Jpn. J. Clin. Immunol., 38(1)45~56(2015)Ⓒ 2015 The Japan Society for Clinical Immunology

45

総  説

関節リウマチの治療と妊娠の両立  舟久保ゆう

*1, 2

Management of rheumatoid arthritis medications and pregnancy Yu Funakubo Asanuma*1, 2 *1

Department of Rheumatology and Applied Immunology, Faculty of Medicine, Saitama Medical University *2 Department of Rheumatology, Marunouchi Hospital (Accepted December 15, 2014) summary

Rheumatoid arthritis (RA) affects mainly women during their childbearing years. As aging of childbirth advances in Japan, women who plan pregnancy would increase after they developed RA. Recent findings showed that high disease activity of RA might impair fertility. Planning pregnancy is preferable after female patients achive and maintain low disease activity or remission of RA. Women on methotrexate, which is the anchor drug for RA, need to discontinue the medication with a high risk of causing birth defects during conception and pregnancy. Data of RA patients exposed TNF inhibitors during pregnancy has been accumulating in recent years. These data suggest that increased risk of spontaneous abortion and congenital abnomalies has not been observed. Although there is insufficient data about safety of breastfeeding while using TNF inhibitors, the secretion of the drugs in breast milk is very little and fetal toxicity has not been observed. Since long term safety of children exposed TNF inhibitors in uterus has not been established, we should discontinue the drugs as soon as pregnancy is recognized. TNF inhibitors may be an useful tools for management of active RA resistant to conventional DMARDs in women who desire to bear children. Key words    rheumatoid arthritis; pregnancy; disease activity; fertility; anti-TNFtherapies 抄  録 関節リウマチ(RA)は妊娠可能年齢の女性に好発する.日本では女性の出産年齢が高齢化しつつあり,RA 発症 後に妊娠を計画する女性が増えると予想される.RA の妊娠については,RA が妊孕性および妊娠経過に及ぼす影 響,妊娠が RA の病勢に与える影響,妊娠・授乳期の薬物治療などが検討されている.RA の疾患活動性が高いと 妊孕性は低下することが示されたため,低疾患活動性~寛解を達成・維持してから妊娠計画をたてるのが望ましい. RA の標準治療薬となっているメトトレキサートは催奇形性作用があるため,妊娠計画の少なくとも 3 か月前から 中止して妊娠および授乳中の使用を避けなければならない.最近では TNF 阻害薬治療中の妊娠に関するデータが 蓄積されつつあるが,流産,先天異常の発生率増加は示されていない.胎内で TNF 阻害薬に曝露した児の長期安 全性はまだ明らかになっていないが,妊娠が判明するまでは使用可能と考えられている.また,母乳への分泌も少 なく,胎児毒性を認めない.従来の疾患修飾性抗リウマチ薬でコントロール不良だった挙児希望の RA 女性でも, TNF 阻害薬は治療と妊娠の両立に有用な手段のひとつとなりうる.

はじめに

性が増加すると予想される.近年は生物学的製剤が 登場したことにより RA の治療は格段の進歩を遂げ

関節リウマチ(Rheumatoid arthritis: RA)は関節

た.早期からの積極的な治療で臨床的寛解をめざす

炎を主病変として関節破壊が進行する慢性炎症性の

「Treat To Target」という治療戦略により RA の治療

疾患で,妊娠可能年齢である 30~50 歳の女性に好

予後も改善しつつある.ゆえに,挙児希望の RA 女

発する.先進国では初婚年齢が上昇して出産年齢

性では治療と妊娠・出産の両立が今後ますます重要

も高齢化しているが,日本でも第 1 子の平均出産

な課題になると考えられる.

年齢は 30 歳を超えて高齢出産をする女性が増えつ つあり,今後は RA 発症後に結婚,妊娠を考える女 *1 *2

埼玉医科大学リウマチ膠原病科 丸の内病院膠原病内科

Ⅰ.RA が妊娠や児に与える影響 1)RA における妊孕性の低下 世界保健機関は「避妊をしていないのに 12ヶ月

日本臨床免疫学会会誌(Vol. 38 No. 1)

46

以上にわたって妊娠に至れない状態」を不妊症と定

Rheumatoid Arthritis(PARA)study」が実施された3).

義している.1986~1991 年に米国で実施された前

RA 女 性 245 例 中 205 例 が 妊 娠 し た が, そ の う ち

向き症例対照研究によると RA 女性(n=159)のう

64 例(31%)は妊娠するまでの期間が 12 か月を超

ち妊娠するまでに 12 か月を超えた女性は 42%と非

えており,西洋人の一般人口における不妊率 9 ~

RA 対照女性(n=1,258)の 34%に比べて多かった

20%に比べて高かった4, 5).RA 女性で妊娠計画から

1) (OR 1.44, 95 % CI 1.10−1.91) . ま た,1996~2002

1 年以内に妊娠できなかった患者の頻度を疾患活動

年に デ ン マ ー ク で 実 施 さ れ た 全 国 規 模 の 追 跡 調

性で層別化して比較したところ,高疾患活動性群

査「The Danish National Birth Cohort」でも,妊娠前

(Disease activity score [DAS] 28 > 5.1) は 67 %, 中

に RA と診断された女性 112 例と非 RA 対照女性

等度疾患活動性群(3.2 < DAS28 ≤ 5.1)は 43%,低

74,255 例を比較した結果,RA 女性は妊娠するまで

疾患活動性群(2.6 < DAS28 ≤ 3.2)は 37%,寛解群

に 12 か月を超えた女性が多く(25.0% vs 15.6%,

(DAS28 ≤ 2.6)は 30%で,高疾患活動性の RA 女性

年 齢, 出 産 回 数,BMI, 職 業, 飲 酒 で 補 正 し た

における不妊症の頻度が寛解 RA 女性の約 2 倍と高

adjusted OR 1.6) ,不妊治療を受けた女性も多かった

いことがわかった(図 1 A).また,プレドニゾロ

(9.8% vs 7.6%) .以上から,RA 女性における妊

ン(prednisolone: PSL)の投与量で層別化分類した

2)

孕性の低下が明らかになった.

ところ,不妊症の頻度は PSL > 7.5 mg/日投与患者 で 66%,PSL2.5~7.5 mg/日投与患者で 43%,PSL

2)RA 女性の妊孕性低下に関連する要因

投与なしの患者で 36%とステロイド投与量が多く

RA 女性の妊孕性低下に関連する要因として,RA

なるほど妊孕性が低下していることも明らかになっ

の疾患活動性や患者要因(RA 罹患による妊娠・出

た(図 1 B).多変量解析で RA 女性の不妊症に関連

産への不安や関節症状が強いことから妊娠計画を断

する要因を検討した結果,加齢,未経産,高疾患活

念) ,治療薬の影響が考えられている.

動性(DAS28 増加),非ステロイド抗炎症薬(Non-

オランダで 2002~2008 年に集められた妊娠計画

Steroidal Anti-Inflammatory Drugs: NSAIDs)使用,

中または妊娠早期の RA 女性 245 例を対象に,妊

PSL 使用がリスク要因としてあがった.一方,喫煙,

孕性低下に関連する要因を検討する大規模前向き

RA の罹病期間,リウマトイド因子陽性,抗 CCP 抗

コホート研究「the Pregnancy-induced Amelioration of

体陽性,サラゾスルファピリジン(Salazosulfapyri-

図 1  RA 女性における妊娠計画から妊娠するまでの年数 文献 3 より引用,改変          

舟久保・関節リウマチの治療と妊娠の両立

dine: SASP)使用,メトトレキサート(Methotrexate:

47

3)RA が児に及ぼす影響

MTX)使用歴は妊孕性低下と関連がなかった.妊

RA では早産,胎児発育遅延の頻度が高いと報告

娠前または妊娠初期に NSAIDs を使用すると流産を

さ れ て い る.RA 女 性 の 4 人 に 1 人 は 早 産 で, 非

おこす頻度が高いと報告されている.疾患活動性が

RA 女性の 10 人に 1 人が早産であるのに比べて頻

高い RA 女性で妊娠計画を優先して抗リウマチ薬投

度が高かった .さらに早産と低出生体重児は重症

与を中断し,NSAIDs やステロイドのみで治療を継

の RA やステロイド治療を受けている女性に多い傾

続した場合,関節炎の持続により骨関節破壊が進行

向があった

するだけでなく,妊孕性も低下する可能性がある.

て薬物療法も制限できれば,RA 患者の妊娠経過は

慢性疾患があると妊娠や育児ができるか不安に感

健常女性と変わらない.また RA それ自体は,患者

じて自ら妊娠をあきらめる女性もいる.40 歳以下

から産まれた児の先天異常に関連がないと認識され

で悪性腫瘍と診断され,治療後 5 ~10 年経過して

ている

いる女性 240 例を平均 10 年間追跡した調査研究に よると 1/3 の患者は挙児希望にもかかわらず妊娠で

9)

.RA の活動性が低い状態で妊娠し

10, 11)



12, 13)

Ⅱ.妊娠が RA に与える影響

きなかった .そのうち悪性腫瘍の既往があること

RA 女性では妊娠中に関節症状が改善して分娩後

で妊娠をあきらめた女性は抗がん剤治療により不妊

に再燃する傾向があることは,実臨床においても

をきたすのではないか,妊娠によって悪性腫瘍の再

経験することである.これまでの報告から,妊娠

発を促すのではないか,抗がん剤治療が児の健康に

中に関節症状が改善した RA 患者および分娩後に再

悪影響を及ぼすのではないかと不安に感じでいる者

燃した患者の割合はともに 40~90%となっている

が多かった.RA 女性も悪性腫瘍の既往がある女性

(表 1 ).オランダの全国前向き調査では妊娠した

と同様に,RA に罹患したために妊娠をあきらめて

RA 女性 84 例で妊娠前,妊娠中,出産後の疾患活動

家族計画や人生設計を変更すべきか悩むのではない

性を継時的に評価している .中等度疾患活動性の

だろうか.既婚 RA 女性 411 例に挙児希望や家族計

RA 女性は妊娠前に 70%いたが,妊娠後期には 40%

画について電話調査をした結果をみると,18 歳以

まで減少し,産後 12 週で 54%に再び増加した.一

下もしくは第一子出産前に RA と診断された女性は

方,寛解を示していた RA 女性の頻度は妊娠前が

妊娠回数が少なく子供の数も少なかった .専門医

10%で,妊娠初期が 17%,妊娠後期には 27%まで

から妊娠を制限するようアドバイスされたことがあ

増加したが,産後 12 週には 12%に減少した.RA

る RA 女性は 8 %と少なかったものの,そのような

患者は産後 6 か月以内に再燃する傾向があり,50~

患者でも妊娠回数や子供の数が少なかった.RA に

70%の患者で出産後に関節症状が悪化し,薬物治療

罹患したことが妊娠を計画するかどうかの決定に影

を再開もしくは強化されていた .妊娠中に RA 症

響を及ぼした女性は 20%いたが,第一子出産前に

状が改善する予測因子は,寛解あるいは低疾患活動

RA と診断された女性に多かった.2009 年に RA 女

性の時期における妊娠,リウマトイド因子陰性,抗

性の妊娠,出産について調査された米国の長期観察

CCP 抗体陰性だったが,RA の罹病期間や関節機能

試験「the National Data Bank for Rheumatic diseases」

は予測因子にならなかった.また疾患活動性が低い

でも,578 例の RA 女性のうち 55%は希望していた

時期の妊娠は,出産後の再燃リスク低下にも関連す

妊娠回数よりも実際の妊娠回数が少なかった .そ

る要因だった

のうち 42%の患者は関節炎があるために妊娠回数

活動性の改善率と産後の再燃率は,1938 年~2004

を制限したと述べている.他に育児ができるか,病

年 の 報 告 で は 60~90 % と 高 か っ た が,2008 年 の

気や薬剤が子供に悪影響を及ぼすのではないか,病

de Man らの報告では 40%に低下している(表 1 ).

気が悪化するのではないか,子供にも RA を発症す

De Man は RA の疾患活動性を DAS28 で評価してい

るのではないかと心配していた.このように,専門

るが,以前の報告は患者の症状や患者による自己評

医の意見や RA に罹患したことによる妊娠・出産・

価で確認していた.よって,RA 活動性評価法の違

育児に対する不安から妊娠をあきらめる女性が少な

いが,結果の差に関与している可能性がある.

6)

7)

8)

14)

15)

.妊娠中の関節症状あるいは疾患

16−18)

からず存在する.個人の選択によって妊娠や子供の

de Man らは妊娠が RA 患者の症状や身体機能に

数を制限することも RA における妊孕性の低下に関

及ぼす影響を確認した .まず健常女性 32 人で妊

与していると考えられる.

娠 中 の ESR(erythrocyte sedimentation rate),CRP

19)

日本臨床免疫学会会誌(Vol. 38 No. 1)

48

表 1  RA 女性における妊娠中の症状改善と分娩後の再燃 報告者 Hench Oka Hargreaves Ostensen ら Klipple and Cecere Nelson ら Barrett ら Ostensen ら de Man ら

発表年

患者数 (妊娠回数)

妊娠中に改善した 患者の割合

分娩後に再燃した 患者の割合

妊娠中の 疾患活動性

分娩後の 疾患活動性

1938 1953 1958 1983 1989 1993 1999 2004 2008

20 ( 34) 93 (114) 10 ( 11) 31 ( 49) 93 (114) 41 ( 57) 140 10 84

90% 77% 91% 75% 77% 60% 66% 70% 39%

90% 81% 91% 62% 82% ND 75% 60% 38%

ND ND ND ND ND ND ND ND DAS28↓

ND ND ND ND ND ND ND ND DAS28↑

文献 46 より引用,改変

ND: no data, DAS: disease activity score

(C-reactive protein),HAQ(Health Assessment Ques-

両群において,非妊娠対照女性よりも増加していた.

tionnaire)を測定したところ,妊娠初期と比べて妊

次に,妊娠中および分娩後のサイトカイン濃度の推

娠後期に ESR と HAQ が増加し,出産後には低下し

移をみると,RA 妊婦では soluble TNF receptor およ

た.一方,CRP 値は妊娠中に有意な変動はなかっ

び IL-1 receptor antagonist が妊娠中に徐々に増加し

た.妊娠が DAS の値に及ぼす影響は,DAS28-ESR3

て妊娠後期に最大値となり,分娩後には減少したが,

が +1.16,DAS28-ESR4 が +1.29,DAS28-CRP3 が

健常妊婦でも同様の傾向がみられた.RA 妊婦の

+0.27,DAS28-CRP4 が +0.47 と 推 定 さ れ,DAS28-

Soluble TNF receptor 濃度は RA 疾患活動性と負の相

CRP3 が最も妊娠の影響を受けない評価法と考えら

関がみられた.以上から,妊娠中の抗炎症性サイト

れた.実際に,妊娠後期の RA 女性で中等度~高

カイン産生増加は RA の疾患活動性抑制に関与して

疾患活動性と評価された RA 女性は DAS28-CRP3

いる可能性がある.

評 価 で 53 %,DAS28-CRP4 評 価 で 63 %,DAS28ESR3 および DAS28-ESR4 評価ではともに 75%だっ

Ⅲ.RA 治療薬が妊娠,児に及ぼす影響(表 2 )

た.妊娠および妊娠による身体的負担が,患者の全

RA の 治 療 薬 と し て NSAIDs, 疾 患 修 飾 性 抗

般評価や ESR 値に影響する可能性があり,妊娠 RA

リ ウ マ チ 薬(disease modified anti-rheumatic-drugs:

女性で疾患活動性を正確に評価するには DAS28-

DMARDs),生物学的製剤,ステロイドなど多様な

CRP3(VAS-GH を除く)を用いるのが良いと判断

薬剤が使用されることから,妊娠,児に及ぼす影響

された.今後は妊娠中の RA 評価法を統一して,妊

が懸念される.

娠が RA の活動性に及ぼす影響を正確に評価する必 要があるかもしれない.

1)NSAIDs,アセトアミノフェン

妊娠中に RA の関節炎が軽快して分娩後に再燃す

NSAIDs はシクロオキシゲナーゼ(Cyclooxygenase:

るメカニズムについてはまだ充分に解明されていな

COX)阻害によりプロスタグランディン(prostag-

いが,血中サイトカイン濃度との関連についていく

landin: PG)の産生を抑制して抗炎症,鎮痛作用を

つか報告がある.RA は Th1/Th2 バランスが Th1 優

発揮する薬剤である.PG は排卵や着床にも関与し

位に傾いている疾患だが,妊娠中は Th2 優位とな

ており,NASIDs 使用により排卵,着床,胎盤形成

り RA の活動性が低下すると考えられている .ま

を阻害する可能性がある.妊娠中の NSAIDs 使用

た,妊娠中は regulatory T cell の細胞数が増加し,

により流産のリスクは 1.8 倍に増加するが,アセ

抗炎症性サイトカインの IL-10 産生が増加,炎症性

トアミノフェンでは増加していなかった .さら

サイトカインの TNF-α と IFN-γ 産生が減少するこ

に,NSAIDs を妊娠初期に使用していると流産のリ

とも示されている

.Østensen らは 19 例の RA 妊

スクは 5.6 倍に増加し,1 週間以上継続して使用し

婦と 30 例の健常妊婦の血中サイトカイン濃度を測

ていると 8.1 倍に増加していた.妊娠 30 週以降の

定し,妊娠していない RA および健常女性と比較し

NSAIDs 使用は PG 産生抑制によって,子宮内で胎

た .抗炎症性サイトカインの Soluble TNF receptor

児動脈管の拡張を妨げ動脈管早期閉鎖をおこして胎

と IL-1 receptor antagonist は RA 妊 婦, 健 常 妊 婦 の

児死亡や新生児肺高血圧をきたす可能性がある .

20)

21, 22)

23)

24)

25)

舟久保・関節リウマチの治療と妊娠の両立

49

表 2  RA 治療薬が妊娠・胎児へ及ぼす影響 薬剤

FDA カテゴリー

添付文書

催奇形性

非ステロイド抗炎症薬

B

有益性投与

なし

C

妊娠末期は 禁忌

B

有益性投与

アセトアミノフェン

胎児毒性

詳細

妊娠中の使用

妊娠初期に排卵,着床,胎盤形成を阻 害する可能性がある.

なし

あり

妊娠 30 週後に.動脈管早期閉鎖の危 険性が増加.

妊娠 32 週以降は中止

あり

妊娠後期の投与で胎児に動脈管収縮を 起こすことがある.

妊娠中も使用可

妊娠中も使用可

ステロイド

C

有益性投与

なし

あり

催奇形性のリスクは非常に少ない.妊 娠初期での使用は新生児の口蓋裂の危 険性が増加(3 ~ 4 倍).子宮内胎児 発育遅延,早産(用量依存性).新生 児に副腎不全を起こすことがある.

サラゾスルファピリジン

B

有益性投与

なし

あり

催奇形性の報告なし.2 g/日を超える 量を使用して新生児に再生不良性貧 血,好中球減少をきたした報告あり.

妊娠中も使用可

NA

有益性投与

情報なし

情報なし

海外疫学データが少ないが,現在まで 有害情報なし.

妊娠判明まで使用可

タクロリムス

C

禁忌

なし (動物実験では 催奇形性報告あり)

あり

新生児に一過性高 K 血症,子宮内胎 児発育遅延,早産の報告あり

妊娠判明まで使用可

メトトレキサート

X

禁忌

あり

あり

催奇形性の報告あり.妊娠中の使用禁 妊娠計画の少なくとも 3 か月前に投与中止 忌.

レフルノミド

X

禁忌

あり ?

情報なし

TNF 阻害薬

B

有益性投与

なし ?

なし ?

アバタセプト

C

有益性投与

(動物実験では 催奇形性なし)

トシリズマブ

C

有益性投与

情報なし

情報なし

妊婦のデータなし.

妊娠計画の少なくとも 10 週間前に投与中止

トファシチニブ

C

禁忌

情報なし

情報なし

妊婦のデータなし.

妊娠計画の少なくとも 3 か月前に投与中止

NA

禁忌

情報なし

情報なし

妊婦のデータなし.

妊娠計画の少なくとも 3 か月前に投与中止

ブシラミン

イグラチモド

妊娠中の使用禁忌.

妊娠計画の 2 年前に 投与中止

児の先天異常発生率増加の報告なし. 妊娠初期であれば TNF 阻害薬は胎児 に移行しない.

妊娠判明まで使用可

ラットで自己免疫 妊婦のデータなし. 様の所見を認めた

妊娠計画の少なくとも 10 週間前に投与中止

A: 対照試験で危険なし B: ヒトにおける危険の事実なし C: 危険は除外できない D: 危険の可能性あり X: 妊娠中は禁忌 NA: not applicable

よって妊娠後期の 32 週以降は NSAIDs 使用を中止

た,妊娠中,後期に使用すると,児の子宮内胎児

するよう推奨されている.妊娠中に COX-2 選択的

発育遅延や早産,母親に妊娠高血圧や妊娠糖尿病

阻害薬を使用したデータは限られているが,2012

をきたす危険性が増加する .PSL は胎盤に存在す

年のイスラエルからの報告によると,NSAIDs を使

る 11β hydroxysteroid dehydrogenase によって不活化

用された 5,267 件の妊娠(従来の NSAIDs 使用 5,153

されやすく児に対する影響は少ない.一方,ベタメ

件,COX-2 選択的阻害薬使用 114 件)を解析した

タゾやデキサメタゾンは 11β hydroxysteroid dehydro-

結果,従来の NSAIDs 使用では先天異常のリスクは

genase で代謝されないため胎盤を通過して胎児に移

増加していなかった .しかし COX-2 選択的阻害

行する.そのため,妊娠中には胎盤通過性が少ない

薬を使用すると筋骨格系の先天異常をきたすリスク

PSL を使用する方が良い.

26)

28)

が 3.4 倍に増加していたことから,妊娠中の使用は 避けた方が良いかもしれない.アセトアミノフェン には PG 合成阻害作用がなく,妊娠中も比較的安全

3)MTX MTX は RA 治療の標準薬と位置づけられており, 患者の多くが服用している薬剤である.しかしなが

に使用できる薬剤と考えられている.

ら MTX 使用により流産のリスクおよび催奇形性作 用があるため,妊娠中は使用禁忌である.妊娠中の

2)ステロイド ステロイドは妊娠中に RA が再燃した場合にも使

MTX 使用による先天性異常として頭蓋,四肢の骨

用可能な薬剤だが,妊娠初期に使用すると新生児の

格異常,無脳症,小頭症,水頭症が報告されている.

口蓋裂をきたす危険性が 3 ~ 4 倍に増加する .ま

妊娠成立から妊娠初期の間に MTX を投与されて

27)

日本臨床免疫学会会誌(Vol. 38 No. 1)

50

いたリウマチ性疾患の女性における妊娠予後と催奇

と,MTX 非使用 RA 男性との妊娠 412 件を比較し

形性に関する報告を表 3 に示す.比較のため,表の

たところ,先天異常や自然流産の頻度,出生時の児

右端には米国一般人口における自然流産や先天異常

の体重と在胎週数に差はなかった .日本において

の頻度も記載した.妊娠成立後も MTX を投与され

RA 女性,男性ともに妊娠計画を避けるべき期間は

ていた女性では自然流産をきたす頻度が高い傾向が

MTX 投与中および投与終了後 3 か月間とされてい

みられたが,児に先天異常をきたす頻度は一般人口

る.しかし,妊娠成立までなら MTX を使用しても,

と変わらないようである.しかしこれらの報告では

自然流産や先天異常の発生率は増加していなかっ

観察した症例数が少かった.表 3 には載せていない

た.よって MTX 内服中の予期せぬ妊娠ではすぐに

が,2014 年に報告された欧州の Teratology Informa-

人工中絶を選択せず,専門家に相談して妊娠を継続

tion Service を使用した多施設共同前向き観察試験

するか検討した方がよいだろう.

30)

では,MTX(≦30 mg/週)を妊娠成立後もしくは 妊娠成立までの 3 か月以内に投与されていたリウマ

4)MTX 以外の DMARDs

チ性疾患の女性 324 例における自然流産,先天異常

SASP とその代謝物であるスルファピリジンは胎

のリスクが評価された .妊娠成立までの 3 か月以

盤を通過するが,これまでの使用経験から児にはほ

内に MTX を使用されていた患者 136 例の自然流産

とんど影響がなく,妊娠中も安全に使用できると考

(14.4%) ,先天異常(3.5%)の累積発生率は,MTX

えられている .しかし男性では可逆性精子減少を

非使用患者群 459 例(自然流産 22.5%,先天異常

きたすことがあるので,妊娠計画の 3 か月前から

3.6%)および自己免疫疾患がない対照群 1,107 例

使用を中止した方がよい .ブシラミンは海外疫学

(自然流産 17.3%,先天異常 2.9%)と比較して増え

データが少ないがこれまでに有害事象報告がないこ

ていなかった.一方,妊娠成立後も MTX を使用し

とから妊娠判明までは使用可能と考えられている.

ていた患者 188 例では自然流産(42.5%)および先

タクロリムスは胎盤移行性があるが,先天異常の発

天異常(6.6%)の累積発生率が増加していた.

生率増加はない .また子宮内胎児発育遅延や早産

29)

31)

32)

33)

妊娠した女性のパートナーが RA 男性で妊娠まで

の発生率増加は報告されているが,母体の原疾患に

MTX を使用していた場合の妊娠への影響も検討さ

よるもので薬剤の影響ではないと考えられている.

れている(表 3 ) .ドイツで実施された前向き観察

新生児に一過性の高 K 血症を認めることはあるが,

試験によると,MTX 使用 RA 男性との妊娠 113 件

無治療で改善する.レフルノミドは動物実験で催奇

表 3  MTX がリウマチ性疾患患者の妊娠及び児に与える影響 Kozlowski 47) (米国)

Østensen 48) (ノルウェー)

Chakravarty 49) (米国)

Lewden 50) (フランス)

Weber-Schoendorfer 30) (ドイツ)

Hoyert 51) (米国)

発表年

1990

2000

2003

2004

2014

2012

対象

8例

4例

65 例

28 例

112 例

米国一般人口

疾患

リウマチ性疾患

関節リウマチ

関節リウマチ

リウマチ性疾患

パートナーがリウマチ性疾患

NA

年齢

平均 28 歳

平均 29 歳

NA

平均 33 歳

平均 33 歳

15−44 歳

MTX 投与量

7.5−10mg/w

5−15mg/w

7.5−15mg/w

平均 10.5mg/w

0.6−30mg/w 中央値 15mg/w

NA

0−15 週

3−6 週

1.5−15 週

0−9 週

妊娠するまでの 3 か月以内に パートナーの男性が MTX 使用

NA

10

4

39

28

113

6,578,000

2/10 (20%)

0 (0%)

8/39 (21%)

5/28 (18%)

11/113 (10%)

1,212,000 (18%)

自然流産

3/8 (38%)

1/4 (25%)

7/31 (23%)

4/23 (17%)

15/102 (15%)

1,118,000 (17%)

生児出産

5/8 (63%)

3/4 (75%)

23/31 (74%)

19/23 (83%)

87/102 (85%)

4,248,000 (65%)

先天異常

0 (0%)

0 (0%)

3/31 (10%)

1/23 (4%)

6/89 (人工中絶 2 例を含む,6.7%)

3%

NA

奇形 3 例

小奇形 1 例

大奇形 1 例 染色体異常(de novo)1 例 小奇形 4 例

NA

報告者

妊娠中の MTX 投与期間 妊娠件数 人工妊娠中絶

先天異常の内訳

NA

NA: not applicable, MTX: methotrexate

舟久保・関節リウマチの治療と妊娠の両立

51

形性作用が報告されており,妊娠中の使用について

ゴル(certolizumab pegol: CZP)を投与されていた

安全性が確立していないため,妊娠中の使用は禁忌

患者で自然流産および先天異常の発生率は増加して

である.また半減期が長い薬剤なので妊娠計画の 2

おらず,特徴的な奇形パターンもみられていない (表 4 ).ETN を投与されていた女性から産まれた

年前に投与を中止する.

児に VACTERL 連合という先天異常が増加している と報告されたが,その後に先天異常を集積したデー

5)生物学的製剤

タベースや症例対照研究から ETN と VACTERL 連

TNF 阻害薬の登場によって RA 治療は飛躍的な 進歩をとげた.MTX に加えて TNF 阻害薬という治

合の関連は否定された

療手段を手に入れたことで,臨床的,機能的,構造

mab: GLM),及び非 TNF 生物学的製剤のトシリズ

的寛解を達成することが可能となり,RA では寛解

マブ,アバタセプトはまだ報告例が少ないものの,

の達成,維持が治療目標になった.妊娠を希望す

流産,先天異常の発生率増加はなさそうである.

.ゴリムマブ(Golimu-

35, 36)

る RA 患者では MTX を使用することができない.

母親に投与された薬剤は胎盤を通過して胎児に移

そのため TNF 阻害薬が普及するまでは,挙児希望

行するが,薬剤の母体血中濃度が高いほど胎児に与

だが関節炎コントロール不良な RA 女性の薬物治療

える影響も大きくなると考えられる.妊娠中の母体

に悩むことも多かったのではないだろうか.2005

血清および胎児血清中 IgG 濃度を経時的にみると,

年に米国のリウマチ専門医に対して TNF 阻害薬で

妊娠 13 週から妊娠週数が進むにつれて胎児血中の

治療中に妊娠した RA 患者に関するインターネット

母体血由来 IgG 濃度が増加していき,妊娠末期に

調査が実施された.その結果,454 例の RA 患者が

は胎児血清 IgG 濃度が母体血清 IgG 濃度を超える

TNF 阻害薬治療中に妊娠し,142 例(31.3%)は妊

(図 2 ).IFX,ADA,GLM などの抗体製剤は IgG1

娠中も投与を継続されていた.378 例(83%)は生

モノクローナル抗体であるが,妊娠初期ならば胎盤

児出産で, 9 例( 2 %)が早産, 5 例が人工妊娠中

関門を通過しないため,この時期に TNF 抗体製剤

絶( 1 %) ,25 例( 6 %)は自然流産だった.先天

を投与していても胎児に移行しないと考えられる.

34) 異常は 1 例も報告がなかった .その後に集積され

つまり,理論的には妊娠が判明した時点で TNF 阻

たデータでも生物学的製剤使用患者の妊娠経過をみ

害薬投与を中止すれば胎児への影響を心配しなくて

ると,TNF 阻害薬のインフリキシマブ(Infriximab:

よい.

IFX) ,エタネルセプト(Etanercept: ETN),アダリ

Mahadevan ら37) は Crohn 病女性で TNF 阻害薬の

ムマブ(Adalimumab: ADA),セルトリズマブ・ペ

胎盤通過性を検討している.Crohn’s Colitis Founda-

表 4  生物学的製剤が胎児に与える影響 生物学的製剤

作用

生物学的製剤投与中に 妊娠した件数

出産時血清薬物濃度 臍帯血/母体血比 (中央値,%)

妊娠経過

インフリキシマブ

TNF 阻害薬

> 1000

160

流産,先天異常の発生率増加なし 特徴的な奇形パターンなし

エタネルセプト

TNF 阻害薬

> 500

6

流産,先天異常の発生率増加なし 特徴的な奇形パターンなし

アダリムマブ

TNF 阻害薬

> 300

179

流産,先天異常の発生率増加なし 特徴的な奇形パターンなし

ゴリムマブ

TNF 阻害薬

40

NA

データ不充分だが,流産, 先天異常の発生率増加なし

セルトリズマブ・ペゴル

TNF 阻害薬

139

3.9

流産,先天異常の発生率増加なし 特徴的な奇形パターンなし

トシリズマブ

IL-6 阻害薬

45

NA

データ不充分だが,流産, 先天異常の発生率増加なし

アバタセプト

T 細胞選択的 共刺激調節薬

132

NA

流産,先天異常の発生率増加なし 特徴的な奇形パターンなし

NA: not applicable, TNF: tumor necrosis factor, IL-6: interlenkin-6

文献 52−54 より引用,改変

日本臨床免疫学会会誌(Vol. 38 No. 1)

52

を接種しても有害事象はみられなかった.しかし妊 娠中にも IFX 治療を継続された重症クローン病の 母親から生まれた乳児が,生後 3 か月で BCG を接 種した後に播種性マイコバクテリア感染症を発症し て生後 4.5 か月で死亡した .この報告により,子 38)

宮内で生物学的製剤に曝露した児の生ワクチン接種 は血中から生物学的製剤が検出されなくなるまで 図 2  妊娠中の母体血清および胎児血清 IgG 濃度の経時的 変化 文献 46 より引用,改変

(IFX ならおそらく 6 か月以上)投与を延期するこ と が 推 奨 さ れた .RA 患 者 の 場 合,IFX は MTX 39)

との併用が必須なので妊娠を計画する女性で使用す ることはないが,ADA や GLM など他の抗体製剤

tion of America(CCFA)pregnancy IBD and Neonatal

でも妊娠中・後期は胎児曝露を防ぐために投与を控

Outcomes(PIANO)Registry に 登 録 さ れ た 31 例 の

えた方がよいと考えられる.

Crohn 病女性(22~42 歳)で出産時に母体血,臍帯

Ⅳ.授乳期における RA 治療薬の安全性(表 5 )

血,新生児血の TNF 阻害薬濃度が測定された.投 与薬剤の内訳は,IFX が 11 例,ADA が 10 例,CZP

授乳中でも比較的安全に使用できると考えられて

が 10 例だった.IFX と ADA は児血清中の薬物濃度

いる薬剤は NSAIDs,PSL,SASP,タクロリムス,

が母体血清中の薬物濃度よりも高く,胎盤移行性が

TNF 阻害薬である.NSAIDs は少量ながら乳汁移行

懸念された.一方,CZP は母体血清中よりも児の

性があるため,授乳中に使用するなら半減期が短い

血清中薬物濃度の方が低く,胎盤移行性は比較的少

短時間作用型のイブプロフェンの方が,長時間作用

ない薬剤であることが示された.CZP は他の抗体

型のピロキシカムよりも好ましい.また腸肝循環を

製剤と違って Fc 部分をもたず,Fc 受容体を介する

受けやすいインドメタシンも未熟児や新生児黄疸の

能動的な胎盤通過がないので,薬剤の胎盤移行は非

児では使用を避けた方がよい.20 mg 以上の PSL を

常に少ないと考えられる.ETN も可溶性 TNF 受容

使用している場合は内服して 4 時間以上経過してか

体 Ig 融合蛋白であることから,抗体製剤と違って

ら授乳させる.また母親が 40 mg 以上の PSL を内

胎盤移行は比較的少ない.よって,妊娠中にやむを

服している場合は,児に副腎不全がおこらないか注

えず TNF 阻害薬投与を継続する場合は ETN と CZP

意深く観察する必要がある.SASP は,授乳中使用

が比較的安全に使用できると認識されている.

で母乳に移行乳児に血性下痢があらわれたとの報告

IFX は妊娠中・後期に胎盤を通過し,生後数か月

例があるが,比較的安全に使用できると認識されて

間にわたって胎児血清中に検出されることから児

いる.タクロリムスは授乳中に使用しても児の血中

の免疫系への関与が懸念される.300 例の妊娠予後

薬物濃度は低~検出感度以下で児への影響もほと

データによると,IFX による胎児毒性は認められず,

んどないと報告されている.ただし,添付文書で

IFX が検出された乳児でも最初の 1 年間に感染のリ

は SASP 及びタクロリムスの両薬剤を使用する際に

スクは増加していなかった.また,不活化ワクチン

授乳を避けるよう指示されている.一般に免疫抑制

表 5  授乳期における RA 治療薬の安全性 薬剤

乳汁中薬物濃度

新生児血中薬物濃度

安全性

授乳中の使用

NSAIDs プレドニゾロン サラゾスルファピリジン タクロリムス TNF 阻害薬 メトトレキサート レフルノミド 非 TNF 生物学的製剤 トファシチニブ

低 低 中(代謝物) 低 低 低 データなし データなし データなし

低濃度~検出感度以下 低濃度~検出感度以下 様々(代謝物) 低濃度~検出感度以下 低濃度~検出感度以下 データなし データなし データなし データなし

低リスク 低リスク 低リスク 低リスク 低リスク 高リスク 高リスク 不明 不明

可 可 可 可 可 不可 不可 不可 不可

NSAIDs: non steroidal anti-inflammatory drugs, TNF: tumor necrosis factor

文献 40, 55 より引用,改変

舟久保・関節リウマチの治療と妊娠の両立

53

剤使用中の授乳は禁止されていることから,MTX

表 6  RA 女性の妊娠計画

とレフルノミドは授乳中に使用すべきでない.TNF

1)RA 女性では低疾患活動性~寛解を達成・維持してから 妊娠計画をたてるのが望ましい 2)妊娠前評価 ①抗リン脂質抗体と抗 SS-A,SS-B 抗体を測定,評価する ②内科的合併症(高血圧,糖尿病,慢性腎臓病,甲状腺 疾患など)を評価する 3)薬剤 ①妊娠初期および妊娠 32 週以降の NSAIDs 使用をひかえる ② MTX, LEF など催奇形性作用がある薬剤を中止する (MTX は妊娠計画の少なくとも 3 か月前に中止するこ とが推奨される)

阻害薬は母乳中への移行は少なく,児の消化管から 吸収されずに排泄されると考えられている



40, 41)

妊娠中も ETN 投与を継続されていた RA 女性で は,出産時の児の血清中(臍帯血)ENT 濃度が母親 の 1/30 程度と低かった .また,産後も ETN を継 42)

続されていたが,新生児血清中の ETN 濃度は急激 に減少していき,産後 12 週には母乳に少量の ETN が検出されても,児の血清中には検出されなかっ た.授乳を継続していたにもかかわらず,児の血

MTX: methotrexate, LEF: leflunomide, NSAIDs: non steroidal antiinflammatory drugs

清中 ETN 濃度が減少していったことから,出産時 には胎盤移行性に児の血清中に ETN が検出されて

疾患活動性が高い状態で妊娠すると,妊娠期間中に

も,母乳中の ETN が消化管から吸収されて児の血

関節炎が改善する可能性は低下し,分娩後に再燃す

清中に検出されることはないと考えられた.26 歳

るリスクは高い.まず,低疾患活動性~寛解を達成・

の Crohn 病女性が ADA で治療中に授乳した報告も

維持してから妊娠を計画するのが望ましい.妊娠年

あるが,母乳中の ADA 濃度は母親の血清中 ADA 濃

齢が高くなると妊孕性が低下することから,妊娠希

43) 度の 1/100 以下と低かった .母乳栄養中に ETN ま

望の RA 女性でも積極的な治療で早期に RA の活動

たは ADA 投与を継続されていても児の血清中には

性を抑制する必要がある.また,妊娠を計画する前

ごくわずかに検出されるのみで,有害事象を認めな

に抗リン脂質抗体と抗 SS-A 抗体,抗 SS-B 抗体を測

かったことから,授乳中でも使用可能と考えられる.

定する.抗リン脂質抗体陽性の患者では習慣性流産

CZP はヒトでの報告例がないが,動物実験でマウ

や子宮内胎児死亡をきたす可能性がある.抗 SS-A

ス型抗 TNFαIgG1 または PEG 化抗 TNFαIgG-Fab’ を

抗体,抗 SS-B 抗体は母体には影響しないが,それ

ラットに投与したところ,乳汁移行は前者で 24%

らの抗体が胎盤を介して胎児に移行し,まれに新生

だったが後者では 5 %未満だった .IFX を RA 患

児ループス症候群をおこすことがある.高血圧,糖

者に使用する場合は MTX の併用が必須であること

尿病,慢性腎臓病,甲状腺疾患など内科的合併症に

から,授乳中の使用は不可である.非 TNF 生物学

ついても確認する.妊娠中は RA が寛解状態であれ

的製剤やトファシチニブは授乳中に使用したデー

ば薬剤を使用しないにこしたことはないが,疾患

タがなく安全性が確立していないため,現時点で

活動性が高くて関節炎のコントロールが不良であ

の使用は避けるべきである.以上より,今のとこ

れば,アセトアミノフェン,ステロイド,SASP,

ろ RA 女性で授乳中でも使用が可能な TNF 阻害薬

TNF 阻害薬の使用は可能と考えられる.NSAIDs も

は ETN,ADA,CZP で あ る. し か し, 本 邦 で RA

妊娠初期と 32 週以降を除く妊娠中期であれば使用

患者に TNF 阻害薬が使用されるようになってまだ

できる.

44)

十数年であり,子宮内あるいは授乳で TNF 阻害薬

2,000~2,005 年に免疫抑制剤または生物学的製剤

に曝露された児の長期観察結果は得られていない.

で治療された RA 女性 94 例,RA 男性 47 例で避妊

よって,RA コントロール不良でやむをえない場合

について調査した結果,RA 女性の 84%は医師から

を除いて積極的に妊娠および授乳中の使用を勧める

薬剤と避妊の必要性に関して説明を受けていた .

ものではない.

それにもかかわらず,催奇形性のある MTX もしく

Ⅴ.RA 女性の妊娠計画(表 6 )

45)

はレフルノミドで治療されていた RA 女性の 1/3 と RA 男性の 1/2 は避妊をしていなかった.免疫抑制

挙児希望の RA 患者では,計画的に妊娠をすすめ

剤または生物学的製剤治療下で 66 例の妊娠が報告

る必要がある.妊娠希望のために有効な治療薬を中

されたが,そのうち 20%は MTX またはレフルノ

止すると RA が再燃する恐れがあり,さらには高疾

ミドを服用していた.妊娠可能年齢の RA 患者に

患活動性が持続することにより患者がなかなか妊娠

MTX またはレフルノミドを投与する場合は無計画

できないということにもなりかねない.また RA の

な妊娠を避けるために,児へのリスクと避妊の必要

日本臨床免疫学会会誌(Vol. 38 No. 1)

54

性について充分に説明し理解させなければならない. おわりに 生物学的製剤が登場するまで,挙児希望の活動性 RA 女性は治療と妊娠のどちらを優先するか選択を せまられることがあった.妊娠を計画するときには MTX などの抗リウマチ薬を中止せざるをえず RA の積極的な治療を後回しにしたために,関節炎が悪 化して関節破壊と機能障害が進行し,さらには不妊 に悩まされるということもあっただろう.TNF 阻 害薬が普及してからは早期治療介入による臨床的寛 解の達成と維持により,妊娠も成功に導けることが 示されている.また,産後に RA を発症したり再燃 する例もあり,そのために育児が困難になったり, 次の妊娠をあきらめる患者もいる.TNF 阻害薬の 母乳中への分泌は少なく,胎児毒性も認められてい ないことから,産後に関節炎が悪化した RA 女性で も有用な治療手段のひとつになりうる.今後は RA の寛解と妊娠・出産そして育児と,すべてを達成で きる女性が増えることを期待したい. 文   献 1) Nelson, J.L., et al.: Fecundity before disease onset in women with rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum. 36: 7−14, 1993. 2) Jawaheer, D., et al.: Time to pregnancy among women with rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum. 63: 1517−1521, 2011. 3) Brouwer, J., et al.: Fertility in women with rheumatoid arthritis: influence of disease activity and medication. Ann Rheum Dis. 2014 May 15. pii: annrheumdis-2014-205383. [Epub ahead of Print] 4) Boivin, J., et al.: International estimates of infertility prevalence and treatment-seeking: potential need and demand for infertility medical care. Hum Reprod. 22: 1506−1512, 2007. 5) Juul, S., et al.: Regional differences in waiting time to pregnancy: pregnancy-based surveys from Denmark, France, Germany, Italy and Sweden. The European Infertility and Subfecundity Study Group. Hum Reprod. 14: 1250−1254, 1999. 6) Canada, A.L., Schover, L.R.: The psychosocial impact of interrupted childbearing in longterm female cancer survivors. Psychooncology. 21: 134− 143, 2012. 7) Katz, P.P.: Childbearing decisions and family size among women with rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum. 55: 217−223, 2006.

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舟久保・関節リウマチの治療と妊娠の両立

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Rheumatoid arthritis (RA) affects mainly women during their childbearing years. As aging of childbirth advances in Japan, women who plan pregnancy wou...
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