率 が 鼓 室 で あ る.
これ ら結 果 だ け で,中
耳 換 気 通 路 の 持 続 的 閉 塞 が上
鼓 室 型 真 珠 腫 の 成 因 で な い,と い.し
か し 高 分 解 能CT上
断 定 す る こ とは で きな
は,換
気通 路 の軟 部組織充
満 陰 影 は 真 珠 腫 発 生 前 に形 成 さ れ る所 見 で は な く,真
上 鼓 室 陥 凹 説 で い わ れ て い る鼓 室 峡 部 の 換 気 通 路 障 害 は 軟 部 組 織 に よ る 完 全 閉 塞 な の で あ ろ うか?不
完全
珠 腫 進 展 の 過 程 に 観 察 さ れ る 所 見 で あ る こ とが 判 明 し た.
な 閉 塞 や 狭 窄 で も持 続 的 な 陥 凹 が お こ り う る の で あ ろ う か?陥 か?ま
凹 説 に補 足 すべ き説 明 が 必 要 な の で あ ろ う
た,鼓
文
室 峡 部 狭 窄 と真 珠 腫 発 生 は無 関 係 で,ほ 1) Proctor
か の病 理 学 的 過 程 が 存 在 す る の で あ ろ うか?今
後 の研
究 が 期 待 さ れ る. 2)
ま
と
め
上 鼓 室 型 真 珠 腫75症 例 の 術 前 高 分 解 能CTを
B:
development
space
and their
Otol
78: 631-648,
森満
保:中
耳 鼻 と 臨 床37:
分析
The
献
surgical
of the
significance
.
middle
ear
J Laryngol
1964.
耳 真 珠 腫 の 発 症 ― 特 に 前 鼓 室 の 意 義 ―. 271-405,
1991.
3) 船 井 洋 光,矢 部 利 江,加 瀬 康 弘,北 原 伸 郎,堀 内 康 治 他:
日耳 鼻
船井 ・他=中 耳 換気 路 と真珠 腫 の発 生
真 珠 腫 の 耳 管 上 陥 凹 へ の 進 展 に 対 す るCT診 に つ い て.耳
喉59:
4) 佐 野 真 一:実
939-945,
験 的 真 珠 腫.耳
断 の価 値
1987.
9)
展24補2:
43-85 ,
1981. 5) 森 山
耳 真 珠 腫 の 成 因 論.耳
巖:真
珠 腫 と 耳 管.耳
喉 科59:
829-833
,
林
正 彦,佐
藤 宏 昭,広
野 喜 信,本
耳 管 機 能.耳
鼻 臨 床4:
559-563,
庄
巖:耳
真珠 腫 の
1987.
33
喉 科59:
791-
た.
1987.
M:
Incidence,
cholesteatoma yng
No.16:
1961.
本 論 文 の趣 旨 は第92回 日本耳 鼻 咽喉 科 学 会総 会 で発 表 し
5) 本 多 芳 男:中 800,
天 性 中 耳 真 珠 腫 の 成 因.鼓 膜 所
鼻 咽 喉 科 ・頭 頸 部 外 科MOOK
本 庄
487-500,
1987. 10)
寛,本 多 芳 男:後
見,病 態.耳 -45 , 1990.
7) Tos
75:
95 ― 1011
etiology
in children.
and
pathogenesis
Adv
Oto-Rhino-Lar-
of
40: 110-117, 1988.
8) Tumarkin
A:
Pre-epidermosis.
(1991年11月13日 別 刷 請 求 先:〒183東
受 稿1992年1月28日
東 京 都 立府 中病 院 耳鼻 咽 喉 科
J Laryngol
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受 理)
京 都 府 中 市 武 蔵 台2-9-2 船 井 洋光
95 ― 1141
録 抄 日耳鼻
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