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過 去20年 間 に当科 で 経験 した化 膿 性 髄膜 炎 の検 討 第2報:起
炎 菌,治 療 と予後
東京慈恵会医科大学小児科柏病院1),東京慈恵会医科大学小児科2) 福永
謙1)西
村 千 英 子2)玉
置
尚 司2)斉
藤
義 弘2)
岡崎
実2)和
田
靖 之1)小
林
信 一2)和
田
紀 之1)
伊藤
文 之2)久
保
政 勝1)前
川
喜 平2)
(平成4年1月17日 受付) (平成4年3月30日 受理)
Key
words:
purulent
meningitis,
要 わ れ わ れ は,当 討 し た.脳
科 で の20年
causative
旨
間 に 経 験 し た 化 膿 性 髄 膜 炎149例
外 科 術 後 感 染 症,白
に つ い て 原 因 菌,治
18例(12%),
Stapkylococcus
Esckerickia
れ ら5種
前 半 はE.coliが
の 増 加 が 目 だ っ て い る.S.pneumoniae, あ っ た.死
亡 例 の 大 半 が5日
序
GBS,
以 内 で シ ョ ッ ク,意
文
発 率 が 著 明 に減 少 し て い る.し か し,そ れ で も現 20∼30%に
認 め られ る た め,決
S.aureusは
30例(20%),
B Streptococcus
年,GBS,
の5
H.influenzae
抗 生 物 質 の 進 歩 に もか か わ らず 予 後 不 良 で
識 障 害,け
い れ ん を と も な っ て い た.
白血 病 な どの悪 性 腫 瘍 に基 づ く二 次 性 免 疫 不 全 に 合 併 した 髄 膜 炎 は 除 外 した. 化 膿 性 髄 膜 炎 の 診 断 は 臨 床 所 見,髄
液 所 見,血
して 予 後 良 好 とは
中 に 死 亡 した 症 例 を 死 亡 群,本 れ る硬 膜 下 水 腫,出
で そ の 臨床 像 と予 後 に
つ い て 検 討 し報 告 した .そ こで 本 稿 で は,原 因 菌,
症 例 お よ び方 法
血,脳
症 が原 因 と考 え ら
性 麻 痺,て
ん か ん,な
ど重 篤 な問 題 を 有 す る症 例 を 後 遺 症 と し,一 過 性 の脳 波 異 常 も含 む,と
くに 問 題 を残 さな か っ た 症
例 を 正 常 群 と した.
治 療 法 の 変 遷 よ り予 後 を検 討 した の で 報 告 す る.
成
績
入 院 時,原 因 菌 が検 出 で きた 症 例 は109例(73%)
まで の20年 間 に 東 京 慈 恵
会 医 科 大 学 小 児 科 で 入 院 加 療 した 化 膿 性 髄 膜 炎 別刷 請 求 先:(〒277)柏
あ っ た .こ
S.pneumoniae,
液 所 見 よ り診 断 した.予 後 に つ い て は,観 察 期 間
著 者 らは,当 科 で の20年 間 に経 験 した 化 膿性 髄
1970年 か ら1990年8月
(GBS)7例(5%),
検 出 例 の67%で
遺 症 は生 存 者 の
い え な い.
膜 炎149例 に つ い て,第1編
Streptococcus
149例 を対 象 と し た.た だ し,脳 外 科 術 後 感 染 症,
療 法 の 進 歩 に よ り,以 前 よ り死 亡 率 や 後 遺 症 の併
亡 率 は 約5∼20%,後
Group
類 で 全 体 の49%,菌
最 も 多 か っ た が,近
小 児 化 膿 性 髄 膜 炎 は,抗 生 物 質 療 法 や 他 の補 助
在,死
influenzae
coli 13例(9%),
aureus6例(4%)で,こ
種 類 の 年 次 推 移 で は1970年
療 法 の 変 遷 と予 後 を 検
血 病 な ど 悪 性 腫 瘍 に 基 づ く二 次 性 免 疫 不 全 に 合 併 し た 髄 膜 炎 は 除 外 し た.
原 因 菌 が 検 出 で き た 症 例 は109例(73%)で,Haemopkilus pneumoniae
organisms
で あ った.多 (20%),
S.pneumoniae
例(9%),さ
市 柏 下163-1
6例(4%)と
東 京 慈 恵会 医 科 大 学附 属 病 院 小児 科 福永
謙
い も の か ら,H.influenzae
30例
18例(12%),E.coli
らにGBS
13
7例(5%),S.aureus
つ づ き,こ れ ら5種 類 で 全 体 の49%,
菌 検 出 例 の67%で
あ った(Fig.1). 感染症学雑誌 第66巻
第8号
小児化膿 性髄膜炎の起炎菌 と治療 Fig. 1
Causative
organisms
G (+) : Gram-positive
of purulent
cocci,
rod, N.meningitidis:
G (-):
Neisseria
meningitis
Fig. 2
Gram-negative
1049
Change
organisms
in
anual
incidence
of
positive
in CSF cultures
meningitidis
Fig. 3
Change
of causative
organisms
in each age
group
こ の5種
類 に つ い て,年
年 前 半 はE.coliが い で い た.第3世
次 推 椎 を み る と,1970
最 も 多 く,H.inuenzaeが
次
代 抗 生 物 質 出 現 し た1980年
に な る と い ず れ も 減 少 傾 向 が あ る が,1985年 り再 び 増 加 し,と influenzaeの
くに,GBS,
頃 よ
S.pneumoniae,H. は,や
増 加 が 目立 っ て い る(Fig.2).
年 齢 別 に み る と,新 coliが 多 か っ た.し GBSが
前後
生 児 で は1970年
か し1980年
前 半 はE.
後 半 に な る と,
ほ と ん ど を 占 め る よ うに な っ た.乳 児 期 で
Table cephem
平成4年8月20日
Prognosis
of purulent
meningitis
before
は り,1970年
が,1980年 い る.幼
後 半 はH.influenzaeが 児 期 以 降 で は,あ
H. influenzae,
and after
前 半 はE.coliが
the
中 心 とな って
ま り年 代 に 差 が な く,
S. pneumoniae
induction
中 心 で あ った
が主要菌種 となっ
of the 3rd generation
福永
1050
て い る(Fig.
3).
謙 他 5) S. aureus S.aureusに
原 因 菌 別 に 治 療 法 の 変 遷 よ り,Ampicillin (ABPC)+Gentamicin(GM)中
心 に第3世
生 物 質 を使 用 し な か った 症 例 群(未
代抗
使 用 群)と
第
関 して は,4/6(67%)に
の 進 歩 に もか か わ らず 後 遺 症(水
の 間 で 臨 床 症 状,予 後 に つ い て検 討 した
(Table).
頭 症)を
認め予
後 不 良 の疾 患 で あ る.
3世 代 抗 生 物 質 で初 期 治 療 を 開 始 した 症 例 群(使 用 群)と
抗 生物質
考
察
当 科 で 過 去20年 間 に 経 験 した 化 膿 性 髄 膜 炎149 例 の うち,後 遺 症 を 認 め た 症 例 は55例(37%),死 亡 例10例(7%)で,森
1) S. pneumoniae 入 院 時 に 意 識 障 害,麻 18(50%)と
痺 を 認 め た 症 例 は,9/
他 の 菌 に比 して 多 く,こ れ らの 症 例
で未 使 用 群6例
中3例 が 死 亡 し,2例
遺 症(い ず れ も水 頭 症+精
が 重 篤 な後
神 発 達 遅 延 十 て ん か ん)
を有 し,1例
の み 正 常 群 で あ った(11歳).使
3例 中,1例
に 後 遺 症 を認 め た が,残
歳,2歳)は
後 遺 症 な く正 常 群 で あ った.ま
全 症 例 の うち,3歳
る2例(6
以 下 の 症 例(9例)で
1例 を 除 き3例 が 死 亡,残
用群
た. これ らの 症 例 に つ い て,起
炎 菌,治 療 の 側 面 か
ら予 後 に つ い て検 討 した.後
遺 症 を認 め た 症 例55
例 中12例(22%)が 新 生 児 で あ り,従 来 の 報 告 と 一 致 して い た.こ の 理 由 と して,新 生 児 で は症 状 が典 型 的 で な く診 断 に時 間 を 要 す る症 例 が あ る こ
た,
は上 記
る5例 が後 遺 症 群 で あ
り,予 後 不 良 で あ った.第3世
口 らの報 告1)と一 致 し て い
代抗 生物質使用 に
と,好 中球 機 能 が 未 熟 で あ る こ と2),産 科 的 要 素 の 関 与3)があ げ られ る. 原 因 菌 と し て,多
pneumoniae,
い も の か ら,
E. coli,
GBS,
H. influenzae, S. の順 で あ
S. aureus
よ って,死 亡 例 は 減 っ た もの の,後 遺 症 併 発 率 に
り従 来 の 統 計4)と同 結 果 を呈 し て い た.年 齢 別 で
は 差 が な か った.
は,新 生 児 期 に 関 して は,以 前 はE.coliが
2) GBS
あ った が,近 年 で はPHILS報
本 菌 に よ る症 例 の歴 史 は 比 較 的 新 し い が,5/7が 新 生 児 で,1例
を 除 き全 例 で 敗 血 症 を 合 併 して い
が 第1位
告5)と同 様 にGBS
に な って い る.ま た,1ヵ
は,H.influenzae,幼
中心で
月以降 の児で
児 期 以 降 で はS.pneumoniae
た.比 較 的 感 受 性 の あ る とされ て い る第3世 代 抗
が 髄 膜 炎 の 主 要 菌 種 とな って お り,大 規 模 全 国 統
生 物 質 の使 用 に も か か わ らず50%に
計 結 果6)と一 致 して い た.
後 遺 症(水
頭
H.influenzaeは20年
症)を 認 め,予 後 の悪 い 疾 患 で あ った.
間 を通 じ最 も頻 度 が 高 く,
3) E. coli
こ こ5年 間 で 上 昇 傾 向 に あ った.今
最 近,例
3世 代 抗 生 物 質 に感 受 性 が あ る と され て い るに も
数 が 減 少 した 菌 で あ るが 新 生 児 期 に 多
か った.第3世
代 抗 生 物 質 使 用 に よ り死 亡 例,後
遺 症 例 は 認 め られ な か った.
か か わ らず,未
使 用 群,使
用 群 で後 遺 症(わ
れ の 経 験 した 症 例 で は 水 頭 症8例,難
4) H. influenzae
発 症 頻 度 に 差 は な く,ま たACPC耐
20年 間 を 通 じ,最
回 の結 果 で 第
も多 い が,こ
こ5年 間 で 再 び
れわ
聴1例)に 性 か否 か で も
後 遺 症 発 症 頻 度 に差 は な か っ た.今 井 ら7)は,デ キ
増 加 傾 向 を 示 し て い る菌 で あ る.幸 い に,当 院 で
サ メ タ ゾ ン使 用 に よ り血 清CRPが
は 死 亡 例 は い な か った.第3世
善 と平 行 し,こ れ を抑 え る の に有 効 で あ った と報
代抗生物質 使用の
臨床症 状 の改
有 無 で の 後 遺 症 発 症 頻 度 に差 は な か った(未
使用
告 し て い る.わ れ わ れ の検 討 でH.influenzaeの
群:使 用 群=4/13
性か
み 予 後 に つ い て は,CRPの
vs 4/17).ま
た,ABPC耐
改 善 日数 で 有 意 な 差 が
否 か で比 較 して も後 遺 症 併 発 頻 度 に差 は な か った
あ り,今 井 ら の結 果 を 裏 づ け る もの で あ り,今 後
(耐 性:感 受 性=4/11
H.influenzae髄
に はCRPの
な差 が あ った(正 (p